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八雲できょうのはるかです。
思い返せば半年近くも更新していなかったです…
とらじまさんに「好き」と言ってもらった嬉しさのあまり書き書きしました!
えっへっへっ♪
きょうのはるか
思い返せば半年近くも更新していなかったです…
とらじまさんに「好き」と言ってもらった嬉しさのあまり書き書きしました!
えっへっへっ♪
きょうのはるか
たたたと軽快な足音が近付いてくる。
季節の変わり目ということもあり、八雲は押し入れの整理をしていた。
はずなのに、今の自分は読書に耽っている。
押し入れを漁り始めてすぐに見つけたダンボール。
その中に入っていた一冊の本。
ただの時代小説だったが、つい夢中になってしまった。
読書に耽っていた時間と、まったく手の着けられていない押し入れ。
やってしまった。
八雲は自傷するように苦笑いを浮かべた。
物思いに耽る八雲に構わず、足音の正体が転がるようにぶつかってくる。
いや、転んだかな。
「やきゅー!」
「お疲れさま」
鼻の先に乗った埃を取ってやる。
ふんふんと荒い鼻息に、埃はゆらゆらと揺れていた。
晴香はパタパタと嬉しそうに尾を振る。
その度に埃が舞うのは、見て見ぬ振り。
「そんなに嬉しいのか」
八雲が本を発掘したあと、晴香も見よう見まねでダンボール箱を漁っていたようだ。
最近はどんな下らないことでも、真似するようになった気がする。
では、この散らかり様は僕の真似なのだろうか。
押し入れの前に放置されたダンボールの周りは、納められていた参考書や書籍が散乱していた。
「随分と散らかしたな」
「?」
出したものは片付ける。
八雲は教えようとしたが、視界の隅に脱ぎっぱなしのシャツの山が映った。
まずは自分から、だな。
苦虫を噛んだように顔を歪めた八雲は、静かに本を閉じた。
「それで、どうした?」
「きゅ!」
待ってました!と晴香が手のひらを押しつける。
正確には手のひらに乗った、灰色の球体を。
八雲は球体を受け取ると観察した。
晴香の手だと両手いっぱいの大きさだったが、八雲が手にしてみると案外小さい。
野球ボールくらいの大きさだろう。
「ふむ…」
しかし固くはない。むしろ柔らかい。
表面は砂をまぶしたようにザラザラとしていた。
「ボール…か?」
「ぼおりゅ?」
お世辞にも綺麗とは言えない球体。
むしろ触るのさえ嫌がられるであろう、汚い球体。
しかし晴香は、まるで流星群でも見たかのように、瞳を輝かせている。
僕の目を綺麗だとか“かわいい”だとか言ったり。
コイツの感性はいつになっても分からない。
「ぼおりゅ…」
球体を確かめるように、晴香は顔を寄せる。小さい鼻がピクピクと動いた。
「このままじゃ汚い」
「きたない?」
「あぁ。臭くなったシャツと一緒だ」
「きたない!」
「…君も汚い」
「きぅっ!」
汚くなんかない!と、晴香が頬を膨らます。
晴香の頭には黒い埃の塊が、あちこちに付着している。
よく見ると白いシャツも薄汚れているようだった。
ああいう埃のお化けがいたな。
思いだしながら笑う八雲に、晴香は首を傾げる。
八雲は晴香を抱きかかえると立ち上がった。
鼻先にある、丸い耳の付いた頭に、鼻がむずむずとこそばゆい。
「少し早いが、風呂にしよう」
晴香の頭を洗いながら、八雲は覗き込む。
「ちゅきちゅきやきゅも、やきゅもきゅーん」
晴香の口ずさむ妙な歌は、今日のところは多目に見てやる。
「ぼおるちゅきちゅき、やきゅもきゅーん」
晴香の手元は泡で見えない。
ボールを洗う桶の中が、泡で溢れているからだ。
「僕が洗ってやっても良いぞ」
「めっ!はりゅの!」
「…別に取ろうとしているわけじゃない」
そもそも、押し入れに入っていたのだから、元々は僕のものである。
濡れ細った尾が揺れるのを見て、まあいいけど、とシャワーに手を伸ばした。
風呂上がり。
冷蔵庫から牛乳を取り出し部屋に戻ると、晴香がボールと向き合っていた。
まん丸の瞳に、青いボールが映る。
灰色に濁った球体を洗うとアラ不思議。
海のような深い色をしたボールが姿を現した。
まるでシンデレラだな。
と言おうとしたが“シンデレラ”を知らない晴香に言ったところで話がややこしくなるだけ。
ここは心の内で思っていよう。
晴香の小さな手を二つ使わなければ、持つことの出来ない青色のボール。
まるで水を掬っているようだ。
ボールも瞳もキラキラと輝いていた。
「冷たい牛乳で良いか?」
「きゅ!」
“牛乳”の言葉に反応した晴香が顔を上げる。
テーブルの前に胡座を掻くと、足の間に小さい体を納めてきた。
手には青色のボールを持って。
「なになに?」
「何がだ?」
牛乳を喉に通す。
風呂上がりの火照った体を、牛乳は内側から冷やしてくれた。
