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八雲で赤頭巾パロです。
狼さんととある少女の物語。
八雲/赤頭巾
狼さんととある少女の物語。
八雲/赤頭巾
森には危険がいっぱいです。
笑いが止まらなくなるキノコが生えていたり。
迷ってしまったら最後、二度と出られなくなってしまう洞窟があったり。
方位磁石が効かなくなるという噂もありました。
そして何より恐れられていたのは、赤い左目を持つ凶暴な狼がいるということ。
退治に出かけた猟師が未だに帰らないと弟子の男が泣きながら喚いていたそうです。
「腹を空かせた狼が、今か今かと人が来るのを待っている」
街の住人は口々にそう言い、森に立ち入ることはありませんでした。
しかし一人の少女だけは違いました。
少女は世間で“狼”と恐れられる男といつも一緒にいたのです。
うっそうと木々が生い茂る森の中。
今宵は新月で、街明かりが届かない森の中は闇に包まれている。
晴香ははぐれないようにと掴んだシャツの袖を、きゅっと握った。
「———って噂があるんです」
「残念だが僕に人食の趣味はない」
晴香から聞いた自らの噂話に、八雲は肩を竦める。
晴香も「そうですよねー」と返し頬を膨らます。
「まったく…狼さんのこと、何にも知らないくせに…」
八雲は苦笑していたが、滅多に聞かない晴香の愚痴に新鮮味を感じていた。
「それが世間というものだ」
「でも…!」
「僕はもう慣れた。それに君が気にすることじゃない」
何か言いたそうに口を開けた晴香だが、言葉が出てくることはなかった。
八雲は晴香の歩く速度に歩みを合わせ進む。
それに合わせて、赤色のマフラーと尾がゆらゆら揺れた。
それから数十分もしないうちに八雲は足を止めた。
「ほら、着いたぞ」
森がひらけたそこは花畑だった。
冬ということもあり、あまり花は咲いていないため野原に近い。
少しだけ咲いた花もこれだけ暗いと色さえ分からず、勿体無い気もした。
しかし用は花畑にあるのではない。
「わぁ…!」
空を見上げた晴香は思わず嘆声の声を上げる。
八雲は晴香のお願いで、天体観測に付き合っていた。
どうやら流星群がやってくるらしい。
本当は姉の綾香と街の観測所に行く予定だった。
しかし綾香が風邪を引いてしまい、中止になってしまった。
そして晴香にお願いされたのが今日の昼間のこと。
晴香は掴んでいたシャツの袖を離し、花畑へと駆け出す。
シャツの袖から晴香の指が離れるとき。
寂しげに皺の寄った袖を見つめる自分に驚いた。
「すごい!すごい…!」
空を見上げ過ぎた晴香はよろけ、そのまま尻餅をついて花畑の上に寝転がる。
見上げた夜空には幾千幾万もの星が輝く。
一面の星空という言葉がぴったりだった。
邪魔をしないよう、八雲は大木に寄りかかり晴香を見守る。
そして先ほど晴香に言われたことを思い出す。
(凶暴な狼、か)
あながち間違っているわけではない。
人を食うというのも…
彼女と出会ったときのことを思い出し苦笑を浮かべる。
そう、ここが全てのはじまりの場所だった。
思えば彼女にとってとんだファーストコンタクトだったであろう。
出会って早々にヘンナコトをされそうになったのだ。
普通ならば二度とこの森に近付かないはず。
なのに彼女はやってきた。
にこにこ笑いながら、助けてくれたお礼にと焼いたパンを持ってきた。
流れ星を見つけた晴香は草の上に寝転がりながら手を合わせた。
お姉ちゃんの風邪が早く治りますように。
そっと閉じた目が開くと、そこには悲しそうに歪められた八雲の顔があった。
