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八雲で八晴。
前回の続きでございます。
しかし、この続きを書けていないので、下手したら続きがいつになることやら…
八雲/八晴
前回の続きでございます。
しかし、この続きを書けていないので、下手したら続きがいつになることやら…
八雲/八晴
「飛ばされるなよ」
「子供じゃないんだから、飛ばされるわけ───」
前を歩く晴香が頬を膨らまして振り返った時だった。
びゅんと突風が吹き荒れ、彼女の淡い若葉色をしたスカートがひらりと捲れ上がった。
「きゃあっ!」
「っ!」
それを押さえようと手を動かす。
別方向から風を受けた傘があらぬ形に折れ曲がる。
八雲はとっさに顔を逸らした。
(ピンク…)
自己嫌悪に陥る八雲をよそに、晴香は本日二本目の傘を壊した。
一つの傘に誰かと一緒に入るだなんて、いつ以来だろうか。
小中高、そして今までもそんなものとは遠縁だった八雲はふと思った。
八雲の隣には寄り添うようにして晴香がいた。
肩が触れているだとか、腕がぶつかっているだとか。
そんなドキドキした感情は、きっとかわいらしい雨のとき限定なのだろう。
横からの叩きつけるような雨の塊に、二人は身を寄せ合うようにして傘の下に収まっている。
最初は気を使っていた距離を置いていたが、今は陣取り合戦のごとし。
少しでも雨から逃れようと、二人はぴたりとくっついていた。
ドキドキも何も、ない。
「やっ、八雲君!」
「なんだ」
口の中に雨が遠慮なく入ってくる。
「着替えでも、買っていく?」
晴香が指さす先には、二階建てのスーパーがある。
着替えた方がいいのではないか。
晴香なりの考えだろう。
傘は先ほどから役立たずも同然。
無駄な出費は抑えたかったが、肌に貼り付くシャツの感触はもっと嫌だった。
「寄っていってもいいか?」
「うん!」
雨に負けじと、元気な声が聞こえた。
スーパーの一階は食料品売場で、階段を上がった二階は日用品売場だ。
そこには衣料品売場もある。
レジ近くのカゴに並べられた、赤い値札の特価品。
原価のまま買えるほど、八雲の財布は重くない。
そこには丁度、上下のジャージセットがあった。
メーカー品でもない、シンプルなジャージが何種類か並んでいる。
「えぇー、それ?」
そう言う晴香の手には、どこからか持ってきた水色の絹のパジャマ。
八雲は苦笑いを浮かべる。
「つまんない」
「僕が着るものなんだから文句をつけるんじゃない」
「…じゃあ、せめて選ばせて!」
バリエーションのない中、晴香はとても悩んでいた。
人に着るものを選んでもらうなど記憶にない。
「仕方ない」と溜め息を吐きつつ、八雲は少しだけ嬉しかった。
しかし下着コーナーへ行った途端。
晴香は急に顔色を変え、逃げるようにどこかへ行ってしまった。
「…やっぱり女なんだな」
どこかしみじみとする。
しかし、これからその女の家へ向かっているかと思うと、照れくさく顔が熱くなった。
彼女の選んでくれたジャージと自分で選んだ下着を会計し終わる頃。
ひょこりと晴香が戻ってきた。
手には買い物袋。この短い間に食料を調達してきたらしい。
二人は並んで出口に向かう。
「雨、ますます酷くなってるみたい」
「…いっそのこと、傘も差さずに帰るか」
「えっ!」
「傘があってもなくても、この天気じゃそう変わらないだろ」
言い終える前に、八雲は自動ドアを越え暴風雨の中を走り出した。
晴香もその後を慌てて追いかける。
軒下で雨宿りをする人たちが、驚いたような目でこちらを見ていた。
「うわあ…びしょびしょ…」
昇降するエレベーターの中。晴香は言った。
「………」
八雲は出来るだけ晴香の方は見ないようにしていた。
傘も差さずに走ってきたため、髪から靴の先まで全身が濡れている。
足元に水たまりが出来ていた。
いくら厚着だったからと言っても、貼り付いた服には目を向けられない。
太股に貼り付いた薄地のスカートに、何度目が向いたことか。
きっとよく見たら透けているんだろうな、と凝視しかける。
