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八雲で八晴です。
そしてお待たせしました。最後のお話です。
今回の話だけは、新しく書きました。
最初の数行だけ書いたまま、ずっと眠ったままでした。
そのため、前回とは書き方ががらりと変わっているかと…
こんなにも変わってしまったのかと、自分が一番驚いています。
[一話:2009/08/22][二話:2009/08/30][三話:2010/12/3][四話:2010/12/4]
八雲/八晴(恋人未満)
そしてお待たせしました。最後のお話です。
今回の話だけは、新しく書きました。
最初の数行だけ書いたまま、ずっと眠ったままでした。
そのため、前回とは書き方ががらりと変わっているかと…
こんなにも変わってしまったのかと、自分が一番驚いています。
[一話:2009/08/22][二話:2009/08/30][三話:2010/12/3][四話:2010/12/4]
八雲/八晴(恋人未満)
サンサンと降り注ぐ太陽の下。
どこまでも続くコンクリートロード。
青年は小高い丘を目指し、自転車を押していた。
隣に並ぶ少女の顔は、俯き加減に自らの影を見つめる。
真夏の正午過ぎ、日差しが一番強くなる時間帯。
そんな時に出歩く物好きなど数少なく。
遠くに見える蜃気楼が、二人の行く末を心配するように揺れていた。
右手をハンドルから離し、玉のように浮かんだ汗をシャツで拭う。
容赦なく照り返す太陽を一瞥すると、八雲は隣へと視線を向けた。
ゆらゆら揺れるワンピースに濡れた髪。
ぼんやりと地面を眺めながら歩く晴香はどこか元気がない。
それはそうだ。
溺れかけ、…好きでもない奴に脱がされたのだから。
晴香の身体を心配し早めに出てきた今、その行動に後悔を覚えた。
元々泳ぐ気がなかった僕には嬉しいことなのだが、晴香はそうではない。
暇な休日をエンジョイしようと『友達』である僕を誘ってプールに来た。
なのに一番楽しみにしていた奴が、こんなにも不幸続き。
落ち込むのも無理はない。
ふと、自分が布地から覗く水着跡に目が奪われていることに気付く。
剥がれない視線を無理矢理逸らし、気まずさの中話題を探した。
「ごめんね」
八雲の思考を遮る晴香の声。
なるべく優しく返そうとする。
けれど、自他ともに認めるひねくれ者にそんな器用なことが出来るわけもなく。
「何がだ」
と、いつものように冷たく返してしまった。
「せっかく来たのに、もう帰ることになっちゃって…」
そう言うと晴香は上がりかけた頭を再び下げた。
濡れた髪がうなじに張り付き、鼓動があがる。
自転車のハンドルだけを見つめようとするも、視線は晴香に惹きつけられた。
一杯一杯の頭で優しい言葉を、返事を探す。
「…元々、僕は来る気がなかったんだ。気にするな」
「でも…」
けれど、晴香の顔が上がることはなかった。
どうすれば顔を上げてくれるのだろうか。
どうすれば素直に励ますことが出来るのだろうか。
どうすれば、あの笑顔を見ることができるのだろうか…
「はぁ…」
そんな自分自身への思いで吐いた息に、晴香の肩は揺れる。
…また、逆効果となってしまった。
「…まぁ君のことだから、僕はこれくらいのトラブルは覚悟していたがな」
「ひ、人をトラブルメーカーみたいに言わないで!」
僕は、素直に君を笑顔にすることは出来ないのだろうか。
「トラブルメーカーじゃなかったのか?」
わざとらしく肩をすくめてやると、顔を赤くした晴香が飛びかかってきた。
その顔に、先ほどまでの悲しみの表情はない。
浮かぶは怒り顔。
目指していた笑い顔じゃないが、泣き顔よりはこっちの方が何倍もいい。
胸を撫で下ろし、ポンポンと浮かび上がる得意の皮肉を口にする。
それはどこか柔らかく、刃向かう晴香を見守った。
誰にもわからない、自分でも知らなかったこの表情。
それはいつも、晴香に向けられていると気付いた日。
僕は彼女が好きなのだと知った。
「や、八雲君だって、私の水着脱がしたりしたじゃない!」
突然出てきた言葉に、八雲は噴き出す。
倒れかけた自転車を慌てて掴む。
安心した刹那、思い浮かぶは弱った晴香を腕にしたプールでの出来事。
あのとき一杯一杯の晴香には気付かれなかったが。
水着の紐が解け、布の隙間から見えたのは───
「………。…あ、あれは不可抗力だっ!」
今まで落ち着きを保っていた頭が、晴香のせいで滅茶苦茶にされる。
「今の間はなによ!えっち!」
