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八雲で魔法使いパロです。
猫の日記念に上げようとしたのですが、
今年もまた逃してしまいました。
ぐぬぬ…来年こそはがんばろう。
八雲/魔法使いパロ
猫の日記念に上げようとしたのですが、
今年もまた逃してしまいました。
ぐぬぬ…来年こそはがんばろう。
八雲/魔法使いパロ
「猫を、探しているんです」
雨の中、男は傘も差さず静かに微笑を浮かべていた。
「こらっ!」
少女に一喝された黒猫は目を見開き飛び跳ねる。
丸くなった黒と赤の瞳に少女、晴香の姿が映り込んだ。
しかしそれも一瞬のこと。
錘が付いたように落ちてゆく瞼に、目はあっという間に糸のように細くなる。
「八雲君ってば、また包帯解いちゃって!」
ぷんぷんと頬を膨らました晴香は、子供のように声を上げた。
口ではそう言いながらも、晴香の心情にモヤモヤしたものはない。
辛うじて黒猫の前足に引っかかた白い帯を、指に巻き取っていく。
揺れる包帯に興味を示す八雲の姿は猫そのもの。
体は動かさず頭だけが包帯の動きに合わせて揺れている。
今にもまっくろな拳が包帯を追いかけて、猫パンチを決めそうだ。
しかし、その正体はただの猫ではない。
──“魔法使い”である。
そういえばあの日も今日みたいな雨の日だったなぁ…
包帯を巻きながら、晴香は八雲と出会った日のことを思い出していた。
視線は上の空でも、手はけむくじゃらの前足に包帯を巻き続ける。
ここ数週間で包帯を巻くのも随分と手慣れてきた。
最初は苦労したたものの、最近では緩すぎず締め付けすぎず。
良い案配で巻いてやることが出来ている。
始めのうちは嫌そうに表情を歪めていた八雲も、今ではすっかり晴香に任せきり。
時が経つにつれ瘡蓋は縮まり、八雲の痛みも和らいでいるようだった。
痛かったから暴れていた、というのも一理あるだろう。
少しずつ完治していく八雲の姿を、晴香は母親のように温かく見守っていた。
「怪我が治ったら、八雲君はどこに行くの?」
手を動かしながら何気なく八雲に訪ねる。
猫の姿をしている八雲が答えてくれないことは十分に知っていた。
話せないのか話したくないのかは知らない。
後になって思えば、答えがないからこそ尋ねたのかもしれない。
「八雲君はどこから来てどこに行くんだろうね」
晴香の問いにも答えない。
八雲は成されるがまま、包帯の端を見つめ大人しくしていた。
しばらく晴香は一方的に話しかけていた。
友達がまた彼氏と別れたこと。
雨で外での体育がなくなったこと。
跳ねた髪が一日中直らなかったこと。
八雲はときどき、相槌を打つように太い尾をぺたんと床に叩きつけていた。
しかし、それ以外に目立った反応は見せてくれない。
聴いてるのか聴いてないのか。
晴香には知る術もない。
やっと反応を見せたのは、後少しで包帯を巻き終えるという頃だった。
今日一日の出来事を振り返る晴香が「そういえば」と天井を見上げる。
「へんな人にあったなぁ」
三角形の形をした八雲の耳がぴくりと揺れる。
包帯を巻き終えると同時に八雲は身を起こした。
興味津々な八雲を横目に、晴香は“へんな人”の姿を脳裏に浮かべた。
雨の音とともに、少しずつ記憶がフラッシュバックする。
ぼんやりとした映像の中、地面に叩きつける雨の音だけが鮮明に聴こえた。
「雨なのに傘も差さずに立ってた」
その男は雨の中、傘も差さずに立っていた。
髪は頭の形に沿っていて、元の髪型がわからない。
伏せられた目元にはサングラスが掛かり、どこを見ているのかも分からない。
なのに視線を感じた。
我ながら矛盾しているとは思うが、確かに感じたのだ。
「全身黒いし、誰かさんと同じ黒猫みたいな人だったよ」
僕は猫じゃない。魔法使いだ。
いつもの突っ込みを期待したが、待てどもその言葉を聞くことは出来ない。
そういえば喋れないのだった。
今の姿が猫であることを思い出した矢先。
