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八雲で晴香幼獣パロ、きょうのはるかです。

まさかの台風のお話です。
いや…こんなどんぴしゃな話になるとは思いませんでした…
そろそろ台風の季節だなぁ、とのんきに書いていた数週間前の朝田を殴りたい。

八雲/きょうのはるか(幼獣パロディ)

コインランドリーから帰ってきた八雲の髪は、都会の烏が住むことを拒否するほど乱れていた。


お世辞にも癖毛とは言い切れない域に達していたが、気にはならなかった。
今時の若者と呼ばれる種とは、かけ離れた生活を送っているため、容姿など飲料水のオマケでしかない。
東の誰かがそれを基準に水を買っても、西の誰かは気にも止めずにジュースを買う。
僕の場合は後者である。

指を指して笑われても、盗み見られて陰口を叩いても、それは個人の主観でしかないのだ。


他人に期待することを捨て、開き直る方が楽だということに気付いた僕は、他人からまた逃げた。



「きゃう〜っ!」


誰に語るでもない雑話にピリオドを打ったのは、普段は鳴かないげっ歯類の、悲鳴のような声だった。
振り返ると、錆びついた外廊下で、お化けのように髪を乱す晴香がいた。

台風なんじゃら号が接近しているらしく、昨日から風が酷い。
強風は、木の葉だけでなく、枝やら缶やらゴミやらを巻き上げては宙を舞っていた。

ぎゅうと力強く目を瞑り、小さな歯が並ぶ口を開けてはしゃぐ晴香。
風に煽られ、頭の上に付いたカステラのような耳と尾がばさばさと揺れる。
それは喜びからなのか、風のせいなのか。八雲は理解したくなかった。

ドアを開けてそのままだったため、落ち葉が部屋の中まで散乱する。

「早く中に入れ」

「えー」

「言うこと聞かないなら、ずっと外にいれば良い」

八雲がドアノブから手を離したのを見て、晴香は慌てて駆けだした。
戸の隙間から体を滑り込ませた晴香に、閉まらないようにと押さえていた足を離した。

手を洗い、洗濯してきた衣類を干そうと窓際に向かう。
そう広くない部屋。まともに使える窓といえば、ベッドが置かれた面のここだけ。

ベッドに腰掛けた八雲は窓を開ける。
築うん十年らしいこのアパートの窓は、とても開けにくい。
なんとかして窓を開けた八雲の顔を、早速風が直撃した。

「きゃふー!」

いつの間にか隣にいた晴香は、子犬のようにはしゃぐ。
ああ、こいつは犬なのかな。
そんなことを思いながら、ハンガーや洗濯バサミを使い衣類を干していく。

最初は吹き付ける風にはしゃいでいた晴香だが、ゆっくりと尾が垂れていった。

「どうした」

訪ねてみると、晴香は元気のない腕を上げ、窓の外を指した。
窓の外は相変わらず、びゅんびゅんと風が吹き荒れる。

「たおりゅ…」

それから、風呂桶の中に山積みになった洗濯物を見て呟く。

洗濯物の中には晴香お気に入りのタオル。
名前が書いてあるわけでもないのに、晴香にはこれがお気に入りのタオルであると分かっていた。

タオルと八雲の顔を、上京する息子を見送る母親のような瞳で見つめる。

「飛ばされないから安心しろ」

「きゅうん……」

「僕が嘘を吐いたことはあるか?」

「きゅ、きゅ……きゅ」

丸々した指を折り、数え始めたものだから、隠滅するようにその手を手で包んだ。

「とにかく、僕が言うからには大丈夫だ」

「やきゅ…!」

パタパタと小刻みに尾を振る晴香。
胸に抱えたタオルを「はいどーぞ」と言わんばかりの笑顔で八雲に渡す。

タオルをピンと張り皺を無くしてから、一番端の洗濯バサミで摘んだ。
残った靴下や下着を隣に干し終えた八雲は、達成感にそれらを眺め悦に入る。
そんな八雲の姿を見た晴香も、嬉しそうにぷきゅぷきゅと笑った。


