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梅雨は嫌いじゃない。
むしむしとして確かに嫌だけれど、夕方頃のじめじめはすき。
ベランダに出て、意味もなく夕日なんかみたくなる。
梅雨ですが、春のお気持ちでお読み下さい。
ヨツマコ
むしむしとして確かに嫌だけれど、夕方頃のじめじめはすき。
ベランダに出て、意味もなく夕日なんかみたくなる。
梅雨ですが、春のお気持ちでお読み下さい。
ヨツマコ
からん。落ちてきたのはオレンジ色の缶。
「えーっと、いつものいつもの…」
小銭を追加し、続いて落ちてきたのは飲むおしるこ。
二本の缶を手に、中島真は走り出す。
目指すは屋上の彼のもと。
「せんぱーい!」
落書きだらけの錆び付いた戸を開ける。
一番に差し込んできた春の日差し。
薄雲が浮かんだ青空。
斜め上に居座る太陽は、寂れた屋上を照らしていた。
「くぁー、今日も良い天気っスねー」
缶を両手に真は大きく伸びた。
たたたと駆けてきたくまきちが、足元で鼻息を荒くする。
つぶらな瞳の先には飲むおしるこ缶。
「だーめっ、これは四ッ谷先輩のっスよ!」
いつもならばこの辺りでツッコミだの一言飛んでくる。
けれど、待てども待てども返事はない。
「先輩?」
不思議に思った真は、小首を傾げながらこうもり傘の下へ向かった。
尾を振るくまきちが後ろからついてくる。
「せーんぱいっ」
白いチェアの上にはもじゃもじゃ髪の都市伝説。四ッ谷文太郎の姿。
決してイケメンとは呼べないその顔を覗き込む。
だがそこには、見たことも聞いたこともないタイトルの本が居座っていた。
「…寝てるんですか?」
本に手を伸ばし屈み込む。
はらり。落ちた前髪を耳に掛けたとき。
青白い手がぬっと伸び、本を目指す手首が力強く引かれた。
「きゃっ」
バランスを崩した身体はビーチチェアに、四ッ谷の上に倒れ込んだ。
「キシシッ」
とにかく起き上がろうともがくも、腕に閉じこめられてしまいかなわない。
ましてや、もがけばもがくほどに抱きしめる力は強くなる。
わんわんとまくし立てるようにくまきちが吠える。
「せ、先輩!起きてるなら起きてるって…」
やっとのことで平たい胸板から這い上がり声を上げる。
それでも腕の中から抜け出すことはできないが。
「遅いぞ、中島ァ」
「仕方ないじゃないっスか、部活があったんですから」
「部活くらいサボってこい」
「……そんなにコレが飲みたいんスか」
飲むおしるこの缶を揺らす。たぷんという音に、四ッ谷の眉が動いた。
「だったら自分で買いに行ったらどーですか」
「………」
してやったり。
理由はよくわからないが、あの四ッ谷先輩を黙らせることに成功した。
気まずそうにそっぽを向き、口をへの字に歪める姿は見ていて気持ちがいい。
「まったく、お前って奴は」
「な、なにするんですかっ」
ガシガシと朝セットしてきた髪を掻き回される。
まぁ、部活で乱れてしまいセットしたあとなんてどこにもないけれど。
「この鈍感女め」
そして、再び抱きしめられてしまった。
だが今度は目の前に胸板はなく、白いチェア。
視界の隅に映るは四方八方に伸び散らかした黒髪。
「今日の先輩は甘えたさんスね」
たまには、こういう先輩を見るのも悪くない。
…ただ。
ただ、首筋にかかる息がむずむずとくすぐったい。
くるくるの巻き毛にぞくぞくとした。
「や、くすぐったいス」
制止を求めるも先輩はとまらない。
下唇を噛みしめて堪え、やっと離れてくれた。
文句のひとつでも吐いてやろうとしたが、真よりも先に四ッ谷が口を開いた。
「汗くそいぞ、お前」
「な…!」
あまりの堂々とした告白に真は絶句した。
「し、仕方ないじゃないスか!部活終わってすぐ来たんですから!」
すぐに来いって呼んだのは誰ですか、もう。
真は頬を膨らまし、四ッ谷の胸板に顔を埋めた。
お年頃の恥ずかしさを隠すように、スリスリとこすりついてやる。
「やめろ、くすぐったい」
「さっきのお返しっスよー」
胸板に頬を寄せたまま、先輩の顔を見上げてにたりと笑う。
困ったように眉を下げてもへらりと笑う四ッ谷の姿は、真の目に新鮮に映った。
それがなんだか嬉しくて、にやける顔をまた埋めた。
とくとくと少し速い鼓動に耳をすます。
