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八雲でパロディ、きょうのはるか。
前回の続きです。
八雲/きょうのはるか(32話)
前回の続きです。
八雲/きょうのはるか(32話)
膝小僧に出来たすり傷。
出血はないが、畳の目の形に晴香の膝は赤くなっていた。
「大丈夫か?」
「きゅ」
青いパッケージのクッキーを食べながら、晴香は頷いた。
膝の間に晴香を挟んだ八雲は、そうかとだけ返し頭を撫でる。
額にも同じように畳の目が刻まれていたが、明日になれば消えているだろう。
「ごちとーちゃまでった!」
クッキーを食べ終えた晴香の機嫌は元通りに戻っていた。
目の前に置かれたテレビのことも忘れ、むしろ上機嫌。
お気に入りのタオルと大好きな八雲に囲まれた晴香は、楽しそうというよりは嬉しそう。
電源の落とされた画面には、晴香の顔がぼんやりと映っていた。
「はるか」
名前を呼ぶと、くりくりした瞳がこちらを見上げてきた。
今度は逃げられないように膝を立てて晴香を囲う。
テレビの右下にあるスイッチに手を伸ばし、人差し指にぐっと力を入れた。
一度繋いだからか、先ほどよりも早く画面が鮮明になる。
音に驚いた晴香は、数分前と同じことを繰り返していた。
ただ違うのは八雲にわき腹を掴まれ、足が宙を切っていたというところ。
ジタバタと両足を交互に出す晴香は強く瞼を閉じている。
これでは転ぶわけだ。
ため息を吐いた八雲は、晴香を腕の中に抱きしめた。
「!」
「これは恐いものじゃない」
左腕で晴香を抱えながら右手でテレビを操作する。
晴香がダンボールと見間違えるほど小さなテレビ。
長く使い込まれたあとなのか、聞こえてくる音はモノラルだった。
左手で晴香の背中をトントンと叩き、右手では配線を弄る。
間違っているところは見られない。
電化製品に強いわけではないが、これくらいならば説明書を見ずとも設置出来た。
「壊れてるのか」
「?」
晴香も興味があるらしく、シャツにしがみつきながらテレビの方を向いている。
試しに下に降ろして見ると、一目散にテレビの元に向かった。
晴香の行動に驚きつつも、八雲もテレビの前に腰を降ろす。
デジタル放送未対応のこのテレビ。
画面の右上にはわざわざアナログと表示されてある。
確かに画像は粗いが、今までテレビのない生活を送っていた八雲は気にしていなかった。
むしろ今は、晴香のことが気になっているのが本心である。
「きゅ…」
ブラウン管には、お昼過ぎにピッタリな奥様向けの情報番組が映し出されている。
どうやら豚肉のしょうが焼きを作っているようだ。
小さいながらも、左下に豚肉のしょうがの文字が見えた。
「!」
晴香は竹箒のように尾を逆立て、額に汗を浮かべている。
威嚇をしているのだろうか。
だが、瞳の輝きからして威嚇ではなく興奮であると八雲は悟る。
それからしばらくして。
晴香の尾がゆっさゆっさと左右に揺れだした。
「気に入ったか?」
ちゃぶ台に両手を乗せ、画面を見続ける晴香に話しかける。
こくこくと頷く晴香の目線はテレビ画面から離れない。
「………」
まあいいか、と近場にあったタオルを一枚一枚畳みに掛かった。
「やきゅ」
「どうした?」
それから五分としないうち。晴香がポツリと話しかける。
見ると、晴香は腹に手を当て何かを訴えているようだった。
「どうした」と話しかけようとしたとき、モノラル音声のテレビから聞こえてきたのは美味を称える声。
そして、現実の世界から聞こえた腹の音。
「……今日の夕飯は、しょうが焼きにするか」
立ち上がった八雲はさっそく買い物の支度を始めた。
買い物から帰宅すると、晴香はさっそくテレビに向かって走っていった。
「先に手を洗え」
「きゅ!」
台所のある板の間と畳の部屋を仕切る襖の前で、晴香が華麗にターンを決めた。
手荒い場の前に置かれた椅子によじ登り、石鹸に手を伸ばす。
それを確認した八雲は、自らは軽く手を洗い買ってきたものを冷蔵庫に仕舞いだした。
