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八雲で八晴。

八晴というより八雲と晴香のお話。
八雲+晴香という書き方でいいのかな?

今年の花粉は鼻にきています。朝田です。
目薬とティッシュはお友達!

八雲/八雲+晴香(恋人未満)

そっと顔を上げ、八雲を盗み見た。


整った横顔。

文字を見下ろす黒と赤の瞳。

細く長い骨張った指が、紙を摘む。

不規則にやってくる紙を捲る音と、時計が刻む時の音。


「………」


晴香は手元の雑誌に視線を戻す。


それは、一度や二度ではない。

映画研究同好会の部室に来てから、何度も何度も繰り返されていた。






「………」

晴香は盗み見ているつもりだが、あの八雲に気付かれない訳がない。

堪えきれなくなった八雲は、溜め息を吐く。
理由も分からず盗み見られて、気分が優れる人などいるだろうか。

切りの良いところで本に栞を挟み、顔を上げた。

「…なんだ?」

「えっ!?」

突然のことに晴香は目を白黒させている。

…コイツは気付かれてないとでも思っていたのだろうか。

逃げるように膝の上に落とされる視線。
お返しと言わんばかりに、八雲はその姿を見つめる。

しばらくすると「あー」だか「うー」だか言いながら、机の上に伏せてしまった。

「で、どうした?」

飽きた、というわけではないが、これ以上見ていても仕方ないと視線を外す。
栞を挟んだページを開き、続きをなぞる。

「どう…って程じゃないんだけど…」

膝の間に手を挟むと、晴香はちらりと顔を上げた。
何事もなかったかのように読書に耽る八雲に、少しだけほっとした。

「……め」

「め?」

八雲は、出てきた一文字の言葉をオウム返しに返す。

「コンタクト、外してるんだなぁって」

「あぁ…」

左目に手をかざす。

普段は黒のコンタクトで隠している赤い瞳。
けれど、今その左目に黒の色は無く、夕焼けのように赤く染まっていた。

「どうしたの?」

「……花粉で目がゴロゴロするんだ」

渋りながらもそう言うと、八雲は目を擦る。
痒かったのか、分かりやすく教えてくれたのかは分からない。
けれど次の瞬間、ハッと目を開きそっぽを向いてしまった。


…どうやら、無意識のうちにやってしまったようだ。

かわいいやつめ。


晴香はニヤニヤと笑いたくなるのを堪え、カバンからポーチを取り出した。

「何をしてる…?」

「八雲君のことだから持ってないだろうと思って」

リップクリームやハンドクリームの中から、小さな小瓶を取り出す。

「よかったら目薬使う?」

親指と人差し指に摘まれたそれを見て、八雲は目を見開いた。
その手があったかというよりも、貸してもらえるというのに驚いているようだった。

「使っていいよ。私、毎年余らせちゃうし」

ボランティアだと思って、ほら。
八雲の手首を引き、手の中に目薬を押し込む。
いつもは自分勝手でわがままなくせに、こんなときばかり遠慮が働いている。

しばらく手と手の攻防戦が続くも、先に引いたのはやはり八雲だった。

「…すまない」

「いえいえ」

目薬のキャップを回し、上を向く。
左目の上に垂直に構えられた透明な容器。

しずく型の液体が、針の穴ほどの口からぷくりと現れる。
ふるふると震えていた水滴は、自らの重さに堪えきれず、重力に身を任せて落ちていった。

「っ……」

だが、目的地に到着することはなかった。

目の下、頬骨に落ちた薬は涙のように肌を滑っていく。
何事もなかったように、猫が顔を洗うかのごとく、シャツの袖で拭う八雲。

「………」

再挑戦するも、震えるその手で目薬を打つことは敵わなかった。






…いったい、何度袖を汚したことか。
作業を続けては失敗をする八雲に、段々と腹が立ってくる。

固いシャツの生地で擦り過ぎた八雲の目の下は、赤く荒れていた。

「もう!」

「?」

「貸して!」

「は?」

声を荒げて立ち上がる晴香に、八雲は眉間に皺を寄せる。
突き出された手と晴香の顔を繰り返し見た。

「…いいからほら、私がしてあげるから」

「………」

「どれだけ無駄にする気よ、私の目薬」

最後の言葉が押しになったのか、渋々と目薬を渡してきた。
晴香が後ろに回ると、八雲は意外にもあっさり上を向く。

支えるように頬に手を置く。

椅子に座っているため、いつもより低い位置にいる八雲。

見慣れないその姿。
普段は見下ろされているのに、今は私が見下ろしている。
微かに感じる優越感に浸りながら、晴香は八雲の顔を覗き込んだ。


日焼けを知らない白い肌。

整った顔のパーツ。

漆黒の前髪の間から覗く黒と赤の瞳は、晴香のことを静かに見つめていた。


「っ……」


それらが晴香の目の下、数十センチのところにある。


思えばこんな近距離でまじまじと見たのは初めてかもしれない。

まっすぐに見たのも、まっすぐに見つめられたのも…



「どうした?」

「な、なんでもない」

やっぱり充血してるなぁ。でもきれいだな。

なんて見惚れていると、急に話しかけられた。
どうやら、長い時間待たせてしまったようだ。
八雲に見つめられると、メデューサに睨まれたように何故か身体が動かなくなる。

早く仕事を終わらせようと、晴香は手早く目薬を打った。






目を瞬かせる八雲の隣で、晴香は目薬のキャップを締めていた。


あぁ、緊張した。

胸に手を当て、深呼吸。
そこで初めて、鼓動が速く脈打っていることに気が付いた。

八雲にバレなかったことにほっとし、再度胸を撫で下ろす。

「おい」

「わっ!」

突然話しかけられ、身体が跳ねる。
振り返ると、潤んだ瞳の八雲がこちらを見上げていた。
スーパークールの目薬は、八雲にとって刺激が強すぎたようだ。


「どうしたんだ?」

「な、何が?」

晴香の問いに、八雲は自らの頬に指を押し付けた。
意外にもやせ細っていない頬は、柔らかそうに沈んだ。

「顔、真っ赤だぞ」

「えっ!?」

とっさに顔を両手で挟む。
頬は、手のひらよりも高い熱を持っていた。

「どうしたんだ?」

「え…えぇーっと…」

「大丈夫なのか?」

「だっ、だだだ大丈夫っ!」

額に伸びる手。晴香は逃げるように後ろに飛び跳ねた。
その姿を見た八雲は肩を竦め、何事もなかったかのように本を開いた。


「…今日の君は、いつにも増して変だな」


「別に…そんなことないわよ」






end.



お互い恋心に気付かない、二人のお話。

たまーに、無性に友達以上恋人未満が書きたくなります。
盛り上がりも特にない、日常的なお話を。


お読み頂きありがとうございました!
もし宜しければ、感想をくださると嬉しいです!
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