忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

犬の日記念に完成させようと、頑張った訳ですが。
調べてみたら犬の日は11月1日だったという…


八雲パロ/きょうのはるか(*part28!

「やっきゅ!」



ドアを開けると同時に衝撃。

壁に手をつきバランスを保つも、脚にしがみついたソレの力がゆるむことはない。

いやむしろ力は強くなる一方で。

八雲は倒れそうになるのを抑えていた。



「きゅっ、きゅ」



すー!すー!とジーンズに押しつけられた鼻が小さな肺に一生懸命空気を送る。


匂いを確かめるように。

冷めてしまった身体を、愛で満たすように。


だが、じゅるりと鼻をすする音にはさすがの八雲も顔を歪め、晴香の顔を離させた。



「…ただいま」


「おきゃーり!」



笑顔をニコリと見せた晴香は、再び八雲に顔を埋める。

ぱたぱたと力強く揺れる尾。


瞳に浮かんだ涙は、八雲のシャツに染み込んでは消えた。






ぐつぐつぐつと部屋の真ん中に居座る一人分の鍋と、その下で青い炎を生み出すカセットコンロ。

「危ないから近付くなよ」

「りょーかい!」

丸っこい手がかっこ良く敬礼を決める。
得意気に口の端を上げながら、晴香は鼻息を荒くした。

台所に小皿を取りに行く。
するとカルガモのように付いてきた晴香が、手を突きだしてきた。

「おてちゅたい!」

「どんな隊だ、それは」

鼻で笑う八雲に、悔しそうに地団太を踏む晴香。

「きうっ、きーっ」

「はいはい。お手伝い、な」

拗ねられても困るので小皿を渡すと、コロリと笑顔になった。
皿や具材を片手に居間に戻る。

先に戻っていた晴香がコタツの前で鍋の下をのぞき込んでいる。
ビー玉の瞳に映る青い炎は、揺らぐことなく一定の火力を保つ。

隣に腰をおろすと、すかさず膝の上に乗ってきた。
そして丸い瞳は、再び炎を映す。

「そんなに珍しいのか」

「………」

いそがしいんだから邪魔しないで。
そう言わんばかりに、しっぽを一振り。

捲れて現れたかぼちゃパンツを、八雲はシャツを引っ張って隠してやった。

することのなくなった八雲は、晴香の頭上に顎を乗せる。
腕の中の小ささに、八雲の背中は猫の背のように曲がった。






陶器の蓋を開けると浮かんでくるは白い蒸気。

空へと昇るそれは寒部屋の中に消えていった。
それを指差し騒ぐ晴香を無視し、八雲は鍋の中を覗き込んだ。

熱気に溢れる鍋の上は熱く、汗か蒸気か区別のつかない水滴が自然と浮かぶ。
箸を操る右手にも、いつの間にか水滴が浮かんでいた。

出し汁の中に浸かる具たちを、深さのある皿に取り分けていく。

「おにきゅはありまちゅか!」

晴香用の取り皿を手に訪ねられる。

「鶏肉ならあるぞ」

「とりにきゅ…」

膝の上でバタバタとさせていた脚が止まる。
蒸気が浮かんでは消える天井を見上げ、しばらく制止。そして一言。

「からーげ!」

「正解」

「からーげ、からーげちゅき!」

「今日はからあげじゃない」

「?」

鶏肉=唐揚げというイメージなのか。
明らかに分かっていない顔だ。

一通り鍋の具を皿に盛り付けた八雲は、煮込まれた鶏肉を箸で小さくした。
それを出し汁だけの晴香用取り皿に分けてやる。

「これが鶏肉だ」

「からーげ…」

まじまじと見つめる。
そして不満げな顔。

唐揚げが出てくるのかと思ったら、実際に出てきたのは白い塊。

誰だって怒るだろう。


「とにかく、食べてみろ」

「きゅ…」

じっと八雲見つめる二つの瞳。
それに気付いた八雲は、自らの皿から鶏肉を摘んで口にした。

出汁としての仕事を終えた鶏肉は味が薄い。
だが、咀嚼する度に口に広がるこの味は嫌いではなかった。

「…これは、食べものだ」

