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へい!へいへいへい、お待たせしました八雲誕生日のお話です。

さてさて、半年ぶりの八雲です。
八雲を目当てに来てくださった方々様、お待たせしました。
正直に言ってしまうと「もうこれ絶対見放されてんだろ。もう上げても誰も見ないだろ」
と思ってしまったこともありましたが。
八雲がすきなのは変わりないので、ゆっくりのんびりのんたりと書かせてもらいました。
「まだまだ付き合ってやんよ!」って言ってくださる方々様に送ります。
ここまで見守っていてくださり、ありがとうございました。

本当にお待たせしました。


八雲:恋人未満

「ハッピーバースデー!」


掛け声とともに爆発するはクラッカー。

ひらりひら舞う色とりどりの紙飛沫が雨となり、室内に虹を描いた。



8月3日。



「………」



無表情で紙飛沫を浴びる青年、斉藤八雲の誕生日だ。






賑やかな歓声ではじまった誕生日会。

と、いう名の飲み会。

飲めや歌えや騒げや飲めや。
唯一未成年であり幼児である奈緒が眠りについてからというものの。
終始、耳を塞ぎたくなるような笑い声と怒鳴り声の誕生日会に主役は疲れ果てていた。

そんな騒がしさも日付が変わって数時間後。
その光景がまるで夢幻だったのではないかと疑いたくなるほど、部屋には静けさが広がっている。

床に転がり落ちる空き缶やらつまみの袋たちが、あれは現実だと唯一訴えていた。



深夜三時を回ったいま。
蛍光灯だけが照らす畳の上には大人たちがだらしなく大の字に伸びている。


「まったく…」

そんな中、ひとりの青年が重い頭を抱えて置き上がる。

昨日までの主役、斉藤八雲は背骨をポキポキと鳴らした。
長い間かたい畳の上で横になっていた身体は悲鳴をあげる。

「………」

不定期にやってくる頭痛に堪えながら、八雲は部屋の中を見渡した。


旧斉藤家、現後藤家。

緑が褪せた畳の上には、見慣れた大人たちと飲酒の跡形。

「…叔父さんがいた頃にはありえない光景だな」

だが、嫌な気はしない。

八雲は畳の上に転がっていた缶をひとつ、テーブルに乗せた。



「おはよう」

頭上から聞こえてきた声に顔をあげると、そこにはお盆を片手にした晴香がいた。

「君は…」

途端に頭痛がし、頭を押さえる。
心配そうに駆け寄ってきた晴香を止め、お盆に乗った水を口内を濡らす程度に含んだ。

「……ふ」

「大丈夫?」

「君は、平気なのか?」

「私はお酒強いから!」

背を仰け反らせ、少々はある胸をポンと叩く。
その誇らしげな顔に、八雲は苦笑を浮かべた。


「…八雲君、お酒が嫌いなだけじゃなくて本当に弱いんだね」

そのときの様子を思い出したのか、晴香の顔にも苦笑が浮かぶ。

酒に弱い、そんなこと自分の身体なんだからよくわかっている。
だから酒を飲まないようにしていたのだ。いたのだが…

「文句ならそこで冬眠している熊に言ってくれ」

大口開けていびきをかく後藤に無理矢理飲まされたのだ。
そこから記憶はぷつり。途切れてしまった。

そのときの光景を思い出し、八雲は溜め息を吐いた。
すると、すかさず晴香の拳が飛んできた。


「もう!文句じゃなくて感謝をしなさい!」


とっさに目を閉じるも、やってきた衝撃は軽いもの。
ぽかりと可愛らしい音が、自らの額からきこえた。

「…?」

「誰かに祝ってもらえるって幸せなことなんだよ」

晴香の女性らしい指先が、頬を撫でる。

左右の頬をすべる指先にこそばゆさを感じたからか。

鼓動が、鼓動がすこし早くなった。
これも酔いのせいなのか。


「ほら、スマイルスマイル!」

にへらと口端をあげた晴香に、両頬を引っ張られる。

「……やっぱり酔ってるだろ」

「えっへー、そんなことないよー?」

そういいながらも晴香の手は頬を張る。

「いい加減にしろ」

八雲は手を払った。
酔っ払い相手だと気が狂う。いつもの皮肉がうまく言葉にまとまらない。

晴香が持ってきてくれた水を一気に飲み干す。
空になったグラスをテーブルの上に置く。
ふと自らに向けられる視線を感じ顔を上げると、とろんと溶けた瞳と出会った。

「…なんだ」

「きれいな瞳…」


どきり。胸が高鳴る。


何度。何度言われても慣れないこの耳に、鼓膜に、心臓に。

理由が分からなくて嫌気がさしてくる。
けれど、それも悪くないと思っている自分もいるわけで。

あぁこれは病気なんじゃないか。
僕は未確認の重症の病にかかっているんじゃないか。

何度も何度もそう思った。

だがある日、頭の中で一番秀才で冷静なあの頃の自分が病名を探り当てた。

その名は───



ちゅっ!



「えへへ、私からのたんじょーびプレゼント」


恋人間で成されそうな“たんじょーびプレゼント”
それが柔らかい唇と冷たい頬との間で可愛らしい音をたてて弾けた。

「せっかくの綺麗な顔なのに、しわ残っちゃうよ?」

眉と眉の間をなぞる人指し指。
そこに中指も仲間入りし、力の込められた指でのばされる。

「はい、できました」

そう言って離れていく手首を、無意識に掴んだ。

「?」

きょとんとした表情で晴香は八雲を見つめる。
その無垢な視線に耐えきれなくなり、とりあえず押し倒した。

とりあえずってなんだ、とりあえずって。

自分自身に吐き捨てた台詞が待ったをかけるが、本能はとまらない。

「やくもくん…」

酔いか何かはわからないが、赤く染まる晴香の頬。
張った腕を曲げ、ほんのりと赤い耳に唇を寄せる。

「…キスだけじゃ、足りない」

唇も、晴香を見つめる瞳も吐く吐息すらも艶めく。
そんな八雲の熱に犯され、晴香は腕を伸ばした。

「じゃあ、八雲くんは何がほしいの…?」

頬に触れる指は、数分前の無邪気なものとはほど遠い。
自らの肌を滑る指先を手に取り、指を絡める。



「はるか、がほしい」



その言葉を聞き、晴香は受け入れるように小さく微笑んだ。










「………」

八雲は晴香をいつもの無表情で見下ろした。
自身の身体の下には晴香の身体。

端からみれば妙な光景であろう。
いまにも情事をはじめようとする男女。
だが、男は手を出そうとはせずに眼下の女を見つめている。

「……おい」

手が出たかと思えば、向かうは胸元でも服の中でもなく柔らかいほっぺた。
ぺちぺちなんて若い肌が音を立てるも、ぐうの音も出ない。
いや「すう」という可愛らしい寝息なら出た。

緊張感という訳ではないが、全身の力が抜け張った腕が折れる。
規則正しい呼吸が耳を擽る。

「君ってやつは…」

悔しさを紛らわすように、その身を抱き寄せる。

ほんのりと鼻を犯す酒の香。
その中から晴香の香を探すように、八雲は瞳を閉じた。





END.



翌朝は晴香のビンタによって起こされる…っと。
そして晴香は何も覚えていないために、関係は進まないという八雲乙。
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