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428でおれがあいつであいつがおれでパロ。

428/四ッ谷犬1

「ぎゃあああああ!」


「うおおふぅっ!?」



その日、一人と“一匹”の悲鳴が屋上を木霊した。



「わふ!」


そして、一人の青年が吠えた───






どこまでもつづく青い空。

きらめく太陽と右上がり一直線に昇っていく飛行機雲。


空を一望できるこの屋上で。
二人と一匹は、いつもの平和とも平凡とも呼べる日常を過ごしていた。


「今日もいい天気っスねー」

真は空を見上げて呟いた。
猫目な瞳に映るスカイブルーは、世界を見下ろす神の国。

それを横目に見ていた四ッ谷は、ソファーに深く身体を沈めた。
古く汚れたソファーがキシリと軋む。

「のんきだな」

「平和が一番ですから」

「このような、平和な日に、事件は、起きるのです」

「もう、こわいこと言わないでくださいよー」

尾を振りながら駆けてきたくまきちが足元にボールを落とす。
それを拾い上げた真は間髪入れずに放り投げる。

「テストも終わりましたし、あとは日曜日を待つだけです」

「女学生は女学生らしく勉強しろ」

床に不時着したゴムボールがバッタのごとくピョンピョン跳ねる。

「女学生って…先輩、何時代の人ですか」

「平成生まれ平成育ちのバリバリ現代っこだ」

転がるゴムボールを悠々と拾い、真の足元に駆け寄るくまきち。

「…えいっ」

真の手からボールが離れる。
弧を描くボールをくまきちが空中で見事にキャッチした。


「お、おぉ…!」



お主なかなかやるな!

なーんてふざけてしまったのがそもそもの原因なのかもしれない。



「気をつけた方がいい」

「何をですか?」

「すべてを、だ」

「……へいへーい」

くまきちの耳元で「お母さんみたい」とぼやき立ち上がる。


「よぅし、次はもっと遠くに投げるぞー」

四ッ谷に見えないようにニヤリと笑い、ボールを握る。
手の中のゴムボールがぐにゃりと歪んだ。



今思えば、このときに大人しく安全かつ安心なボールを投げるべきだった。



真の拳から離れたボールは、弧を描くことなく四ッ谷の顔へ一直線に飛んでいく。

普段から運動していないイメージがあり、顔面に出来た丸い痣を嘲笑ってやろうと思ったのに。

非健康体に似合わない素早い動きで、四ッ谷はそれを掴んだ。


乾いた音が虚空に響く。


「あ…」

「…てんめェッ」



四ッ谷が歯をむき出しに吠える。

真がびくりと身を縮めた。


そして、同時にくまきちが力強くコンクリートを蹴り飛ばした。


「は?」


くまきちはスピードを落とすこともなく、四ッ谷目掛けて飛び込んだ。

脳みそがずれたような衝撃といやな音。

すべてのものがカメラの連写機能のように重なり描かれる。



四ッ谷の身体は、くまきちを受け止めることも出来ずソファーごと後ろに倒れた。


「先輩ッ!」


駆け寄ってくる足音を耳に、四ッ谷は意識を手放した。

最後に見た夏空があまりにも青く、このまま死ぬんじゃないかと思った。






「───い、四ッ谷先輩!」


泣きじゃくる声とともに、俺を呼ぶ声。
重たい瞼を開けると、随分と低い横向きの世界が現れる。

霞んだ視界が開け、一番目に入ったのは中島の後ろ姿だった。


「起きて、起きてください!」


なんだアイツ、誰の心配してんだ。


「…俺の、心配しろよ…」


当たり前のことを言ったはずだ。
それなのにあのアホはなぜか驚いたような顔で俺を振り返って。

そして、中島のくせにずいぶんと高い位置から見下ろしてきたのだ。


「…なんだ」


話しかけても返事はなし。



──ふと、誰かと目があった。

いつだったか拾ってきたアナログテレビ。


電気の流れていない漆黒の画面に映る自分の、いや。けむくじゃらの姿。
意味が分からず、それに伸ばした手のひらに可愛らしいピンクのにくきゅう。

真の向こう側で、四ッ谷が起き上がる。
右足を器用に上げたかと思いきや、これまた器用に頭を掻いた。


「ぎゃあああああ!」

「うおおふぅっ!?」

「わふ!」



その日、俺はくまきちになりくまきちは俺になったのだった。






「中島ァ…」

「…はい」

「俺をぶん殴れ」

「無理ッス!」


四ッ谷の願いを真は全力で否定した。

いつもの彼だったならば、願ったり叶ったりであろう。
だが今、四ッ谷は犬。もといくまきちなのだ。


「じゃあ聞く。これは夢か、夢なのか」

「ほっぺが痛いんで現実だと思います」

夢から覚めようとした努力の塊、赤く腫れ上がった頬をなでる。

「俺は誰だ」

「四ッ谷文太郎です」

「呼び捨てにすんなッ!」

にくきゅうがパンチを決める。
痛くも痒くもない。むしろ胸がきゅんとときめいた。

「…この姿は誰だ」

「くまきち…です」

「わふ!」

真の足元に、カエル座りでしゃがみ込む四ッ谷が吠える。

「なら、俺の皮を被ったソイツは誰だ」

「くまきち、ですかね…」

現実に直面できない二人の間に沈黙が流れる。
そんな二人のことなど露知らず。
四ッ谷は器用に四肢を使い屋上を走っていた。

「どうしてこんなことに…」

「罰じゃないですか?先輩なら怪談のために色々としてそうですし」

「元はといえばお前が原因ダロッ!」

くまきちがプンスカと怒る。
これは、すこしかわいい。

にやける口元を隠すように真は俯く。

すると、それを見た四ッ谷がボールを口に駆けてきた。

「先輩、ばっちぃですよ!めっ!」

「そいつは俺じゃねぇ!」

くまきちがぎゃんぎゃん吠える。
四ッ谷の口からボールを奪った真は、それを投げながらくまきちの頭をなでた。

「犬扱いすんな」

「犬じゃないですか」

「犬じゃねぇ」

濡れた鼻が真の手を押す。
それからくまきちはへたりと座り込んだ。

「どうしてこんなことに…」

「あ、でも」

「なんだ」

「ちょっとかわいいから良いかなぁ…なぁーんて!」

「中島ァ…?」

「ちょ、くまきち顔恐い!」

「俺は、くまきち、じゃねぇーッ!」

「ぎょえええ!!」

くまきち、基い四ッ谷が真目掛けて飛びかかった。
コンクリートの上に倒れた真に、四ッ谷は容赦なく噛みつく。

「痛ッ!くまきち、本気で噛まないでッ!」

「うるせぇ!」

「ひゃははは!」

まるで飼い主と飼い犬のようにじゃれあう一人と一匹。

その中に入り込んだ四ッ谷は、真の頬を一舐めすると嬉しそうに鼻息を荒げた。


「わふ!」

「もう先輩ッ、舐めないでくださいー!」

「そいつはくまきちだッ」



このときだけは事件も忘れ、二人と一匹は子犬のようにじゃれあった。






end.



ただ、ただ、まこにゃんぺろぺろする四ッ谷が書きたかったんです…
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