×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
八雲で八晴です。
そういえば八雲は結局扇風機を買ったんですかね?
八雲/八晴(恋人未満)
そういえば八雲は結局扇風機を買ったんですかね?
八雲/八晴(恋人未満)
小沢晴香は容赦なく照りつける日差しにため息を吐いた。
瞼の上に手を置き睨みつける太陽は、7月に入ったばかりだというのにこの強さ。
暑さは、地球は一体どうしてしまったというのか。
…考えていても仕方ない。
肩に掛けた鞄からタオルを取り出し額の汗を拭い取る。
日陰を選んで歩いていても、毛穴から吹き出る汗は止まらない。
「臭わない…よね」
キャミソールから覗く肩口に鼻を寄せ確認。
よし大丈夫、と声を出し、晴香は部室のドアを開けた。
「やあ!」
気持ちだけでも暑さを吹き飛ばそうと、活気良く挨拶をした。
だが、肌を撫で溢れ出る熱気に驚き、思わず後ずさる。
部室の中から湧いてきたのは、言葉にするとおかしいが粘り気のあるようなどろっとした風。
まるで生き物がそこにいるかのような熱気は、外と変わりようがない。
いやむしろ、籠もっていた分、質が悪い。
小虫を払うように手で扇ぎながら、中に進む。
晴香のテンションは、今の数秒で明らかに下降していた。
「やぁ」
「……また君か」
めんどくさそうな声で返ってくる返事。
この部屋の主である斉藤八雲は、今日も今日とて変わらずそこにいた。
「よくこんな場所にいられるわね」
冷房が完備されていない部室棟。
唯一の頼りである扇風機は、数年前から壊れたまま、部屋の隅に放置されていた。
この部屋で現役活動している冷房機器は、扇子だけだった。
「暑いと分かってるなら、来なければ良い」
「ほかに居場所がないの」
その扇子で、第三ボタンまで開けたシャツの中に風を送り込んでいた八雲は、晴香を見上げた。
八雲の視線があまりにも哀れなものを見る眼差しで、晴香は慌てて弁解する。
「ほ、ほら!この時間って自習室いっぱいでしょ!それに図書室じゃ、静かにしてないといけないし」
必死な晴香をよそに、八雲はクッと喉を鳴らした。
「そんなの、僕だって知ってる」
いや、むしろ僕の方が知ってる。
ニヤニヤと焦る晴香を見て笑う八雲に、晴香は怒りがこみ上げてきた。
「もうっ!」
サンダルのヒールで八雲のすねを蹴ってやった。
「暴力は反対だ」
頭上から来る降ってくる言葉から、痛みを堪える様子は見られない。
人のことをまた馬鹿にして……
「………」
晴香はしばらく伏せていることにした。
怒ってるってことを伝えたかったし、八雲に口で勝てないことは知っているから。
でも本当は、暑くてなにも考えたくないというのもあった。
「………」
ため息とともに、髪がふわりと揺れた。
顔を上げると、扇子が目前を過ぎ去るところだつた。
「八雲君…」
「ここで怒られても暑くなるだけだ。わかったら機嫌を直すか出てくか、選ばせてやる」
ニヤリと口の端を上げて怪しく笑う。
「……わ、か、り、ま、し、た!」
八雲の言うことを聞くのは癪に障るが、居場所のない晴香は聞くしかない。
それでいいんだと言う八雲が、意地悪な顔をしてるのは想像がついて、顔を上げることが出来なかった。
うつ伏せたまま、晴香はしばらく扇がれていた。
机の上は意外とつめたくて気持ちがいい。
伸びるふりをして、腹から上の上半身を机の上にくっつけた。
「冷たい…」
なんだかんだ、八雲は優しいのだ。
口は悪いし態度も最低だけど、本当はとっても優しくて他人思いなのだ。
ただそれが相手に伝わるか伝わらないか。
伝えようにも、八雲の瞳を見ただけで逃げてしまう。
八雲の隣は、こんなにも居心地がいいのに。
「なんで分からないのかなぁ…」
「なにがだ?」
「なんでも」
まあでも、だからこそ八雲と二人きりで居られる。
誰にも邪魔されず、他愛のない会話も出来る。
「ふふっ」
「怒ったり笑ったり、訳の分からないことを言ったり。暑さで頭がやられたか?」
「べっつにー」
「…返事になってない」
眉をピクリと揺らした八雲が、何か言いたそうに睨む。
