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八雲で赤頭巾ちゃんパロ。

前回の続きとなっていますので
一つ前のお話と一緒にお読み頂ければ幸いです。

八雲/赤頭巾パロ

「暑い。苦しい。離れろ」



堪えきれない。


腕に当たる柔らかい肉の感触だとか、腿に掠めるこれまた柔らかい肉だとか。

降参だと言わんばかりに八雲は両手をあげた。






風邪のせいか調子が狂って仕方がない。

いつもだったら向こうから着たのを良いことに抱き締め返してやっただろう。
それでスカートの中に手を入れたり、胸を揉んだり…

しかし八雲にそんな元気は残っていなかった。


「花瓶に入れてくるから、狼さんはベットで寝てて下さいね」

そう言い残し、腕の中のぬくもりは去っていった。

湯たんぽのように暖かいそれがいなくなったせいか、やけに寒い。

自らを抱き締めるように腕をさすり、お言葉に甘えて布団に潜る。

「やっぱり、慣れないことはするもんじゃないな…」


人に恐れられている狼が、花を贈るだなんて。

崖から落ちたのもこの風邪も、すべて慣れないことをしたせいかもしれない。



天井を見上げた八雲は、目の上に腕を置いた。
蛍光灯が眩しくて、くるくると視界が回る。

しかし安心しているのは確か。

布団から伝わる彼女の匂い。
彼女の匂いに包まれて体がふわふわと浮かんでいるよう。

「いい匂いだ…」

たまには嗅覚の優れた鼻を褒めてやっても良いと思えた。



戸が開く音に八雲は現実に戻る。
晴香に弱みを見せたくなくて、口を結んだ。


しかし聞こえてきたのは晴香の歌うような声ではなく。


「どちらさま?」


晴香の母である恵子の声だった。

恵子を目に捉えた八雲は一拍遅れてしまったと息をのむ。


人に見つかった。

人に見つかった。



頭の中で警報が鳴る。

逃げようと膝を立てるがうまく力が入らない。


ここが森ならば。
風邪をひいてなければ。
一人じゃなければ。

こんなにも焦らなかった。


裸足の足にシーツはよく滑る。
悲鳴がくるか罵声がくるか、それとも物が飛んでくるか。


くるであろう痛みに待機する八雲が聞いたのは、歓喜の声だった。

「あら!もしかして噂の狼くん!?」

予想だにしない声色に、八雲は眉を寄せる。
逃げようと力む手足が一気に崩れた。

「あらあらあら!まあまあまあ!」

顔を覗き込まれる。
久しぶりに見る彼女以外の人間の姿に、体がびくりと跳ねた。

「狼だから厳つい子かと思ってたけど…なかなかのイケメンじゃない」

痛みは「晴香ってばもうっ」という声とともに背中にやってきた。
咳込む八雲に恵子はごめんなさいねと背中をさする。
八雲の体が氷のように固まる。


「お待たせ———ってお母さん!?」

そこにやってきた救世主は晴香だった。
部屋にいる母の姿に驚き、それから八雲の存在を思いだし駆け寄る。

動かない八雲を見て、恵子の間に割り込む。
「大丈夫」と声をかけてやっと、八雲は「あぁ」と尾を一振り揺らした。

「こちら狼さ———」

鋭い視線が背中に突き刺さるのが分かった。

「こちら、えっと…恋人の、八雲君…です」

母親に恋人を紹介する晴香は、首まで赤く染まる。
最後の方はごにょごにょと優れた耳を持つ八雲でも聞き取れなかった。

「はじめまして。晴香の母の恵子です」

くすくすと笑っていた八雲も恵子が頭を下げたのを見て軽く会釈する。
おどろおどろしい態度に晴香は寝ている八雲を庇う。

「お、狼さんは狼さんでも、いい狼さんだよ」

「そんなのわかってるわよ」

恵子は肩を竦める。
八雲と晴香は、鳩が豆鉄砲をくらったような表情をした。

「だってあなたがそんなにも懐いてるんだもの。良い子に決まっているわ」

「…!」

「懐いてるって…人を動物みたいに言わないでよ」

「あら、懐いてるのは本当でしょ?」

「そ、そんなこと…」

「いつも森から帰ってくると『狼さんがー狼さんがー』って」

「あああ!もういい!言わないで!」


晴香は耳を塞ぐ。
母と子の姿に見惚れていた八雲も、小さく噴き出した。

「やっと笑ったわね」

恵子に言われ慌てて顔の筋肉を引き締める。

「…挨拶が遅れました。八雲です」

晴香は睨む。先程のお返しと言わんばかりに。

「………。こいつの恋人の、八雲です」

晴香は満足げに歯を出して笑い、それから母に気付いて頬を赤くした。

「それで、その八雲君がどうして晴香のベッドで寝ているのかしら?」

楽々と娘より先に恋人の名を呼ぶ母。

にやりと怪しく笑う母の姿は、嫁入り前の娘を心配しているのではない。
下世話な妄想をしている。

「えっ!ちょ、違うの違うの!これは狼さんが」

恵子は明らかにこの場を楽しんでいる。
慌てふためく晴香の姿に八雲はため息を吐いた。
支離滅裂ながらも八雲がここにいる理由を話すと、恵子は大きく頷く。

「お父さんたちには黙っててあげるから、早く元気になりなさい」

「………すいません」

八雲は頭を下げた。
隣にいる晴香は、どこか様子の違う八雲に眉を寄せる。

はっきりとは分からないが、八雲の回りだけピリピリとしているようだ。
警戒しているのかなと思うと、少しだけ悲しくなった。

母親だからとかではなく、人間が嫌いなことに対して。



「じゃあ、あとは若い二人に任せて」

「ちょっと何か勘違いしてるでしょ!」

それから語るにもくだらない雑談をし、恵子は店へと戻っていった。
まったく…と言いながらも、恵子に貰ったスポーツ飲料を八雲に渡す。

「ごめんね、騒がしくて」

晴香は机に置いたままだった花瓶を窓際に置く。
白い花が花瓶の縁を滑り、ベストポジションを見つけ出す。

「君の方が子犬のようにきゃんきゃん騒がしかったぞ」

「逆に、狼さんは借りてきた猫みたいに静かでしたねーっ!」

べーっと八雲に向けて舌を出す。
しかし八雲は皮肉の一つも返してはくれず、それ以上会話は続かなかった。

ベッドサイドに腰を下ろし、額の上の濡れタオルを取り替える。
焦点の定まらない目が宙を見上げる。

「早く元気になってね、八雲君」

熱い額にキスを落とし、そこを隠すようにタオルを置いた。

「唇がよかったな」

「もう!それは風邪が治ってからです!」


くくっと堪えるように笑う八雲はいつもの八雲だった。






end.



風邪っぴき狼さん。

ついに他人と絡めてみました…!
今年は少しずつでも、彼らの関係を進めてやりたいと思います!

長い間おつきあいどうもでした!
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