×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
八雲で八晴です。
本日で当サイトも四周年でございます…!
そんな記念日なので、八雲と晴香の記念日のお話です。
八雲/八晴(恋人設定)
本日で当サイトも四周年でございます…!
そんな記念日なので、八雲と晴香の記念日のお話です。
八雲/八晴(恋人設定)
手帳を眺める晴香の口の端が、くいっと吊り上がった。
これでもせいいっぱい堪えたつもり。
だけど目の前に座る八雲には見破られてしまい。
まるで気持ちの悪いものを見るような目で見られてしまった。
昼下がりの大学は騒がしい。
食堂へ向かう幾多数の足音。
ベンチに腰を掛け談笑する声。
悲鳴とも歓声とも取れる奇声が何の前触れもなく上がっては消える。
けれどこの場所、B棟裏手の部室棟。
映画研究同好会の部室内はとても静かだった。
薄い壁越しにそれらの音が届く。
周りの喧騒と相対しているせいか、部屋の中はよりいっそう静寂に包まれているよう。
薄い紙を捲る音がまるで衣擦れの音のように聞こえた。
晴香は赤い表紙の手帳に目を落としていた。
四角い枡の中は鮮やかな色の文字で溢れている。
今にも踊り出しそうな文字たちは、まるで晴香の心の中を現しているよう。
文字の色だけではない。
書かれている文の意味も、晴香の心を踊らせているのだった。
「…一体君は何をしている」
突然声を掛けられた晴香は「えっ」と顔を上げる。
八雲は眉も口も歪めて晴香を、不審な眼差しで見やっていた。
「気持ちが悪い」
そして一言そう言った。
手帳を見て一人にやにやと不気味に笑う女。
誰だって八雲と同じ顔になるだろう。
しかし…
「彼女にその言葉はないんじゃないの?」
“彼女”───
自らが発したたったのその一言に、頬が盛大に緩まったのは言うまでもない。
否定されないのが、無性に嬉しい。
八雲もどこか照れくさそうに目を逸らしたが、晴香は気付かなかった。
心の奥で苦虫を噛んだ八雲はせめてものお返しと、次のように言った。
「僕の彼女なら、一人で気持ち悪い顔をするな」
「……うん」
まさか八雲の口から“彼女”という言葉が聞けるだなんて。
晴香はもぞもぞと膝を摺り合わせ、小さく縮こまった。
八雲に話しかけられるまで晴香は顔を上げることが出来なかった。
「それで、さっきから君は何をしている?」
「えっ…あぁ、うん。あのね…」
開いたままだった手帳に目を向ける。
書かれた文字を読んで、また口元が緩んだ。
「なーいしょっ!」
ポンと音を立てて手帳が閉じる。
八雲は不快なものを見たと言わんばかりに顔を歪めた。
それからわざとらしく身震いをして言った。
「気持ちが悪い」
「もう!そんなこと言うなら教えてあげない!」
「始めから教える気なんてなかっただろ」
「むむっ…」
黙るしかない。
晴香は口を突き出して押し黙った。
口の端をくいと上げ、くくっと笑う八雲。
八雲に故意はなかったが小馬鹿にするような姿に膨れ、机に伏せた。
話が途切れ、静寂が再び部屋を包む。
春の訪れを知らせる柔い日差しが二人を差す。
遥か彼方、どこかで誰かが誰かと話す声がする。
しばらく晴香は耳を澄ませた。
すぐ近くで何かが擦れるようなか細い音がする。
本を読む音だと気付いたのは、それから数分後のことだった。
八雲も興味が薄れてしまったのだろうか。
「内緒」とは言っていたものの、少し寂しい。
上半身を起こし、八雲と手帳を交互に見る。
赤い表紙の手帳と赤い左目の八雲。
八雲と出会ってから、無意識に赤色ばかり選ぶようになっている。
しかし晴香はそのことを知らない。
「…見る?」
焦らす間を与え、小首を傾げた。
紙の上から目を上げた八雲は髪を掻く。
それから「仕方ないな」と呟き頷いた。
吊り上がる口端をきゅっと引き締め、赤い表紙の手帳を八雲に渡した。
受け取った八雲は晴香が開いていたページに目を通す。
規則正しく左から右へと動く瞳。
初めは無表情で手帳に書かれた文字を流し見ていた八雲。
しかしそれもつかの間のこと。
少しずつ中心に集まる顔のパーツたち。