八雲は煙を撒いて人の姿に変化した。
白くて骨張った腕に包帯がだらしなくぶら下がる。
それを見た晴香は落胆の声を上げる。
「包帯っ!」
「その男、何か言ってなかったか?」
哀れな包帯を見つめ、落ち込む晴香に八雲は訪ねる。
気のせいか覗き込む黒と赤の瞳は険しいものに見えた。
「そういえば…猫を探してるとかなんとか…」
晴香の言葉を聞き、八雲は明らかに表情を変えた。
整った眉の間に皺を寄せ、顔のパーツが中心に寄る。
そのまま雨が降り注ぐ窓の外を振り返り見つめていた。
「八雲君…?」
包帯の件で説教をしようとしていた晴香は、あまりにも真剣な眼差しに首を傾げた。
「長くはここにいられない」
「えっ?」
思わず聞き返す。
突然のことに晴香は動揺を隠せない。
八雲は静かにこちらを振り向きながら目を伏せた。
外と長い睫の向こうで、黒と赤の瞳が揺れているのに晴香は気付かない。
「長くここにいたら、いつか君に迷惑がかかる」
只ならぬ雰囲気に晴香は問いかける。
「食費のこと?」
慌てて否定する。
「猫缶一つくらい大丈夫だよ」
「そういう意味じゃない…」
「包帯巻くのだって慣れてきたから、そんなに嫌じゃないし…」
八雲は雨でより一層膨らんだ髪を掻いた。
右手にぶら下がった包帯がしゅるりと床の上に落ちる。
何が私に迷惑がかかっているのか。
晴香は一生懸命考えた。
しかし張本人である晴香は何も困っていないのだ。
答えなど出るわけがない。
「とにかく君に迷惑がかかるんだ」
「別に私は構わないよ」
晴香は床の上に落ちた包帯を拾い上げる。
「私は迷惑してないもん」
触れた八雲の手は白く、とても冷たかった。
その手を暖めるように両手で包み込んだ晴香は、祈るように引き寄せ、瞳を覗き込んだ。
どうしてこんなにも必死になってくい止めているのか。
たった数週間の付き合いではないか。
怪我が治った野良猫を、自然に返してやるだけだ。
これは普通のことである。
しかし晴香はそれが出来なかった。
理由もなく手放したくないと強く思う自分自身に、晴香が一番驚いていた。
それから数日後。
八雲は何も言わずにいなくなった。
end.
たぶん続きます。
雨の中、男は傘も差さず静かに微笑を浮かべていた。
「こらっ!」
少女に一喝された黒猫は目を見開き飛び跳ねる。
丸くなった黒と赤の瞳に少女、晴香の姿が映り込んだ。
しかしそれも一瞬のこと。
錘が付いたように落ちてゆく瞼に、目はあっという間に糸のように細くなる。
「八雲君ってば、また包帯解いちゃって!」
ぷんぷんと頬を膨らました晴香は、子供のように声を上げた。
口ではそう言いながらも、晴香の心情にモヤモヤしたものはない。
辛うじて黒猫の前足に引っかかた白い帯を、指に巻き取っていく。
揺れる包帯に興味を示す八雲の姿は猫そのもの。
体は動かさず頭だけが包帯の動きに合わせて揺れている。
今にもまっくろな拳が包帯を追いかけて、猫パンチを決めそうだ。
しかし、その正体はただの猫ではない。
──“魔法使い”である。
そういえばあの日も今日みたいな雨の日だったなぁ…
包帯を巻きながら、晴香は八雲と出会った日のことを思い出していた。
視線は上の空でも、手はけむくじゃらの前足に包帯を巻き続ける。
ここ数週間で包帯を巻くのも随分と手慣れてきた。
最初は苦労したたものの、最近では緩すぎず締め付けすぎず。
良い案配で巻いてやることが出来ている。
始めのうちは嫌そうに表情を歪めていた八雲も、今ではすっかり晴香に任せきり。
時が経つにつれ瘡蓋は縮まり、八雲の痛みも和らいでいるようだった。
痛かったから暴れていた、というのも一理あるだろう。
少しずつ完治していく八雲の姿を、晴香は母親のように温かく見守っていた。
「怪我が治ったら、八雲君はどこに行くの?」
手を動かしながら何気なく八雲に訪ねる。
猫の姿をしている八雲が答えてくれないことは十分に知っていた。
話せないのか話したくないのかは知らない。
後になって思えば、答えがないからこそ尋ねたのかもしれない。