その度に自己嫌悪に襲われた。
「八雲君、先にお風呂入る?」
「風呂?」
玄関で訪ねられ、八雲は聞き返す。
「そのまま着替えても風邪ひいちゃうし、シャワーで体を温めた方が良いよ」
晴香の言うことには一理あった。
しかし、異性の家で一番風呂に入るというのはどうなのだろうか。
それよりも、異性の家で風呂に入っても良いものだろうか。
「君が先に入れば良い。食事の支度もあるんだろう?」
「…では、お言葉に甘えて」
タンスから着替えを取り出し、そそくさと脱衣所へ消えていく。
その間、八雲はタオルで体を拭いていた。
湯船に湯まで張っていてくれたのには驚いた。
久しぶりに肩まで湯に浸かり、つい長湯をしてしまった。
卸したてのジャージは肌触りがごわごわする。
上気した八雲が風呂から上がると、甘い乳臭さが鼻を擽った。
「お湯加減はいかがでしたか?」
ひよこ色のパジャマ姿の晴香に目を奪われ、慌てて返事をする。
パジャマの上にエプロンを身につけた晴香は、台所に立っている。
「丁度良かった」
晴香の隣に並ぶ。
風呂上がりで赤くなった足に、フローリングの床はひんやりとして気持ちがいい。
「今日は温かいものをと、クリームシチューにしてみました!」
「クリームシチューか…」
八雲は鍋の中を覗く。
甘いミルクの匂いとともに蒸気が上がる。
即席物ばかり食べてきた。クリームシチューなんて何年ぶりだろう。
「もう少しで出来上がるから、ちょっと待っててね」
八雲はグラスとお茶を運び、テーブルの前であぐらを掻く。
窓際に来て、そういえば暴風雨だったと外に目をやる。
風は強い。雨も負けてはいない。
霧のような白い靄が、斜めに何度も横切った。
「酷くなる一方だな…」
これから帰ることを考え、八雲は溜め息を吐いた。
両手に皿を持った晴香が正面に腰を下ろす。
皿の中のクリームシチューが輝いているように見えた。
思わず生唾を飲む。
久しぶりに口にしたクリームシチューは、とても美味しくおかわりまでしてしまった。
コンビニに並ぶ即席物とは比べ物にはならない。
クリームシチューが、体の芯から暖めてくれた。
end.
まだ続きます!
「子供じゃないんだから、飛ばされるわけ───」
前を歩く晴香が頬を膨らまして振り返った時だった。
びゅんと突風が吹き荒れ、彼女の淡い若葉色をしたスカートがひらりと捲れ上がった。
「きゃあっ!」
「っ!」
それを押さえようと手を動かす。
別方向から風を受けた傘があらぬ形に折れ曲がる。
八雲はとっさに顔を逸らした。
(ピンク…)
自己嫌悪に陥る八雲をよそに、晴香は本日二本目の傘を壊した。
一つの傘に誰かと一緒に入るだなんて、いつ以来だろうか。
小中高、そして今までもそんなものとは遠縁だった八雲はふと思った。
八雲の隣には寄り添うようにして晴香がいた。
肩が触れているだとか、腕がぶつかっているだとか。
そんなドキドキした感情は、きっとかわいらしい雨のとき限定なのだろう。
横からの叩きつけるような雨の塊に、二人は身を寄せ合うようにして傘の下に収まっている。
最初は気を使っていた距離を置いていたが、今は陣取り合戦のごとし。
少しでも雨から逃れようと、二人はぴたりとくっついていた。
ドキドキも何も、ない。
「やっ、八雲君!」
「なんだ」
口の中に雨が遠慮なく入ってくる。
「着替えでも、買っていく?」
晴香が指さす先には、二階建てのスーパーがある。
着替えた方がいいのではないか。
晴香なりの考えだろう。
傘は先ほどから役立たずも同然。
無駄な出費は抑えたかったが、肌に貼り付くシャツの感触はもっと嫌だった。
「寄っていってもいいか?」
「うん!」
雨に負けじと、元気な声が聞こえた。
スーパーの一階は食料品売場で、階段を上がった二階は日用品売場だ。
そこには衣料品売場もある。
レジ近くのカゴに並べられた、赤い値札の特価品。
原価のまま買えるほど、八雲の財布は重くない。
そこには丁度、上下のジャージセットがあった。
メーカー品でもない、シンプルなジャージが何種類か並んでいる。
