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いい夫婦の日記念。
八雲で八晴で夫婦設定です。

しかも赤ん坊がいる設定で、八雲が非常にへたれです。
あと甘いです。甘々です。


八雲/八晴(夫婦設定、赤ちゃんもいるよ!)

秋風に、淡いブロンドカラーのスカートを揺らす。

玄関先という舞台にて、晴香は踊るように箒を操っていた。


普段は剥き出しであるコンクリートの地面は、今は紅に染まっている。

掃いても掃いても風に吹かれて舞い降りる落ち葉は雪のよう。


終わりのない掃除に終止符を打ち、晴香は家の中に戻ろうとした。



ふと表札に目が入り、笑みを浮かべる。

そして、彫り込まれた名を人差し指でなぞり出した。



「斉藤八雲」


愛しい愛しい、夫の名。



「晴香」


その下にきちんと並ぶ、自分の名前。



そしてもう一つ。


「…───」


口に出すと恥かしい。けれど、呼ぶ度に幸福感が包む愛し子の名。



「ふふっ」



さぁ、はやく戻らなくては。

家族の待つ、我が家へ。






晴香が家に戻ると、一番に届いたのは赤子の泣き声。

「どうしたの?」

靴を脱ぎながら、部屋の奥に声をかける。
ドタバタと足音をたてながら、赤ん坊を抱えた八雲が駆けてきた。

「泣きやまない」

「泣きやまないじゃないでしょ」

「泣きやまないものは泣きやまないんだ」

子供のような一点張りにため息が出る。

「…奈緒ちゃんのお世話してたんじゃないの?」

「奈緒が来たときはこんなに小さくなかった」

八雲は我が子を抱え、揺らしたり背中を叩いたりするも泣き声がやむことはない。
寧ろ声量は増し、大音量の泣き声が玄関に反響していた。

それに父親は困ったように眉を寄せ、眉尻を垂らしていた。

「…手、洗ってくるから先に戻ってて」

と八雲に伝え晴香は洗面所に向かう。
部屋に戻るとすぐさま八雲が駆け寄ってきた。

泣きやまない我が子に、父親までも泣きそうだ。
そんな八雲から赤ん坊を受け取り、慣れた手つきであやしていく。

「情けないお父さんですねー」

顔を近付けるときゃっきゃとはしゃぐ我が子。
タオルで涙を拭い、晴香はソファーに腰を下ろした。

「………」

それを不服そうな表情で八雲が見下ろす。

「もう、あやせないからって拗ねないの」

「拗ねてない」

八雲が隣に腰を下ろす。ソファーのスプリングが軋んだ。

「ほら、手出して」

笑顔の赤ん坊を差し出す。
戸惑いながらも受け取った八雲の身体はガチガチだ。

これでは実の子も泣くわけである。

「…八雲君、身体の力抜いて」

「抜いてる」


どこがだ。八雲の顔は強張っている。


「言葉が通じない分、感情が通じやすいの。お父さんがそんなんじゃ安心できないでしょ?」

赤ん坊の顔を覗き込む。
伸びてきた丸い手のひらを握り返し、空いた手を八雲の背中に置いた。

「はい、深呼吸深呼吸」

呼吸に合わせて肩が上がり、ゆっくりと下がる。
背中に置いた手から伝わる小さな震え。
赤ん坊をあやすように、優しく叩いてやった。

肩の力が抜けてきたのを見計らい、晴香はそっと二人から離れる。



「……あ」


八雲の腕の中から聞こえる赤ん坊の笑い声。

丸みの帯びた手の平を精一杯に広げ、八雲に手を伸ばしていた。


「笑った…」


嬉しそうにそういうと、我が子の手のひらに人差し指を絡めた。

それを見て一安心した晴香は胸を撫で下ろし、改めて八雲の顔を見つめた。



長い間孤立していたため、感情が堂々と表に出ることが少ない八雲。

だが今は幸せそうに微笑んでいる。


これは長い時間を共にしてきたからこそ分かるのかもしれない。

けれど、誰が見ても子を愛する父親の姿が窺えるであろう。


愛すことも愛されることも不器用な八雲にも、ようやく父親らしさが芽生えてきたようだ。



「じゃあ、ちょっと八雲君に任せて休憩しようかな」

「任せろ」

「…少し出来たからっていい気にならないの」

