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八雲で八晴。
ちょっと時期外れかもしれませんが、スキーのお話です。
春スキーってことで…!
八雲/八晴(恋人未満)
ちょっと時期外れかもしれませんが、スキーのお話です。
春スキーってことで…!
八雲/八晴(恋人未満)
太陽サンサン。輝く白銀。
山の斜面を切り開いたこの土地に、降り積もった白い雪。
シーズン真っ盛りのスキー場。
太陽に負けじとそこは、家族連れや友人同士と言った客で大いに賑わっていた。
そんな中を一人。疾走する影────
「やだやだぁ!どうやったら止まるのぉーっ!?」
「っ…!おい!!」
晴香は伸ばした右足を見て、何度目かのため息を吐いた。
暖房がかかった宿泊施設のロビー。
それに対するは、一面張りの窓から見える白銀の世界。
その上を人々は、斜面を利用し華麗に滑り降りる。
太陽が雪に反射しているからか、キラキラと輝く彼らは美しく見えた。
見ている分には簡単そうなスポーツ、スキー。
…少なくとも私はそう思っていた。
けれど現実は厳しく。
晴香は、お約束と言わんばかりに怪我をしてしまったのだ。
止まり方もマスターしないうちに滑ったのが不味かった。
一度滑り出したらそう簡単に止まることなど出来なくて。
何度か転びそうになった挙げ句、山の中腹で止まっていた八雲にぶつかって。
二人揃って崖の下にポーン…だ。
八雲にぶつかったせいか…おかげか。
勢いは落ち、木々が生い茂る谷底に落ちることはなく。
木にぶつかった八雲に覆い被さるようにして止まった。
晴香は伸ばした右足を再び見る。
包帯は何重にも巻かれ、見るだけで痛々しい。
もし八雲があの場にいなかったら、今頃どうなっていたか。
考えるだけでも恐ろしい。
「…でもあのとき」
八雲君が、私の前に…
「おい」
突然声を掛けられ体が跳ねる。
振り返るとそこには眠たそうな顔をした八雲がいた。
「八雲君!」
「そうやってぼーっとしてるから怪我をするんだ」
「うっ…」
でも今回の怪我はぼーっとしてたからじゃない。
言いたかったが、晴香に反論する権利などなく、ただただ縮こまった。
しょげる晴香を見ながら、八雲は缶を突きつける。
ココアと文字がプリントされた缶。
「あ、ありがとう…」
受け取った缶は熱く、両手の間を右へ左へ行き来する。
晴香が受け取ったのを見て、八雲は隣に腰を下ろした。
少しだけ沈むソファーをお尻に感じながら、晴香は恐る恐る口を開けた。
「その……滑ってきたら?」
今回のスキーは後藤家と一緒に来ている。
まぁ、二人きりで来ることなんてあるわけ無いのだけど…
後藤たちはまだ滑っている。
足を怪我した私と比べて、八雲は無傷。
私を置いてスキーを楽しんでくれば良いのに。
返事を待つ晴香の耳に、深く長いため息が聞こえた。
「僕はここにいる」
「で、でも!…私のせいで八雲君が楽しめないのは…」
「勘違いするな」
ごにょごにょとはっきりしない晴香に、ぴしゃりと言う。
「僕は君が心配でここにいるんじゃない。動きたくないからここにいるんだ」
そう言うとプルタブの開いたココアを、喉に流し込んだ。
熱かったのかちょっと顔をしかめたのを、晴香は見逃さなかった。
…嘘でも本当でも、八雲の言葉にはいつも励まされる。
少し元気の出た晴香は、プルタブを開けココアを一口飲んだ。
缶を受け取ったときから知っていた温もりは甘く、体内を満たしていく。
会話が途切れ、ロビーを静寂が包む。
スキーウェアを着た子供たちが目の前を通過したあと。
ぼそりと八雲が呟いた。
「……怪我は大丈夫か?」
八雲が心配をしてくれているのに驚きながらも晴香は頷く。
痛いのを我慢して、足を上下に揺すった。
「うん、軽い捻挫だから安静にしてれば治るって」
「…そうか」
会話が続かない。
…この気まずさには心覚えがある。
今でも思い出すだけで身体が熱くなると言うか。
「ね、ねぇ」
「なん、だ?」