けれども、ため息を吐き目を逸らすだけだった。
起き上がった晴香の顔に、風が当たり頬を撫でていく。
汗ばんだ額に前髪がくっついたが、不思議と不快感は感じられなかった。
扇子で送られる風はどこか優しく、機械の風に慣れた晴香には新鮮である。
目が乾き瞼を閉じ、風を楽しむ。
一扇ぎの風は、少量ながらも涼しく優しかった。
しばらくそのままでいると、前触れもなく風が止む。
瞼を開けて捉えた八雲は横を向き、寝癖だらけの髪を掻き回していた。
「君ってやつは…」
「?」
「いや、なんでもない」
「何よ」
ぱたりと一扇ぎ。八雲の髪がゆらりと揺れた。
「……もう少し、警戒心を持ったらどうだ?」
「警戒心?」
何に、と問うとこれまた髪を掻く。
今度は苛立ちが際立っているようで、ガシガシという音がした。
「これはあくまで生物学上での話だ」
「はぁ」
「…君は女だ」
「何をいまさら」
「だからな…」
「だから?」
「………」
八雲は口達者だというのに、様子がおかしい。
いつもならば八雲の挑発に乗り私が声を荒げている頃であろうに。
どうしたの、と口を開け掛けたとき。
「どうして君はここに来る」
「どうしてって…」
「安心する…から?」
疑問系の返答。
予想通り、なんだそれはと顔をされる。
正直に言うと自分自身でもなんだそれはと言いたかった。
ただ、安心するのだ。八雲といると。
それは他愛のない毎日の付き合いからなのか、今まで守られてきたからなのかは分からない。
でも、あるでしょう?
一緒にいるだけで安心できるってこと。
「そんなものか」
「そんなものよ」
ふんと胸を張る。
そのとき、外から聞こえるチャイムの存在に気が付いた。
「あ!次、講義あるんだった!」
立ち上がり鞄を肩に掛けると、腕時計の文字盤を確認。
今のは終業のチャイムではなく、始業のチャイムだ。
「相変わらず、君はマヌケだな」
「うるさい!」
振り返り様に声を上げてやると、同時に何かが飛んできた。
両手の間で数度行き来した後、ポンと右手に収まる。
「!」
顔を上げると、八雲は涼しげな顔で片手を上げていた。
「いってこい」
「…いってきます!」
晴香は手の中の扇子を握り締めると、走り出した。
end.
夏ですね!
瞼の上に手を置き睨みつける太陽は、7月に入ったばかりだというのにこの強さ。
暑さは、地球は一体どうしてしまったというのか。
…考えていても仕方ない。
肩に掛けた鞄からタオルを取り出し額の汗を拭い取る。
日陰を選んで歩いていても、毛穴から吹き出る汗は止まらない。
「臭わない…よね」
キャミソールから覗く肩口に鼻を寄せ確認。
よし大丈夫、と声を出し、晴香は部室のドアを開けた。
「やあ!」
気持ちだけでも暑さを吹き飛ばそうと、活気良く挨拶をした。
だが、肌を撫で溢れ出る熱気に驚き、思わず後ずさる。
部室の中から湧いてきたのは、言葉にするとおかしいが粘り気のあるようなどろっとした風。
まるで生き物がそこにいるかのような熱気は、外と変わりようがない。
いやむしろ、籠もっていた分、質が悪い。
小虫を払うように手で扇ぎながら、中に進む。
晴香のテンションは、今の数秒で明らかに下降していた。
「やぁ」
「……また君か」
めんどくさそうな声で返ってくる返事。
この部屋の主である斉藤八雲は、今日も今日とて変わらずそこにいた。
「よくこんな場所にいられるわね」
冷房が完備されていない部室棟。
唯一の頼りである扇風機は、数年前から壊れたまま、部屋の隅に放置されていた。
この部屋で現役活動している冷房機器は、扇子だけだった。
「暑いと分かってるなら、来なければ良い」
「ほかに居場所がないの」
その扇子で、第三ボタンまで開けたシャツの中に風を送り込んでいた八雲は、晴香を見上げた。
八雲の視線があまりにも哀れなものを見る眼差しで、晴香は慌てて弁解する。
「ほ、ほら!この時間って自習室いっぱいでしょ!それに図書室じゃ、静かにしてないといけないし」
必死な晴香をよそに、八雲はクッと喉を鳴らした。
「そんなの、僕だって知ってる」
いや、むしろ僕の方が知ってる。
