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八雲で魔法使いパロです!
あまりに幅の狭いパロだったので、自己満足かなと更新せずにいましたが…
まさかの「読みたい」とのお言葉が…!!
カテゴリー、パロディ内にも二つほどありますのでそちらもどうぞ^^
八雲/魔法使いパロ
あまりに幅の狭いパロだったので、自己満足かなと更新せずにいましたが…
まさかの「読みたい」とのお言葉が…!!
カテゴリー、パロディ内にも二つほどありますのでそちらもどうぞ^^
八雲/魔法使いパロ
大学からの帰り道。
晴香は自宅近くのスーパーで買い物をしていた。
カゴの中には牛乳、たまごにヨーグルト。
夕方とあってから、店内はそれなりに混雑している。
店内を一周二周と巡り、三周めにしてやっと。
黙り込んでいた口から溜め息が出た。
晴香を悩ませる原因はただ一つ。
「魔法使いって何食べるんだろう…」
晴香の元に、インチキ自称魔法使いが転がり込んできたのは昨日のこと。
大学が終わり帰り道に着いていた、ちょうど今頃の時間だった。
…正しい言葉で言うならば“転がり込んだ”ではなく“拾った”のだけれど。
「魔法使いって言うからには、カエルとかイモリとか食べるのかも…」
想像して後悔。寒気に震え、肌にぼつぼつと粟が立つ。
立ち寄り掛けたナマモノ売場から速攻で立ち去り、晴香はまた溜め息を吐いた。
「普通の人間と同じものでも良いのかな?」
ならば、実家から送られてきた『戸隠そば』を茹でよう。
両親が経営している『戸隠そば おざわ』。
そこで打っている麺を、定期的に送ってもらっているのだ。
普段ならば、母の味ならぬ父の味を思い出し、惚れ惚れした気分になる。
しかし、晴香の顔は浮かない。
いくら魔法使いでも。猫の姿をしていても。
性別は男────なのだ。
脳裏に昨晩の出来事が浮かび上がり、振り払うようにぶんぶん首を振った。
内側から熱くなる頬を、外側から冷ますように手を添える。
茹でるだけと言っても、手料理の名には変わらない。
恋人のいない晴香は、初めての経験に戸惑いを隠せない。
茹でるだけ。
たったそれだけのことに、もし失敗でもしたら…
お世辞にもしっかり者とは言えない性格。
生きていて、失敗することの方が多い。
失敗する保証もなければ、成功する保証もない。それが怖かった。
「何か…作らなくても良いもの…」
そしてお惣菜など、だらしないと思われないもの。
恋人でもなければ友人でもない。
昨日出会ったばかりの居候に、なぜこんなにも悩まされなければならないのか。
ふと、何気なく陳列棚に目を向ける。途端に衝撃を受けた。
晴香の瞳に映し出された、一つの完成された食品。
「これよ!」
手にしたそれを三つほどカゴに入れた晴香は、大行列が連なるレジに向かった。
帰宅した晴香は、部屋の奥に声を掛ける。
電気も点いていない暗い室内。
いつもはこれが当たり前だけど、今日は違う。
昨日から家には、私以外にもう一人いるはずなのだ。
しかし、返事がない。
「八雲君?」
思わず靴を脱ぐ手が止まった。
暗闇である部屋の奥を見つめ、返事のないその名を幾度も呼ぶ。
「……出ていっちゃったの?」
晴香は肩を落とした。
さっきまではあんなことを思っていたけれども。
いざとなると、寂しいものは寂しい。
昨日の今日のことなのに、晴香にとってはとても長い時間であった。
濡れた体を抱き上げたことも。
汚れた体をお風呂で綺麗にしてやったことも。
怪我した前足に包帯を巻いてやったことも。
…魔法使いということだって。