「八雲君はどこから来てどこに行くんだろうね」
晴香の問いにも答えない。
八雲は成されるがまま、包帯の端を見つめ大人しくしていた。
しばらく晴香は一方的に話しかけていた。
友達がまた彼氏と別れたこと。
雨で外での体育がなくなったこと。
跳ねた髪が一日中直らなかったこと。
八雲はときどき、相槌を打つように太い尾をぺたんと床に叩きつけていた。
しかし、それ以外に目立った反応は見せてくれない。
聴いてるのか聴いてないのか。
晴香には知る術もない。
やっと反応を見せたのは、後少しで包帯を巻き終えるという頃だった。
今日一日の出来事を振り返る晴香が「そういえば」と天井を見上げる。
「へんな人にあったなぁ」
三角形の形をした八雲の耳がぴくりと揺れる。
包帯を巻き終えると同時に八雲は身を起こした。
興味津々な八雲を横目に、晴香は“へんな人”の姿を脳裏に浮かべた。
雨の音とともに、少しずつ記憶がフラッシュバックする。
ぼんやりとした映像の中、地面に叩きつける雨の音だけが鮮明に聴こえた。
「雨なのに傘も差さずに立ってた」
その男は雨の中、傘も差さずに立っていた。
髪は頭の形に沿っていて、元の髪型がわからない。
伏せられた目元にはサングラスが掛かり、どこを見ているのかも分からない。
なのに視線を感じた。
我ながら矛盾しているとは思うが、確かに感じたのだ。
「全身黒いし、誰かさんと同じ黒猫みたいな人だったよ」
僕は猫じゃない。魔法使いだ。
いつもの突っ込みを期待したが、待てどもその言葉を聞くことは出来ない。
そういえば喋れないのだった。
今の姿が猫であることを思い出した矢先。
八雲は煙を撒いて人の姿に変化した。
白くて骨張った腕に包帯がだらしなくぶら下がる。
それを見た晴香は落胆の声を上げる。
「包帯っ!」
「その男、何か言ってなかったか?」
哀れな包帯を見つめ、落ち込む晴香に八雲は訪ねる。
気のせいか覗き込む黒と赤の瞳は険しいものに見えた。
「そういえば…猫を探してるとかなんとか…」
晴香の言葉を聞き、八雲は明らかに表情を変えた。
整った眉の間に皺を寄せ、顔のパーツが中心に寄る。
そのまま雨が降り注ぐ窓の外を振り返り見つめていた。
「八雲君…?」
包帯の件で説教をしようとしていた晴香は、あまりにも真剣な眼差しに首を傾げた。
「長くはここにいられない」
「えっ?」
思わず聞き返す。
突然のことに晴香は動揺を隠せない。
八雲は静かにこちらを振り向きながら目を伏せた。
外と長い睫の向こうで、黒と赤の瞳が揺れているのに晴香は気付かない。
「長くここにいたら、いつか君に迷惑がかかる」
只ならぬ雰囲気に晴香は問いかける。
「食費のこと?」
慌てて否定する。
「猫缶一つくらい大丈夫だよ」
「そういう意味じゃない…」
「包帯巻くのだって慣れてきたから、そんなに嫌じゃないし…」
八雲は雨でより一層膨らんだ髪を掻いた。
右手にぶら下がった包帯がしゅるりと床の上に落ちる。
何が私に迷惑がかかっているのか。
晴香は一生懸命考えた。
しかし張本人である晴香は何も困っていないのだ。
答えなど出るわけがない。
「とにかく君に迷惑がかかるんだ」
「別に私は構わないよ」
晴香は床の上に落ちた包帯を拾い上げる。
「私は迷惑してないもん」
触れた八雲の手は白く、とても冷たかった。
その手を暖めるように両手で包み込んだ晴香は、祈るように引き寄せ、瞳を覗き込んだ。
どうしてこんなにも必死になってくい止めているのか。
たった数週間の付き合いではないか。
怪我が治った野良猫を、自然に返してやるだけだ。
これは普通のことである。
しかし晴香はそれが出来なかった。
理由もなく手放したくないと強く思う自分自身に、晴香が一番驚いていた。
それから数日後。
八雲は何も言わずにいなくなった。
end.
たぶん続きます。
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