真っ赤な顔で訴える八雲に説得力は皆無。
胸元を押さえる晴香の腕の中、形を崩した胸に目が行き慌てて逸らす。
…今日はこんなのばかりだ。
わざとじゃない、わざとじゃないんだ。
彼女に変な目で見られるのを恐れ、それ以上はなにも言えなかった。
俯いた八雲は、静かに自転車を押し続けた。
「でも」
「?」
丘の頂上に着いたとき、晴香が足を止め漏らす。
気付いた八雲も足を止め、少しだけ後ろにいる晴香を振り返った。
「嬉しかったよ」
「見られたのが?」
「ちがうわよ!」
顔を赤くし怒鳴る晴香。
距離を縮めることもなく、赤い顔のままポツリポツリと口にしはじめた。
「その、あんなに人が居たのに、溺れた私のこと、見つけてくれて」
そこまで言い終えるとそっぽを向く。
…髪から覗く耳は、リンゴのように赤かった。
そんな晴香の姿を見ていると、何故か胸の奥がこそばゆくなる。
鼻の下を掻きながら、八雲は風に消されそうな声で呟いた。
「君に…見惚れてたからな」
あわよくばこの気持ちと一緒に届けと、微かな願いを込め。
だが僕は、彼女が稀にみる天然かつバカ女だということを忘れていた。
「なに?」
…まさかの聞き逃しときたか。
疲労やら呆れやら、伝わらなかったことに対しての言い表せない気持ち。
それらがゴチャゴチャに混じり合う。
「奇妙な泳ぎが嫌でも目に入ったからな」
出てきた皮肉は、浮かれた自分を現実に戻すには充分であった。
「あ、あれは溺れてただけで、本当はもっとうまいんだから!」
「どうだか」
くくっといつもの調子で喉を鳴らし笑う。
「見たことないくせに!」
晴香の怒声を耳に、八雲は心から思った。
あぁ、このままの関係でもいいかもしれない。
「ほら」
「…なによ」
自転車に跨り晴香に声をかける。
口をへの字に曲げた姿は子供のよう。
「こっちの方が早いだろ」
指で背中を叩く。
やっと気付いた晴香は、無邪気に口の端を上げ自転車の後ろに跨った。
「落ちるなよ」
「ちゃーんと八雲君にしがみついてるから大じょーぶっ!」
「…まったく」
ため息混じりに苦笑をし、八雲はコンクリートの地面を蹴り飛ばす。
湿った髪と純白の布地を風に靡かせる少女。
そんな少女の温もりを背に、青年は小さく笑った。
「今日は、誘ってくれてありがとう」
この一時を少しでも長く感じていようと、静かにブレーキをかけた。
自転車は、ゆっくりゆっくり下っていく。
end.
これにておしまいです。
最後をどう終わらせようとしていたのかは忘れてしまいましたが、BGMが夏色ということだけは覚えていて。
こういうラストシーンが書きたかったのかい?と一年前の自分に訪ねてみたいです。
最後に、一年がかりの連載、ご愛読くださりありがとうございました。
どこまでも続くコンクリートロード。
青年は小高い丘を目指し、自転車を押していた。
隣に並ぶ少女の顔は、俯き加減に自らの影を見つめる。
真夏の正午過ぎ、日差しが一番強くなる時間帯。
そんな時に出歩く物好きなど数少なく。
遠くに見える蜃気楼が、二人の行く末を心配するように揺れていた。
右手をハンドルから離し、玉のように浮かんだ汗をシャツで拭う。
容赦なく照り返す太陽を一瞥すると、八雲は隣へと視線を向けた。
ゆらゆら揺れるワンピースに濡れた髪。
ぼんやりと地面を眺めながら歩く晴香はどこか元気がない。
それはそうだ。
溺れかけ、…好きでもない奴に脱がされたのだから。
晴香の身体を心配し早めに出てきた今、その行動に後悔を覚えた。
元々泳ぐ気がなかった僕には嬉しいことなのだが、晴香はそうではない。
暇な休日をエンジョイしようと『友達』である僕を誘ってプールに来た。
なのに一番楽しみにしていた奴が、こんなにも不幸続き。
落ち込むのも無理はない。
ふと、自分が布地から覗く水着跡に目が奪われていることに気付く。
剥がれない視線を無理矢理逸らし、気まずさの中話題を探した。
「ごめんね」
八雲の思考を遮る晴香の声。
なるべく優しく返そうとする。
けれど、自他ともに認めるひねくれ者にそんな器用なことが出来るわけもなく。
「何がだ」
と、いつものように冷たく返してしまった。
「せっかく来たのに、もう帰ることになっちゃって…」
そう言うと晴香は上がりかけた頭を再び下げた。
濡れた髪がうなじに張り付き、鼓動があがる。
自転車のハンドルだけを見つめようとするも、視線は晴香に惹きつけられた。
一杯一杯の頭で優しい言葉を、返事を探す。
「…元々、僕は来る気がなかったんだ。気にするな」
