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八雲で、きょうのはるかです。
先週の台風が嘘のように晴れておりますね。
前回のつづきですので、そちらも合わせてどうぞ!
八雲/きょうのはるか(34話)
先週の台風が嘘のように晴れておりますね。
前回のつづきですので、そちらも合わせてどうぞ!
八雲/きょうのはるか(34話)
ぱらぱらと降り始めた雨は、時間が経過するにつれて強くなる。
だが、雨よりも強い風により発生した横殴りの雨が二人を襲った。
傘にレインコートという万全の装備で住宅街を、八雲は駆け巡る。
雨が降り出す前からびゅんびゅん音を立てていた風が、四方から代わる代わる吹き付ける。
それに紛れて叩く雨に、腕の中の晴香が飛び跳ねたのは言うまでもない。
ビー玉のように大きな目をさらに見開せ、雨風吹き荒れる外の様子を、レインコートの中から伺っている。
当初は顔を出し意気込んでいたが、その身はすっかり縮んでいた。
ずり落ちそうになる晴香を抱え直し、八雲はまた走る。
東に向かっては水浸しの道路を避け、西に向かっては風に飛ばされ東に戻る。
その間もタオルを探すが、どこにもなかった。
ジーンズの裾が、どんどん黒く染まっていく。
竿だけが吊されたベランダ。勢いの増した用水路。揺れる木々の上。
障害物は多々ある。そんな遠くに行っていないはず。
台風が全てを持っていってしまう前に見つけ出さなくては。
そんな八雲の前に公園が現れた。
二階建て、もしくはそれ以上の建物ばかり見てきたからか。
避けられたように建物がないその場所に、思わず足が止まる。
晴れた日ならば子供が賑わっているのであろう。
しかし台風が街に近付いてきた今。
公園はがらんどうとしていて、遊具だけが離れ小島のようにぽつぽつと広い敷地の中に点在しているだけだった。
その光景は気味が悪い。
しかし、何か惹きつけられるものも感じる。
人より過敏な第六感が働いているのか、ざわざわと背中を逆撫でられるような悪寒。
思わず息をのむ。
けれどそのとき、頬がぺちんと音を立てた。
「いたいいたい?」
それからぺちぺちぺちぺちと、頬と手のひらの間で音が鳴り続いた。
叩かれているのに痛いとは思わない。むしろくすぐったい。
くすぐったいと言うのは、滅多に触れられず、敏感だからだと以前誰かに聞いた。
微かながらに感じた幸福感に、八雲は慌てて首を振る。
「…叩くな」
「きゅっ!」
晴香のおでこをピンと弾き返し、八雲は公園の中に入る。
あまり感情を出さないようにしてきたが、まさかこんな小さい奴に気付かれるとは。
我ながらなんという不覚。
口を餃子のようにぎゅっと閉じ、タオルが引っかかってそうな場所をくまなく探した。
晴香は入ったことのない公園に、レインコートの中から目だけ覗かせ輝かせていた。
「あった」
大きな何かの木の下で、八雲は空に広がる枝を見上げている。
公園に入ってすぐのところに立つ、樹齢何十年であろう大木。
何十、いや何百とある枝のうちの一本に、白い布切れが引っかかり、風が吹く度にゆらゆら揺れている。
しかし、あれが本当に晴香のタオルとは限らない。
こんなにも強い風だ。もしかしたら同じように飛ばされている洗濯物があっても…
「はりゅの!」
と思ったが、どうやら晴香のタオルらしい。
狭いレインコートの中、千切れんばかりに尾を振り、雨に濡れることも恐れず身を乗り出す。
「わかったから、落ち着け」
ふんふん鼻息を荒立てる晴香を宥め、再びタオルを見上げる。
幸い、タオルは低い位置に引っかかっている。
しかし手を伸ばしても、あと少しのところで届かない。
身長に悩むほど背がないわけではないが、身長が欲しいという人の気持ちが分かった。
晴香を肩車させてみようとも思ったが、肩車なんてしたことがなくて恐かった。
おんぶをしてみたが、そう大して変わらなかった。
「…仕方ない」
八雲はそう言うと晴香を降ろし、濡れないようにレインコートを上から被せる。
足元が濡れることに驚き、だっこを求められたが、八雲は心を鬼にする。
「大人しくしてろ」
しかし晴香の泣きそうな顔に焦り、髪をぐしゃりと撫でた。
