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犬の日記念に完成させようと、頑張った訳ですが。
調べてみたら犬の日は11月1日だったという…
八雲パロ/きょうのはるか(*part28!
調べてみたら犬の日は11月1日だったという…
八雲パロ/きょうのはるか(*part28!
「やっきゅ!」
ドアを開けると同時に衝撃。
壁に手をつきバランスを保つも、脚にしがみついたソレの力がゆるむことはない。
いやむしろ力は強くなる一方で。
八雲は倒れそうになるのを抑えていた。
「きゅっ、きゅ」
すー!すー!とジーンズに押しつけられた鼻が小さな肺に一生懸命空気を送る。
匂いを確かめるように。
冷めてしまった身体を、愛で満たすように。
だが、じゅるりと鼻をすする音にはさすがの八雲も顔を歪め、晴香の顔を離させた。
「…ただいま」
「おきゃーり!」
笑顔をニコリと見せた晴香は、再び八雲に顔を埋める。
ぱたぱたと力強く揺れる尾。
瞳に浮かんだ涙は、八雲のシャツに染み込んでは消えた。
ぐつぐつぐつと部屋の真ん中に居座る一人分の鍋と、その下で青い炎を生み出すカセットコンロ。
「危ないから近付くなよ」
「りょーかい!」
丸っこい手がかっこ良く敬礼を決める。
得意気に口の端を上げながら、晴香は鼻息を荒くした。
台所に小皿を取りに行く。
するとカルガモのように付いてきた晴香が、手を突きだしてきた。
「おてちゅたい!」
「どんな隊だ、それは」
鼻で笑う八雲に、悔しそうに地団太を踏む晴香。
「きうっ、きーっ」
「はいはい。お手伝い、な」
拗ねられても困るので小皿を渡すと、コロリと笑顔になった。
皿や具材を片手に居間に戻る。
先に戻っていた晴香がコタツの前で鍋の下をのぞき込んでいる。
ビー玉の瞳に映る青い炎は、揺らぐことなく一定の火力を保つ。
隣に腰をおろすと、すかさず膝の上に乗ってきた。
そして丸い瞳は、再び炎を映す。
「そんなに珍しいのか」
「………」
いそがしいんだから邪魔しないで。
そう言わんばかりに、しっぽを一振り。
捲れて現れたかぼちゃパンツを、八雲はシャツを引っ張って隠してやった。
することのなくなった八雲は、晴香の頭上に顎を乗せる。
腕の中の小ささに、八雲の背中は猫の背のように曲がった。
陶器の蓋を開けると浮かんでくるは白い蒸気。
空へと昇るそれは寒部屋の中に消えていった。
それを指差し騒ぐ晴香を無視し、八雲は鍋の中を覗き込んだ。
熱気に溢れる鍋の上は熱く、汗か蒸気か区別のつかない水滴が自然と浮かぶ。
箸を操る右手にも、いつの間にか水滴が浮かんでいた。
出し汁の中に浸かる具たちを、深さのある皿に取り分けていく。
「おにきゅはありまちゅか!」
晴香用の取り皿を手に訪ねられる。
「鶏肉ならあるぞ」
「とりにきゅ…」
膝の上でバタバタとさせていた脚が止まる。
蒸気が浮かんでは消える天井を見上げ、しばらく制止。そして一言。
「からーげ!」
「正解」
「からーげ、からーげちゅき!」
「今日はからあげじゃない」
「?」
鶏肉=唐揚げというイメージなのか。
明らかに分かっていない顔だ。
一通り鍋の具を皿に盛り付けた八雲は、煮込まれた鶏肉を箸で小さくした。
それを出し汁だけの晴香用取り皿に分けてやる。
「これが鶏肉だ」
「からーげ…」
まじまじと見つめる。
そして不満げな顔。
唐揚げが出てくるのかと思ったら、実際に出てきたのは白い塊。
誰だって怒るだろう。
「とにかく、食べてみろ」
「きゅ…」
じっと八雲見つめる二つの瞳。
それに気付いた八雲は、自らの皿から鶏肉を摘んで口にした。
出汁としての仕事を終えた鶏肉は味が薄い。
だが、咀嚼する度に口に広がるこの味は嫌いではなかった。
「…これは、食べものだ」
「………」
理解したのか安堵した表情で、フォークに刺された鶏肉を見つめていた。
「そうだ」
晴香の手首を掴み上げ、鶏肉に息を吹きかける。
「ありがとお、ごじゃまちた!」
ニコリと笑った晴香は、そのまま鶏肉を口の中に放り込んだ。
咀嚼するにつれて歪む顔。
「からーげ、ないない」
「わかったか?これは唐揚げじゃない」
しょんぼりと尾を垂らす。
