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八雲で八晴です。

八雲は料理が出来るのか、出来ないのか気になるところです。
部室でのご飯ってどうしてるんでしょうね?コンビニオンリー?

八雲/八晴(新婚設定)

「本当に大丈夫?」

ドアノブに置かれた手は、数分前から離れない。
普段より化粧がされた顔は、どこか心配そう。

「大丈夫だ」

「……やっぱり、行くのやめる」

「僕は子供じゃない。留守番くらい、一人で出来る」

「それは分かってるけど…」

「だったら僕を信じろ。…だから、安心して行ってこい」

「…うん」

最後まで晴香の表情が優れることはなかった。
けれど八雲はほっと息を吐き、安堵の表情で玄関の鍵を閉めた。



晴香は、高校の同窓会に参加しに出掛けた。
地元が長野であるため、同窓会もそっちの方であるようで、帰ってくるのは明日。

何がそんなに心配なのか分からないが、最後の最後まで渋り、先ほどやっと出掛けていった。

確かに離れるのは寂しいが、1日くらいどうってことないと言うのに。

「本当にあいつは寂しいがりやだな」

くすりと笑った八雲は、二度寝をしようと寝室に向かった。



次に起きたのは昼過ぎだった。
いつもならば午前中に起きる、というか晴香に起こされ、昼飯を食べている頃。

「寝すぎたな…」

広く開いたダブルベッドから起きあがり、上半身裸のまま台所に向かう。
空腹から冷蔵庫に目を向けると、スーパーの広告の上に紙が貼ってあるのに気が付いた。

『朝ごはんは冷蔵庫に入ってます。』

マジックペンで書かれた晴香の字。

書かれた言葉に疑いもかけず、冷蔵庫を開ける。
深めの皿には、昨晩の夕食の残りであるカレーが入っていた。

「あいつは朝っぱらからカレーを食べさせる気だったのか」

クッと喉で笑い、カレーと一緒に皿の下に置かれた紙を取り見る。

『八雲君のことだからお昼かもしれないけど。』

「………」

そして、書かれていた言葉に、今度は自身に苦笑した。

『昨日の残りでごめんね。レンジでチンして食べてください。』

「……何でもお見通し、か」

どちらかと言えば、僕は感情や表情を表に出さない、ポーカーフェイスな人間だと思っていた。
でも、どうやらそれは勘違いだったようだ。

「あいつにだけは通じない」

チン、と音が鳴る。
レンジからカレーとご飯を取り押し、席に着く。

「いただきます」

いつもなら向かいの席から「どうぞ召し上がれ」と声が聞こえる。
たった一言だというのに、それがあるとないとでこんなにも差があるものなのか。

独り言を口にしてしまったからか、返事がなかったからかは分からない。
だが、心にぽっかりと穴が空いてしまったかのような孤独感が胸一杯に溢れた。

食べ始めて、飲み物を準備していないことに気付き、再び冷蔵庫に向かった。



食事を終えた八雲は、食器洗いをしていた。

いつもは二人でしている作業。
一人が食器を洗って、もう一人が食器を拭く。
その最中に成される他愛のない話は、くだらなくも八雲は好きだった。

そういえば先日、カレーを作れないことを笑われたっけ。
昨日の夕飯がカレーだったのは、それが理由。
作り方を教わりながら手伝ったが、思い出せるのは最初の一過程だった。

「夕飯でも作って驚かしてやろう」

皿を拭き終えたタオルで手を拭き、冷蔵庫の中を探る。
準備がいいのか、無駄な買い物が多いのか。冷蔵庫の中は様々な食材で溢れている。

冷蔵庫を野菜室から冷凍庫まで探った結果。時間もあることだし、ドリアを作ることにした。
とりあえず、ミートソースを作ろう。

「…大きめの鍋はっと」


夕飯を作るには早いが、ミートソースは煮込んだ方がおいしいという噂だし良いだろう。
コンロの傍に並べられた調理器具の中から一番大きな鍋を取り出す。

「………」

さあ、さっそく作ろうか。

けれど八雲の顔は浮かない。
材料は分かっていても、作り方が分からなかった。

後ろめたさを感じながらも、八雲はパソコンを付け作り方を検索した。



苦労しながらも、ミートソースを作ることは出来た。
見た目は晴香が作ってくれるそれと同じ。
けれど、流し場に溢れる洗い物の数は尋常ではない多さだった。

ふと窓の外を見ると、いつの間にか夕方を回っていた。

次は、とプリントアウトしたレシピを見る。ホワイトソースと書いてある。

「また鍋か」

コンロの傍に並べられた調理器具を見るが、そこに大きな鍋はない。
あったのは一人前の即席ラーメンを茹でるのに丁度良い小さな鍋。
レシピに書かれた分量を調べるが、この鍋では小さすぎる。

そういえば、ここにはよく使う調理器具しか置かれていないんだった。

「確か…」

戸棚に仕舞われていたはず。
八雲はよく使う戸棚から、あまり開けることのない戸棚まで順に開けていく。
けれど、大きな鍋が見つかることはなかった。

「…どこに何があるか分からない」

少し動いただけでこの汗の量。
八雲はフローリングの上に寝転がった。

家事はしているつもりだった。
自分のことは…自分の家のことは、ちゃんと管理しているつもりだった。

「あいつに…頼りっきりだったんだな」

鍋一つ見つけられないだなんて。

「いつから、人に頼るようになったんだろう…」

瞳の上に腕を置くと、八雲は静かに瞼を閉じた。

どれだけの時間そうしていたか。
どこからか、物音が聞こえたような気がする。

「………」

窓の外に目を向け時間を確認するが、晴香が帰ってくるにしては早い。
広告か、高熱費の知らせだろう。

ごろりと横を向く。彼女が選んでくれたエプロンの紐が解けてしまった。
背中に手を伸ばしかけたところで、顔に影が掛かった。

「やーくもくん」

「!」

思わず声が出そうになる。
何故ならば、そこには晴香がいたから。

驚きを隠せない八雲に、晴香は苦笑を浮かべた。

「八雲君が心配で帰ってきちゃった」

そこで何してるの?と問いかけられた八雲は口ごもる。
晴香が台所に向かったのを見て、慌てて起き上がった。

「ミートソース?」

レシピだけでも隠そうとしたが、それも敵わない。

「ドリア食べたかったの?」

だったら作ってあげたのに。
本当のことを話すのも気が引けて、というより性に合わなくて。
何も言えずに俯いていると、突然後ろに引っ張られた。

「?」

振り返った先には、晴香がエプロンの紐を結び直してくれていた。
大きな瞳と視線が合う。ニコリと目を細めて晴香が笑った。

「一緒に作ろう?」

「………」

その目は何もかも見透かされているようで。

八雲は小さく頷いた。






end.



八雲は家事が出来ない人間な気がします。
というよりしたがらない人。
でも晴香がいると、進んで手伝うという。
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