変人で都市伝説扱いされていても、やっぱり人間なのだと改めて実感。
鼓動も平常に戻りだし、部活の疲れからうとうとし始めた頃。
ふと、鼻をくすぐったのは懐かしい匂い。
はて。これは何の匂いだろうか。
目を閉じた真はくまきちのようにくんくんと、嗅覚に集中する。
匂いの源は意外と近く。四ッ谷先輩だった。
あぁそうだ。この匂いは──
「せんぱいは」
「んー…?」
「せんぱいは、おひさまの匂いがします」
晴れた日に干したあったかい、あったかい。干したてのお布団の匂いっす。
数分前、俺にそんなことをぼやいた中島は腹の上で大口を開けていた。
すー、すーと規則正しい寝息が耳に届き溜め息を吐いた。
「俺は、敷き布団、カーッ!」
こつん、と小突こうとした拳がぴたりと止まる。
「………」
へにゃりと緩みきった寝顔を見ていたら、殴る気も失せた。
行き場を失った拳は、いつの間にか少女の髪を撫でていた。
「おひさまの匂い…」
中島が言っていた匂いが気になり、シャツの袖に鼻を押しつける。
…よくわからない。
正直に言うと、先ほど飲んだおしるこの甘い匂いがするのは確か。
けれどこれは、幼少時に嗅いだ覚えのある“おひさまの匂い”ではない。
「臭くは…ないよ、な」
くまきちにでも聞いてみよう。
そう思ったが、くまきちはサンダルが転がった足元で眠りについていた。
「どいつもこいつも…」
ガリガリとくせ毛を掻き回し、欠伸をひとつ。
周りにいる奴らが間抜け面で寝ているからであろうか。
急に襲ってきた眠気に四ッ谷は目をこする。
腕に抱いた温もりが、布団のようで心地良い。
独特の汗くささも使い古した布団みたいで落ち着いた。
強く抱きしめると苦しそうに唸られ、力を緩める。
ふにゃりと頬が緩んだ。中島も、俺も。
「寝るか」
そう呟いた四ッ谷は、さらさらの髪に顔を埋めた。
胸に抱いたこの気持ちは、青い春のせい。
END.
ヨツ→マコな感じなヨツマコでした。
恋心に気付くのは先輩の方が先な気がします。
大人だしね、真ちゃんは恋も知らないといいです。
それでもって「先輩のこと考えると胸が苦しいんス」とか相談しちゃえばいい。
なぜ春かって言うと、春からのんびりと書いていたから。
一個前のお話より、こっちのほうが先にうまれてました。
それはそうと先輩はお日様の匂いがしそう。ずっと屋上にいるんだから。
「えーっと、いつものいつもの…」
小銭を追加し、続いて落ちてきたのは飲むおしるこ。
二本の缶を手に、中島真は走り出す。
目指すは屋上の彼のもと。
「せんぱーい!」
落書きだらけの錆び付いた戸を開ける。
一番に差し込んできた春の日差し。
薄雲が浮かんだ青空。
斜め上に居座る太陽は、寂れた屋上を照らしていた。
「くぁー、今日も良い天気っスねー」
缶を両手に真は大きく伸びた。
たたたと駆けてきたくまきちが、足元で鼻息を荒くする。
つぶらな瞳の先には飲むおしるこ缶。
「だーめっ、これは四ッ谷先輩のっスよ!」
いつもならばこの辺りでツッコミだの一言飛んでくる。
けれど、待てども待てども返事はない。
「先輩?」
不思議に思った真は、小首を傾げながらこうもり傘の下へ向かった。
尾を振るくまきちが後ろからついてくる。
「せーんぱいっ」
白いチェアの上にはもじゃもじゃ髪の都市伝説。四ッ谷文太郎の姿。
決してイケメンとは呼べないその顔を覗き込む。
だがそこには、見たことも聞いたこともないタイトルの本が居座っていた。
「…寝てるんですか?」
本に手を伸ばし屈み込む。
はらり。落ちた前髪を耳に掛けたとき。
青白い手がぬっと伸び、本を目指す手首が力強く引かれた。
「きゃっ」
バランスを崩した身体はビーチチェアに、四ッ谷の上に倒れ込んだ。
「キシシッ」
とにかく起き上がろうともがくも、腕に閉じこめられてしまいかなわない。
ましてや、もがけばもがくほどに抱きしめる力は強くなる。
わんわんとまくし立てるようにくまきちが吠える。
「せ、先輩!起きてるなら起きてるって…」
やっとのことで平たい胸板から這い上がり声を上げる。
それでも腕の中から抜け出すことはできないが。
「遅いぞ、中島ァ」
「仕方ないじゃないっスか、部活があったんですから」
「部活くらいサボってこい」
「……そんなにコレが飲みたいんスか」