八雲の額にデコピンを一つ。
渋い顔をした八雲に微笑で返し、晴香は新聞を片手に床に座り込んだ。



聞こえてくる愛し子の笑声と夫が綻び漏らす息の音。


それだけが、時の流れを伝えていた…






夜。

幾度目の授乳を終え、赤子を寝かしつけた晴香は布団の上に腰をおろした。


「はるか…」

「ごめんね、起こしちゃった?」

並んで敷かれた布団から聞こえる声。
橙色の豆電球が照らす暗闇。
闇に慣れた視界に起き上がった八雲の姿を確認した。

「君が夜中に大変だというに、易々と寝てられるか」

「無理しないの」

まっすぐに見つめてくる瞳が睡魔を訴え、瞬きを繰り返している。

「八雲君だって朝からお仕事あるんだから、お互い様でしょ」


今日はたまたま休日で我が子の世話を任せていたが、平日の八雲には仕事がある。

勤めている学校先に育児休暇を出している今、収入源は八雲だけが頼りなのだ。
赤ん坊のために仕事がうまくいきませんでしたでは済まされない。


それは八雲も同意してくれたのだが…

納得いかないと言いたげな彼は、俯き加減に目をそらして呟いた。


「……少し構いすぎなんじゃないか?」

「そんなことないわよ」

「………」


いつもならば無理にでも「そうだ」と言わせる八雲が、珍しく口ごもる。
口を一文字に閉じ、視線は一直線に畳の目を見下ろす。

橙色の灯りで気付くのが遅れたが、その頬は朱色に染まっていた。


これは、もしかして…───



「八雲君、あの子に妬いてるの?」

「妬いてない!」


間髪入れず返ってくる返事に、晴香は思わず笑みを浮かべた。
困ったように、けれど幸福そうに。

「もう、自分の子供に何嫉妬してるのよ」

「だから、僕は別に…」

苦虫を噛み潰したような表情が墓穴を掘る。
これ以上からかうのは真っ赤な顔に免じて許し、改めて向かい合った。


「旦那さまっていう立場は八雲君しかいないんだから、拗ねないの」

「…君の子供という立場はコイツしかいない」


どんな言い分だ。

半ば飽きれながらも、晴香は笑った。


「はい」

軽く手を広げる。

きょとんと首を傾げる八雲に、晴香はもう一度手のひらを広げた。


「だっこ、してあげようか?」


さすがに怒るかな、と思い手を引こうとした。
けれど想像以上に八雲の反応は早く、刹那の間に目前へと迫っていた。



「へっ」

晴香が驚きの声を上げたのは、八雲に抱きしめられていることに気付いたあとであった。

「や、八雲くん…?」

突然のことに驚き、晴香はただただ目を見張る。
自らが撒いた種。逆らうことも出来ずに抱き締められた身体を硬直させた。

「あ、あの…」

胸板に手を押き離そうとしたそのとき。
晴香の考えとは逆に、八雲は晴香の身体に寄りかかってた。

成人男性である八雲の身体を支えられるわけがなく、晴香は意図も簡単に布団の上に倒された。

「ちょっと!」

さすがの晴香もこれには慌て、制止を求めるも八雲は聞く耳を持たず。
背中に回された腕の力は増すばかり。

寝癖だらけの髪が素肌を掠め、思わず身を縮めた。

「だめ!だめだってば、ねぇ」

「うるさい」

肩に顔を埋めながら一喝。
唇が動く感触が寝間着を通して伝わり、そこだけ熱を持った。


「何も…しない、から…」

もう少し、もう少しこのままで。


「八雲くん…」

か細い声に、晴香は頬を火照らせながら癖毛の髪を撫でた。
何も言わず、八雲は擦りよってきた。



駄々をこね、しがみつく姿は母親に縋る子供そのもので。



「大きな赤ちゃんみたい…」



諦めたように息を吐いた晴香は、八雲の背中に手を添えた。



「今日は久しぶりに一緒に寝よっか」


我が子が起きるそのときまで。

甘えん坊で嫉妬深い彼を抱きしめて、私は眠る。






end.



いい夫婦の日だけれど、いい夫婦の日常(休日編)になってしまいました…
まぁ、いっかな。
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