晴香にとっては、一つ一つが深い思い出である。
重い足取りで部屋を進む。
一歩、また一歩踏み出す度に思い出が脳裏に浮かぶ。
すんと鼻を啜り、目を擦る。
壁のスイッチに手を伸ばした。
パチンと蛍光灯に電気が流れる。
家を出たときと変わらない、きれいな室内。
その真ん中に、見覚えのない黒い座布団が鎮座していた。
「八雲君!」
買い物袋を床に置き、黒い座布団と見間違えた黒猫姿の八雲に駆け寄る。
抱き締めようとしたが、丸くなっている猫をどうやって抱くのか分からず諦めた。
姿が人と猫とでこんなにも愛おしさが違うものだとは。
半日離れていただけで、いなくなってしまったと錯覚しただけで。
うずうずと抱き締めたい気持ちを抑える。
反対に八雲は耳をぴくりと動かすだけと冷めている。
黒猫の前で正座をしてやっと、八雲が目を開けた。
「おはよう」
頭を上げて晴香を見ている八雲。
黒と赤の、オッドアイの瞳がけむくじゃらの顔から現れる。
「あれ?でもオッドアイって青と黄色だったような…」
テレビで見た、白くて毛の長いふわふわな猫が持つオッドアイの瞳を思い浮かべる。
その間に、八雲は瞼を閉じてしまった。
「おーい」
呼びかけてはみるものの、再び赤い左目を見ることは叶わなかった。
「眠いのかな?」
上下にゆっくりと動く背中を撫でる。
触れた瞬間に尾がぴんと張ったが、それ以上のことはなにもなかった。
「お風呂上がったらご飯だから、ちょっと待っててね」
寝間着を用意し風呂場に向かう。
八雲は相変わらず背中を上下させるだけだった。
風呂から出た晴香が台所で蕎麦を茹でている間も、八雲が目を覚ますことはなかった。
出来上がった一人前の蕎麦と“八雲のごはん”を手に、部屋に向かう。
ローテーブルの上に夕飯を並べ「いただきます」と口にしてやっと八雲が起き上がった。
「おはよう」
伸びる八雲に声を掛ける。
猫が無口なのか、八雲が無口なのか。返事はない。
しかし体を伸ばすその姿は猫。自然と口元が緩む。
「はい、八雲君の分!」
「………」
そんな八雲の目の前に、晴香は缶詰めを置いた。
──“猫缶”だ。
しばらく缶詰めを睨んでいた隻眼の瞳が、晴香を睨む。
それでもニコニコと笑みを絶えさせない晴香に、八雲は煙を巻いて人の姿になった。
「おい、なんだこれは」
よかった。今日はちゃんと服を着ている。
苛立つ八雲に比べ、晴香はどこか楽しそう。
顔には出さないが、それが八雲をますます苛立たせた。
「何って猫缶だよ」
「僕が言っているのはそういうことじゃない。なぜ僕の夕飯が猫缶なんだ」
「だって八雲君の本体は猫なんでしょ」
「っ……僕は猫でもなければ人でもない」
「じゃあなによ」
「魔法使いだ」
ふうんと蕎麦を啜る。
魔法使いでも何でも、姿は猫。もしくは人間。
私たちと変わりない生き物だ。
八雲も諦めたらしく、猫缶の蓋を開けた。
それから猫の姿に戻り、缶の中身を口にした。
「!」
それがどうやら美味だったらしく、もぐもぐと缶の中に顔を突っ込む八雲。
その姿はまさしく猫。
どんな味なんだろう。膨らむ好奇心を抑えつつ、晴香は蕎麦を啜った。
人の姿に戻り、缶の隅に残った最後の一口を指で拭い、ぱくりと食す。
「おいしかった?」
「……まあまあ」
ぺろりと手を舐める姿は、人の姿にも関わらず猫だ。
今にも跳ね放題の髪から三角形の耳が生えてきそう。
そんなにも猫缶は美味しかったのか。
何故だか悔しい。
「…今度は、私が作ったご飯も食べてね」
「君のことだ。失敗するに決まっている」
昨日の今日の出会いなのに、すでに見切っている八雲に驚いた。
やっぱりコイツは魔法使いかもしれない。
end.