眉間に皺が寄り、口はへの字に曲がっている。
紙を捲って翌月のカレンダーも確認し、八雲の表情はますます険しいものとなった。
「これはなんだ」
四角い枠の中を八雲は指さした。
桝の中は色とりどりのペンで、短い文章が書き綴られている。
それも殆どの桝に。
たまに抜けたように空白もあるが、ごく一部のこと。
見られて恥ずかしいと言う気持ちもある。
机の下で人差し指をつい絡めてしまう。
ちらりと目を上げる。説明を求めろと言わんばかりの顔をした八雲と目が合った。
晴香は小さく首を傾けながら言った。
「きねんび?」
「キネンビ?」
「うん、記念日」
八雲が復唱する。
言葉の意味を確認するように、何度も反芻した。
「この“手を繋いだ”は?」
文字をなぞりながら尋ねる八雲。
「八雲君とはじめて手を繋いだ日だよ」
「…“ぶり大根”」
「それは八雲君が初めてぶり大根を作ることに成功した日」
「じゃあ、この“背中のホクロ”はなんだ?」
「言葉通り、八雲君の背中にホクロを見つけた日!」
胸を張りながら一つ一つ説明した。
比例するように八雲の顔が歪んでいったのは言うまでもない。
「な、なによ…」
「まさか君にストーカー趣味があったとは」
「なっ…!」
頭に血が上る。
普段はこんなにも短気じゃない。
「もう八雲君には見せないっ!」
八雲の手から手帳を奪い取った。
胸の前に抱え八雲をきっと睨みつける。
「書き写しておくようなことか?」
「だって、これは八雲君との思い出だもん」
「思い出、ねぇ…」
八雲はそう呟くと机に片肘を着き、つまらなそうに手帳を見た。
胸の前で抱える手帳をぎゅっと強く握りしめる。
恋人に否定されることほど悲しいものはない。
「私にとっては、毎日が記念日なの!」
世間ではこれを捨て台詞と呼ぶのだろう。
怒りはいつの間にか恥じへと変わり。
赤く染まった頬を隠すように、机にうつ伏せだ。
「そりゃ八雲君には理解出来ないだろうけれどさ…」
と呟くも、それが八雲に伝わることはなかった。
溜め息を吐き、本を手にする。
晴香はごにょごにょと、さきほどから何かを呟いていた。
“私にとっては、毎日が記念日なの!”
「…そんなの」
そんなの、僕だって一緒だ…
なんて、言えない。
「何か言った?」
「別に」
end.
今日は記念日!今日も記念日!
これでもせいいっぱい堪えたつもり。
だけど目の前に座る八雲には見破られてしまい。
まるで気持ちの悪いものを見るような目で見られてしまった。
昼下がりの大学は騒がしい。
食堂へ向かう幾多数の足音。
ベンチに腰を掛け談笑する声。
悲鳴とも歓声とも取れる奇声が何の前触れもなく上がっては消える。
けれどこの場所、B棟裏手の部室棟。
映画研究同好会の部室内はとても静かだった。
薄い壁越しにそれらの音が届く。
周りの喧騒と相対しているせいか、部屋の中はよりいっそう静寂に包まれているよう。
薄い紙を捲る音がまるで衣擦れの音のように聞こえた。
晴香は赤い表紙の手帳に目を落としていた。
四角い枡の中は鮮やかな色の文字で溢れている。
今にも踊り出しそうな文字たちは、まるで晴香の心の中を現しているよう。
文字の色だけではない。
書かれている文の意味も、晴香の心を踊らせているのだった。
「…一体君は何をしている」
突然声を掛けられた晴香は「えっ」と顔を上げる。
八雲は眉も口も歪めて晴香を、不審な眼差しで見やっていた。
「気持ちが悪い」
そして一言そう言った。
手帳を見て一人にやにやと不気味に笑う女。
誰だって八雲と同じ顔になるだろう。
しかし…
「彼女にその言葉はないんじゃないの?」
“彼女”───
自らが発したたったのその一言に、頬が盛大に緩まったのは言うまでもない。
否定されないのが、無性に嬉しい。
八雲もどこか照れくさそうに目を逸らしたが、晴香は気付かなかった。
心の奥で苦虫を噛んだ八雲はせめてものお返しと、次のように言った。
「僕の彼女なら、一人で気持ち悪い顔をするな」
「……うん」
まさか八雲の口から“彼女”という言葉が聞けるだなんて。
晴香はもぞもぞと膝を摺り合わせ、小さく縮こまった。
