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つゆつゆつゆころりん。

梅雨の日に…更新しようと思いましたが、更新出来なかった…orz
みなさん!気持ちは梅雨で!
梅雨開けちゃったけど、気持ちは梅雨で!


雨は悲しい季節です。

きょうのはるか

〈明日は、全国的に雨になるでしょう〉



「雨…か」

「かれえらいちゅ!」


ラジオから聞こえる天気予報。

「あちたは、かれえ?」

天気予報なんてあまり信用しないが、今は梅雨時。

「あぁ、そうだな」

いつ雨が降ってきたっておかしくない季節だ。


「きゅっ!」



「…明日、講義休みで良かった…」





あ、来た…


もそもそと布団が動く。

「きゅっ、きゅ」

うっすらと目を開け、暗い室内で目を凝らす。
ベッド傍に作られた、未確認生物宅のダンボールハウスはもぬけの殻。
暗くてはっきりとは分からないが、タオルとポシェットが入っているくらい。

…そして、そこの住人は…

布団の中に潜り込んでいた。


居心地の良い場所を探しているのか、もぞもぞと動いている。
やっと見つけたらしい“居心地の良い場所”は…僕の胸板。

べったりとくっ付いているようで、胸元がポカポカと暖かい。

「………」

布団を捲り確認してみると、やはり胸元にくっ付いていた。

「きゅ……きゅぷっ」

気付いていないのか、眠たいのか。
向こうは見られていることに気付いていないご様子。

八雲は、晴香の背中を布団の上からぽんぽんと優しく叩いてやった。





翌日。

天気予報士の予報は外れたのか、雨の姿は見えなかった。
その代わり、厚い灰色の雲が空を包んでいる…

「…夕方ぐらいから降りそうだな…」

ポツリと呟き、布団に潜った上半身を上げた。

寝相が良いのか悪いのか、腕枕で寝ていた晴香が布団にずり落ちる。
だが、深い眠りに付いているらしく、規則正しい寝息だけが聞こえた。


「…静かなもんだな」

一人と言うのは、こんなにも寂しいものだったか…
灰色の雲が、寂しさを倍増させているのかもしれない。

起こさないようにベッドから降り、冷蔵庫をあける。
最近、買い物に行っていないため、冷蔵庫の中は空っぽに等しい。

卵と牛乳と、数日前に作ったマズい味噌汁だけが入っていた。

「夕方の、タイムセールに行ってくるか…」

雨が降る中行くのは嫌だが、雨の日セールでポイントが倍になる。
…雨も、たまには良いことがある。


「やきゅもきゅん」

たたた…という足音の後に、久しぶりに呼ばれたフルネーム。

起きたのか…と思うのと同時に、一人じゃないことを実感した。

「…おはよう」

振り返った先、ちょうど居間とキッチンの間にちょこんと立つ晴香。


だが、その姿に眉を寄せた。

「きゅ……」

そわそわと辺りを見渡しては、何かに怯えるように耳を縮めている。
手にしたタオルを、胸の前でぎゅっと握りしめていた。

「…どうした?」

冷蔵庫の扉を閉め、晴香に近寄る。

いつもはシャツが捲れるほど立っている尻尾も、今はシャツの下。

「トイレか?」

ぷるぷると首を横に振る。

「……漏らしたのか?」

いつもは頬を膨らまして拗ねるのに対して、今日は首を横に振るだけ。


「…なにも、ないない」

それだけ言うと、晴香はダンボールハウスに駆けて行ってしまった。

「………」


腹が空いているのかもしれない…

自分自身に言い聞かせ、八雲は朝ご飯を作ることにした。





…けれど、晴香の様子が変わることは無く…
八雲は昼寝をすることを提案した。

初めは落ち着かないように寝返りばかり付いていたが…

「ぷきゅー……」

ベッドと腕枕と、僕の鼓動のおかげか、ぐっすりと眠っている。

「…僕も寝るか」


起きたら、買い物に行こう。
寝ぼけ眼のこいつを連れて。

今日はご馳走を作ってやろう。

カレーだけじゃなくて、唐揚げだとか、ゆで卵だとか…

レパートリーは少ないが、こいつはきっと喜んでくれる。


いつもみたいに、笑ってくれる…


…きっと。



八雲の宣言は、ポツリポツと降り出した雨に紛れて消えた。





「………」

窓の外の世界は、天気予報士が言った通りの雨だった。