「君は僕が怖くないのか?」
気付くと彼女の視界を遮っていた。
覗き込んだ顔は困惑とも取れる笑みを浮かべている。
「何を言ってるんですか」
組まれた指が解け、八雲の頬に這う。
冷たい夜に震える唇に指先が触れた。
「狼さんは優しいです」
慰めるように唇を撫でる指先がこそばゆく、八雲は小指に噛みつく。
「たまに意地悪だけど」
くすりと笑って離れる指先。
髪に埋もれた人とは違う耳に触れられた八雲は思わず口を結う。
それから晴香は寝癖だらけの頭を撫でた。
じわじわと襲ってくる心地よさに目を閉じていると、指先が瞼に触れた。
「それに、そんな綺麗な目を持った人が悪い人なわけありません」
そう口にした晴香は、深い意味もなかったのだろう。
おはようと言われたら「おはよう」と返すように。
いただきますと言われたら「どうぞ召し上がれ」と返すように。
「人、でいいのかな?」と八雲の下で一生懸命に考えていた。
だから今にも泣き出しそうな八雲を見て、慌てて引き寄せた。
「どうしたの?大丈夫?」
「ちょっと目にゴミが入っただけだ」
誤魔化そうとしたが、目前にまで迫った晴香に嘘は通じない。
何も言わず、子をあやすように背中を叩かれた八雲は晴香に身を任せた。
鼻先を擽る草の匂いが、今は少しだけ心地がよかった。
二人は並んで空を見上げていた。
繋いだ指の間は風すらも通り抜けることが出来ない。
一面に広がる星空を見ていると、まるで自分が宇宙に漂っているかのように思えてくる。
闇と小さな輝きだけの世界。
はぐれないようにと、繋いだ手を握りしめる。
何も言わずに晴香は握り返してくれた。
僕は、一人じゃない。
流れる星を前に、八雲はそっと目を閉じた。
「今日はありがとうございます、狼さん」
晴香は頭を下げる。
背後に見える街の灯りに八雲は目を細めた。
「…いい加減、その呼び方はやめろ」
「えっ?」
顔を上げた晴香が見たのは、髪を掻きながら目を逸らす八雲の姿。
「呼び方って…」
「名前で良い」
「え、えぇっと…」
困惑した晴香はとりあえず、声には出さずに口の中で呼んでみた。
(これは、恥ずかしい…!)
呼んでもいないのに頬を染め、俯いてしまう。
俯いた晴香に八雲は首を傾げる。
逆光のため顔が赤いことに気付かれなかったのが唯一の救いだ。
見つめられるのに堪えきれず、晴香はふんと鼻を鳴らして八雲を見上げた。
「じ、じゃあ…!……八雲、君」
徐々に小さくなる声に八雲は吹き出す。
予想以上の間抜け面で、笑いを堪えるのに必死で肩が震えた。
笑われた晴香はますます赤くなる。
暗闇でも分かるその顔に、八雲は声に出して笑った。
「もう馬鹿!知らない!」
頭巾を引き寄せ顔を隠す晴香に、八雲は覗き込もうと手を伸ばす。
右手は左手を。左手は右手を。
いとも簡単に捕まえた手首は顔の横にずらされる。
頭巾は被ったままだが、晴香の顔が目元まで赤いのは十分に分かった。
「意地悪、ですっ」
「その敬語もやめろ」
「………」
何も返さない晴香に八雲は肩をすくめ、触れるだけの優しいキスをした。
「帰ったら早く寝るんだぞ」
腕を解放してやると晴香は一目散に街の灯りへと駆けて行く。
君と僕との境界線。
あっちの灯りは人が暮らす世界。
暗い暗い森の中。ここでしか僕の存在は許されない。
離れてゆく背中を見つめていると、唐突に晴香が振り返った。
「今日はありがとう!…八雲君!」
口の横に手を当て大声で叫んだ晴香は、逃げるようにまた走り出す。
八雲は思わず目を見開いた。
「…あいつは」
それから髪を掻き回し、晴香が街の灯りに消えるまで。
八雲はその背中を見守った。
end.