八雲に話しかけられるまで晴香は顔を上げることが出来なかった。
「それで、さっきから君は何をしている?」
「えっ…あぁ、うん。あのね…」
開いたままだった手帳に目を向ける。
書かれた文字を読んで、また口元が緩んだ。
「なーいしょっ!」
ポンと音を立てて手帳が閉じる。
八雲は不快なものを見たと言わんばかりに顔を歪めた。
それからわざとらしく身震いをして言った。
「気持ちが悪い」
「もう!そんなこと言うなら教えてあげない!」
「始めから教える気なんてなかっただろ」
「むむっ…」
黙るしかない。
晴香は口を突き出して押し黙った。
口の端をくいと上げ、くくっと笑う八雲。
八雲に故意はなかったが小馬鹿にするような姿に膨れ、机に伏せた。
話が途切れ、静寂が再び部屋を包む。
春の訪れを知らせる柔い日差しが二人を差す。
遥か彼方、どこかで誰かが誰かと話す声がする。
しばらく晴香は耳を澄ませた。
すぐ近くで何かが擦れるようなか細い音がする。
本を読む音だと気付いたのは、それから数分後のことだった。
八雲も興味が薄れてしまったのだろうか。
「内緒」とは言っていたものの、少し寂しい。
上半身を起こし、八雲と手帳を交互に見る。
赤い表紙の手帳と赤い左目の八雲。
八雲と出会ってから、無意識に赤色ばかり選ぶようになっている。
しかし晴香はそのことを知らない。
「…見る?」
焦らす間を与え、小首を傾げた。
紙の上から目を上げた八雲は髪を掻く。
それから「仕方ないな」と呟き頷いた。
吊り上がる口端をきゅっと引き締め、赤い表紙の手帳を八雲に渡した。
受け取った八雲は晴香が開いていたページに目を通す。
規則正しく左から右へと動く瞳。
初めは無表情で手帳に書かれた文字を流し見ていた八雲。
しかしそれもつかの間のこと。
少しずつ中心に集まる顔のパーツたち。
眉間に皺が寄り、口はへの字に曲がっている。
紙を捲って翌月のカレンダーも確認し、八雲の表情はますます険しいものとなった。
「これはなんだ」
四角い枠の中を八雲は指さした。
桝の中は色とりどりのペンで、短い文章が書き綴られている。
それも殆どの桝に。
たまに抜けたように空白もあるが、ごく一部のこと。
見られて恥ずかしいと言う気持ちもある。
机の下で人差し指をつい絡めてしまう。
ちらりと目を上げる。説明を求めろと言わんばかりの顔をした八雲と目が合った。
晴香は小さく首を傾けながら言った。
「きねんび?」
「キネンビ?」
「うん、記念日」
八雲が復唱する。
言葉の意味を確認するように、何度も反芻した。
「この“手を繋いだ”は?」
文字をなぞりながら尋ねる八雲。
「八雲君とはじめて手を繋いだ日だよ」
「…“ぶり大根”」
「それは八雲君が初めてぶり大根を作ることに成功した日」
「じゃあ、この“背中のホクロ”はなんだ?」
「言葉通り、八雲君の背中にホクロを見つけた日!」
胸を張りながら一つ一つ説明した。
比例するように八雲の顔が歪んでいったのは言うまでもない。
「な、なによ…」
「まさか君にストーカー趣味があったとは」
「なっ…!」
頭に血が上る。
普段はこんなにも短気じゃない。
「もう八雲君には見せないっ!」
八雲の手から手帳を奪い取った。
胸の前に抱え八雲をきっと睨みつける。
「書き写しておくようなことか?」
「だって、これは八雲君との思い出だもん」
「思い出、ねぇ…」
八雲はそう呟くと机に片肘を着き、つまらなそうに手帳を見た。
胸の前で抱える手帳をぎゅっと強く握りしめる。
恋人に否定されることほど悲しいものはない。
「私にとっては、毎日が記念日なの!」
世間ではこれを捨て台詞と呼ぶのだろう。
怒りはいつの間にか恥じへと変わり。
赤く染まった頬を隠すように、机にうつ伏せだ。
「そりゃ八雲君には理解出来ないだろうけれどさ…」
と呟くも、それが八雲に伝わることはなかった。
溜め息を吐き、本を手にする。
晴香はごにょごにょと、さきほどから何かを呟いていた。
“私にとっては、毎日が記念日なの!”
「…そんなの」
そんなの、僕だって一緒だ…
なんて、言えない。
「何か言った?」
「別に」
end.
今日は記念日!今日も記念日!
PR