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八雲で八晴!

八雲と晴香と猫のお話です。
八晴を創作し始めた頃は部室での話が主だったのになぁー。

最近の八晴は夫婦だったり、パロだったり。
部室でのシチュエーションが少なくなってるなって。
そんなわけで部室トーーク!

八雲/八晴(友人設定)

部室に戻った八雲をにゃあと甘ったるい声が迎えた。

聞き覚えのある声に首を傾げ、部屋の中に目を向ける。
そこにはいつもの席に腰を据えたトラブルメーカーの背中がある。

「あ、八雲君」

ドアを閉める音に振り返った晴香は、八雲の姿を見て微笑んだ。

彼女が意味もなく笑うことは何度もあった。しかし訳もなく笑うなど嫌な予感しかしない。
何かトラブルを拾ってきたんじゃないだろうな。

思わず身構える八雲の瞳に、三角の形をした二つの物体が映る。
三角のそれがぴぴんと震えたのを合図に、晴香の身体からにょきっと細長いものが生えてきた。


それは一匹の猫だった。

晴香の膝の上で丸くなる猫は、寝ているのか背中を上下するだけで置物のよう。

身構えた自分が馬鹿馬鹿しい。
頬を掻き、気持ちよさそうに眠る猫に目を向ける。

「それはなんだ」

「これ?新発売のお菓子だよ」

「そっちじゃない」

「ああ、この子」

“この子”と呼ばれた猫の背中を晴香は撫でる。
また耳を震わしたが、それ以上動くことはなかった。

「そこで拾ったの」

「…君は、落ちているものをすぐに拾う癖は止めた方がいい」

「雨が降りそうだし良いじゃない」

窓の外を見ると、空には分厚い灰色の雲が幾重にも重なっている。

「野良猫は雨が降ったくらいじゃ死なない」

「死ななくても雨に濡れるのは誰だって寒いよ」

「…君はお節介なんだ」

「雨に濡れている人がいたら傘を差し出すのは当たり前よ」

「それがトラブルの原因になるというのをいつになったら理解する?」

心当たりのある晴香は言い返せず口を紡ぐ。
僕に楯突こうだなんて百年早いんだ。

八雲は席に着くと、読みかけの本を開いた。

「わかったら、今すぐそいつを連れ出せ」

「それは…!」

いくらなんでも酷い。
晴香は出掛けた言葉を呑み込む。

「なら、君の家に持っていけばいい」

「………」

彼女の家がペット禁止なのは知っている。
知っていて言う自分は、とんだ意地悪の塊だ。

文字の羅列から目を逸らし、晴香の顔色を窺う。

堪えるように唇を噛み、俯く晴香は今すぐにでも飛び出してしまいそうで。
少し言い過ぎたかと反省するも、そう簡単に謝罪の言葉が出る訳がなく。

身を起こした猫が、晴香の膝の上で大きく伸びる。
ぽつぽつ降り出した雨が窓を叩き始めてやっと言葉が出た。

「雨があがるまでだからな」

ため息混じりの小さな声だったが、晴香の耳にはしかて届いた。
歓喜のあまり立ち上がり、落ちそうになった猫が机の上にジャンプする。
とん、と見事に着地した猫は何事もなかったように身繕いを始めた。

「八雲君、ありがとう!」

それからぎゅっと手を握られた。
離れてからも拳はいやに暖かい。
知らない感情に襲われた八雲は、しばらくの間手を見つめていた。

「ほら、八雲君も御礼言わなくちゃ」

しかし、そのヘンテコな言葉に、八雲は現実に引き戻された。

振り返ると目の前には、目を細めた猫が鼻の先にいた。
驚いた八雲は、がたんと椅子を鳴らし引き下がる。

「ありがとにゃあ」

また“にゃあ”。
冒頭で聞こえたにゃあは、晴香の声だったのか。

「何の真似だ」

裏声で猫を揺らす晴香を睨む。

「八雲君も御礼を言いたいって」

ねー、と猫と目を合わせる。
猫はだらんと足を放り、されるがままだ。

ここまでくれば、いくらなんでも何がなんだかは分かった。

「勝手に人の名前を猫に付けるな」

「えー。だってこの猫、八雲君にそっくりなんだよ?」

「どこがだ」

「ほら!そのふてくされた顔!」

ぐいと猫を突きつけられる。
椅子を引くことはなかったが、ぴょんぴょんと跳ねたヒゲがくすぐったい。

少し離して見ると、猫は確かにふてくされていた。
似てる似ていないは別として、猫も晴香にはうんざりしているようだ。
お互い、晴香に振り回されている身として妙に親近感が湧く。

「ねー、八雲君にそっくりだよね、八雲君?」

苦笑する八雲を認めたと思い込んだ晴香は、また猫と顔を合わせた。
猫のあの顔を見たから分かる。
されるがままになっているのではなく、仕方なく彼女のわがままに付き合っているのだ。

「あっ」

声を上げた晴香に目を向けると、猫の姿が消えている。

とうとう逃げ出したか。
部屋の中、猫を探そうとする八雲の膝に、ずしと重たいものがのしかかる。
見るとそれは猫だった。

膝の上で丸くなる猫は、八雲に甘えることもなく置物のように大人しい。

「あーあ」

猫を逃がした晴香は、つまらなそうに机の上に伸びた。
それから新発売というお菓子を摘む。

「君はしつこいんだ」

僕にだってそう。
雨が降りそうならば、こんなところに寄らず真っ直ぐ帰れば良いのに。

「ちがう、ちがうもん。八雲君が猫に似てるからよ」

「どんな言いがかりだ」

「類は友を呼ぶってやつよ」

「なんだそれは」

返事を求めたが、晴香からはそれ以上何も返っては来ない。
ただ、壊れた機械のように新発売のお菓子を食べ続ける。
一つ貰おうと手を伸ばすと、意外にも簡単に奪えてしまった。

栗の味がするそれはどこまでも甘いだけだった。


あれからずっと、晴香は机の上でふてくされている。
猫を奪われた晴香は拗ねているようだった。


「………」

仕方がない、な。

深くため息をつく。
読みかけの本に栞を挟み、構ってやろうと晴香の肩に手を伸ばした。

そのときだ。膝の上の重さを持ったひだまりが、ひょいと飛び降りる。
そのまますたすたと立派な四肢で巧みに歩き、晴香の足の前で止まった。

「ニャア」

鳴いた猫は、太い尾をぴんと立て、晴香の足に擦り寄ったのだった。

それに晴香が気付かないわけがない。
足に擦り寄る猫の姿を見て、ほろり涙を一滴こぼす。

「八雲君…!」

猫を抱き上げた晴香は、小さな身体を腕に抱きしめる。
ウニャと小さくうめき声らしきものを上げたが、猫は大人しく抱かれたままだった。

初めて聞いた猫の鳴き声に、まじまじ見てしまう。次の瞬間、ふと目が合う。
細長い瞳孔がこちらを捉え、それから何事もなかったように目を細めた。


お互い大変だな、と言わんばかりに。

猫が喋るなんてことはありえないし、猫の言葉を理解出来るわけでもない。
でも、いま確かに猫はそう言った。…ような気がした。


「類は友を呼ぶ…か」


閉じた本を再び開き、挟まれた栞を抜き取る。



「強ち、間違っていないのかもな」





僕が猫に似ているのか。

猫が僕に似ているのか。


──真相は猫のみぞ知る。






end.



猫って戦略家ですよね、といった話。

こっちから撫でようとすると逃げて、ふてくされていると甘えてきて。
ちくしょう。可愛いじゃないかこのやろー。
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