飲むおしるこの缶を揺らす。たぷんという音に、四ッ谷の眉が動いた。
「だったら自分で買いに行ったらどーですか」
「………」
してやったり。
理由はよくわからないが、あの四ッ谷先輩を黙らせることに成功した。
気まずそうにそっぽを向き、口をへの字に歪める姿は見ていて気持ちがいい。
「まったく、お前って奴は」
「な、なにするんですかっ」
ガシガシと朝セットしてきた髪を掻き回される。
まぁ、部活で乱れてしまいセットしたあとなんてどこにもないけれど。
「この鈍感女め」
そして、再び抱きしめられてしまった。
だが今度は目の前に胸板はなく、白いチェア。
視界の隅に映るは四方八方に伸び散らかした黒髪。
「今日の先輩は甘えたさんスね」
たまには、こういう先輩を見るのも悪くない。
…ただ。
ただ、首筋にかかる息がむずむずとくすぐったい。
くるくるの巻き毛にぞくぞくとした。
「や、くすぐったいス」
制止を求めるも先輩はとまらない。
下唇を噛みしめて堪え、やっと離れてくれた。
文句のひとつでも吐いてやろうとしたが、真よりも先に四ッ谷が口を開いた。
「汗くそいぞ、お前」
「な…!」
あまりの堂々とした告白に真は絶句した。
「し、仕方ないじゃないスか!部活終わってすぐ来たんですから!」
すぐに来いって呼んだのは誰ですか、もう。
真は頬を膨らまし、四ッ谷の胸板に顔を埋めた。
お年頃の恥ずかしさを隠すように、スリスリとこすりついてやる。
「やめろ、くすぐったい」
「さっきのお返しっスよー」
胸板に頬を寄せたまま、先輩の顔を見上げてにたりと笑う。
困ったように眉を下げてもへらりと笑う四ッ谷の姿は、真の目に新鮮に映った。
それがなんだか嬉しくて、にやける顔をまた埋めた。
とくとくと少し速い鼓動に耳をすます。
変人で都市伝説扱いされていても、やっぱり人間なのだと改めて実感。
鼓動も平常に戻りだし、部活の疲れからうとうとし始めた頃。
ふと、鼻をくすぐったのは懐かしい匂い。
はて。これは何の匂いだろうか。
目を閉じた真はくまきちのようにくんくんと、嗅覚に集中する。
匂いの源は意外と近く。四ッ谷先輩だった。
あぁそうだ。この匂いは──
「せんぱいは」
「んー…?」
「せんぱいは、おひさまの匂いがします」
晴れた日に干したあったかい、あったかい。干したてのお布団の匂いっす。
数分前、俺にそんなことをぼやいた中島は腹の上で大口を開けていた。
すー、すーと規則正しい寝息が耳に届き溜め息を吐いた。
「俺は、敷き布団、カーッ!」
こつん、と小突こうとした拳がぴたりと止まる。
「………」
へにゃりと緩みきった寝顔を見ていたら、殴る気も失せた。
行き場を失った拳は、いつの間にか少女の髪を撫でていた。
「おひさまの匂い…」
中島が言っていた匂いが気になり、シャツの袖に鼻を押しつける。
…よくわからない。
正直に言うと、先ほど飲んだおしるこの甘い匂いがするのは確か。
けれどこれは、幼少時に嗅いだ覚えのある“おひさまの匂い”ではない。
「臭くは…ないよ、な」
くまきちにでも聞いてみよう。
そう思ったが、くまきちはサンダルが転がった足元で眠りについていた。
「どいつもこいつも…」
ガリガリとくせ毛を掻き回し、欠伸をひとつ。
周りにいる奴らが間抜け面で寝ているからであろうか。
急に襲ってきた眠気に四ッ谷は目をこする。
腕に抱いた温もりが、布団のようで心地良い。
独特の汗くささも使い古した布団みたいで落ち着いた。
強く抱きしめると苦しそうに唸られ、力を緩める。
ふにゃりと頬が緩んだ。中島も、俺も。
「寝るか」
そう呟いた四ッ谷は、さらさらの髪に顔を埋めた。
胸に抱いたこの気持ちは、青い春のせい。
END.
ヨツ→マコな感じなヨツマコでした。
恋心に気付くのは先輩の方が先な気がします。
大人だしね、真ちゃんは恋も知らないといいです。
それでもって「先輩のこと考えると胸が苦しいんス」とか相談しちゃえばいい。
なぜ春かって言うと、春からのんびりと書いていたから。
一個前のお話より、こっちのほうが先にうまれてました。
それはそうと先輩はお日様の匂いがしそう。ずっと屋上にいるんだから。
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