「でも…」
けれど、晴香の顔が上がることはなかった。
どうすれば顔を上げてくれるのだろうか。
どうすれば素直に励ますことが出来るのだろうか。
どうすれば、あの笑顔を見ることができるのだろうか…
「はぁ…」
そんな自分自身への思いで吐いた息に、晴香の肩は揺れる。
…また、逆効果となってしまった。
「…まぁ君のことだから、僕はこれくらいのトラブルは覚悟していたがな」
「ひ、人をトラブルメーカーみたいに言わないで!」
僕は、素直に君を笑顔にすることは出来ないのだろうか。
「トラブルメーカーじゃなかったのか?」
わざとらしく肩をすくめてやると、顔を赤くした晴香が飛びかかってきた。
その顔に、先ほどまでの悲しみの表情はない。
浮かぶは怒り顔。
目指していた笑い顔じゃないが、泣き顔よりはこっちの方が何倍もいい。
胸を撫で下ろし、ポンポンと浮かび上がる得意の皮肉を口にする。
それはどこか柔らかく、刃向かう晴香を見守った。
誰にもわからない、自分でも知らなかったこの表情。
それはいつも、晴香に向けられていると気付いた日。
僕は彼女が好きなのだと知った。
「や、八雲君だって、私の水着脱がしたりしたじゃない!」
突然出てきた言葉に、八雲は噴き出す。
倒れかけた自転車を慌てて掴む。
安心した刹那、思い浮かぶは弱った晴香を腕にしたプールでの出来事。
あのとき一杯一杯の晴香には気付かれなかったが。
水着の紐が解け、布の隙間から見えたのは───
「………。…あ、あれは不可抗力だっ!」
今まで落ち着きを保っていた頭が、晴香のせいで滅茶苦茶にされる。
「今の間はなによ!えっち!」
真っ赤な顔で訴える八雲に説得力は皆無。
胸元を押さえる晴香の腕の中、形を崩した胸に目が行き慌てて逸らす。
…今日はこんなのばかりだ。
わざとじゃない、わざとじゃないんだ。
彼女に変な目で見られるのを恐れ、それ以上はなにも言えなかった。
俯いた八雲は、静かに自転車を押し続けた。
「でも」
「?」
丘の頂上に着いたとき、晴香が足を止め漏らす。
気付いた八雲も足を止め、少しだけ後ろにいる晴香を振り返った。
「嬉しかったよ」
「見られたのが?」
「ちがうわよ!」
顔を赤くし怒鳴る晴香。
距離を縮めることもなく、赤い顔のままポツリポツリと口にしはじめた。
「その、あんなに人が居たのに、溺れた私のこと、見つけてくれて」
そこまで言い終えるとそっぽを向く。
…髪から覗く耳は、リンゴのように赤かった。
そんな晴香の姿を見ていると、何故か胸の奥がこそばゆくなる。
鼻の下を掻きながら、八雲は風に消されそうな声で呟いた。
「君に…見惚れてたからな」
あわよくばこの気持ちと一緒に届けと、微かな願いを込め。
だが僕は、彼女が稀にみる天然かつバカ女だということを忘れていた。
「なに?」
…まさかの聞き逃しときたか。
疲労やら呆れやら、伝わらなかったことに対しての言い表せない気持ち。
それらがゴチャゴチャに混じり合う。
「奇妙な泳ぎが嫌でも目に入ったからな」
出てきた皮肉は、浮かれた自分を現実に戻すには充分であった。
「あ、あれは溺れてただけで、本当はもっとうまいんだから!」
「どうだか」
くくっといつもの調子で喉を鳴らし笑う。
「見たことないくせに!」
晴香の怒声を耳に、八雲は心から思った。
あぁ、このままの関係でもいいかもしれない。
「ほら」
「…なによ」
自転車に跨り晴香に声をかける。
口をへの字に曲げた姿は子供のよう。
「こっちの方が早いだろ」
指で背中を叩く。
やっと気付いた晴香は、無邪気に口の端を上げ自転車の後ろに跨った。
「落ちるなよ」
「ちゃーんと八雲君にしがみついてるから大じょーぶっ!」
「…まったく」
ため息混じりに苦笑をし、八雲はコンクリートの地面を蹴り飛ばす。
湿った髪と純白の布地を風に靡かせる少女。
そんな少女の温もりを背に、青年は小さく笑った。
「今日は、誘ってくれてありがとう」
この一時を少しでも長く感じていようと、静かにブレーキをかけた。
自転車は、ゆっくりゆっくり下っていく。
end.
これにておしまいです。
最後をどう終わらせようとしていたのかは忘れてしまいましたが、BGMが夏色ということだけは覚えていて。
こういうラストシーンが書きたかったのかい?と一年前の自分に訪ねてみたいです。
最後に、一年がかりの連載、ご愛読くださりありがとうございました。
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