それは、八雲にも心覚えがあるみたい。
視線は手元のココアに。
けれど神経は隣の八雲に。
晴香は恐る恐る尋ねてみた。
「あのとき、止めようとしてくれたの?」
“あのとき”────
止まることが出来なくて、深い谷底に落ちてしまいそうになったとき。
私は、八雲君にぶつかったんじゃない。
八雲君がわざとぶつかってきたのだ。
自惚れ、かもしれないけれど。
確かに八雲は、身を挺して私を守ろうとしてくれた。
「知らない」
きっぱりと否定される。
ちょっと期待でドキドキしていた分、否定されたときの落ち度は大きい。
「そうだよね…」と肩を落とす。
自らの幻想を、喉の渇きとともに流そうとしたとき。
「気付いたら身体が勝手に動いてた。…だからあれは僕の意志じゃない」
八雲ははっきりそう言った。
ココアの缶を親指と人差し指が宙で揺らす。
無音。空になってしまったそれ。
「え…」
「なんだ?」
“僕の意志じゃない”────
その発言で、自らを追い詰めたことに八雲は気付いているのだろうか。
ドキドキ高鳴る鼓動を抑え。
あくまで視線は缶の口に。
切り口を唇で触れながら、晴香は尋ねた。
「無意識に、助けてくれたんだ…?」
「………」
最初は「は?」と言わんばかりに眉を寄せていた八雲。
だが、徐々に理解していったのか眉が離れていき…
「……知らない!」
最後は口をへの字に歪めて、背中を向けてしまった。
「ねっ、ねっ。無意識に助けてくれたの?」
「うるさい。僕に構うな」
「えー、教えてくれたっていいじゃない」
「嫌だ」
逃げる八雲をソファーの端まで追い詰める。
「ね、おしえて八雲君?」
逃げ場の無くなった八雲の腕を掴まえる。
「僕の意志じゃなかったんだっ……僕が知るわけないだろ!」
力任せにに突き放し、八雲は空になった缶を捨てに行ってしまった。
逃げられた晴香は背中を見つめ、静かに息を吐いた。
「ありがとう」
「何か言ったか?」
「ううん、なんでも」
戻ってきた八雲の顔は、まだ少し赤かった。
end.
書いてる途中で思い出しましたが晴香ちゃんは長野生まれ長野育ちの純長野産だった…
きっとスキーうまいよね…失敗した…
山の斜面を切り開いたこの土地に、降り積もった白い雪。
シーズン真っ盛りのスキー場。
太陽に負けじとそこは、家族連れや友人同士と言った客で大いに賑わっていた。
そんな中を一人。疾走する影────
「やだやだぁ!どうやったら止まるのぉーっ!?」
「っ…!おい!!」
晴香は伸ばした右足を見て、何度目かのため息を吐いた。
暖房がかかった宿泊施設のロビー。
それに対するは、一面張りの窓から見える白銀の世界。
その上を人々は、斜面を利用し華麗に滑り降りる。
太陽が雪に反射しているからか、キラキラと輝く彼らは美しく見えた。
見ている分には簡単そうなスポーツ、スキー。
…少なくとも私はそう思っていた。
けれど現実は厳しく。
晴香は、お約束と言わんばかりに怪我をしてしまったのだ。
止まり方もマスターしないうちに滑ったのが不味かった。
一度滑り出したらそう簡単に止まることなど出来なくて。
何度か転びそうになった挙げ句、山の中腹で止まっていた八雲にぶつかって。
二人揃って崖の下にポーン…だ。
八雲にぶつかったせいか…おかげか。
勢いは落ち、木々が生い茂る谷底に落ちることはなく。
木にぶつかった八雲に覆い被さるようにして止まった。
晴香は伸ばした右足を再び見る。
包帯は何重にも巻かれ、見るだけで痛々しい。
もし八雲があの場にいなかったら、今頃どうなっていたか。
考えるだけでも恐ろしい。
「…でもあのとき」
八雲君が、私の前に…
「おい」
突然声を掛けられ体が跳ねる。
振り返るとそこには眠たそうな顔をした八雲がいた。
「八雲君!」
「そうやってぼーっとしてるから怪我をするんだ」
「うっ…」
でも今回の怪我はぼーっとしてたからじゃない。
言いたかったが、晴香に反論する権利などなく、ただただ縮こまった。
しょげる晴香を見ながら、八雲は缶を突きつける。