そんな晴香の取り皿に、半分に割り冷ました肉団子を入れてやった。
「肉団子、これはおいしいぞ」
「おにきゅ…」
半月型に割れた肉団子が、口の中に消える。
途端に尻尾が左右に揺れた。
どうやら口にあったよう。
「うまいか?」
「きゅっ!」
肉団子の片割れも口に入れた晴香は、もっともっととねだる。
だが八雲が乗せてやったのは白菜であった。
「バランスよく食べろ」
「………」
しばらく睨み合いの攻防戦が続き、折れたのは珍しく晴香であった。
口を歪めながら、薄くなった白菜をくわえる。
それを確認した八雲は、左手で頭を撫でてやりながら自らも口にした。
まだ歯ごたえの残る白菜は微かに甘かった。
「これ食べ終わったら、締めはうどんだ」
「そばがちゅき!」
フォークから小さな鶏肉を落としながら尾を振る晴香。
「…そばじゃない、うどんだぞ」
「ちってるもん」
「………」
ぷーいとそっぽを向く。
どこでそんな態度を覚えてきたのか。
というよりなんだ、その態度は。
何か一言言ってやろうとしたが、皿を狙われていることに気付き考えは中断。
グーで握られたフォークが肉団子を狩る前に、八雲はそれを口の中に放り込んだ。
「いじわりゅ」
「意地悪なんかじゃあない」
僕の方が何倍も大きいし大人なのだから当たり前。
説明しても納得いかないと言わんばかりに睨まれた。
「おとな、ないない」
「何がない」
「ないない!やきゅ、おとな、ないない!」
「…何を言いたい」
「け、ない!」
「毛は生えてる!」
そこまで言われて気が付いた。
「大人気ない…か」
「きゅ!」
「そういうのは、ちゃんと日本語が喋れるようになってから言え」
ポンと、丸い耳が付いた頭を八雲を叩いた。
そのまま撫で回す。
「きゅ…」
しばらくすると、背中がお腹にぺたりと寄りかかってきた。
フォークが音を立てながら床に落ちる。
「もういいのか?」
胡座をかいた膝の中。
もぞもぞと移動を繰り返し、胸板にもたれて落ち着いた。
「眠い、のか?」
「………」
握りしめられたシャツに、放射線状の皺が寄る。
「…続きは明日にするか」
ポツリと呟いた八雲は、晴香を腕に抱えながら寝る支度をはじめた。
お鍋はおいしいものなのだと知った、晴香ちゃんなのでした。
END.
おいしい鍋の季節ですね。
ドアを開けると同時に衝撃。
壁に手をつきバランスを保つも、脚にしがみついたソレの力がゆるむことはない。
いやむしろ力は強くなる一方で。
八雲は倒れそうになるのを抑えていた。
「きゅっ、きゅ」
すー!すー!とジーンズに押しつけられた鼻が小さな肺に一生懸命空気を送る。
匂いを確かめるように。
冷めてしまった身体を、愛で満たすように。
だが、じゅるりと鼻をすする音にはさすがの八雲も顔を歪め、晴香の顔を離させた。
「…ただいま」
「おきゃーり!」
笑顔をニコリと見せた晴香は、再び八雲に顔を埋める。
ぱたぱたと力強く揺れる尾。
瞳に浮かんだ涙は、八雲のシャツに染み込んでは消えた。
ぐつぐつぐつと部屋の真ん中に居座る一人分の鍋と、その下で青い炎を生み出すカセットコンロ。
「危ないから近付くなよ」
「りょーかい!」
丸っこい手がかっこ良く敬礼を決める。
得意気に口の端を上げながら、晴香は鼻息を荒くした。
台所に小皿を取りに行く。
するとカルガモのように付いてきた晴香が、手を突きだしてきた。
「おてちゅたい!」
「どんな隊だ、それは」
鼻で笑う八雲に、悔しそうに地団太を踏む晴香。
「きうっ、きーっ」
「はいはい。お手伝い、な」
拗ねられても困るので小皿を渡すと、コロリと笑顔になった。
皿や具材を片手に居間に戻る。
先に戻っていた晴香がコタツの前で鍋の下をのぞき込んでいる。
ビー玉の瞳に映る青い炎は、揺らぐことなく一定の火力を保つ。
隣に腰をおろすと、すかさず膝の上に乗ってきた。
そして丸い瞳は、再び炎を映す。
「そんなに珍しいのか」
「………」
いそがしいんだから邪魔しないで。
そう言わんばかりに、しっぽを一振り。
捲れて現れたかぼちゃパンツを、八雲はシャツを引っ張って隠してやった。
することのなくなった八雲は、晴香の頭上に顎を乗せる。
腕の中の小ささに、八雲の背中は猫の背のように曲がった。
陶器の蓋を開けると浮かんでくるは白い蒸気。
