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八雲でパロディ、八雲君の恋人です。

これまた2年ぶりのお話…
晴香が小さくなっちゃう、いわば南君の恋人パロです。懐。

「読みたい!」というお言葉があったのですが、まだ待っていて下さった方がいるか…
不安ですが、信じて上げさせてもらいました。

一応つづきものなので、前回のも読んだ方が分かりやすいかと…
前回のはカテゴリー『パロディ』内にありますので、気が向いたらどうぞ。


八雲/八雲君の恋人(パロ)

僕の恋人、が小さくなって数時間。


今日も変わらずとて、太陽は地平線の街に沈んでゆく。


それを眺めていると今日の出来事など、日常の一つになってしまいそうだけれど。



「きれいだね」



心臓を包む肉と皮。


それをまた包むシャツとポケット。



そこから顔を覗かせた晴香に、八雲は現実を見せられた。



「そう、だな」



日が沈んだら、魔法が解けて元の君に戻らないだろうか。


もしくは長い夢から覚めないだろうか。



切なる願いは叶うことなく。


太陽は僕らの街を去った。






「さぁ!落ち込んでいてもしょうがない!」


暗闇を裂く、小さくとも力強い声。
左胸に与えられた小さな衝撃に八雲が見下ろすと、晴香と目が合った。

「…どうした、突然」

「こうなったら開き直るしかないよね!」

一人納得したように大きく頷き、鼻息を荒くする。

普通の人ならば、突きつけられた現実から立ち直るのに長い時間を有するだろう。

だが、胸ポケットの少女は正面から現実に立ち向かう。

その姿は小さくとも凛々しく見えた。



「…それでこそ、僕が惚れた君だな」

色恋沙汰に関しては素直になれない部分がある。
だから自分の口から出てきた本音に、八雲は驚いた。

「?」

慌てて口を塞ぐが、八雲の呟きは小さな鼓膜には届かなかった様子。
不思議そうに小首を傾げる晴香に、思わず安堵の息を吐いた。

「なんでもない…から、気にするな」

「えー、そう言われちゃうと逆に気になっちゃうよ?」

「いいから、気にするな…っ!」

どこか楽しそうに追求する晴香を無視し、八雲は部屋の中に戻った。
ベランダの鍵を閉めると、迎えてくれたのはいつもの見慣れた部屋だった。


「………」


壁に掛けられたオフホワイトのワンピース。

甘い色のカーディガン。

…アイロンがかけられた僕のシャツ。


またいつもの平凡な、けれど幸せな生活が来るかと思っていたのに。

一夜にして僕らの世界は180度回転した。



「八雲君…?」

「なん、だ」

「どうしたの」

「どうもしていない」

「………」

「………」

「それなら、いいんだけど…」

八雲が見るものたちに、晴香も何かを感じ取ったのか。
先ほどまでとは打って変わり、小さな顔のパーツが全体的に下がる。


「あ…」

守ると言ったくせに何を悲しませているんだ。

八雲は深く息を吸い込み、ポケットの中の住人に声をかけた。


「おい」

「?」

「…風呂の、準備でもするか」

「うんっ!」


こちらを見上げて笑う姿に、少しだけ救われた気がした。






「おっきい…!」


机の上に立った晴香は、透き通るその瞳を輝かせた。

晴香の眼下には大きな五右衛門風呂。
…ならぬ、風呂場の桶樽。

白濁色の張られた湯水が、揺れることなく佇んでいた。


「とりあえず、今日は風呂だけでいいか?」

「うん!」

大きく頷くと、プラスチックの桶の横に立つ晴香。
湯加減を確認するように、静まり返った白海に手を伸ばした。

晴香が手を泳がす度に、水面が波を打つ。

水面を走る波は壁にぶつかりながらも、手元に帰ってくる。


ガラスのように固く見えた水面も、描かれたそれらにより緩やかに歪んだ。

「湯加減もちょうど良いし、入り頃かな」

パッパッと水を払い、八雲が作ってくれたワンピースに手を伸ばす。
