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LGで秋直。

節分の日のお話です。

LG/秋直(新婚さん)

「2月3日ですね!」

「そうだな」

「今日が何の日か、ご存知ですか?」

「アルベルト・ホンドの誕生日だろ」

「えっ」

「?」

「えっと…ご親戚か何かで?」

「知らない」

「えっ」

「いま考えた」

「あっ」


本を読みながらVサイン。

そこまでされてやっと、馬鹿にされていたのだと気が付いた。



「秋山さん」


私、怒りましたよ。

勇気を出して少し。ほんの少しだけ強く言う。


けれど秋山は、気にすることなく紙を捲った。


「節分でしょ」


顔を上げることはなく、淡々と話す。

無表情ながらも優しい瞳が、直を横目で見やった。


「…はい」



今日こそぎゃふんと言わせたかったのに。

今日もまた、あっさりと引いてしまう自分にため息を吐いた。






直は升箱を手にしていた。


それは今日が節分だから。


けれど直は不機嫌だった。


それは秋山が構ってくれないから。



「秋山さん…」

遠慮がちに隣に座る。
二人分の重さに耐えきれず、ソファーのバネがぎしりと軋んだ。

聞こえなかったのか故意なのか。返事はない。

「秋山さん!」

今度は大きな声でハキハキと。
ちゃんと、ちゃんと呼ぶ。

「………」

それでも秋山の視線が上がることはなく、本の上に落ちたまま。

こうなったらと意地になり、秋山と本の間にぐいぐい身体を押し込んだ。
脇の下を潜り抜け、膝の上、本の上に出ることに成功。
だが、本は抜き取られてしまう。

行き先を探すと、本は秋山さんのきれいなお顔にぴたりと貼り付いていた。

「秋山さん…」

「………」

秋山が無視している原因を直は知っている。
お皿を割って怒られた訳でも、ぬいぐるみばかり構って拗ねている訳でもない。


その名を呼ぶ度に、心臓の辺りがもぞもぞと。

むずむずと痒くなる名を口にした。



「………。深一、さん」

「何?真っ赤なお顔の直さん」

聞こえるか聞こえないか、微妙な声でぼそりと呟いたのに。
即答で返事を返してくる秋山に、直はため息を吐いた。

「もう!名前で呼ぶの、恥ずかしいって言ったじゃないですか…!」

「呼ばれるのは?」

「呼ばれるのもです!」

新婚3ヶ月目。
呼ぶのも呼ばれるのも、正直まだ慣れていない。

“秋山さん”と呼ぶのにも。
“君”とか“お前”で呼ばれるのも。

それが当たり前になってしまったのだ。


こんなにも人が悩んでいるのに、秋山は「ふーん」とつまらなそうに続けた。

「でも、今の君の格好の方が恥ずかしいと思うけどな」

「!」

言われてやっと、子供みたいな、犬みたいな様に気付く。
慌てて退こうとする直の脇を掴み、秋山は自らの膝の上に乗せた。

「捕まえた」

「捕まっちゃいました…」

突然のスキンシップに頬を染める。
そんな直のことなどいざ知らず。

「じゃあ、今年は君が鬼ね」

照れるその顔に、鬼の面を着けた。






秋山は眉を寄せていた。


それは鬼が平然としているから。


だから秋山は不機嫌だった。



「……なぁ」

「なんでしょうか?」

鬼が振り返る。
正しくは鬼の面をつけた直が振り返る。

「鬼に向かって豆を投げるんだよね?」

「?はい、そうですよ」

何を言ってるんだろう。
愛らしく小首を傾げる姿は鬼というより小悪魔。
小さくか細い身体に鬼の顔は妙にアンバランス。

「…じゃあさ」

横を向き、鬼と向き合う。






「なんで鬼が豆撒いてるの?」



握られた手のひらから、小さな豆たちが大きな弧を描き飛び立った。


「だめ、ですかね?」

するすると下がる腕。

お面のせいで表情は分からない。
けれど、豆粒大の覗き穴から覗く瞳に不安の色が見えた。

「…まぁ、いいんじゃないか」

そんな目で見られたら、白も黒になる。

直に対する自身の甘さに、正直あきれた。

「よかったです」

隣では鬼が「鬼はそと」と言いながら豆を撒いている。
…なんなんだこれは。

秋山はため息を吐くと、空腹を埋めるため直が手にする升箱に手を伸ばした。

「あっ」

だが、寸のところで気付かれ避けられる。

「………」

「だめですよ!撒いた豆を、年の数食べなくちゃ」

「………」

「そっ…そんな目で見てもだめなものはだめです!」

鬼の面を額にずらし、その下から睨んでくる。
久しぶりに見た彼女は、自覚があるのか少し恥ずかしそうだった。

諦めずに再び手を升箱に伸ばすも、腕と共に高々と上げられてしまう。
直としては取られまいとした行動なのだろう。


「まぁ、そんなことしても無駄なんだけどな」

けれどそれは逆効果。升箱は丁度良い位置に、目の前に掲げられていた。
…気付いてないのがとてもとても恐ろしい。

「あっ」

秋山は豆を掴み、ボリボリ食す。
節分時にしか食べない味気のない豆は、予想以上に食欲を衰退させた。

「これは、だめっ、ですっ!」

そんなに食べられたくないのか、両手を上げたままぴょんぴょん跳ねる直。
ポロポロと、木箱からこぼれ落ちるは豆。

「………」

そんなに取られたくないなら、跳ねるより背中に回せばいいのに。

指摘してやろうとも思ったが、あまりの間抜けさと言うか。
アホの子というか。


帝都大学院卒の自分には理解出来ない彼女の姿に、思わず笑みがこぼれた。



指摘しようとした口元は緩みっぱなし。
それを見た直は、小首を傾げながらもまだ跳ね続ける。

升箱の豆がほとんど落ちてしまった頃。

「かわいいな」

やっと動いた口は本音を吐いた。



「えっ」


跳ねる足が地面に着地。そのまま制止。

その隙をつき、秋山は直からほとんど空になった升箱を奪った。


「あっ!」


取られた直は慌てて手を伸ばす。

同時に秋山も手を伸ばす。



クロスカウンターのごとく、交差する腕。


一足先についた秋山の手は、直の頬を押さえ。



桃色リップにキスをした。






end.



直ちゃんアホの子過ぎた…
反省反省。
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