晴香と買い物に行くと、つい余計なものを買ってしまう。
今日もゼリーなんて買う予定などなかったのに、買い物袋の中にはそれがある。
「やきゅー!」
手を洗い終えた晴香が、背中に突進する。
前のめりに倒れかけ、冷蔵庫に手を突きなんとか堪えた。
「てーび!」
「片付けが終わるまで待ってろ」
「きうー!」
晴香が地団太を踏む。
慣れっこの八雲は無視を決め、冷蔵庫の収納作業を続けた。
「やーきゅ、やきゅもきゅ!」
「………」
「てーび!てーびのひと!」
「………」
「てーびのひと、たちゅてて!」
「は?」
何のことだと振り返る。
晴香は困ったように眉尻を八の字に垂らしていた。
袖を引かれ、着いていくとテレビの前に辿り着いた。
テレビの横に立つ晴香は、奥行きのあるそこに触れる。
「てーびのひと」
「………」
「だいじょーぶ?」
「………」
何となくは想像がついた。
子供の頃は誰でも、現実世界とテレビの中の見分けが付かないもの。
あの頃ヒーローはいると思っていたし、地球は悪の組織に狙われているとも思ってた。
「その中には誰もいない」
「やきゅ…」
「だから、大丈夫だ」
晴香の頭に手を乗せる。
優しくというよりは力強く、頭を撫でた。
初めは不安げだった顔も時間が経つにつれ段々と和らいでいった。
最後にポンポンと叩き、膝の間に晴香を連れてくる。
「テレビの中に人はいない」
「てーび、ひと、ないない!」
「正解」
頭を撫でると尾がパタパタ揺れた。
「だから君が気にする必要はない」
「ん!」
優しいんだな。
姿が姿なだけに、他人と関わらせたことはない。
「今度、誰かに会わせてみるか」
晴香の頭上に顎を置き、ポツリと呟く。
痒いのか痛いのか、気になるのか。
きゅーきゅーと空気の抜けるような鳴き声で、手足をばたつかせた。
もう大丈夫か、と思った八雲はテレビのスイッチを押す。
〈皆さん、こんばんは〉
「こんばんば!!」
晴香の声は、大きくハキハキとした元気な声だった。
テレビがとても好きになった晴香なのでした。
end.
はるかとテレビをもっと関わらせたかった…
出血はないが、畳の目の形に晴香の膝は赤くなっていた。
「大丈夫か?」
「きゅ」
青いパッケージのクッキーを食べながら、晴香は頷いた。
膝の間に晴香を挟んだ八雲は、そうかとだけ返し頭を撫でる。
額にも同じように畳の目が刻まれていたが、明日になれば消えているだろう。
「ごちとーちゃまでった!」
クッキーを食べ終えた晴香の機嫌は元通りに戻っていた。
目の前に置かれたテレビのことも忘れ、むしろ上機嫌。
お気に入りのタオルと大好きな八雲に囲まれた晴香は、楽しそうというよりは嬉しそう。
電源の落とされた画面には、晴香の顔がぼんやりと映っていた。
「はるか」
名前を呼ぶと、くりくりした瞳がこちらを見上げてきた。
今度は逃げられないように膝を立てて晴香を囲う。
テレビの右下にあるスイッチに手を伸ばし、人差し指にぐっと力を入れた。
一度繋いだからか、先ほどよりも早く画面が鮮明になる。
音に驚いた晴香は、数分前と同じことを繰り返していた。
ただ違うのは八雲にわき腹を掴まれ、足が宙を切っていたというところ。
ジタバタと両足を交互に出す晴香は強く瞼を閉じている。
これでは転ぶわけだ。
ため息を吐いた八雲は、晴香を腕の中に抱きしめた。
「!」
「これは恐いものじゃない」
左腕で晴香を抱えながら右手でテレビを操作する。
晴香がダンボールと見間違えるほど小さなテレビ。
長く使い込まれたあとなのか、聞こえてくる音はモノラルだった。
左手で晴香の背中をトントンと叩き、右手では配線を弄る。
間違っているところは見られない。
電化製品に強いわけではないが、これくらいならば説明書を見ずとも設置出来た。
「壊れてるのか」
「?」
晴香も興味があるらしく、シャツにしがみつきながらテレビの方を向いている。
試しに下に降ろして見ると、一目散にテレビの元に向かった。
晴香の行動に驚きつつも、八雲もテレビの前に腰を降ろす。