「……いいこだから、な」
湿気に膨らんだ髪を手で解かし、レインコートのフードを被せる。
裾が泥まみれの地面に付いていたが、見て見ぬ振り。
ビニール傘を受け取った晴香は、楽しそうにくるくる回し笑った。
それを確認すると、八雲は木に手をかける。
最後に木登りをしたのは、人と人成らざるものの見分けも付かなかった、小学生の頃であろう。
あの頃は年相応にはしゃぎ、すぐに高い場所へ登ったりなんかした。
なんとかは高いところに登りたがる。
いつだったか晴香に同じ事を言ったような気がして、思わず苦笑した。
思えば、自分にも無邪気な頃があったのだ。
懐かしさに浸りながら、八雲は手を伸ばす。
下にいる晴香が、人類語ではない言葉で吠えている。
握り締めたタオルは、雨風に吹かれ湿っていた。
木から降りた八雲に、晴香は傘を放り出して飛びつく。
役目を果たしたレインコートはびしょびしょに濡れ、ワイシャツをさらに濡らす。
張り付くワイシャツに不快感を感じながらも、八雲は晴香を暖かく迎えた。
しばらくの間、感動の再会に浸っていたが、思い出したように晴香が顔を上げる。
「たおりゅ」
それから八雲が手にした、びしょぬれタオルにずいと顔を埋めた。
止める間もなく顔を埋めた晴香の顔に、泥汚れが付着した。
苦笑を浮かべながらも、感動の再開に水を差すことは出来なかった。
すーすー!と匂いを確認した後、顔を上げた晴香は歯を見せて笑う。
「はりゅのたおりゅだ!」
「…よかったな」
「きゅ!」
顔に付着した泥を袖で拭い取ってやる。
今日一日で、涙やら泥やらを吸い取った袖口は茶色く染まっていた。
「ありがとお!」
「どういたしまして」
地面に放られた傘を手にし、八雲はレインコートを着たままの晴香を抱き上げる。
レインコートは雨や泥に汚れていたが、木登りをした身となってはそう対して変わらない。
タオルもレインコートも傘も、晴香も僕も。
どこかが泥に汚れていて、どこかが雨に濡れていて。
気にするのも阿呆らしかった。
とにかく今は、急げ。
「帰ったら風呂に入るぞ」
「おふろちゅき!」
背中から追いかけてくる台風から逃げるように、八雲は水たまりを蹴り飛ばした。
タオルが見つかって嬉しい晴香なのでした。
end.
雨克服に向けて奮闘中のはりゅかさん!
だが、雨よりも強い風により発生した横殴りの雨が二人を襲った。
傘にレインコートという万全の装備で住宅街を、八雲は駆け巡る。
雨が降り出す前からびゅんびゅん音を立てていた風が、四方から代わる代わる吹き付ける。
それに紛れて叩く雨に、腕の中の晴香が飛び跳ねたのは言うまでもない。
ビー玉のように大きな目をさらに見開せ、雨風吹き荒れる外の様子を、レインコートの中から伺っている。
当初は顔を出し意気込んでいたが、その身はすっかり縮んでいた。
ずり落ちそうになる晴香を抱え直し、八雲はまた走る。
東に向かっては水浸しの道路を避け、西に向かっては風に飛ばされ東に戻る。
その間もタオルを探すが、どこにもなかった。
ジーンズの裾が、どんどん黒く染まっていく。
竿だけが吊されたベランダ。勢いの増した用水路。揺れる木々の上。
障害物は多々ある。そんな遠くに行っていないはず。
台風が全てを持っていってしまう前に見つけ出さなくては。
そんな八雲の前に公園が現れた。
二階建て、もしくはそれ以上の建物ばかり見てきたからか。
避けられたように建物がないその場所に、思わず足が止まる。
晴れた日ならば子供が賑わっているのであろう。
しかし台風が街に近付いてきた今。
公園はがらんどうとしていて、遊具だけが離れ小島のようにぽつぽつと広い敷地の中に点在しているだけだった。
その光景は気味が悪い。
しかし、何か惹きつけられるものも感じる。
人より過敏な第六感が働いているのか、ざわざわと背中を逆撫でられるような悪寒。
思わず息をのむ。
けれどそのとき、頬がぺちんと音を立てた。
「いたいいたい?」
それからぺちぺちぺちぺちと、頬と手のひらの間で音が鳴り続いた。
叩かれているのに痛いとは思わない。むしろくすぐったい。
くすぐったいと言うのは、滅多に触れられず、敏感だからだと以前誰かに聞いた。