魔法使い八雲のお話でした。
八雲に猫缶を食べさせたかっただけです…すいません…
晴香は自宅近くのスーパーで買い物をしていた。
カゴの中には牛乳、たまごにヨーグルト。
夕方とあってから、店内はそれなりに混雑している。
店内を一周二周と巡り、三周めにしてやっと。
黙り込んでいた口から溜め息が出た。
晴香を悩ませる原因はただ一つ。
「魔法使いって何食べるんだろう…」
晴香の元に、インチキ自称魔法使いが転がり込んできたのは昨日のこと。
大学が終わり帰り道に着いていた、ちょうど今頃の時間だった。
…正しい言葉で言うならば“転がり込んだ”ではなく“拾った”のだけれど。
「魔法使いって言うからには、カエルとかイモリとか食べるのかも…」
想像して後悔。寒気に震え、肌にぼつぼつと粟が立つ。
立ち寄り掛けたナマモノ売場から速攻で立ち去り、晴香はまた溜め息を吐いた。
「普通の人間と同じものでも良いのかな?」
ならば、実家から送られてきた『戸隠そば』を茹でよう。
両親が経営している『戸隠そば おざわ』。
そこで打っている麺を、定期的に送ってもらっているのだ。
普段ならば、母の味ならぬ父の味を思い出し、惚れ惚れした気分になる。
しかし、晴香の顔は浮かない。
いくら魔法使いでも。猫の姿をしていても。
性別は男────なのだ。
脳裏に昨晩の出来事が浮かび上がり、振り払うようにぶんぶん首を振った。
内側から熱くなる頬を、外側から冷ますように手を添える。
茹でるだけと言っても、手料理の名には変わらない。
恋人のいない晴香は、初めての経験に戸惑いを隠せない。
茹でるだけ。
たったそれだけのことに、もし失敗でもしたら…
お世辞にもしっかり者とは言えない性格。
生きていて、失敗することの方が多い。
失敗する保証もなければ、成功する保証もない。それが怖かった。
「何か…作らなくても良いもの…」
そしてお惣菜など、だらしないと思われないもの。
恋人でもなければ友人でもない。
昨日出会ったばかりの居候に、なぜこんなにも悩まされなければならないのか。
ふと、何気なく陳列棚に目を向ける。途端に衝撃を受けた。
晴香の瞳に映し出された、一つの完成された食品。
「これよ!」
手にしたそれを三つほどカゴに入れた晴香は、大行列が連なるレジに向かった。
帰宅した晴香は、部屋の奥に声を掛ける。
電気も点いていない暗い室内。
いつもはこれが当たり前だけど、今日は違う。
昨日から家には、私以外にもう一人いるはずなのだ。
しかし、返事がない。
「八雲君?」
思わず靴を脱ぐ手が止まった。
暗闇である部屋の奥を見つめ、返事のないその名を幾度も呼ぶ。
「……出ていっちゃったの?」
晴香は肩を落とした。
さっきまではあんなことを思っていたけれども。
いざとなると、寂しいものは寂しい。
昨日の今日のことなのに、晴香にとってはとても長い時間であった。
濡れた体を抱き上げたことも。
汚れた体をお風呂で綺麗にしてやったことも。
怪我した前足に包帯を巻いてやったことも。
…魔法使いということだって。
晴香にとっては、一つ一つが深い思い出である。
重い足取りで部屋を進む。
一歩、また一歩踏み出す度に思い出が脳裏に浮かぶ。
すんと鼻を啜り、目を擦る。
壁のスイッチに手を伸ばした。
パチンと蛍光灯に電気が流れる。
家を出たときと変わらない、きれいな室内。
その真ん中に、見覚えのない黒い座布団が鎮座していた。
「八雲君!」