すんと鼻を動かすまでは……

途端に晴香は八雲の背中に隠れ、きうきう鳴き始める。
どうしたんだ、と聞くよりも先に水滴が頬を濡らす。

それから窓の外を見て、雨が降り出したことを知った。

「雨…」

痛いほど、背中に抱きつかれ、顔を押しつけられる。
突然降り出した雨に、晴香は雨の中の子犬のように怯えていた。

「……洗濯物」

今すぐ晴香を抱き締めたいのは山々だが、洗濯物も大切。
目の前に吊らされた洗濯物に手を伸ばした刹那。

びゅんと、風速かんじゃらメートルの風が、ボロアパート二階端の窓際をピンポイントで襲った。
その強さに思わず目を瞑り、どうにか開いたそのとき。
風が、妖怪のように白くぼろぼろの布を連れて去っていった。

「あー!!」

途端に背後から響く、純粋な「あ」の叫び声。
振り返ると晴香が大きな口を金魚のように開いたまま、固まっていた。

「はりゅの、たおりゅ」

理由を聞くより先に、口からこぼれた言葉。八雲は思わず息をのんだ。


晴香があのタオルを大切にしていることは充分に知っている。

出かけるときも、寝ているときも、風呂に入るときだって一緒。
下手したら僕よりも長く一緒にいるかもしれない。

そんな大事な大事なタオルが、目の前でいなくなった。
その悲しみは、僕だってわかる。

「…おい」

恐る恐る訪ねると、現実に戻った晴香の瞳がうるうると水気を帯びてきた。

「待て!泣くんじゃない」

ビー玉のように輝く晴香の瞳から、これまたビー玉のような丸い涙がこぼれる寸前。
八雲は犬にするそれのように、制止を命じた。

口を噤み、堪える晴香。
ただし瞳のダムは崩壊寸前。
目の縁に溜まった涙は、今にも零れ落ちそうである。

「僕が見つけてくるから、泣くんじゃない」

零れるよりも前にシャツの袖で涙を拭い取り、押し入れへ向かう。
先日、使用したばかりのレインコートが段ボール箱の上に畳まれていた。
使って間もないため、まだ浅い場所にあった。

袖に腕を通しながら、近所の地図を頭の中に描いていく。

あるとき、誰かのために一生懸命になる自分に気付き、手が止まった。



「やきゅもきゅん」

鳥が啄むように小さく引っ張られるレインコート。
見下ろす先には、晴香が口を一文字にして立っていた。

「はりゅも……わたちも、いく!」

「!」

「はりゅの、たおりゅ、だもん!」

だんだんと右足は大きく床を蹴る。

「やきゅがくれた、だいじだいじ、なの!」

最後には力任せにレインコートを引っ張られ、八雲は頭を縦に降るしかなかった。

「それはわかったが…雨だぞ?」

晴香は過去のトラウマから雨がきらいだった。
雨の日は朝からそわそわと落ち着きがなく、ぴたりとくっついて傍から離れようとしない。

窓際に近付くこともなければ、雨の日に外に出ることなどそれこそなかった。

「がんば、りゅ!」

ふんと鼻息を荒げ、一文字に結んだ口をへびが身を捩らせるように、への字に力強く歪めたのだった。

「……君は本当にわがままだな」

“わがまま”という悪口に、晴香はきゃんきゃん吠える。

「タオルなんて、別に何でも良いだろう」

「めっ!なの!…たおりゅ、あれ!」

「だから君はわがままなんだ」

「やーや!やきゅの、だいじだいじ…たおりゅ」

ぽかぽかと足を叩きながら、目に玉のような涙を浮かべる。
痛くも痒くもないそれは、むしろくすぐったくて、八雲は思わず笑みをこぼした。

「でも、何かを一途に思う君は好きだ」

「?」

悪口を言われたあと、何故か優しく笑った八雲。
晴香の頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。

「行くぞ」

魂を抜かれたように呆ける晴香を抱き上げ、八雲はレインコートの中にその体を入れ込む。
それからボタンを閉じ、中で暴れる晴香の顔が見えるよう、第二ボタンまで開けた。

「きゅ?」

レインコートの上からしかと抱きしめられた晴香は、状況についていけずといった様子。

「さあ、行くか」






見上げた八雲の顔が、いつもの何千倍も頼りがたく見えたはるかちゃんなのでした。






end.



中途半端なとこですが、つづきます!
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