肩紐に手をかけてから、晴香は八雲の存在を思い出した。

「え、えっち!」

「なっ…!」

晴香に声を上げられ、八雲は言葉をなくした。

指摘されれば嫌でも意識してしまう。

しかもあんなに小さな身体。
視線を向ければ、彼女の全てが目に入ってきて…

頬が熱くなるのを隠すように、八雲は声を張って言い返した。

「き、君が勝手に脱ぎだしたんだぞ!」

「こういうときは気を使って、静かに去るべきよ!」

「去るって…そんな状態の君を、一人置いていけるわけないだろ!」

八雲の言葉に晴香は目を見開く。
そして心打たれたように鼻をすすった。

「わ、わかったから…あ、あっち向いててっ!」

ゴシゴシと晴香は目をこする。
言うことを聞いてくれたことに安心し、八雲は晴香のいる机に背を向けた。



八雲が背をむけたことを確認すると、晴香は肩からワンピースを落とした。
しゅるりと布地が肌を滑り、机の上に着地。

一枚しか身につけていなかったため、部屋の空気に身体が震えた。

「ふぅ…」


今日は本当にいろいろなことがあった。

この先どんな苦悩が待っているか分からない。

分からないが、今日のところは湯船に浸かって。
今日の疲れを取って。

明日からがんばろうと言うんだ。


「おっふろ、おふろ」

自作の詩に曲をつけて口ずさむ。

詩と言っても“おふろ”の三文字。
明日になったら忘れてしまう、即席のものだけど。


「わぁ…!」

普通の大きさからだと、お風呂場にあるただの桶。

けれどこのサイズとなった今。

晴香の目の前には巨大な温泉ともいえる、大きな湯船であった。

しかも貸し切り。泳いだって怒られない。セレブも驚きだ。



充分に楽しんだところでくしゃみが飛び出し、桶の縁に手をかけた。
足の指先に力を入れ、水面に触れる。
触れたそこから波が立ち、放射状にきれいな丸を描いた。

指先を包む温かさに思わず震え、片足、両足と続けて湯船に入る。



そのときだった。


プラスチックの床がきゅっと音をたて、身体が斜めに傾いた。



あぁ、滑ったんだな。


と冷静に思いながら、身体が水中に沈むまで自身のトラブル体質を罵った。

ばちゃんとありきたりな音とともに沈む身体。
足を着こうにもバランスを崩した脚は、何度も空回り。


川に落とされた過去と重なり、あのときのことが脳裏にフラッシュバック。



あのときは八雲君に助けられた。



そして今回も……





「おい!」


手の中の晴香に声を荒げる。
閉じた瞼がゆっくりと開いたのに安堵し、思わずため息を吐いた。


騒がしい水音がしたと思って、振り返ると晴香が桶の中で溺れていた。

あんな浅い水中で溺れるやつがいるか。
という皮肉は、手の中の小さな身体を見て消えた。

「おい、大丈夫か」

「う、うん…」

噎せながらも返事を返す姿に胸を撫で下ろす。
どうやら大事には至らなかったよう。



けれど、再び目を向けたとき。


ことの重大さに気が付いた。



「っ…!」

「八雲君……いつもいつも、ありがとう…!」

頬を染める八雲をよそに、当人は照れくさそうに感謝の言葉を述べていた。
八雲が目を逸らしていることに、不思議そうに小首を傾げている。

「どうしたの?」

そんな晴香も、顔を覗き込もうとしたとき。

胸に触れた自分以外の体温には身体を硬直させた。



「きっ…」



俯いた瞳が捕らえたのは…



「きゃぁぁあああんむっ!!」


「か、噛むなっ!この馬鹿!」



素肌を包む、八雲の手のひらだった。






「もう最低っ」

「それは僕の台詞だ」

「八雲君には見られるし、お風呂は結局お茶碗だし…」

「………妖怪みたいだな」

「何か言った?」

「いいや、何も」






end.



お茶碗じゃ小さい?
半身浴になっちゃいますかね…?

まぁ、八雲的にはそれはそれで…
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