デジタル放送未対応のこのテレビ。
画面の右上にはわざわざアナログと表示されてある。
確かに画像は粗いが、今までテレビのない生活を送っていた八雲は気にしていなかった。
むしろ今は、晴香のことが気になっているのが本心である。
「きゅ…」
ブラウン管には、お昼過ぎにピッタリな奥様向けの情報番組が映し出されている。
どうやら豚肉のしょうが焼きを作っているようだ。
小さいながらも、左下に豚肉のしょうがの文字が見えた。
「!」
晴香は竹箒のように尾を逆立て、額に汗を浮かべている。
威嚇をしているのだろうか。
だが、瞳の輝きからして威嚇ではなく興奮であると八雲は悟る。
それからしばらくして。
晴香の尾がゆっさゆっさと左右に揺れだした。
「気に入ったか?」
ちゃぶ台に両手を乗せ、画面を見続ける晴香に話しかける。
こくこくと頷く晴香の目線はテレビ画面から離れない。
「………」
まあいいか、と近場にあったタオルを一枚一枚畳みに掛かった。
「やきゅ」
「どうした?」
それから五分としないうち。晴香がポツリと話しかける。
見ると、晴香は腹に手を当て何かを訴えているようだった。
「どうした」と話しかけようとしたとき、モノラル音声のテレビから聞こえてきたのは美味を称える声。
そして、現実の世界から聞こえた腹の音。
「……今日の夕飯は、しょうが焼きにするか」
立ち上がった八雲はさっそく買い物の支度を始めた。
買い物から帰宅すると、晴香はさっそくテレビに向かって走っていった。
「先に手を洗え」
「きゅ!」
台所のある板の間と畳の部屋を仕切る襖の前で、晴香が華麗にターンを決めた。
手荒い場の前に置かれた椅子によじ登り、石鹸に手を伸ばす。
それを確認した八雲は、自らは軽く手を洗い買ってきたものを冷蔵庫に仕舞いだした。
晴香と買い物に行くと、つい余計なものを買ってしまう。
今日もゼリーなんて買う予定などなかったのに、買い物袋の中にはそれがある。
「やきゅー!」
手を洗い終えた晴香が、背中に突進する。
前のめりに倒れかけ、冷蔵庫に手を突きなんとか堪えた。
「てーび!」
「片付けが終わるまで待ってろ」
「きうー!」
晴香が地団太を踏む。
慣れっこの八雲は無視を決め、冷蔵庫の収納作業を続けた。
「やーきゅ、やきゅもきゅ!」
「………」
「てーび!てーびのひと!」
「………」
「てーびのひと、たちゅてて!」
「は?」
何のことだと振り返る。
晴香は困ったように眉尻を八の字に垂らしていた。
袖を引かれ、着いていくとテレビの前に辿り着いた。
テレビの横に立つ晴香は、奥行きのあるそこに触れる。
「てーびのひと」
「………」
「だいじょーぶ?」
「………」
何となくは想像がついた。
子供の頃は誰でも、現実世界とテレビの中の見分けが付かないもの。
あの頃ヒーローはいると思っていたし、地球は悪の組織に狙われているとも思ってた。
「その中には誰もいない」
「やきゅ…」
「だから、大丈夫だ」
晴香の頭に手を乗せる。
優しくというよりは力強く、頭を撫でた。
初めは不安げだった顔も時間が経つにつれ段々と和らいでいった。
最後にポンポンと叩き、膝の間に晴香を連れてくる。
「テレビの中に人はいない」
「てーび、ひと、ないない!」
「正解」
頭を撫でると尾がパタパタ揺れた。
「だから君が気にする必要はない」
「ん!」
優しいんだな。
姿が姿なだけに、他人と関わらせたことはない。
「今度、誰かに会わせてみるか」
晴香の頭上に顎を置き、ポツリと呟く。
痒いのか痛いのか、気になるのか。
きゅーきゅーと空気の抜けるような鳴き声で、手足をばたつかせた。
もう大丈夫か、と思った八雲はテレビのスイッチを押す。
〈皆さん、こんばんは〉
「こんばんば!!」
晴香の声は、大きくハキハキとした元気な声だった。
テレビがとても好きになった晴香なのでした。
end.
はるかとテレビをもっと関わらせたかった…
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