忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

八雲で赤頭巾。

二週連続で赤頭巾パロです。
きっと、次回も赤頭巾。

赤頭巾パロ。

しんしんと降り積もる雪の上を晴香は目的地目指して駆ける。


森に入ってしばらく進んだ先にある秘密の花園。

彼と私が出逢った、はじまりの場所。


そこにそびえ立つ樹齢何百年の一本桜の下。

八雲と晴香は待ち合わせの約束をしていた。






待ち合わせ場所に先に辿り着いたのは晴香だった。
時間にルーズな彼のことだから予想はしていたけれど。

バスケットから鏡を取り出した晴香は、髪型を整える。
ここまで走ってしまったため、早起きして整えてきた髪が台無しだ。


晴香でも迷わずに辿り着けるこの場所。

少し前までは八雲に家の裏まで迎えに来て貰っていた。
しかし先日、綾香に見つかり、それ以来この場所が二人の待ち合わせ場所となっていた。



「狼さん、まだかなぁ」

木に寄りかかりながら時計を確認する晴香。
雪の積もった花畑の上をウサギがぴょんぴょんと跳ねる。

何か思い当たったように声を漏らした晴香は、雪を蹴る足を見つめた。

「……八雲君、まだかな」

言い直した言葉に晴香は赤面する。
本人がいなくても、名前で呼ぶのはやっぱり恥ずかしい。

そのときウサギが草むらに飛び込む。
背後に気配を感じ振り返ると、そこには三角の耳とふさふさの尾を持つ八雲がいた。

「お、おはよう!」

聞かれちゃったかなと鼓動が速まったが、その心配はなかったよう。
相変わらずの眠たそうな目は、いつにも増して重たそうである。

「狼さん?」

不思議に思い声をかけると睨まれ、慌てて「八雲君」と言い直す。
練習しても頬はやっぱり朱色に染まった。

からかわれるかと思った晴香は俯くも、八雲は何も言わない。


やっぱりおかしい。

まじまじ八雲を見ていると、微かだが震えていることに気が付く。


「どうしたの?」

八雲は鼻をすすると素直に答えた。

「崖から落ちた」

「えっ」

「気を失っていたら、雪に埋まった」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って」

それから八雲に聞いたことも合わせ、整理するとこういうことだった。


昨夜、夜の散歩に出た八雲は崖の縁を歩いていたそう。
すると足元の雪が崩れ、そのまま崖の下まで滑り落ち意識を失ってしまい。

目が覚めると朝で、雪の中に埋まっていたそうだ。


大きな怪我をしていないことを確認し、晴香はほっと胸を撫で下ろす。
多少の擦り傷はあるようだが、命の心配はなさそう。

「八雲君って意外とドジなんだね」

名前で、敬語もなしで言ってやったのに八雲に睨まれる。

「僕のことはいい。今日はどこに行きたい?」

そう言って握られた手があまりにも冷たくて、晴香はぎょっとした。
思わず手を離すとまた八雲に睨まれた。

「ち、違うの!手…っ!」

「?」

八雲は自らの手を見る。

「何がおかしい?」

「ひゃぁっ!」

冷たい手で首に触られ、思わず晴香は声を漏らす。
けらけら笑う八雲にお返ししてやろうと、触れた八雲の首の熱さに晴香はまたぎょっとした。

「狼さん!」

頭を両手で挟み無理矢理引き寄せ、額と額をコツンと合わせる。

いつもはキスやらなにやら。
これ見よがしに襲ってくる八雲が、今日は別人のように大人しかった。


「熱があるじゃない…!」






晴香に手を引かれ辿り着いたのは彼女の家。
誰かに見られたらどうするんだという心配をよそに、八雲は風呂に押し込まれた。

「すごい匂いだ」

自らから放たれる石鹸の匂いに顔を歪め、風呂場から出る。
嗅覚の優れた八雲にとって、石鹸の匂いは強かった。

「……?」

入るときに脱いだシャツが無い。
…代わりに見知らぬジャージが畳まれており、八雲は眉を寄せる。

隣では洗濯機がごうんごうんと音を立てながら回っていた。

「これを着ろということか?」

とりあえずジャージに袖を通し、廊下に出る。
準備のいいことに下着まであり八雲は驚いた。


着慣れぬジャージの肌触りがざわざわとくすぐったい。