ココアと文字がプリントされた缶。
「あ、ありがとう…」
受け取った缶は熱く、両手の間を右へ左へ行き来する。
晴香が受け取ったのを見て、八雲は隣に腰を下ろした。
少しだけ沈むソファーをお尻に感じながら、晴香は恐る恐る口を開けた。
「その……滑ってきたら?」
今回のスキーは後藤家と一緒に来ている。
まぁ、二人きりで来ることなんてあるわけ無いのだけど…
後藤たちはまだ滑っている。
足を怪我した私と比べて、八雲は無傷。
私を置いてスキーを楽しんでくれば良いのに。
返事を待つ晴香の耳に、深く長いため息が聞こえた。
「僕はここにいる」
「で、でも!…私のせいで八雲君が楽しめないのは…」
「勘違いするな」
ごにょごにょとはっきりしない晴香に、ぴしゃりと言う。
「僕は君が心配でここにいるんじゃない。動きたくないからここにいるんだ」
そう言うとプルタブの開いたココアを、喉に流し込んだ。
熱かったのかちょっと顔をしかめたのを、晴香は見逃さなかった。
…嘘でも本当でも、八雲の言葉にはいつも励まされる。
少し元気の出た晴香は、プルタブを開けココアを一口飲んだ。
缶を受け取ったときから知っていた温もりは甘く、体内を満たしていく。
会話が途切れ、ロビーを静寂が包む。
スキーウェアを着た子供たちが目の前を通過したあと。
ぼそりと八雲が呟いた。
「……怪我は大丈夫か?」
八雲が心配をしてくれているのに驚きながらも晴香は頷く。
痛いのを我慢して、足を上下に揺すった。
「うん、軽い捻挫だから安静にしてれば治るって」
「…そうか」
会話が続かない。
…この気まずさには心覚えがある。
今でも思い出すだけで身体が熱くなると言うか。
「ね、ねぇ」
「なん、だ?」
それは、八雲にも心覚えがあるみたい。
視線は手元のココアに。
けれど神経は隣の八雲に。
晴香は恐る恐る尋ねてみた。
「あのとき、止めようとしてくれたの?」
“あのとき”────
止まることが出来なくて、深い谷底に落ちてしまいそうになったとき。
私は、八雲君にぶつかったんじゃない。
八雲君がわざとぶつかってきたのだ。
自惚れ、かもしれないけれど。
確かに八雲は、身を挺して私を守ろうとしてくれた。
「知らない」
きっぱりと否定される。
ちょっと期待でドキドキしていた分、否定されたときの落ち度は大きい。
「そうだよね…」と肩を落とす。
自らの幻想を、喉の渇きとともに流そうとしたとき。
「気付いたら身体が勝手に動いてた。…だからあれは僕の意志じゃない」
八雲ははっきりそう言った。
ココアの缶を親指と人差し指が宙で揺らす。
無音。空になってしまったそれ。
「え…」
「なんだ?」
“僕の意志じゃない”────
その発言で、自らを追い詰めたことに八雲は気付いているのだろうか。
ドキドキ高鳴る鼓動を抑え。
あくまで視線は缶の口に。
切り口を唇で触れながら、晴香は尋ねた。
「無意識に、助けてくれたんだ…?」
「………」
最初は「は?」と言わんばかりに眉を寄せていた八雲。
だが、徐々に理解していったのか眉が離れていき…
「……知らない!」
最後は口をへの字に歪めて、背中を向けてしまった。
「ねっ、ねっ。無意識に助けてくれたの?」
「うるさい。僕に構うな」
「えー、教えてくれたっていいじゃない」
「嫌だ」
逃げる八雲をソファーの端まで追い詰める。
「ね、おしえて八雲君?」
逃げ場の無くなった八雲の腕を掴まえる。
「僕の意志じゃなかったんだっ……僕が知るわけないだろ!」
力任せにに突き放し、八雲は空になった缶を捨てに行ってしまった。
逃げられた晴香は背中を見つめ、静かに息を吐いた。
「ありがとう」
「何か言ったか?」
「ううん、なんでも」
戻ってきた八雲の顔は、まだ少し赤かった。
end.
書いてる途中で思い出しましたが晴香ちゃんは長野生まれ長野育ちの純長野産だった…
きっとスキーうまいよね…失敗した…
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