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八雲で八晴!

夏休みも今日でおしまいですね!
今年はあまり夏っぽいお話を書けなかったので、夏の最後に夏らしいものを!
もう何年と海に行っていませんが、海に行った二人のお話です。

八雲/八晴(恋人設定)

夏の終わりに、彼を連れて海に来た。

今年の夏は忙しく、思い出も何もなく終わろうとしていた夏休み終了七日前。
ちょっとした思い付きで八雲を海に誘った。

八雲のことだろうから面倒くさがって断ると思っていたから、その時は深く考えていなかった。
けれど返ってきた返事はイエスで。

そのあとのスケジュールは嘘のように早く決まり。
今、こうして海に浮かんでいるのであった。



「ふきゃ」

「もっとかわいい声は出せないのか」

顔に降り掛かった水滴を両手で払っていると、眠たそうな声。
声のした方に顔を向ければ、そこには当たり前だが八雲がいた。

何をするのよと晴香は睨む。
聞こえてくるのは、泡を立てる波の音と、同じように海水浴に来た人たちの声。
何がどうしてかは分からないけれど「きゃっ」と滅多に鳴かない小動物のような声が上がった。

「…可愛くなくて悪かったわね!」

海面に乗り出した足で水面を叩きつける。
飛び跳ねた水飛沫で攻撃しようとするも、いつの間にか潜り込んだ八雲には当たらない。

逆に海中から浮き輪をひっくり返されてしまった。
浮き輪の中央に腰を乗せていた晴香は、見るも無惨な姿で海に投げ出された。

「もっ…ばかぁ!」

海から顔を出して早々に、晴香は八雲の胸板をぽかぽかと叩く。

「溺れたらどうするのよ!」

幸いなことにも足が着く深さであり、溺れることはなかった。
山育ちのためあまり深いところで泳いだことはなく、泳ぎに自信はない。
もし沖に出ていたらどうなっていたことか。
考えただけでも背筋がぞっとする。

「そのときは僕が助ける」

「………」

まあ、そうなるのだろう。

文句を言おうにもこれ以上の言葉が見つからない。
思いを寄せる人に「僕が助ける」なんて言われてしまったら、もう何も返せない。

気まずくなった晴香は、浮き輪の輪に入り、口元まで海に浸かった。
ほんの少しだけ入り込んできた海水は、とてもしょっぱかった。

「なら、泳げない君でも安全なあそこに行くか?」

やれやれと肩をすくめた八雲は指を指す。
その先を目で追うと、そこには岩場があった。
陸地から少し離れたところにあり、泳いでいかないと行けない場所だ。

「………」

「安心しろ。僕が連れてってやる」

そう言うと晴香の返事も待たず、浮き輪に付いた紐を片手に泳ぎだす。

まるで、子供扱いされているよう。
視界の隅に同じことをしている親子を見つけ、晴香は八雲の手を叩いた。

「ひ、一人で泳げるから!」

浮き輪を腕で抱えながら、ばた足で海を進む。
浮き輪を使って泳ぐことに慣れないからか、思うように進まない。
隣で、それに合わせて泳いでくれる八雲の優しさが今は小癪に障った。



岩場に着くと、海では感じなかった重力に、疲れがどっと現れた。
それでも未開の地に上陸したというはずむ感情が上回り、すぐに忘れてしまった。

海岸に面していない岩場とあってか、そこに人の気配はない。
落ちている花火のゴミや空き缶が、未開の地ではないことを教えてくれた。

「こっちに洞穴があるぞ」

岩の間に逃げてしまったカニを追いかけていると、八雲が声を掛けてきた。
顔を上げると、少し岩場を上がったところにぽっかりと穴が開いている。
入り口で八雲が手を振っていたから、すぐに見つけられた。
岩場特有のぬるつきに気を付けながらも、洞穴に辿り着く。