書いていて晴香が八雲に対して「狼さん」なのか「八雲君」なのか。
敬語なのかそうじゃないのか。
分からなくなってきたので、晴香ちゃんには成長してもらいました。
それに、そろそろ名前で呼び合っても良い頃かなと。
今までも名前で呼び合うことはあったでしょうがね。
笑いが止まらなくなるキノコが生えていたり。
迷ってしまったら最後、二度と出られなくなってしまう洞窟があったり。
方位磁石が効かなくなるという噂もありました。
そして何より恐れられていたのは、赤い左目を持つ凶暴な狼がいるということ。
退治に出かけた猟師が未だに帰らないと弟子の男が泣きながら喚いていたそうです。
「腹を空かせた狼が、今か今かと人が来るのを待っている」
街の住人は口々にそう言い、森に立ち入ることはありませんでした。
しかし一人の少女だけは違いました。
少女は世間で“狼”と恐れられる男といつも一緒にいたのです。
うっそうと木々が生い茂る森の中。
今宵は新月で、街明かりが届かない森の中は闇に包まれている。
晴香ははぐれないようにと掴んだシャツの袖を、きゅっと握った。
「———って噂があるんです」
「残念だが僕に人食の趣味はない」
晴香から聞いた自らの噂話に、八雲は肩を竦める。
晴香も「そうですよねー」と返し頬を膨らます。
「まったく…狼さんのこと、何にも知らないくせに…」
八雲は苦笑していたが、滅多に聞かない晴香の愚痴に新鮮味を感じていた。
「それが世間というものだ」
「でも…!」
「僕はもう慣れた。それに君が気にすることじゃない」
何か言いたそうに口を開けた晴香だが、言葉が出てくることはなかった。
八雲は晴香の歩く速度に歩みを合わせ進む。
それに合わせて、赤色のマフラーと尾がゆらゆら揺れた。
それから数十分もしないうちに八雲は足を止めた。
「ほら、着いたぞ」
森がひらけたそこは花畑だった。
冬ということもあり、あまり花は咲いていないため野原に近い。
少しだけ咲いた花もこれだけ暗いと色さえ分からず、勿体無い気もした。
しかし用は花畑にあるのではない。
「わぁ…!」
空を見上げた晴香は思わず嘆声の声を上げる。
八雲は晴香のお願いで、天体観測に付き合っていた。
どうやら流星群がやってくるらしい。
本当は姉の綾香と街の観測所に行く予定だった。
しかし綾香が風邪を引いてしまい、中止になってしまった。
そして晴香にお願いされたのが今日の昼間のこと。
晴香は掴んでいたシャツの袖を離し、花畑へと駆け出す。
シャツの袖から晴香の指が離れるとき。
寂しげに皺の寄った袖を見つめる自分に驚いた。
「すごい!すごい…!」
空を見上げ過ぎた晴香はよろけ、そのまま尻餅をついて花畑の上に寝転がる。
見上げた夜空には幾千幾万もの星が輝く。
一面の星空という言葉がぴったりだった。
邪魔をしないよう、八雲は大木に寄りかかり晴香を見守る。
そして先ほど晴香に言われたことを思い出す。
(凶暴な狼、か)
あながち間違っているわけではない。
人を食うというのも…
彼女と出会ったときのことを思い出し苦笑を浮かべる。
そう、ここが全てのはじまりの場所だった。
思えば彼女にとってとんだファーストコンタクトだったであろう。
出会って早々にヘンナコトをされそうになったのだ。
普通ならば二度とこの森に近付かないはず。
なのに彼女はやってきた。
にこにこ笑いながら、助けてくれたお礼にと焼いたパンを持ってきた。
流れ星を見つけた晴香は草の上に寝転がりながら手を合わせた。
お姉ちゃんの風邪が早く治りますように。
そっと閉じた目が開くと、そこには悲しそうに歪められた八雲の顔があった。
「君は僕が怖くないのか?」
気付くと彼女の視界を遮っていた。
覗き込んだ顔は困惑とも取れる笑みを浮かべている。
「何を言ってるんですか」
組まれた指が解け、八雲の頬に這う。