ニヤニヤと焦る晴香を見て笑う八雲に、晴香は怒りがこみ上げてきた。
「もうっ!」
サンダルのヒールで八雲のすねを蹴ってやった。
「暴力は反対だ」
頭上から来る降ってくる言葉から、痛みを堪える様子は見られない。
人のことをまた馬鹿にして……
「………」
晴香はしばらく伏せていることにした。
怒ってるってことを伝えたかったし、八雲に口で勝てないことは知っているから。
でも本当は、暑くてなにも考えたくないというのもあった。
「………」
ため息とともに、髪がふわりと揺れた。
顔を上げると、扇子が目前を過ぎ去るところだつた。
「八雲君…」
「ここで怒られても暑くなるだけだ。わかったら機嫌を直すか出てくか、選ばせてやる」
ニヤリと口の端を上げて怪しく笑う。
「……わ、か、り、ま、し、た!」
八雲の言うことを聞くのは癪に障るが、居場所のない晴香は聞くしかない。
それでいいんだと言う八雲が、意地悪な顔をしてるのは想像がついて、顔を上げることが出来なかった。
うつ伏せたまま、晴香はしばらく扇がれていた。
机の上は意外とつめたくて気持ちがいい。
伸びるふりをして、腹から上の上半身を机の上にくっつけた。
「冷たい…」
なんだかんだ、八雲は優しいのだ。
口は悪いし態度も最低だけど、本当はとっても優しくて他人思いなのだ。
ただそれが相手に伝わるか伝わらないか。
伝えようにも、八雲の瞳を見ただけで逃げてしまう。
八雲の隣は、こんなにも居心地がいいのに。
「なんで分からないのかなぁ…」
「なにがだ?」
「なんでも」
まあでも、だからこそ八雲と二人きりで居られる。
誰にも邪魔されず、他愛のない会話も出来る。
「ふふっ」
「怒ったり笑ったり、訳の分からないことを言ったり。暑さで頭がやられたか?」
「べっつにー」
「…返事になってない」
眉をピクリと揺らした八雲が、何か言いたそうに睨む。
けれども、ため息を吐き目を逸らすだけだった。
起き上がった晴香の顔に、風が当たり頬を撫でていく。
汗ばんだ額に前髪がくっついたが、不思議と不快感は感じられなかった。
扇子で送られる風はどこか優しく、機械の風に慣れた晴香には新鮮である。
目が乾き瞼を閉じ、風を楽しむ。
一扇ぎの風は、少量ながらも涼しく優しかった。
しばらくそのままでいると、前触れもなく風が止む。
瞼を開けて捉えた八雲は横を向き、寝癖だらけの髪を掻き回していた。
「君ってやつは…」
「?」
「いや、なんでもない」
「何よ」
ぱたりと一扇ぎ。八雲の髪がゆらりと揺れた。
「……もう少し、警戒心を持ったらどうだ?」
「警戒心?」
何に、と問うとこれまた髪を掻く。
今度は苛立ちが際立っているようで、ガシガシという音がした。
「これはあくまで生物学上での話だ」
「はぁ」
「…君は女だ」
「何をいまさら」
「だからな…」
「だから?」
「………」
八雲は口達者だというのに、様子がおかしい。
いつもならば八雲の挑発に乗り私が声を荒げている頃であろうに。
どうしたの、と口を開け掛けたとき。
「どうして君はここに来る」
「どうしてって…」
「安心する…から?」
疑問系の返答。
予想通り、なんだそれはと顔をされる。
正直に言うと自分自身でもなんだそれはと言いたかった。
ただ、安心するのだ。八雲といると。
それは他愛のない毎日の付き合いからなのか、今まで守られてきたからなのかは分からない。
でも、あるでしょう?
一緒にいるだけで安心できるってこと。
「そんなものか」
「そんなものよ」
ふんと胸を張る。
そのとき、外から聞こえるチャイムの存在に気が付いた。
「あ!次、講義あるんだった!」
立ち上がり鞄を肩に掛けると、腕時計の文字盤を確認。
今のは終業のチャイムではなく、始業のチャイムだ。
「相変わらず、君はマヌケだな」
「うるさい!」
振り返り様に声を上げてやると、同時に何かが飛んできた。
両手の間で数度行き来した後、ポンと右手に収まる。
「!」
顔を上げると、八雲は涼しげな顔で片手を上げていた。
「いってこい」
「…いってきます!」
晴香は手の中の扇子を握り締めると、走り出した。
end.
夏ですね!
PR
この記事にコメントする