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LGで秋直です。
秋山と直ちゃんと年賀状のお話です。
LG/秋直(新婚)
秋山と直ちゃんと年賀状のお話です。
LG/秋直(新婚)
「本当に、これで良いんだな」
向かい合い。
握られた拳は、何を掴むか。
「はい。私にはこれしかありませんから」
「…そうか」
伏せられた目が、ゆっくりと上がる。
その瞳が私の瞳を捉えたとき、彼の眼差しは真剣なものだった。
「じゃあ、行くぞ」
「はい」
答えるように真正面から見つめ返す。
「ジャーンケーン」
「「ポン!」」
四角い窓枠に囲まれた青空は、いつもより澄んでいる。
今すぐ外へ飛び出して、あの空の下ピクニックでもしたら楽しいだろう。
けれどそれを邪魔する寒風が、容赦なく吹き付けるのを私は知っている。
だからこうして、部屋という名のシェルターにこもっているのであった。
羽織った半纏と厚手の靴下。
背中を暖めるヒーターと、下半身を暖めるコタツ。
そして、部屋には暖房。
全身を暖められた直は、襲ってくる睡魔と戦いながら正月を過ごしていた。
コタツの上のカゴの中にはみかんの山。
そこから美味しそうなのを一つ選び、皮を捲り摘んで食べる。
みかんの甘さと酸っぱさが、渇いた口内を充分に潤した。
そのとき、玄関の鍵が開く音。
玄関まで迎えに行こうという案は、コタツの温もりに負けた。
ドアが閉まる音よりも先に聞こえてくる足音。
床に着いたお尻にも、ドタドタという小走りの振動が伝わる。
ミカンを食べる手を止め振り返ると、秋山が居間に来たところだった。
「おかえりなさい」
おかえりの挨拶に返事も返さず、コタツに飛び込んでくる身体。
足と足とがぶつかった。
「暖かい…」
部屋とコタツの温もりに、寒さに凍った秋山の身体が解れる。
そして溶けた氷のようにコタツの上に倒れ込んだ。
「新年早々、お疲れさまです」
早速、手を差し出す。
前髪に隠れた瞳に睨まれたあと、コタツの上に置かれたのは年賀状の束だった。
先ほどのジャンケンはこれのため。
年始めにやってくる年賀状。
それが待つのは、マンションのエントランス。そこにある郵便受け。
小さなマンションだ。道のりは遠くない。
けれど世界はこの寒さ。
部屋から、コタツから出たい人間などそう少なくはない。
意見の一致した二人は、ジャンケンで取りに行く役を決めたのだった。
そして、パーを出して負けた秋山は新年早々、年賀状を取りに行かされたのだった…
「君、ジャンケン強いでしょ」
「えー、そんなことないですよー」
嘘。馬鹿正直だけれど、ジャンケンには自信がある。
「…嘘だな」
予想はしていたけれど簡単に見破られてしまい、思わず跳ねる身体。
口が慌てて言い訳を探す。
「ジャンケンは運任せです。だから平等です」
間違ったことは言ってない。
なのにしばらくの間、秋山さんに睨まれてしまった。
目を合わせちゃだめだと精一杯視線を逸らし、どうにかその場を乗り越える。
「まぁいい」
そう言い、秋山は年賀状に手を伸ばし茶色の輪ゴムを外した。
外された輪ゴムは陶磁器のように白い手首に絡む。
「次はポーカーで勝負しよう」
「それ、私に勝ち目ないです」
「ジャンケンだって俺に勝ち目ないけど」
喋りながら淡々と年賀状を仕分ける秋山。
邪魔をしてはいけないと思い、黙って作業を見つめる。
「想像はしてたけど、すごいな」
純粋な笑みとも苦笑とも見える口元。
伏せ目がちな瞳が前髪で見えない分、表情がわからない。
「何がですか?」
「君宛の、年賀状の量」
その間も手は止まらない。
コタツの上には対照的なハガキの山が二つ。
一つは数枚、一つは数センチの厚みがあった。
「秋山さんが少なすぎるだけですよ」
「そんなことねーよ」
答える間も手は止まらない。
年賀状の山が大きくなるのに比例して、秋山の手元はみるみるうちに軽くなった。
「よし終わり」
はい。と仕分け終えた年賀状を渡される。
一枚一枚読みたい衝動を押さえ、出していない人はいないか。確認をする。
大学のクラスメート。
