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四ッ谷怪談で四真です。

ちなみに今年ラストの四ッ谷怪談。
来年は…もっと原作らしい四ッ谷を書きたいです。


四ッ谷怪談/四真(恋人設定)


厚手であるスカートは冬服の象徴。

少し重たい冬を揺らし、中島真は購買部へと急ぐ。


「あれ…?」


購買部へとついた真は、自販機の前で小首を傾げた。

いつもは右下で、売り切れるのを待つそれが今日はいない。

カーディガンから覗く指先が、左上から順になぞっていく。

そして最後、右下の透明板の前できゅっと音を立てて止まった。



「飲むおしるこ、売り切れだ」






放課後、屋上にて。


露わになった膝を撫でる風に堪えながら。
真は子供のように駄々をこねる四ッ谷の相手をしていた。


「だーかーら、売り切れだったんですから我慢してくださいよ」

「嫌だッ」

「嫌だって…」

引く気のない四ッ谷に、思わずため息を漏らした。



屋上の七不思議、四ッ谷先輩。


巷で怪しい噂が一人歩きする彼。

だが、その正体は幼子のごとし。妙にわがままである。


その名を口にする者に先輩の本性を伝えたいのを、今日も我慢した私は偉かった。



「どうして飲むおしるこを買ってこなかった」

「買ってこなかったんじゃなくて、売り切れだったんです」

「それはお前が朝一に買いに行かなかったのが原因だろ」

「は?なんすかそれ、私に朝一に買いに行けっていうんですか」

「当たり前だろ」

「………」

あぁもう、ああ言えばこう言う。
お得意の言葉巧みな技術をこんなところに使わないでほしい。

「そんなにほしいなら、明日から自分で買いに行ってください」

もう知りません。

持参してきた紙パックにストローを突き刺す。
甘いいちご牛乳が、渇いた口内を満たす。

そんなに屋上から出ていきたくないのか。
四ッ谷の身体はぴくりと跳ねたまま動かない。


「…わかった」

今日はやけに聞き分けがいいこと。
関心しながら振り返ると、骨を思い浮かべる拳が呼んでいた。

見えない糸に引かれているかのように、四ッ谷の元へと歩む足。
スカートの中に入り込んできたえっちな風がやけに冷たかった。



「仕方がない」

そう聞こえたかと思えば、唇に何かが触れる。

陶磁器のように白く、死人のように冷たいそれは。指だった。

「!」

「今日のところは、コレで我慢しといてやる」


コイツは、キス、しようとしている。


にやりと歪んだ口元に、背筋がぞっとした。
冬服のセーラーの下、粟立つ気配を感じながら真は一心不乱に制す。

「ちょお、待って!」

「待ったはナシ」


…キスを、したことがないわけじゃない。

つまり私たちはお付き合いをしているわけで。
そういうことに興味津々なお年頃なわけで。

キスが嫌なわけじゃない。


ただ、今日は…

いや、今はだめなのだ。



「じゃあストップ!ストップストップ!」

いつの間にか押し倒された白いチェアの上。
攻防戦はまだまだつづく。

「ストップもナシ」

腹を這う冷たい指先に、思わず目を閉じる。

「ほんとっ、やめてください…」

「………」

目を瞑っているからわからない。
ただ、ため息を吐き離れる気配だけは感じ取れた。


「せんぱい…」


一生懸命な思いが通じたのか。
ムードを壊されたことに怒りを感じたのか。

触らぬ神に祟りなし。
あえてそこには触れず。

促されるように向けられた視線に、真は身振り手振り答えた。


「くちびるっ、唇が、カサカサなんですっ!」

「はぁ?」

「だから、唇が乾燥しててカサカサなんです!」

だから、キスしたくなかったんです!


笑うだろうか、笑われるだろうか。

覚悟を胸に、強く目をつぶる。

誰がなんと言おうと、嫌なのだ。
うまく言葉に表せないけれど、恥ずかしいのだ。



「なんだ、そんなことか…」

「そんなことって」

「俺はてっきり」

「てっきり?」

「…なんでもない」

そう言うと四方に広がる髪を掻き回し、立ち上がりどこかへ向かう。
身体に掛かる重みが退いたことに安堵していると、四ッ谷が戻ってきた。


「ほら」

どこか気だるげに見下ろされる。
そこまで来た冬空をバックに見上げた四ッ谷の指の間には、指と同じ太さの円柱。

「女なら、リップクリームくらい持ち歩け」

「き、今日はたまたま忘れちゃったんですぅ」

嘘だ。

男兄弟に囲まれているせいか、リップクリームを使うのは母くらい。
そんな母に「貸して」と言うのが恥ずかしく、持ち歩いていないのが事実。


いやいや、そんなことよりも。


「ていうか、なんで先輩がリップクリームなんて持ってるんすか!」

「それは内緒デス」

四ッ谷の口の端がぐいと持ち上がる。
憎たらしい笑みを睨みつけていると、何を思ったか手招きをされた。

「よぉしよし、塗ってやろう」

きゅぽ、とキャップを外し、リップクリームのお尻を回す。
数ミリ現れた蝋のような柱。

「で、でもそのリップクリームって先輩のなんですよね…?」

「だから何だ」

「そ、その…それって間接キスじゃ…」

「真ちゃんは間接キスも気にしちゃう子なのかァ?」

その言い方があまりにも子供扱いされているようで。
いや、実際に子供なのだけれど。

「全然平気です!」


…口にしてから乗せられたことに気がついた。


「まぁ、キスしないだけ有り難いと思え」

「はァーい…」

ここは諦め、大人しく従うことにした。



「ほら」

…先ほどまでの嫌みったらしい笑顔はどこへやら。
稀に見る涼しい微笑は、それはそれは美しい。

笑っている顔が不気味なだけであり、元の顔は綺麗なのだ。
そんな表情で見つめられ、断れるようなあたしじゃない。


「…ん」

目を閉じ顎を前に出すように、唇を突き出す。

上唇の左端に触れ、それは右端へと滑る。
続けて下に行き、今度は右から左へと滑っていった。

相手はリップクリームなのに、心臓はドクンドクンとうるさい。






「はい、おしまい」

それを幾度か繰り返し、リップクリームは唇から離れていった。
おしまいの宣言に、肩の力が抜ける。

そして、照れくささを隠すように何か言ってやろうと顔を上げたとき。


うるおいとメントールが包む唇で、小さなリップ音が弾けた。


「一回分で二人分。エコだろ」

「ばっ、ばかあああ!!」






end.



先輩はすべて計算尽くな気がします。
でも時々、真ちゃんの行動が予想出来ず慌てるとよし。
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