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八雲で八晴です。

初心に戻ったようなしもいえろ。

八雲/八晴(恋人or新婚)


ぬいぐるみのようにふわふわな身体。

羽のように長い耳と、ひくひく動く小さなお鼻。

後ろ足は巨人の足のように大きくて。

お尻にはまぁるいぼんぼんが付いていた。



「…はぁ」


箱型のブラウン管に映されたのは、一羽のウサギ。


小さな身体が動く度。

知らず知らずのうちに、晴香はため息を吐いていた。






今年の干支は数えて4番目。
寅と辰に囲まれた、弱々しくも愛らしいウサギの年。

新年を迎えた世の中。
今年の主役であるウサギは、様々なテレビ番組に引っ張りだこ。
チャンネルを回す度にその名を、その姿を目にする。

現にテレビ画面には、ウサギがぴょんこぴょんこと跳ねる姿が映し出されていた。

「………」

テーブルに肘を付き、しばらくその姿を眺めた。

犬のように吠えることもなく、猫のように擦りよることもない。
ただ、媚びることもなく自分勝手に跳ね回るウサギ。

「はぁ…」

「…どうした?」

久しぶりに聞く、スピーカー以外からの音に思わず身体が跳ねる。
振り返るとそこにはソファーに腰掛け、年賀状を見ている八雲がいた。

「な、何が?」

床に座っている今、自然と見下ろされ鼓動が速まる。

「ため息」

「ため息?」

「…君は自分でしたことも忘れたのか?」

どうやらため息を吐いていたようだ。
自覚はしていなかったが、八雲が言うのだからそうなのだろう。

「悩み事があるなら、…ぼくで良ければ聞くぞ」

「あ、別に悩み事があるわけじゃないの」

八雲の深刻な表情を見て、慌てて否定する。

「じゃあどうした」

「えっと」

思い当たる節はただ一つ。

ちらりと視線をブラウン管に向ける。
それに気付いた八雲の目も、晴香の視線を追いかけた。

そこには無言で跳ねるウサギの姿があった。

「ウサギが可愛くて、思わず…」

幸せのため息と言うのだろうか。
その姿に和み、癒され思わず力の抜けた身体で息を吐いてしまう。

「なるほどな」

珍しく理解が早くて驚いた。
あの八雲が、動物の可愛さを理解しただなんて。

「君はウサギの可愛さに嫉妬していたわけだ」

「どうしてそうなるのよ!」

それじゃあまるで、私が可愛くないみたいな言い方じゃない。
自分で自分を可愛いとは思わないが…八雲は一応、恋人なのだ。

そこは嘘でも気を使って…

「世間的に見てもウサギの方が可愛いのは当たり前だろ」

あまりにも淡々と話す。
言葉もだが、その態度もぐさりと胸に刺さった気がした。

「そこは嘘でも君が一番可愛い、とか言ってくれればいいのに…」

「…言ってほしいのか?」

「いいえ、遠慮します」

その目が気持ち悪いものを見るような目で、丁寧に断った。
そこで会話は終了。

テーブルの上に伸び、テレビ画面のウサギに心の癒やしを求めた。



八雲が色恋沙汰に興味がないのは知っている。

付き合えたのもましてや同棲出来たことも、正直今でも信じられない。
明日は雨なのではないかと毎日疑ってばかりいる。

だから、告白してOKを貰ったとき。
あまり求めてはいけないと心に決めていた。

…決めてはいたのだが、共に暮らし始めてからの毎日。
あまりの草食系男子っぷりには驚いてばかりだ。

食べ物もそうなのだけれど、恋人となって知ったあっちの方も…



そんなタイミングで画面の中のウサギが、牧草を口にしたものだから。

「八雲君ってウサギみたい」

頭に浮かんだことを、そのまま口にしてしまった。

「は?」

「だって八雲君って草食系男子でしょ?」

「………」

「ウサギも草ばかり食べてるし、何を考えてるかわからないし、無口だし」

犬みたいに構ってって吠えないし。

猫みたいに甘い声で擦りよっても来ないし。


指折り口に出す例えに、八雲が呆れ顔で髪を掻き上げた。

「…君は、ぼくを猫と言ったりウサギと言ったり…」

「でもやっぱり八雲君はウサギよ」

「だから、どこがだ」

「女の子に手を出すことも出来ない草食系男子なところなんか特に」


後ろを振り返った先。

「ほう」

そこから放たれる黒いオーラに、晴香は今になってやっと気が付いた。
年賀状が投げ置かれ、テーブルの上に散らばる。

「や、八雲くん…?」

ソファーから降りてくる身体。
同じ目線、その近さに思わず後ろに下がってしまった。
だが、背中はすぐにテーブルにぶつかった。

「僕はウサギ、ね」

腰に回された腕。足を撫でる手。
厚手の布越しでも伝わってくる指の感触に息をのむ。
自然と身体が固くなる。

気付かれてしまったのか、八雲はくっと喉で笑った。

「知ってたか?」

低い声が耳を撫でる。



「ウサギは性欲が強いんだ」

そんな言葉に恥じる間もなく、唇を覆うは八雲の唇。
突然のキスに驚き、反抗しようとしたが侵入してきた舌のせいで力が入らない。
ざらざらとした舌が口内を貪る度、卑猥な水音がくちゅりと絡む。

こんな昼間に、しかもリビングで初めてする行為。
ただでさえ八雲のらしからぬ雰囲気にどぎまぎしていたのだ。
晴香の頭はショート寸前。



それからどれだけの時間が過ぎたのだろうか。

酸欠寸前に離れ、一息付くと再びキス。
それを何度も繰り返しているうちに、ブラウン管にウサギの姿はなくなっていた。

「は、ぁっ…!」

久しぶりの酸素に肺がきゅっと痛んだ。
くらくらする頭を押さえようにも腕に力が入らない。

そうこうしているうちに、ふわりと身体が浮かび上がった。
霞む視界はやけに高い。
抱き上げられていると気付くのに、そう時間はかからなかった。
見慣れた廊下を進み、向かうは一つ。…寝室。

「まって…!」

「待てない」

即答で返される。
怒らせたのは確実に私。
謝ろうと口を開けたとき、投げるようにベッドの上に降ろされた。

暗闇の中、八雲の四肢に囲まれる。

「ぼくはウサギよりも、ぼくの下で鳴く君の方が好きなんだ」

求めていたはずの言葉は、とても冷たい。

「君とぼく、どっちがウサギなんだろうな…」



この日を境に、色んな意味で八雲はウサギなのだと思い知らされた。






end.



ウサギといえばコレ。カクカク。
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