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八雲で八晴(八+晴?)です!

八雲/八晴(友人設定)

木々にぶら下がる葉が、だんだんと紅に染まり出す。
北の方では雪が降ったと今朝、お天気お姉さんが言っていた。

暗くなるのが早くなり、夜には星がきれいに見える。

そんな、秋と冬の間の季節。


校内はより一層異色の雰囲気に包まれていた。

何が違うと聞かれれば、校内をさ迷う生徒の目の色が違う。
これは映画研究同好会に住み着くという某化け猫のように、本当に目の色が違うわけではない。
しかし、生徒たちの目はその某化け猫よりもぎらぎらと輝き、未知なるオーラを発していた。

普段、分厚い参考書を片手に勤勉に励む学生も。
隙あらば講義をサボる留年候補生も。
部活に燃える熱血野郎も。
恋仲に浮かれる男女も。
はたまたお堅い教師も。

この大学に通うほとんどの者が、きらり輝く目標に向けてあくせく動いているであろう。

それは二週間後に控えたビッグフェスティバルに向けて。
手に手を取り合い、皆が一同に励んでいた。



そう。再来週は明政大学学園祭────






「やぁ!」

「ノックもしないで人の家に入り込むだなんて、君は常識という言葉も知らないのか?」

「ここは八雲君の家じゃなくて、大学の私有地です〜」

してやったり。

ふんと鼻息を荒げた晴香は、大学の私有地である映研部室にずかずか上がる。
何も言い返さない姿は見ていて気持ちがいい。

楽譜に溢れる鞄の中から、一枚の書類を取り出すと八雲に突きつけた。

「じゃじゃん!」

「……明政大学学園祭、映画研究同好会出展案内…?」

八雲は眉を寄せた。

自慢ではないが、頭の回転は速い方。
書いてあることは分かった。日本語だ。読む分には問題ない。
しかし、理解が出来なかった。

晴香に突き付けられているのは、来たる二週間後に控えた学園祭の書類。
見た限りでは、学園祭に参加する者への通知書のように見える。

しかし、八雲は参加の意を示したこともなければ、参加しようとすら思っていなかった。

だから、覚えのない書類に理解が出来なかった。



映画研究同好会は、八雲がすみかを手に入れるために作り出した架空のサークル。

大学側には何人か入部していることになっているが、そんなの嘘。
てきとうに生徒の名前を借りて作り出した、八雲のオアシス。
…最近は邪魔者が増えたが。

正確には、映画研究同好会に所属しているのは八雲一人しかいない。

ときどき入部希望者が見学に来るが、その度に居留守と悪対応で迎え、悉く追い払ってきた。

だから、学園祭に参加するなんてことはあり得ないのだ。


ただ一人、目の前の変わり者が何かをしない限り──



「友達にね“映研は出し物しないの?”って言われちゃって!」

「……で?」

「応募しちゃいました!」

ずずんと胸を張る晴香。

八雲の苛立ちは、今にも溢れ出してしまいそうだった。
しかしどうにか堪え、貧乏揺すりに止まる。

「せっかくの同好会なんだから」

「………」

「自主制作映画でも、作れれば…なあ…」

「………」

「なん…て…」

段々と大きくなる貧乏揺すりの音に比例して、小さくなる声。
最後にはかたかたという貧乏揺すりの音に、晴香の声はごにょごにょと消えてなくなってしまった。

「思ったの、です、が…」

さっきまでは堂々とプリントを持っていた腕が、今は胸の前でそれを握っている。
ぐしゃっと紙が握られる音がした。
それは晴香の心が耐えきれずに潰れる音にも聞こえた。

「えっと…その……ごめんなさい…?」

「僕に聞くな」

「ごめんなさい」

今度ははっきりと謝った。頭も下げた。
無言の八雲が恐ろしく、顔が上げられない。
そんな恐怖と闘う晴香の耳に、罵声ではなくため息が届いた。

「提出してしまったものは仕方がない」

「じゃあ…!」

「言っておくが、僕はアシスタントだ。手伝いしかしない」

「ありがとうっ!」

ぴょんと飛び跳ね、全身で嬉しさを表す晴香に、またため息。


やっかいなことに巻き込まれた。

が、良い機会かもしれない。
普段から寝泊まりするのに世話になっている同好会だ。

せめてもの礼に、この名だけのサークル。

たまには活躍させてやろうじゃないか。



「で、どんな内容なんだ」

晴香は「しめたっ」と心の中でガッツポーズ。
うまいこと八雲が食いついてきてくれた。

「夢とロマンが詰まったSF!」

「セットはどうする」

「あ、アクション!」

「僕たちにそんな体力と技術があるように見えるか?」

「えっと…ファン、タジー…!」

「学園祭で何時間の作品を上映するつもりだ」

何の計画も立てていない晴香に、八雲は深く溜め息を吐いた。

「そもそも部員は僕ら二人しかいないんだぞ」

映画研究同好会の秘密を知っているのも、僕ら二人だけ。
この先、誰かに話すつもりもなければ、誰かを入れようとも思っていない。

「う〜ん……コント、とか?」

「お笑い同好会にでも行ってこい」

「ごめんごめん、冗談冗談」

晴香は真面目に考えた。
二人で出来て、時間もお金も掛からない、現実的な作品───



「恋愛もの…とか?」

「は?」

「だから、恋愛もの」

晴香は至って真面目だった。

「……くっ」

しかし、八雲はあまりの可笑しさに、思わず噴き出してしまう。
堪えようと下を向いて口を閉じるも、震える肩を晴香は見逃さなかった。

「ちょっと!なに笑ってるの!」

「くくっ…君と僕とでか?」

「ほ、他に誰がいるのよ…」

変なことを言ったつもりがなくても、ここまで笑われると何だか恥ずかしい。
恋愛ものなんて、映画やドラマでは王道中の王道ではないか。

「それこそコントだ」

なのに、八雲がそんなことを言うもんだから。
晴香は深く考えもせずに、八雲に指を突きつけた。

「そんなこと言うなら、作っちゃうんだから!」

「作れるものなら作ってみろ」


売り言葉に買い言葉。

そんなこんなで、私たちは恋愛ものの映画を作ることになった。






end.



たぶんつづきます!
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