空へと昇るそれは寒部屋の中に消えていった。
それを指差し騒ぐ晴香を無視し、八雲は鍋の中を覗き込んだ。
熱気に溢れる鍋の上は熱く、汗か蒸気か区別のつかない水滴が自然と浮かぶ。
箸を操る右手にも、いつの間にか水滴が浮かんでいた。
出し汁の中に浸かる具たちを、深さのある皿に取り分けていく。
「おにきゅはありまちゅか!」
晴香用の取り皿を手に訪ねられる。
「鶏肉ならあるぞ」
「とりにきゅ…」
膝の上でバタバタとさせていた脚が止まる。
蒸気が浮かんでは消える天井を見上げ、しばらく制止。そして一言。
「からーげ!」
「正解」
「からーげ、からーげちゅき!」
「今日はからあげじゃない」
「?」
鶏肉=唐揚げというイメージなのか。
明らかに分かっていない顔だ。
一通り鍋の具を皿に盛り付けた八雲は、煮込まれた鶏肉を箸で小さくした。
それを出し汁だけの晴香用取り皿に分けてやる。
「これが鶏肉だ」
「からーげ…」
まじまじと見つめる。
そして不満げな顔。
唐揚げが出てくるのかと思ったら、実際に出てきたのは白い塊。
誰だって怒るだろう。
「とにかく、食べてみろ」
「きゅ…」
じっと八雲見つめる二つの瞳。
それに気付いた八雲は、自らの皿から鶏肉を摘んで口にした。
出汁としての仕事を終えた鶏肉は味が薄い。
だが、咀嚼する度に口に広がるこの味は嫌いではなかった。
「…これは、食べものだ」
「………」
理解したのか安堵した表情で、フォークに刺された鶏肉を見つめていた。
「そうだ」
晴香の手首を掴み上げ、鶏肉に息を吹きかける。
「ありがとお、ごじゃまちた!」
ニコリと笑った晴香は、そのまま鶏肉を口の中に放り込んだ。
咀嚼するにつれて歪む顔。
「からーげ、ないない」
「わかったか?これは唐揚げじゃない」
しょんぼりと尾を垂らす。
そんな晴香の取り皿に、半分に割り冷ました肉団子を入れてやった。
「肉団子、これはおいしいぞ」
「おにきゅ…」
半月型に割れた肉団子が、口の中に消える。
途端に尻尾が左右に揺れた。
どうやら口にあったよう。
「うまいか?」
「きゅっ!」
肉団子の片割れも口に入れた晴香は、もっともっととねだる。
だが八雲が乗せてやったのは白菜であった。
「バランスよく食べろ」
「………」
しばらく睨み合いの攻防戦が続き、折れたのは珍しく晴香であった。
口を歪めながら、薄くなった白菜をくわえる。
それを確認した八雲は、左手で頭を撫でてやりながら自らも口にした。
まだ歯ごたえの残る白菜は微かに甘かった。
「これ食べ終わったら、締めはうどんだ」
「そばがちゅき!」
フォークから小さな鶏肉を落としながら尾を振る晴香。
「…そばじゃない、うどんだぞ」
「ちってるもん」
「………」
ぷーいとそっぽを向く。
どこでそんな態度を覚えてきたのか。
というよりなんだ、その態度は。
何か一言言ってやろうとしたが、皿を狙われていることに気付き考えは中断。
グーで握られたフォークが肉団子を狩る前に、八雲はそれを口の中に放り込んだ。
「いじわりゅ」
「意地悪なんかじゃあない」
僕の方が何倍も大きいし大人なのだから当たり前。
説明しても納得いかないと言わんばかりに睨まれた。
「おとな、ないない」
「何がない」
「ないない!やきゅ、おとな、ないない!」
「…何を言いたい」
「け、ない!」
「毛は生えてる!」
そこまで言われて気が付いた。
「大人気ない…か」
「きゅ!」
「そういうのは、ちゃんと日本語が喋れるようになってから言え」
ポンと、丸い耳が付いた頭を八雲を叩いた。
そのまま撫で回す。
「きゅ…」
しばらくすると、背中がお腹にぺたりと寄りかかってきた。
フォークが音を立てながら床に落ちる。
「もういいのか?」
胡座をかいた膝の中。
もぞもぞと移動を繰り返し、胸板にもたれて落ち着いた。
「眠い、のか?」
「………」
握りしめられたシャツに、放射線状の皺が寄る。
「…続きは明日にするか」
ポツリと呟いた八雲は、晴香を腕に抱えながら寝る支度をはじめた。
お鍋はおいしいものなのだと知った、晴香ちゃんなのでした。
END.
おいしい鍋の季節ですね。
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