とにかくどこへ行けばいいものかと辺りを見渡した。



彼女の家に来るのははじめてではない。

しかし入ったことがあるのは彼女の部屋だけ。
しかも泥棒のように窓からの侵入。

それ以外の場所に立つことがなければ、立つ資格もない。

玄関から入ることすら初めての八雲は、見慣れぬ匂いに思わず身構えた。


そんな八雲に安堵をもたらしたのは、赤い頭巾を掛けた晴香だった。

「こっちこっち」

ドアからひょいと顔を出し手招きをする。
大人しく着いていった先は、嗅ぎ慣れた匂いで溢れる晴香の部屋だった。

けれど八雲はそわそわと落ち着かない。
晴香が首を傾げるとぼそっと八雲は訪ねた。

「君の家族はどうした」

「お昼のピーク時だから、みんなお店の方です」

「君は手伝わなくていいのか?」

「私が手伝うとますます仕事が増えちゃうので」

苦笑を浮かべる横顔がどこか寂しげに見えたのは気のせいか。
顔を上げた晴香はいつもの元気が取り柄の晴香だった。

「サイズが合ってたみたいでよかった!」

言いながら晴香はジャージのファスナーを上まで締める。
息苦しさに堪えながら、このジャージはなんだと目で訪ねる。

「狼さんがお風呂に入ってる間に買ってきたの!」

「な・ま・え」

「……もう!八雲君、がお風呂に入ってる間に買ってきましたっ!」

「僕のシャツはどうした」

「洗濯中です」

腕を引かれ無理矢理座らせられる。
途端に聞こえるごおという音に、八雲は尾を膨らました。

「な、なんだそれは!」

飛び起きた八雲は同じように座っていた晴香を睨む。
手にはドライヤーが握られている。

「そのままじゃ、ますます悪化する一方ですよ」


そこで自らが風邪をひいていることを思い出した。
風邪のひき始めなのか自覚がない。

少し体が重いような気もするがつらくはない。
さっきまで寒かった体も、シャワーを浴びたおかげですっかり暖まった。


「ドライヤーは怖くないよ、大丈夫だよ」

ちちちと舌を鳴らす晴香が、犬や猫を構う姿に見えるのは気のせいか。
大人しく座る八雲の尾に晴香は温かい風を送る。

毛の量が多いため、乾かすのに時間がかかった。
八雲は晴香の作ってくれたお粥を口にしながら、乾くのを待った。


「そういえば」

思い出したとぽんと手を叩く。

「狼さ…じゃなかった八雲君のポケットにこんなのが入ってたんだけど」

晴香は机の上から一輪の白い花を見せた。
明らかに八雲の表情が変わったのを見逃さない。

「これ、どうしたんですか?」

花を手に、八雲に躙り寄る。
後ろへ下がった八雲だがそう広くはない部屋。
すぐに背中が壁に付いた。

逃げ場を失った八雲は顔を背ける。



八雲と縁のない花。

八雲のこの聞かれたくないという表情。


かわいいものは虐めたくなる。

晴香の知らない感情が心の内からじわりじわりと染み渡り。



「かわいい!」

「!?」


ぎゅっと八雲を抱きしめた。

「狼さん狼さん、このお花はどうしたんですか?」

「……なまえ」

少し前の八雲とは大違い。
いつもはぴんと張った耳も弱気に垂れていた。


「教えて、八雲君?」

呼ばれた名前に含まれた甘い雰囲気に、八雲は頬を染める。

「…君にあげようと思って」

「もしかして、このお花を取るために崖に近付いたんですか?」

「………」


何も言わないのは肯定。

「大好き!」と飛びついてきた晴香の肩に、八雲はまた頬を染めた。






end.



続きます。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
[599]  [598]  [597]  [596]  [595]  [594]  [593]  [592]  [591]  [590]  [589
カレンダー
09 2025/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
朝田よる
性別:
非公開
ブログ内検索
最新コメント
[05/23 ひなき]
[09/13 murasame]
[07/19 delia]
[06/27 delia]
[05/20 delia]
忍者ブログ [PR]