「えぇー、それ?」
そう言う晴香の手には、どこからか持ってきた水色の絹のパジャマ。
八雲は苦笑いを浮かべる。
「つまんない」
「僕が着るものなんだから文句をつけるんじゃない」
「…じゃあ、せめて選ばせて!」
バリエーションのない中、晴香はとても悩んでいた。
人に着るものを選んでもらうなど記憶にない。
「仕方ない」と溜め息を吐きつつ、八雲は少しだけ嬉しかった。
しかし下着コーナーへ行った途端。
晴香は急に顔色を変え、逃げるようにどこかへ行ってしまった。
「…やっぱり女なんだな」
どこかしみじみとする。
しかし、これからその女の家へ向かっているかと思うと、照れくさく顔が熱くなった。
彼女の選んでくれたジャージと自分で選んだ下着を会計し終わる頃。
ひょこりと晴香が戻ってきた。
手には買い物袋。この短い間に食料を調達してきたらしい。
二人は並んで出口に向かう。
「雨、ますます酷くなってるみたい」
「…いっそのこと、傘も差さずに帰るか」
「えっ!」
「傘があってもなくても、この天気じゃそう変わらないだろ」
言い終える前に、八雲は自動ドアを越え暴風雨の中を走り出した。
晴香もその後を慌てて追いかける。
軒下で雨宿りをする人たちが、驚いたような目でこちらを見ていた。
「うわあ…びしょびしょ…」
昇降するエレベーターの中。晴香は言った。
「………」
八雲は出来るだけ晴香の方は見ないようにしていた。
傘も差さずに走ってきたため、髪から靴の先まで全身が濡れている。
足元に水たまりが出来ていた。
いくら厚着だったからと言っても、貼り付いた服には目を向けられない。
太股に貼り付いた薄地のスカートに、何度目が向いたことか。
きっとよく見たら透けているんだろうな、と凝視しかける。
その度に自己嫌悪に襲われた。
「八雲君、先にお風呂入る?」
「風呂?」
玄関で訪ねられ、八雲は聞き返す。
「そのまま着替えても風邪ひいちゃうし、シャワーで体を温めた方が良いよ」
晴香の言うことには一理あった。
しかし、異性の家で一番風呂に入るというのはどうなのだろうか。
それよりも、異性の家で風呂に入っても良いものだろうか。
「君が先に入れば良い。食事の支度もあるんだろう?」
「…では、お言葉に甘えて」
タンスから着替えを取り出し、そそくさと脱衣所へ消えていく。
その間、八雲はタオルで体を拭いていた。
湯船に湯まで張っていてくれたのには驚いた。
久しぶりに肩まで湯に浸かり、つい長湯をしてしまった。
卸したてのジャージは肌触りがごわごわする。
上気した八雲が風呂から上がると、甘い乳臭さが鼻を擽った。
「お湯加減はいかがでしたか?」
ひよこ色のパジャマ姿の晴香に目を奪われ、慌てて返事をする。
パジャマの上にエプロンを身につけた晴香は、台所に立っている。
「丁度良かった」
晴香の隣に並ぶ。
風呂上がりで赤くなった足に、フローリングの床はひんやりとして気持ちがいい。
「今日は温かいものをと、クリームシチューにしてみました!」
「クリームシチューか…」
八雲は鍋の中を覗く。
甘いミルクの匂いとともに蒸気が上がる。
即席物ばかり食べてきた。クリームシチューなんて何年ぶりだろう。
「もう少しで出来上がるから、ちょっと待っててね」
八雲はグラスとお茶を運び、テーブルの前であぐらを掻く。
窓際に来て、そういえば暴風雨だったと外に目をやる。
風は強い。雨も負けてはいない。
霧のような白い靄が、斜めに何度も横切った。
「酷くなる一方だな…」
これから帰ることを考え、八雲は溜め息を吐いた。
両手に皿を持った晴香が正面に腰を下ろす。
皿の中のクリームシチューが輝いているように見えた。
思わず生唾を飲む。
久しぶりに口にしたクリームシチューは、とても美味しくおかわりまでしてしまった。
コンビニに並ぶ即席物とは比べ物にはならない。
クリームシチューが、体の芯から暖めてくれた。
end.
まだ続きます!
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