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四ッ谷で四真。

少し遅れてしまいましたがバレンタイン話です。

四ッ谷/四真(恋人未満)

「ふ・ざ・け・てんのカァーッ!!」

「いったい!」



放課後、本校舎屋上にて。

一人の青年の怒鳴り声が、冬の空に響き渡った。






四ッ谷文太郎は不機嫌であった。
くまきちに噛まれた訳でもなければ、あの狐先生に絡まれた訳でもない。

唯一無二に。…まあまあ。
いや、他人と比べれば3センチだけ信用している助手に裏切られたからだ。

「俺はがっかりだ!」

「し、仕方ないじゃないですかァ!」

脳天を直撃した円柱を見事にキャッチ。
拍手喝采。送りたくなるのを堪え、人差し指を突きつけた。

「俺はがっかりだッ!」

「な、何度も言わなくても分かりましたから!」

口を歪めた真は、手にしたココア缶を胸の前で握り締めた。



飲むおしるこを買ってくるのは、助手である真の務め。

だがこの馬鹿は、飲むおしるこではなくココアを買ってきた。



「おまえは日本語も読めないのか!」

「先輩こそ日本語ワカリマス?売り切れだったって何度も…」

そこまで口にし、慌てて塞ぐ。
そして、青い顔で四ッ谷を窺った。

「ほぉ、俺に楯突こうって言うんだな…?」

四ッ谷の顔に青筋が浮き出る。
じりじりと神経を逆撫でる気配に、思わず下がる。

「中島ァ!今日から七日間覚悟しろ!」

「わっ、わっ。やめてくだしゃい!」

さっそく怪談を語り出すその口を見て、真は耳を塞いだ。



弥生ヒナノはため息を吐いた。
それを見たくまきちが心配そうに覗き、大丈夫だよと返事を返す。

「いつまで経っても子供なんだから」

言い合う二人を横目に、ヒナノはくまきちを撫でていた。

ふわふわよりはごわごわに近い毛はどこか四ッ谷に似ていて。
飼い犬は飼い主に似る、という言葉を思い出した。

「真も、あの様子じゃ素直になれないわね…」



「おっ、おしるこもココアも、元はといえば豆なんですから…!」

「小豆とカカオを一緒にすんな!」

四ッ谷に怒鳴られ、真は肩を縮めた。

いつもならば駄々をこねる四ッ谷を無視していたであろうが今日は違う。


ちゃんと意味があってココアを買ったのに…


「とっとと買い直してこい!」


ここまで言われるとは思ってもみなかった。



「ひっく」

「…泣けば許されると思うなよ」

「しっ、知ってます。せ、しぇんぱいは。鬼、ですからっ」

「あァん?」

唇を噛みしめる。
リップクリームも塗らずカサカサの唇は、あっさりと皮が捲れてしまった。

睨みつけに絶えきれず、視線を足元に落とした。
右のスニーカーのひもが解けていた。

「わ…ひっく、わかりまし、た。か、買ってきます」

どうせ近くのコンビニに売っているのは知っている。
売り切れだからって、買いに行かされるのも慣れっこ。



だけど今日は。


涙が止まらなかった。



「買いに行ってきますね!」

精一杯の笑顔でそういうと、ココアの缶を投げた。
それを四ッ谷が掴む頃には、真は屋上から飛び出していた。

涙をぽろぽろ落としながら。


「…なんだってんだ」

残された四ッ谷は、あっさりと行かれ黒椅子の肘掛けに肘を突いた。
手の中には熱いココアの缶。


いつもなら皮肉の一言。
それこそ言葉通り、ぷんぷん言いながら買いに行くのに。

笑顔まで見せられ、拍子抜けだ。


「あーあ、真を泣かせちゃった」

突然聞こえた自分以外の声に身体が跳ねた。
声のした方に目を向けると、くまきちと戯れているヒナノの背中があった。

「……ヒナノちゃん」

いたんだ。
「い」まで口にし睨まれ、慌てて塞ぐ。

その姿を見て呆れたヒナノは、何度目かのため息を一つ。
そして凛と立ち上がった。

「先輩って鈍感ですね」

「あ?」

ヒナノの漆黒の髪が、空に靡く。
視界をじゃまする前髪を耳に掛け、真正面から尋ねた。

「今日が何の日か知ってます?」

「何の日って…」

四ッ谷は眉を寄せた。
それから視線を巡らすが、ここは部屋でもなんでもない。
日付を示すものなどあるわけがない。

「ヒントそのいち」

一本だけ立った人差し指。
そのまま降ろされた指先は、ココアの缶を指した。

「?」

示された缶を見るも、変わったところは特にない。
何か書かれているわけでも、描かれているわけでもなかった。

「…ヒントそのに」

呆れ顔で中指を立てるヒナノ。
少しだけ悩むように顎に触れ、間髪入れずに言った。



「バレンタインですよ」





「えっ」

「2月14日。今日はバレンタインです」

その言葉を聞いた途端に、手にした200ミリが重たくなった気がした。

いいや重たくなったに違いない。
握ったそれを落としそうになる。

「本当は飲むおしるこ、あったんですよ」

自販機の前で悩む中島。

「真、バレンタインにチョコレート買うのが恥ずかしいって言って」

ギリギリまで悩んで、ココアを選んだ。
あぁ、中島の姿が目に浮かぶ。


手にしたココアが、より一層重くなった。

そして、落としてはならないと思った。



それを遠目に見ていたヒナノは、肩を竦める。

「私、おじゃまみたい何で帰りますね」

最後にくまきちを撫で、コンクリートの上に置いた鞄を手にした。
黒髪を靡かせ、踵を返すその姿は年下のくせに大人びて見えた。

「本命か義理か、それくらい自分で聞いてください」

錆びた扉が閉まる寸前。そう言うと、重たい鉄の戸は音を立てて閉まった。

一人残された四ッ谷は、温くなった缶を握りしめた。

「わふ!」

愛でてもらう相手がいなくなったくまきちが、足に手をかけてきた。
つぶらな瞳が捉えるのは、ココアの缶。

それをくれと言わんばかりに、膝の上に飛び乗るくまきち。

いつもならばお裾分け程度にあげるのだが、今日は違った。



「…これは、だめだ」


缶を握った手を、頭の上に上げる。

しばらくそうしていると、くまきちも理解したのか尾を垂らし去っていく。



プルタグをひねり、一口。



ココアはぬるく、冷めていた。

頬はほんのり、赤かった。





end.



この後、真が帰ってきて「あぁ飲んでるじゃないっすか!」となる予定。
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