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八雲で八晴です。

前回のつづきで原作五巻後設定。ぐだぐだ、しちゃいました…

八雲/八晴(原作五巻後)

ため息をつき、蓋の閉まった便座に腰を下ろす。

別に用を足したかったわけじゃなく、一人になりたかっただけなのだ。


「………」


両手で顔を覆い、無心になろうとする。



恋人でもない男女が寝泊まりを共にする。

その重大さを、今になってやっと気付いた。


いくらぼくだからと言って、彼女を襲わないでいられるか?

胸を張って言おう。襲わない自信はない。


ついさっきだって、彼女の匂いだとか仕草に誘惑されている己がいた。


これでは駄目だ。

やはり、彼女にコトの重大さを伝えなければ。



「………」


その間も両手は熱い頬にいた。

だが冷たい手のひらは、顔の熱をそう簡単に取り除いてはくれなかった。

いや、むしろ両手にまで熱がやってきている。


これでは逆効果だ。


…ふと、その中でも一部がやけに。

そこだけ燃えているように、やけに熱い。


そっと手を離し、左手を見つめる。



あぁそうだ。


彼女に握られた人差し指だけが、やけに熱いんだ。






一応水を流し、トイレから出る。

一人になる時間は充分あった。
ぼくも、…彼女も。

心の準備はバッチリ出来た。
言わなくてはいけないことも纏まった。

くよくよした弱さは、トイレに流してきた。


「…よし」

両の手は、右手が身体を支えているため使えない。
空いた左の握った拳で、頬をぺちんと叩いた。



部屋に戻ると、出てきたときと同じ場所に晴香はいた。
顔も耳も、出てくるときと同じく赤い。

だが、ローテーブルに置かれた二つのマグカップを見る限り。
一度は晴香も動いた様だ。

マグカップの中には茶色いココア。
白い湯気が、ぼくらの心の中のようにゆらゆら揺れる。


晴香の隣に腰を下ろし、深呼吸を一つしてから話し出した。

「君に話がある」

「やっぱり帰っちゃうの…?」

「人の話を聞け」

不安げな表情。
その奥にどんな感情を抱いているのか、他人であるぼくに知る術などない。

ただ、晴香が息を飲むのだけはわかった。

自分自身を落ち着かせるようにココアを一口。
甘いチョコレートのような味が口に広がる。

「…ぼくは男で、君は女だ」

あくまでこれは生物学上の話。
断じてぼくが君のことをそういう目で見ているわけじゃない。…と、信じたい。

自分では言っているつもりが、開いた口からは声となって出ていない。
ため息混じりに話を続ける。

「そんな感情なんてないが、まさかの場合がある」

「まさかって?」

ココアを飲みながら、恐る恐ると言うように小首を傾ける。

純粋さが彼女の魅力なのだろう。
だが、その純粋さがぼくにとっては仇となる。

苦虫を噛んだように顔を歪め、目を逸らしながら言った。


「例えば……襲う、かもしれない」

絞り出すような小さな声に、我ながら情けなかった。

「えっ」

さすがの晴香もあまりの小さな声に、間の抜けた顔。

「襲うって…八雲君が?」

「こ、これは例えばの話であって…」

自分でも何を言っているんだ。
数秒前に戻って自分の口を塞いできたい。

そんな八雲を見て、晴香はふふっと笑みをこぼす。

「…なんだ」

柔らかくなった表情に、どこか安堵する自分がいる。
この部屋に来てやっと、いつもの雰囲気になった。

けれどそんな気持ちに浮かれたのも一瞬。

「真っ赤な八雲君なんて新鮮」

晴香の顔から消えた赤みは、いつの間にか八雲の顔へと移っていた。

それを見た晴香が、口の端を上げてにやにやと笑ったのは言うまでもない。

「ふーん、八雲君がそんなこと心配してたなんて…ねぇ?」

「っ…」

ここで食いつけば負け。
喉まで出かかった反発の言葉をどうにか飲み込む。
落ち着けと自分らしくない自分に言い聞かせ、ココアを飲む。

そんな八雲を見て、悟ったように晴香は笑いながら言った。

「冗談冗談。八雲にとって、私は友達でしかないのは知ってるから」

自分のと、空になったマグカップを八雲から受け取り立ち上がる。

「困らせちゃってごめんね」

振り返り際にそう言うと晴香はキッチンに向かった。

「おかわりいる?」

「…いらない」

それ以上会話は続かない。
会話のタネも見つからないし、そもそも無理に話さなくたっていいんだ。

八雲はただただ時が過ぎるのを待とうとした。

時計の秒針がチクタク進む音が静寂の中やけに響く。
その間に堪えきれず、意味もなく立ち上がった。
途端、左足が痛み思わずしゃがみこむ。

「大丈夫?」

顔を上げると、晴香が心配そうに覗き込んできた。
慌てて来てくれたのか、その手は水で濡れていた。

「…別に、これくらい平気だ」

「それなら良いんだけど…」

納得いかないと言わんばかりな顔で見つめられる。

ベッドを支えにしゃんと立つ。
左足はズキズキと痛んだ。


そんな最悪な状況だったからだろうか。

「甘えたいときはいつでも甘えてね」

もしかしたら痛みからかもしれないけれど。
彼女の言葉と微笑みに、泣きそうな自分がいた。

そんな心も身体も弱っていたからか。
ついつい気が抜けて、足が崩れた。

「もう、やっぱり無理してたんじゃない」

膝が床に突くより先に、晴香が全身を使って支えてくれた。
身も心もボロボロなぼくに、これは涙を助長する。

甘えてもいい。

晴香の言った言葉が頭の中に浮かぶ。


「きゃっ」

八雲は、晴香を押し倒すように倒れ込んだ。

痛くないようにと背中に腕を回している辺り、故意にやったのだと自覚。

自己嫌悪だとか退かなくてはとか、頭の中はパンク寸前。
いやすでにもうパンクしているのかもしれない。

退くことも喋ることも出来ず、ただただ俯いた。

退きたくない。彼女の傍にいたい。…甘えたい。

言いたいことは山ほどある。
けれどぼくはこんな人間じゃない。



戸惑っていると、ふと頭が重くなる。
晴香の手の平が、寝癖だらけの髪を撫でていた。



「素直じゃないんだから」


ちらりと盗み見た苦笑いは、全てを見透かしているようだった。






end.



今更ながら、間が空くと話がうまくまとまらないことに気付きました。
ただ、八雲がわざと倒れて晴香に甘えるというのが書きたかっただけ。
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