中学からの友人。
小学生の時、担任だった先生。
ライアーゲームで出会ったたくさんの人。仲間。
名前を見るだけで、人生を振り返っている。
そんな感覚を覚えた。
ふと、一定のペースに保たれていた手が止まる。
それに気付いた秋山が、不思議そうな顔をしながらも静かに見つめた。
「…どうしたんだ」
痺れを切らしたのか、尋ねる秋山。
答えるように、ボールペンで殴り書きされた文字を口にした。
その言葉を口にした途端、直の心は暖かい何かで満ちあふれた。
「秋山、直…」
年賀状の真ん中に書かれた名前は、秋山直。
神崎直でも、ましてや秋山深一でもない。秋山直だった。
「籍入れてるんだから当たり前でしょ」
なんだそんなことか、と秋山は自身に来た年賀状に視線を落とした。
けれど両手で数えられるほどの年賀状はすぐに見終え、すぐに顔を上げる。
そして、未だに“秋山直”の年賀状と見つめ合う直に話しかけた。
「何赤くなってるの」
「だって」
と言っておきながらも言葉が続かない。
モゴモゴと押し黙り、赤い顔を隠すように俯いてしまった。
しばらくして、顔の赤みが治まった直が顔を上げる。
「秋山さんは平気なんですか」
「名字変わってないからね」
いつの間にか淹れたコーヒーを口にしながら、坦々と返す。
「でも」
お揃いのマグカップがコタツの上に静かに置かれた。
「秋山直って名前を聞く度に、照れくさくは感じるな」
「なーんだ。秋山さんもおんなじだったんですね」
「君と一緒にされるのは悲しい」
「それどういう意味ですか」
「言葉のままさ」
「もうっ」
口では勝てない直は、コタツの中で足を蹴ってやった。
「あ、ライアーゲーム事務局からも年賀状が来てますよ!」
「…あいつら何してんだ」
「私たちも出しましょう!ねっ!」
「はいはい」
幸せそうに笑う二人の写真に“結婚しました”と書かれた年賀状を。
end.
結婚しました。
という年賀状を見ると知らない人でもおめでとうを言いたくなります。
お嫁さん宛(新婚)の、昔の名字と新しい名字が混じった年賀状って良い。
写真はもちろん純白ウェディングドレスに包まれた直ちゃんで。
向かい合い。
握られた拳は、何を掴むか。
「はい。私にはこれしかありませんから」
「…そうか」
伏せられた目が、ゆっくりと上がる。
その瞳が私の瞳を捉えたとき、彼の眼差しは真剣なものだった。
「じゃあ、行くぞ」
「はい」
答えるように真正面から見つめ返す。
「ジャーンケーン」
「「ポン!」」
四角い窓枠に囲まれた青空は、いつもより澄んでいる。
今すぐ外へ飛び出して、あの空の下ピクニックでもしたら楽しいだろう。
けれどそれを邪魔する寒風が、容赦なく吹き付けるのを私は知っている。
だからこうして、部屋という名のシェルターにこもっているのであった。
羽織った半纏と厚手の靴下。
背中を暖めるヒーターと、下半身を暖めるコタツ。
そして、部屋には暖房。
全身を暖められた直は、襲ってくる睡魔と戦いながら正月を過ごしていた。
コタツの上のカゴの中にはみかんの山。
そこから美味しそうなのを一つ選び、皮を捲り摘んで食べる。
みかんの甘さと酸っぱさが、渇いた口内を充分に潤した。
そのとき、玄関の鍵が開く音。
玄関まで迎えに行こうという案は、コタツの温もりに負けた。
ドアが閉まる音よりも先に聞こえてくる足音。
床に着いたお尻にも、ドタドタという小走りの振動が伝わる。
ミカンを食べる手を止め振り返ると、秋山が居間に来たところだった。
「おかえりなさい」
おかえりの挨拶に返事も返さず、コタツに飛び込んでくる身体。
足と足とがぶつかった。
「暖かい…」
部屋とコタツの温もりに、寒さに凍った秋山の身体が解れる。
そして溶けた氷のようにコタツの上に倒れ込んだ。
「新年早々、お疲れさまです」
早速、手を差し出す。
前髪に隠れた瞳に睨まれたあと、コタツの上に置かれたのは年賀状の束だった。
先ほどのジャンケンはこれのため。
年始めにやってくる年賀状。
それが待つのは、マンションのエントランス。そこにある郵便受け。
小さなマンションだ。道のりは遠くない。