わくわくと鼓動が高まらせながら洞穴を覗く。
そこはあまり深くはなく、探索せずとも終わりが見えてしまっていた。

「なーんだ」

「君は何を期待してたんだ」

「……こう、海賊の宝とか?」

現実を突きつけるように転がった空き缶を、裸足の足で蹴飛ばした。
八雲は「君ってやつは」と言いながら、小さく笑った。

「そろそろ帰るか」

「そうだね」

洞穴の縁に立った八雲がなぜか足を止める。
隣に立ち、その理由が晴香にも分かった。

「雨…」

空からは叩き付けるような大粒の雨が、海に岩肌に降り注いでいた。
波の音に混じり、ザーザーと切れることのない水面を叩く音。

岸から離れたこの岩場。
晴香の胸に不安が広がる。

「大丈夫だ」

心を読まれたかのような言葉に、晴香は思わず振り返る。

「向こうの空は晴れている。通り雨だろう」

今の「大丈夫」は天気に対しての「大丈夫」だったのか。
八雲に気付かれないように、肩を落とす。
明るい東側の空を見つめながら、晴香は「そうだね」とだけ返した。

「ここは濡れる。奥に行こう」

八雲を追いかけようとしたそのとき。

「きゃっ!」

濡れた岩の上はよく滑る。
足元からバランスを崩した晴香は、背中から倒れそうになった。

「…!」

襲ってくるであろう痛みに、ぎゅっと強く瞼を閉じる。
だが、待てども待てども痛みは襲っては来ない。
むしろ痛さとは逆。

暖かくて柔らかい。

そう、それはまるで包まれているような。



「君ってやつは…」

「!?」

耳を撫でる生暖かい風と、すぐそばで聞こえる声に晴香は目を見開いた。
そして、目前にある陶磁器のように白い壁に体が硬直する。


明るい場所で見る相手の身体。
普段からあまり露出度の高いものを着ない八雲の、滅多に見れないところ。
それはなんだか神秘的で、目を逸らせない。

八雲が私の身体を見たいわけが、少しだけ分かった気がする。

露出した肌と肌とがぺたぺたとくっついたが、自然と不快には思わなかった。
むしろ、それはとても気持ちが────


「おい」

いつまで経っても動かない晴香に、流石の八雲も心配になり顔を覗き込む。
赤いであろう顔を見られたくない晴香は、見られまいと俯く。
けれど、顎に指を掛けられて、強制的に目を合わせられてしまう。
晴香の顔を見た八雲は、驚いたように目を見開き、それからニヤリと怪しく笑った。

「顔……真っ赤」

「言わないで!」

隠したいのは山々。でも、そうさせてくれないのは八雲だ。
八雲を叩こうと上げた手も、空いた手に捕まえられた。

「隠すな」

命令なんて聞かなければ良いのに、無視することが出来ない。
顎に指を掛けられ、見つめられ。
八雲の瞳から視線を逸らすことが動けない。

近付いてくる顔に瞼が自然と降りる。
唇に吐息が触れ、躊躇うように時間が経過してから柔らかいものが重なった。

呼吸をするために離れては、再び重なる。

数えることすら面倒くさくなった晴香は考えるのを止め、成るがままに身を任せた。

それからどれだけ唇を合わせたか。
唇に、今までとは違う湿ったものが触れ、唇を割ってそれが侵入してきた。

先ほどとは違い、呼吸の隙がない。それほどまでに長く続いた熱いキス。
けれど所詮は人間。流石に苦しくなった晴香は、八雲の舌を噛みつくように挟む。

「ダメ、だよ…」

すんなりと離れてくれた八雲に感謝をしつつ、酸素の回らない頭を必死に働かせる。
けれど、熱の籠もったような瞳で見つめられては、頭が動かない。

「どうして?」

「こんな場所で…人、きちゃう」

言い切る前に、再び重なる唇。
けれど、今度は触れるだけの優しいものだった。

物足りない。そう思ってしまったことに晴香は赤い顔をさらに赤く染めた。
その熱の籠もった頬を、八雲は確かめるようになぞる。


「大丈夫。雨がやむまで、だれもこない」



そう言うと、八雲はまたキスをした。

触れるだけではない、熱いキスを。






end.



夏の最後にお祭りわっしょい!
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