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八雲で晴香幼獣パロディ、きょうのはるかです。

昨日、まだ書けてないと言っておきながら上げにきました。
とらじまさんに期待されちゃあしょうがない!


八雲/きょうのはるか(パロディ)

「おふろ…」



湯船の蓋を開けた晴香の声が、風呂場に反響する。

嬉しそうに揺れていた、濡れてやせ細った尾がぺたりと床に張り付いた。

頬を伝う水滴が、涙のように一筋落ちる。



「ないない、よ?」



切なげな声が、逃げ道を塞ぐように六方から襲ってきた。

八雲は、目を合わせないように晴香の旋毛だけを見つめていた…


空の湯船と、晴香の瞳がただ静かに僕を見つめていた。






時は少し戻って一時間とちょっと前。

いつもならば風呂か夕飯か、もしくは晴香と戯れている時間帯。

今日も平和な日常が過ぎていく。
と思っていたが、今日はそう簡単には過ぎてくれなかった。


正座で座る八雲は、険しい表情で目の前の白い紙と対峙している。

その姿に何か悟ったのか、真似をして遊んでいるのか。
八雲の正面に座る晴香も正座だった。

向かい合う二人の間に、似つかわぬ緊張感が漂う。


「大変なことになった」
ため息とともに吐き出す事実。
横一文字に結ばれた晴香の唇。緊張が走る。

恐る恐る開いた口が、震えた声で言葉を刻んだ。


「どーちた、の」


そして僕は、こう言った。



「今月、ピンチなんだ」



晴香は目を丸くさせ、言葉を失ったように三角の口を見せた。
だがみるみるうちに口は閉じ、代わりに頭が傾きはじめた。



「ぴんち、なに?」

「そこからか…」

久しぶりに聴いた「なに」の問いかけに軽い頭痛。
日常会話の基礎は覚えてきたようだが、完璧な日本語には遠く及ばない。

仕方なくシリアス気味になっていた頭を働かせ、ピンチの意味を考える。

「ピンチは、大変ってことだ」

「ぴんち、は…たいへん」

ふむふむ、と小さな頭にインプット。
キラキラ瞳を輝かせ、再起動をはじめた晴香は勢い良く右手を挙げた。

「ちゅっきーは、ぴんちおいちー、よ!」

「…その大変じゃない」

「きゅ?」

やっぱり妙なタイミングで敬語を教えたのがいけなかったか。

再度ため息を吐き、組んだ正座を解いた。
それと同時に緊張も解けた。

「たいへん、ないない、たいへん?」

「…朝起きて、僕がいなくなっていたらどうする?」

「きゅっ!?」

「その“大変”だ」

わかったか?
大きく頷く晴香を確認し、話を続けた。


「とにかく、今月はピンチなんだ」


金銭面で……






それは大変だ!
みたいな顔をしておきながら今度は「きんちぇんめ、なに?」と晴香が聞いてきた。

そんな晴香に金銭面とは何か。
一人暮らしにとって、どれだけお金が大切なのか。
それを説明していたら、つまらなそうな顔で「やーや」と断られた。


「とにかく、今日から節約生活だ」

これ以上の説明は不要。
というよりこんな幼い未確認生物に説明をしたところで時間の無駄。

晴香も飽きてきたようで、いつの間にか伸ばした足をばたつかせていた。






そして、お風呂場。
湯船の前にて、現在に戻る。

宣言通りに節約生活への第一歩。
水道代と光熱費の節約のため、湯船を貯めなかった。

それにお風呂大好き晴香は不満げに頬を膨らまし、予想通り拗ねていた。


「おふろ、ないない」

「これが節約だ」

晴香が開けた、数センチの隙間を閉じる。
湯船の蓋がパタリと音を立てて閉まる。

何か言いたいのに言葉が見つからない。
そう言った顔で頬を膨らます晴香の手を引き、風呂場を去る。
だが外気の寒さに震え、タオルだけを持って風呂場に戻った。

栗色の髪を拭き、丸っこい身体をタオルで拭いていく。
ちょっと寄り道し、空気の入った頬を指で押せば風船のように萎んでいった。


「…そもそも、君が来るまで湯船に浸かることなんて滅多になかったんだ」

これは事実。

水道代や光熱費のこともあるけれど、何より掃除が面倒くさい。
晴香が来るまで、湯船に浸かったのは両手で数えられるくらいだった。

「ちぇちゅやきゅ、やーや」

“や”しか合っていない節約の言葉。

再度膨らんだ頬に「そうだな」とだけ返し、ドライヤーに手を伸ばす。
が、ドライヤーにかかる電気代のことを考えて手を引っ込めた。

「……ちぇちゅやきゅ?」

ドライヤーから逃げようとした足が止まる。
そしてパタリと晴香の尻尾が一揺れ。

「あぁ」

パジャマ代わりのシャツを着させ、タオルを頭にもう一度乗せた。

「ちぇちゅやきゅ、ちゅき!」

「…そう簡単に意見を変えるな」

苦笑を浮かべた八雲は、ぐしゃりと髪を撫でてやった。






湯船に浸からなかったからか。
風呂上がりの体温はみるみるうちに奪われ、一人と一匹は震えていた。


ただ、晴香の回りにはありったけのタオルが山になっていて。
その山からひょこりと顔を覗かせる姿はプレーリードック。

気を使ってくれたのか。
一枚だけ貸してもらえたタオルに暖を求めるも、安物タオルの力など目に見えている。


「やきゅもきゅん」

「なんだ」

「ちゃむい」

「…僕もだ」

「………」

「………」

「…やきゅ」

「寝る、か」

どうやら意見は一致したよう。
タオルの山から出てきた晴香は、それらを部屋の隅に押しやった。

その中からどんな基準でか。一枚のタオルを手に足元に立つ晴香。

「やきゅ」

「…一緒に、寝ようか」

「きゅっ!」

勢い良く飛びついてきた晴香に苦笑。
けれど拒むことはせず、優しく抱き上げてやった。

「はりゅがけちゅ!」

電気の紐に手を伸ばし、暴れる晴香を抱え電気の下に向かう。
小さな拳が掴んだ紐。
チカンチカンと白熱灯が鳴きながら消灯した。

「おちゅかれ、ちゃま!」

暗闇の中。敬礼を決める晴香を腕に布団の中に潜り込む。
シーツの冷たさに思わず足を擦り合わせた。

「…寒いな」

と言っても良い策は見当たらない。
暖房もなければ電気あんかもない。

あまりの寒さに腕をさすっていると、晴香が胸板に顔を押しつけてきた。

「!」

いつものことだけれど、今日はその暖かさに驚いた。

「ちゃむいちゃむい」と言っていたから、てっきり冷えきっているのかと思いきや。
意外にもその身体は暖かい。

「子供の体温って本当に高いんだな」

「なになに?」

「…なんでもない」

ふと、実家にいる奈緒の顔が浮かんだ。それから叔父さんの顔も。
寒いから心が弱くなっているのだろうか。

とりあえず晴香に気付かれないように抱きしめ、髪に顔を埋めた。
ぬくもりが、胸元からじわりじわりと広がりゆく。



いつもは僕があとに言うけれど、今日は言われる前に言ってやる。


「おやすみ」

「おやちゅみ!」



息を吸うと、甘いお菓子の匂いが鼻をくすぐった。






end.



寒い日は無性に寂しくなります。
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