「………」

理解したのか安堵した表情で、フォークに刺された鶏肉を見つめていた。

「そうだ」

晴香の手首を掴み上げ、鶏肉に息を吹きかける。

「ありがとお、ごじゃまちた!」

ニコリと笑った晴香は、そのまま鶏肉を口の中に放り込んだ。
咀嚼するにつれて歪む顔。

「からーげ、ないない」

「わかったか?これは唐揚げじゃない」

しょんぼりと尾を垂らす。
そんな晴香の取り皿に、半分に割り冷ました肉団子を入れてやった。

「肉団子、これはおいしいぞ」

「おにきゅ…」

半月型に割れた肉団子が、口の中に消える。
途端に尻尾が左右に揺れた。

どうやら口にあったよう。

「うまいか?」

「きゅっ!」

肉団子の片割れも口に入れた晴香は、もっともっととねだる。
だが八雲が乗せてやったのは白菜であった。

「バランスよく食べろ」

「………」

しばらく睨み合いの攻防戦が続き、折れたのは珍しく晴香であった。
口を歪めながら、薄くなった白菜をくわえる。

それを確認した八雲は、左手で頭を撫でてやりながら自らも口にした。
まだ歯ごたえの残る白菜は微かに甘かった。

「これ食べ終わったら、締めはうどんだ」

「そばがちゅき!」

フォークから小さな鶏肉を落としながら尾を振る晴香。

「…そばじゃない、うどんだぞ」

「ちってるもん」

「………」

ぷーいとそっぽを向く。


どこでそんな態度を覚えてきたのか。

というよりなんだ、その態度は。


何か一言言ってやろうとしたが、皿を狙われていることに気付き考えは中断。
グーで握られたフォークが肉団子を狩る前に、八雲はそれを口の中に放り込んだ。

「いじわりゅ」

「意地悪なんかじゃあない」


僕の方が何倍も大きいし大人なのだから当たり前。

説明しても納得いかないと言わんばかりに睨まれた。


「おとな、ないない」

「何がない」

「ないない!やきゅ、おとな、ないない!」

「…何を言いたい」

「け、ない!」

「毛は生えてる!」


そこまで言われて気が付いた。


「大人気ない…か」

「きゅ!」

「そういうのは、ちゃんと日本語が喋れるようになってから言え」

ポンと、丸い耳が付いた頭を八雲を叩いた。
そのまま撫で回す。



「きゅ…」

しばらくすると、背中がお腹にぺたりと寄りかかってきた。
フォークが音を立てながら床に落ちる。

「もういいのか?」

胡座をかいた膝の中。
もぞもぞと移動を繰り返し、胸板にもたれて落ち着いた。

「眠い、のか?」

「………」

握りしめられたシャツに、放射線状の皺が寄る。


「…続きは明日にするか」



ポツリと呟いた八雲は、晴香を腕に抱えながら寝る支度をはじめた。






お鍋はおいしいものなのだと知った、晴香ちゃんなのでした。






END.



おいしい鍋の季節ですね。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
はじめまして!!
夏缶の八晴大好きです!!
半年ぶりくらいに来ました。
のんびり更新でも、絶対読みます!!
これからも頑張ってください!!
no name 2010/11/12(Fri)22:40:17 編集
[525]  [524]  [523]  [522]  [521]  [520]  [519]  [518]  [517]  [516]  [515
カレンダー
09 2025/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
朝田よる
性別:
非公開
ブログ内検索
最新コメント
[05/23 ひなき]
[09/13 murasame]
[07/19 delia]
[06/27 delia]
[05/20 delia]
忍者ブログ [PR]