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八雲アニメ化おめでとうございますという気持ちを込めて新たなパロです。
いったい私は何個パロすれば気が済むのだろうか。

ちなみに随分と前からぼやいていた探偵やっている八雲のパロディっす。
もしもどこかでネタが被っていたらスイマセン…

設定的には大学卒業後ってな感じです。多分。
あんまり考えていないのが現実だったりします。
そのために設定がころころ変わる可能性大。


斉藤八雲探偵事務所

十分に一度の各停しか止まらない、田舎町とビル街の狭間。

ショッピング街でも観光地でもない街は、今日も静かに夜を待つ。



駅から徒歩二十と数分。

雑居ビルの影に紛れるように、ひとつの鉄筋コンクリートが剥き出しに立っていた。

滅多に人が出入りをしないビルの二階にある薄汚れたドア。



斉藤八雲探偵事務所───



マジックペンで殴り書きされた一枚のプレート。
そこは、今日も依頼者を求め開業中のプレートを掛けていた。








灰色の濁った空からは雨粒が止むことなく降り続く。
コンクリートの街並みに水滴が染み込む隙はなく、歪み窪んだ箇所に水たまりを作っていた。

そんな光景を窓から見下ろしていた晴香は、誰に言われるでもなく止まっていた手を動かしはじめた。

大学時代からの付き合いである友人の仕事場。
従業員は看板の名を飾る一名のみで、晴香はお手伝いとして駆り出されているのである。
と言っても、掃除洗濯家事雑用。
この事務所から外に出る仕事と言えば、買い物くらいだ。

…ただでさえ広くはない世界の、末端の末端の末端のような小さな探偵事務所。
そのため依頼者はご想像通りに少ない。

ここ最近の仕事内容と言えば、迷子のペット探しがほとんどを占拠している。
残りは浮気調査や、某刑事さんからの事件調査くらい。

そして今日も探偵さんは、迷子のペット探しに明け暮れているのだ…



「八雲君、傘持ってったっけ」

事務所の掃除をしていた晴香はぽつりと呟く。
そして、雲一つない朝方に眠たそうな目を擦りながら出かけていった姿を思い出す。
軽そうな荷物と虫取り網を一回り大きな網、それからキャリーケージ。

その手に傘は…うん、なかった。

迎えに行こうかとカフェエプロンのポケットから携帯電話を取り出そうとしたそのとき。
外の世界に唯一繋がるドアがゆっくりと開いた。
途端に雨音と獣の呻き声が鼓膜に届く。


「おかえりなさい」

「…ただいま」


仕事を終えた所長を、晴香は笑顔とも苦笑とも取れない笑みで迎えた。



改めてその姿を見渡し、晴香の表情が一瞬にして凍り付いた。

上から下まで全身びしょ濡れ土汚れ。
いつもは寝癖だらけの髪は風呂上がりのようにきれいな頭蓋骨の形を象る。
寒くなってきたというのに強がって何も羽織らず出掛けた白いシャツは素肌にピタリ。