微かながらに感じた幸福感に、八雲は慌てて首を振る。
「…叩くな」
「きゅっ!」
晴香のおでこをピンと弾き返し、八雲は公園の中に入る。
あまり感情を出さないようにしてきたが、まさかこんな小さい奴に気付かれるとは。
我ながらなんという不覚。
口を餃子のようにぎゅっと閉じ、タオルが引っかかってそうな場所をくまなく探した。
晴香は入ったことのない公園に、レインコートの中から目だけ覗かせ輝かせていた。
「あった」
大きな何かの木の下で、八雲は空に広がる枝を見上げている。
公園に入ってすぐのところに立つ、樹齢何十年であろう大木。
何十、いや何百とある枝のうちの一本に、白い布切れが引っかかり、風が吹く度にゆらゆら揺れている。
しかし、あれが本当に晴香のタオルとは限らない。
こんなにも強い風だ。もしかしたら同じように飛ばされている洗濯物があっても…
「はりゅの!」
と思ったが、どうやら晴香のタオルらしい。
狭いレインコートの中、千切れんばかりに尾を振り、雨に濡れることも恐れず身を乗り出す。
「わかったから、落ち着け」
ふんふん鼻息を荒立てる晴香を宥め、再びタオルを見上げる。
幸い、タオルは低い位置に引っかかっている。
しかし手を伸ばしても、あと少しのところで届かない。
身長に悩むほど背がないわけではないが、身長が欲しいという人の気持ちが分かった。
晴香を肩車させてみようとも思ったが、肩車なんてしたことがなくて恐かった。
おんぶをしてみたが、そう大して変わらなかった。
「…仕方ない」
八雲はそう言うと晴香を降ろし、濡れないようにレインコートを上から被せる。
足元が濡れることに驚き、だっこを求められたが、八雲は心を鬼にする。
「大人しくしてろ」
しかし晴香の泣きそうな顔に焦り、髪をぐしゃりと撫でた。
「……いいこだから、な」
湿気に膨らんだ髪を手で解かし、レインコートのフードを被せる。
裾が泥まみれの地面に付いていたが、見て見ぬ振り。
ビニール傘を受け取った晴香は、楽しそうにくるくる回し笑った。
それを確認すると、八雲は木に手をかける。
最後に木登りをしたのは、人と人成らざるものの見分けも付かなかった、小学生の頃であろう。
あの頃は年相応にはしゃぎ、すぐに高い場所へ登ったりなんかした。
なんとかは高いところに登りたがる。
いつだったか晴香に同じ事を言ったような気がして、思わず苦笑した。
思えば、自分にも無邪気な頃があったのだ。
懐かしさに浸りながら、八雲は手を伸ばす。
下にいる晴香が、人類語ではない言葉で吠えている。
握り締めたタオルは、雨風に吹かれ湿っていた。
木から降りた八雲に、晴香は傘を放り出して飛びつく。
役目を果たしたレインコートはびしょびしょに濡れ、ワイシャツをさらに濡らす。
張り付くワイシャツに不快感を感じながらも、八雲は晴香を暖かく迎えた。
しばらくの間、感動の再会に浸っていたが、思い出したように晴香が顔を上げる。
「たおりゅ」
それから八雲が手にした、びしょぬれタオルにずいと顔を埋めた。
止める間もなく顔を埋めた晴香の顔に、泥汚れが付着した。
苦笑を浮かべながらも、感動の再開に水を差すことは出来なかった。
すーすー!と匂いを確認した後、顔を上げた晴香は歯を見せて笑う。
「はりゅのたおりゅだ!」
「…よかったな」
「きゅ!」
顔に付着した泥を袖で拭い取ってやる。
今日一日で、涙やら泥やらを吸い取った袖口は茶色く染まっていた。
「ありがとお!」
「どういたしまして」
地面に放られた傘を手にし、八雲はレインコートを着たままの晴香を抱き上げる。
レインコートは雨や泥に汚れていたが、木登りをした身となってはそう対して変わらない。
タオルもレインコートも傘も、晴香も僕も。
どこかが泥に汚れていて、どこかが雨に濡れていて。
気にするのも阿呆らしかった。
とにかく今は、急げ。
「帰ったら風呂に入るぞ」
「おふろちゅき!」
背中から追いかけてくる台風から逃げるように、八雲は水たまりを蹴り飛ばした。
タオルが見つかって嬉しい晴香なのでした。
end.
雨克服に向けて奮闘中のはりゅかさん!
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