冷たい夜に震える唇に指先が触れた。
「狼さんは優しいです」
慰めるように唇を撫でる指先がこそばゆく、八雲は小指に噛みつく。
「たまに意地悪だけど」
くすりと笑って離れる指先。
髪に埋もれた人とは違う耳に触れられた八雲は思わず口を結う。
それから晴香は寝癖だらけの頭を撫でた。
じわじわと襲ってくる心地よさに目を閉じていると、指先が瞼に触れた。
「それに、そんな綺麗な目を持った人が悪い人なわけありません」
そう口にした晴香は、深い意味もなかったのだろう。
おはようと言われたら「おはよう」と返すように。
いただきますと言われたら「どうぞ召し上がれ」と返すように。
「人、でいいのかな?」と八雲の下で一生懸命に考えていた。
だから今にも泣き出しそうな八雲を見て、慌てて引き寄せた。
「どうしたの?大丈夫?」
「ちょっと目にゴミが入っただけだ」
誤魔化そうとしたが、目前にまで迫った晴香に嘘は通じない。
何も言わず、子をあやすように背中を叩かれた八雲は晴香に身を任せた。
鼻先を擽る草の匂いが、今は少しだけ心地がよかった。
二人は並んで空を見上げていた。
繋いだ指の間は風すらも通り抜けることが出来ない。
一面に広がる星空を見ていると、まるで自分が宇宙に漂っているかのように思えてくる。
闇と小さな輝きだけの世界。
はぐれないようにと、繋いだ手を握りしめる。
何も言わずに晴香は握り返してくれた。
僕は、一人じゃない。
流れる星を前に、八雲はそっと目を閉じた。
「今日はありがとうございます、狼さん」
晴香は頭を下げる。
背後に見える街の灯りに八雲は目を細めた。
「…いい加減、その呼び方はやめろ」
「えっ?」
顔を上げた晴香が見たのは、髪を掻きながら目を逸らす八雲の姿。
「呼び方って…」
「名前で良い」
「え、えぇっと…」
困惑した晴香はとりあえず、声には出さずに口の中で呼んでみた。
(これは、恥ずかしい…!)
呼んでもいないのに頬を染め、俯いてしまう。
俯いた晴香に八雲は首を傾げる。
逆光のため顔が赤いことに気付かれなかったのが唯一の救いだ。
見つめられるのに堪えきれず、晴香はふんと鼻を鳴らして八雲を見上げた。
「じ、じゃあ…!……八雲、君」
徐々に小さくなる声に八雲は吹き出す。
予想以上の間抜け面で、笑いを堪えるのに必死で肩が震えた。
笑われた晴香はますます赤くなる。
暗闇でも分かるその顔に、八雲は声に出して笑った。
「もう馬鹿!知らない!」
頭巾を引き寄せ顔を隠す晴香に、八雲は覗き込もうと手を伸ばす。
右手は左手を。左手は右手を。
いとも簡単に捕まえた手首は顔の横にずらされる。
頭巾は被ったままだが、晴香の顔が目元まで赤いのは十分に分かった。
「意地悪、ですっ」
「その敬語もやめろ」
「………」
何も返さない晴香に八雲は肩をすくめ、触れるだけの優しいキスをした。
「帰ったら早く寝るんだぞ」
腕を解放してやると晴香は一目散に街の灯りへと駆けて行く。
君と僕との境界線。
あっちの灯りは人が暮らす世界。
暗い暗い森の中。ここでしか僕の存在は許されない。
離れてゆく背中を見つめていると、唐突に晴香が振り返った。
「今日はありがとう!…八雲君!」
口の横に手を当て大声で叫んだ晴香は、逃げるようにまた走り出す。
八雲は思わず目を見開いた。
「…あいつは」
それから髪を掻き回し、晴香が街の灯りに消えるまで。
八雲はその背中を見守った。
end.
書いていて晴香が八雲に対して「狼さん」なのか「八雲君」なのか。
敬語なのかそうじゃないのか。
分からなくなってきたので、晴香ちゃんには成長してもらいました。
それに、そろそろ名前で呼び合っても良い頃かなと。
今までも名前で呼び合うことはあったでしょうがね。
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