けれど世界はこの寒さ。
部屋から、コタツから出たい人間などそう少なくはない。
意見の一致した二人は、ジャンケンで取りに行く役を決めたのだった。
そして、パーを出して負けた秋山は新年早々、年賀状を取りに行かされたのだった…
「君、ジャンケン強いでしょ」
「えー、そんなことないですよー」
嘘。馬鹿正直だけれど、ジャンケンには自信がある。
「…嘘だな」
予想はしていたけれど簡単に見破られてしまい、思わず跳ねる身体。
口が慌てて言い訳を探す。
「ジャンケンは運任せです。だから平等です」
間違ったことは言ってない。
なのにしばらくの間、秋山さんに睨まれてしまった。
目を合わせちゃだめだと精一杯視線を逸らし、どうにかその場を乗り越える。
「まぁいい」
そう言い、秋山は年賀状に手を伸ばし茶色の輪ゴムを外した。
外された輪ゴムは陶磁器のように白い手首に絡む。
「次はポーカーで勝負しよう」
「それ、私に勝ち目ないです」
「ジャンケンだって俺に勝ち目ないけど」
喋りながら淡々と年賀状を仕分ける秋山。
邪魔をしてはいけないと思い、黙って作業を見つめる。
「想像はしてたけど、すごいな」
純粋な笑みとも苦笑とも見える口元。
伏せ目がちな瞳が前髪で見えない分、表情がわからない。
「何がですか?」
「君宛の、年賀状の量」
その間も手は止まらない。
コタツの上には対照的なハガキの山が二つ。
一つは数枚、一つは数センチの厚みがあった。
「秋山さんが少なすぎるだけですよ」
「そんなことねーよ」
答える間も手は止まらない。
年賀状の山が大きくなるのに比例して、秋山の手元はみるみるうちに軽くなった。
「よし終わり」
はい。と仕分け終えた年賀状を渡される。
一枚一枚読みたい衝動を押さえ、出していない人はいないか。確認をする。
大学のクラスメート。
中学からの友人。
小学生の時、担任だった先生。
ライアーゲームで出会ったたくさんの人。仲間。
名前を見るだけで、人生を振り返っている。
そんな感覚を覚えた。
ふと、一定のペースに保たれていた手が止まる。
それに気付いた秋山が、不思議そうな顔をしながらも静かに見つめた。
「…どうしたんだ」
痺れを切らしたのか、尋ねる秋山。
答えるように、ボールペンで殴り書きされた文字を口にした。
その言葉を口にした途端、直の心は暖かい何かで満ちあふれた。
「秋山、直…」
年賀状の真ん中に書かれた名前は、秋山直。
神崎直でも、ましてや秋山深一でもない。秋山直だった。
「籍入れてるんだから当たり前でしょ」
なんだそんなことか、と秋山は自身に来た年賀状に視線を落とした。
けれど両手で数えられるほどの年賀状はすぐに見終え、すぐに顔を上げる。
そして、未だに“秋山直”の年賀状と見つめ合う直に話しかけた。
「何赤くなってるの」
「だって」
と言っておきながらも言葉が続かない。
モゴモゴと押し黙り、赤い顔を隠すように俯いてしまった。
しばらくして、顔の赤みが治まった直が顔を上げる。
「秋山さんは平気なんですか」
「名字変わってないからね」
いつの間にか淹れたコーヒーを口にしながら、坦々と返す。
「でも」
お揃いのマグカップがコタツの上に静かに置かれた。
「秋山直って名前を聞く度に、照れくさくは感じるな」
「なーんだ。秋山さんもおんなじだったんですね」
「君と一緒にされるのは悲しい」
「それどういう意味ですか」
「言葉のままさ」
「もうっ」
口では勝てない直は、コタツの中で足を蹴ってやった。
「あ、ライアーゲーム事務局からも年賀状が来てますよ!」
「…あいつら何してんだ」
「私たちも出しましょう!ねっ!」
「はいはい」
幸せそうに笑う二人の写真に“結婚しました”と書かれた年賀状を。
end.
結婚しました。
という年賀状を見ると知らない人でもおめでとうを言いたくなります。
お嫁さん宛(新婚)の、昔の名字と新しい名字が混じった年賀状って良い。
写真はもちろん純白ウェディングドレスに包まれた直ちゃんで。
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