買い物袋を床に置き、黒い座布団と見間違えた黒猫姿の八雲に駆け寄る。
抱き締めようとしたが、丸くなっている猫をどうやって抱くのか分からず諦めた。
姿が人と猫とでこんなにも愛おしさが違うものだとは。
半日離れていただけで、いなくなってしまったと錯覚しただけで。
うずうずと抱き締めたい気持ちを抑える。
反対に八雲は耳をぴくりと動かすだけと冷めている。
黒猫の前で正座をしてやっと、八雲が目を開けた。
「おはよう」
頭を上げて晴香を見ている八雲。
黒と赤の、オッドアイの瞳がけむくじゃらの顔から現れる。
「あれ?でもオッドアイって青と黄色だったような…」
テレビで見た、白くて毛の長いふわふわな猫が持つオッドアイの瞳を思い浮かべる。
その間に、八雲は瞼を閉じてしまった。
「おーい」
呼びかけてはみるものの、再び赤い左目を見ることは叶わなかった。
「眠いのかな?」
上下にゆっくりと動く背中を撫でる。
触れた瞬間に尾がぴんと張ったが、それ以上のことはなにもなかった。
「お風呂上がったらご飯だから、ちょっと待っててね」
寝間着を用意し風呂場に向かう。
八雲は相変わらず背中を上下させるだけだった。
風呂から出た晴香が台所で蕎麦を茹でている間も、八雲が目を覚ますことはなかった。
出来上がった一人前の蕎麦と“八雲のごはん”を手に、部屋に向かう。
ローテーブルの上に夕飯を並べ「いただきます」と口にしてやっと八雲が起き上がった。
「おはよう」
伸びる八雲に声を掛ける。
猫が無口なのか、八雲が無口なのか。返事はない。
しかし体を伸ばすその姿は猫。自然と口元が緩む。
「はい、八雲君の分!」
「………」
そんな八雲の目の前に、晴香は缶詰めを置いた。
──“猫缶”だ。
しばらく缶詰めを睨んでいた隻眼の瞳が、晴香を睨む。
それでもニコニコと笑みを絶えさせない晴香に、八雲は煙を巻いて人の姿になった。
「おい、なんだこれは」
よかった。今日はちゃんと服を着ている。
苛立つ八雲に比べ、晴香はどこか楽しそう。
顔には出さないが、それが八雲をますます苛立たせた。
「何って猫缶だよ」
「僕が言っているのはそういうことじゃない。なぜ僕の夕飯が猫缶なんだ」
「だって八雲君の本体は猫なんでしょ」
「っ……僕は猫でもなければ人でもない」
「じゃあなによ」
「魔法使いだ」
ふうんと蕎麦を啜る。
魔法使いでも何でも、姿は猫。もしくは人間。
私たちと変わりない生き物だ。
八雲も諦めたらしく、猫缶の蓋を開けた。
それから猫の姿に戻り、缶の中身を口にした。
「!」
それがどうやら美味だったらしく、もぐもぐと缶の中に顔を突っ込む八雲。
その姿はまさしく猫。
どんな味なんだろう。膨らむ好奇心を抑えつつ、晴香は蕎麦を啜った。
人の姿に戻り、缶の隅に残った最後の一口を指で拭い、ぱくりと食す。
「おいしかった?」
「……まあまあ」
ぺろりと手を舐める姿は、人の姿にも関わらず猫だ。
今にも跳ね放題の髪から三角形の耳が生えてきそう。
そんなにも猫缶は美味しかったのか。
何故だか悔しい。
「…今度は、私が作ったご飯も食べてね」
「君のことだ。失敗するに決まっている」
昨日の今日の出会いなのに、すでに見切っている八雲に驚いた。
やっぱりコイツは魔法使いかもしれない。
end.
魔法使い八雲のお話でした。
八雲に猫缶を食べさせたかっただけです…すいません…
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