厚い厚い雲のせいで、今が夕方なのか夜なのか…
それすらも分からない。

ぼんやりとしばらく眺めていたが、雨という景色に飽き、上半身をあげる。
すると、何かに引っ張られるように身体が傾いた。

「………」

何かの正体は、隣で眠る晴香さん。
僕のシャツをぎゅっと握っている。

その手を外そうと、目を向けたとき。

柔らかい頬に、うっすらと涙の跡が浮かんでいるのが見えた。

…眠りながら、泣いていたのだろうか。

「…一体、どうしたと言うんだ……」

溜め息を吐き、八雲は晴香の頭を撫でた。
湿気のせいか、いつもより髪が膨れていた。

「………」

考えていても仕方ないと、指を一本一本シャツから離し、立ち上がる。
脱ぎっぱなしのシャツの山から財布を探し、冷蔵庫から鍵を出す。


…買い物に行かなくちゃいけないんだ。

彼女を笑わせるために…


アイツが起きる前に帰ってきて、アイツが起きる前に夕飯を作る。
目をまん丸くさせて驚く姿が目に浮かび、性に似合わず口が緩んだ。


「やっ!」

犬が吠えたような声に驚き、慌てて振り返る。
すると、晴香がこちらに向かって走ってきている途中だった。

何かから逃げるように…全速力で。

「きゅっ」

途中、バランスを崩して転ぶも、痛がるより先に起き上がり……走る。

「どうしたん…っ」

足元に来て止まるかと思いきや、勢い良く衝突。
後ろに倒れ掛けるが、どうにか立て直す。
が、ぐいぐいと小さな身体が全力で押し続けるのに負け、尻餅を付いた。

「っ……」

痛みに表情を歪ませ、いつの間にか胸に飛び込んできた晴香を見下ろす。
無言で胸に、押しつけるように顔を埋める晴香。


「おいっ…」


「ちゅてないでっ!」


泣き顔を上げ、強く訴えられる。

「…は?」

だが、何を“ちゅてないで”なのか分からず…
首を傾げた。

「はりゅ、いーこちゅる!」

小さな手を震わせながら、すがるようにシャツを掴まれる。

逃がさない。
…まるで、そう言うように。

「だからっ、…ちゅて……っ」


ぎゅっと下唇を噛みしめ、涙をポロポロ落とす。

「はりゅのことっ…ちゅてな、で!」

「捨てるって、どうし…て…」

そのとき、遠いようで近いような記憶が蘇ってきた。



そう…今日みたいな雨の日。

ダンボールの中で縮こまる、薄汚れた小さな身体…



「やーや…ひとり、やーや…っ」


その声が妙に悲しくて。

その声が妙に寂しくて。

切なくて。

泣き顔なんて見たくなくて。


「…大丈夫…捨てない、から」

僕は…震える身体を、強く強く抱き締めた。


「捨てないから、安心しろ」


「うっ…」


その後、晴香は声を出して泣いた。

久しぶりに聞いた泣き声は、今までのどんな泣き声よりも大きかった。





「…それにしても困ったな」

「ぶきゅ……ひ、うっ」

胸に顔を埋め、ぐすんぐすんと肩を震わす。

…泣き声は止んだが、雨は未だに止まない。

「雨、嫌いか?」

「ひ、ぎゅっ」

顔を上げず、こくり。

「…夕飯、どうしようか…」

カレーライスの材料も、夕飯に丁度良い材料もない。

「やきゅ、あめ…ちゅき?」

恐る恐る顔を上げ、上目遣いで訪ねてくる。

「…まぁ、どちらかと言うと嫌いだな」


学校に行くのもめんどくさいし、外にも出たくない。

洗濯物は乾きが悪いし、部屋干しだと臭くなるし。



でも…


「あの日、雨が降ってたから君に出会えたんだ」


ちょっと好きかもな。



そう答えると、晴香は目をまんまるくさせた。

「…そう考えれば、君も好きになるんじゃないか?」

少し難しかったか?
髪を撫でながら問う。


「やきゅが…いちばんちゅきっ!」


「…そうか」


やっと笑ってくれた顔に、涙は浮かんでいなかった。





「今日の夕飯、カップ麺になるけど我慢しろよ」

「んっ」



雨がちょっぴり好きになった、二人なのでした。





END。



これは書かなくちゃいけないと、当初から考えてたお話。
多分、私が書きたいお話は全部書けたかな?

雨と一人ぼっちはトラウマだそうです。
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