それだけではなく、シャツから覗く白い肌には赤い引っ掻き傷が痛々しく浮かび上がっていた。

「コイツにやられた」

晴香が理由を問うより前に、八雲がキャリーケージを持ち上げた。
その中を覗き込むと、黒猫が一匹。牙を剥き出しに威嚇をしていた。

よく見るとこちらもびしょ濡れで傷だらけで。
猫が八雲のようなのか、八雲が猫のようなのか。

とりあえず棚からタオルを取り出し、土埃に汚れた顔を拭い取る。
触れた体温があまりにも低くて、自らの体温も奪われたように下がったような気がした。

「と、とにかくシャワー!」

八雲から黒猫の入ったキャリーケージを奪い取り、そのままシャワー室に向かって背中を押す。

「依頼者に…電話」

「わかったから、わかったから八雲君は身体温めて…」

必死の説得が伝わったのか、背中を押さずともその足はシャワー室に向かってくれた。
ほっと胸を撫で下ろした晴香は、八雲に言われた通り依頼者に電話をかける。

だが電子音のベルは鳴るばかりで途切れることはない。
螺旋を描くコードに指を絡ませながら、目を黒猫に向ける。

机の上に置かれたキャリーケージ。
その中の暗闇に黄金色の瞳が二つ浮かび上がる。

留守電になる訳でもない。
永遠に続きそうなベルを聴いていると言葉にならない恐怖に襲われ、慌てて切った。

とりあえず着替えを風呂場に運び一言声をかけ、広間に戻る。

「お前のご主人はどこ行っちゃったんだい?」

黒猫の前に屈み話しかけるも返事は空気が通るような「シャー」だけ。
仕方ないと諦め、雨に濡れた床を拭きはじめる。
土や枯れ草混じりの水滴に、このコンクリートの界隈。
一体どこまで行ったのだろうかと謎である。

しばらくすると薄い壁向こうから聞こえるシャワー音が止み、八雲が現れる。
蒸気した身体は火照り、先ほどよりは健康的に見えた。

「お疲れさま」

「依頼者は何だって?」

「…出なかった」

「そうか…」

自然と顔が曇る。
依頼者とは依頼に来たとき以来、一度も顔を合わせていない。
それからは電話で話したりなんたり。
ここ数週間なんて、電話が繋がらないのが現状であった。

「とにかく、この子もきれいにしてあげないと…」

キャリーケージに手を伸ばすも制される。

「まだ警戒している」

だから止めた方がいい。
腕に浮かぶ生傷が目に入り、思わず息をのんだ。
それから恥ずかしそうに「僕の治療をしてくれ」と言ったものだから笑いながら「はい」と返した。






体温の高い身体にドキドキと胸が高鳴る。
捲れ上がった皮膚から覗く赤が、晴香の意志をしゃんとさせていた。

「もっと優しく出来ないのか」とか「君は馬鹿か」とか連呼され、包帯が巻かれた腕を叩いてやった。

「はい、おしまい」

「ッ…」

睨み付けられても涙目なんて恐くない。
薬箱を仕舞い戻ってくると、八雲が箱の中の黒猫と睨み合っていた。

「いじめちゃだめだよ?」

「いじめられたのは僕の方だ」

頬に貼られた絆創膏が、やんちゃ坊主の大将のようで噴き出してしまった。
ふと、八雲の顔がまだ赤いことに気付く。
先ほどまでは“風呂上がり”で済んでいたが、これはどう見ても…

額に手を伸ばす。
八雲の身体がビクリと揺れたのも一瞬。

顔の熱さに気付いた晴香に腕を引かれ、すぐさま隣の倉庫兼私室に連れ込んだ。
そして、一つだけ置かれた簡易ベッドにその身体を押し倒す。

その素速い行動についていけない八雲は、驚いたように目を瞬かせていた。

「熱、あるじゃない」

「これくらい平気だ」

それでも起きあがろうとする八雲の肩を押す。

「だめ」

押し問答が続く。

「まだ、仕事が、残ってるんだ」

絞るように出された言葉に晴香は溜め息を吐いた。
ここのところ、残業や無理をする度に口にする言葉。

「どうしてそんなに働きたがるの」

「………」

今日は引かないわよ、と八雲を睨む。
それが何分続いたのだろうか。

堪忍したようにベッドにもたれた八雲が息を吐く。

「…稼ぎたい」

「どうして?」

「稼いで、金が貯まって生活が楽になってきたら」



結婚しよう。



「え…?」

予想だにしなかった言葉に、晴香は耳を疑った。

「や、八雲君いまなんて…」

だが、返事が返ってくることはなかった。
八雲の瞼は閉じられ、小さな寝息が聴こえる。

もう寝てしまったのかと驚いたが、ここ数日、ぐっすりと寝ている様子はなかった。
疲れや仕事が終わったことに対しての安心感か、すぐに寝てしまったのだろうと決めつける。


「寝ぼけてた、のかな?」

でも、「結婚しよう」って…


口の中で繰り返す度に、顔が熱くなる。

とにかく今は「おやすみ」とだけ囁いた。





プレートを裏返し、閉業中に変わったドアの鍵を晴香は閉めた。






END.



探偵パロだけれど事件ものじゃあない。

ただ、事件ものが書けないだけ。
ただ、八晴を書きたいだけ。


それはそうと、八雲に関白宣言を歌わせたいんだが。
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