晴香の目線の先を追う。
そこには青色のボールがあった。
「さっき教えただろ。それはボールだ」
「んーん」
首を振った晴香は、ボールの表面を指さした。
八雲の位置からでは晴香が邪魔で見えない。
仕方がないので晴香からボールを貰った。
晴香が膝の上で体を反転させ、向かい合う形になる。
「………」
手にしたボールをくるくる回す。
汚れを見つけた八雲は手を止め、それをじっと見つめた。
それは汚れなんかじゃない。
「あっ」
そこには紫色に変色した字で“やくも”と文字が書かれていた。
僕の部屋にあったのに、これは僕の字ではない。
母さんの字、だ───
八雲の脳裏に、何気ない日常の風景が蘇る。
忘れていたはずなのに、一目見ただけで思い出した、母親の字。
「なになに?」
文字の読めない晴香は、気になって仕方がない様子。
「これは名前だ」
「なまえ?」
「そう、名前」
「なまえ…ちってる!はりゅは、はりゅか!やきゅは、やきゅ!」
「僕の名前は八雲だ」
「やきゅは、やきゅも!」
「“君”を忘れるな」
「やきゅもきゅん!」
言えた!と誇らしげに笑った。
「名前は呼ぶだけのものじゃない。こうやって、自分のものだと主張するときにも使う」
うんうんと頷いてはいるが、果たして理解しているのか。
「…つまり、持ち物には名前を書くんだ」
「もちもも…なまえ…」
不満けに晴香が口をへの字に歪める。
晴香は部屋の隅に積まれた文庫本を指さした。
「やきゅ、なまえないない」
「…大人はいいんだ」
このままでは埒があかない。
この話に終止符を打たねば、と八雲は晴香にボールを返した。
「このボールには、僕の名前が書いてあるんだ」
「やきゅの!」
パタパタと尻尾を振る。
しかし、すぐにしゅんと垂れてしまった。
「ぼおりゅ、やきゅの?」
「そうだ。僕のボールだった」
つまらなそうに晴香が口を突き出す。
どうやら、このボールが八雲の物であることが理解出来たよう。
青いボールにでかでかと書かれた文字を、指でなぞっていた。
「あいにく、今の僕にはボールで遊ぶ趣味はない」
筆入れから油性のマジックペンを取り出す。
晴香の手からボールを奪うと“やくも”と書かれた裏側に、ペンを滑らせた。
ペンに力が入る度に、きゅっきゅと音が鳴る。
「よし、書けた」
「なになに?」
体を半回転させた晴香が、ボールを覗く。
「“はるか”だ」
呼んだ?と見上げられる。
しかし、その目はすぐにボールへ向かった。
青いボールに、新たに書かれた三文字。
「!……!!」
「このボールは、君と僕のだ」
青いボールを貰ってとても嬉しい、晴香なのでした。
「みみぢゅ、みたい!」
「…君は、僕の字が下手だと言いたいのか?」
end.
晴香と青いボール。
やっぱり、犬と言えばボール!
いつから自分のものに名前を書かなくなるのだろう。
季節の変わり目ということもあり、八雲は押し入れの整理をしていた。
はずなのに、今の自分は読書に耽っている。
押し入れを漁り始めてすぐに見つけたダンボール。
その中に入っていた一冊の本。
ただの時代小説だったが、つい夢中になってしまった。
読書に耽っていた時間と、まったく手の着けられていない押し入れ。
やってしまった。
八雲は自傷するように苦笑いを浮かべた。
物思いに耽る八雲に構わず、足音の正体が転がるようにぶつかってくる。
いや、転んだかな。
「やきゅー!」
「お疲れさま」
鼻の先に乗った埃を取ってやる。
ふんふんと荒い鼻息に、埃はゆらゆらと揺れていた。
晴香はパタパタと嬉しそうに尾を振る。
その度に埃が舞うのは、見て見ぬ振り。
「そんなに嬉しいのか」
八雲が本を発掘したあと、晴香も見よう見まねでダンボール箱を漁っていたようだ。
最近はどんな下らないことでも、真似するようになった気がする。
では、この散らかり様は僕の真似なのだろうか。
押し入れの前に放置されたダンボールの周りは、納められていた参考書や書籍が散乱していた。
「随分と散らかしたな」
「?」
出したものは片付ける。
八雲は教えようとしたが、視界の隅に脱ぎっぱなしのシャツの山が映った。
まずは自分から、だな。
苦虫を噛んだように顔を歪めた八雲は、静かに本を閉じた。
「それで、どうした?」
「きゅ!」
待ってました!と晴香が手のひらを押しつける。
正確には手のひらに乗った、灰色の球体を。
八雲は球体を受け取ると観察した。
晴香の手だと両手いっぱいの大きさだったが、八雲が手にしてみると案外小さい。
野球ボールくらいの大きさだろう。
「ふむ…」
しかし固くはない。むしろ柔らかい。
表面は砂をまぶしたようにザラザラとしていた。
「ボール…か?」
「ぼおりゅ?」
お世辞にも綺麗とは言えない球体。
むしろ触るのさえ嫌がられるであろう、汚い球体。
しかし晴香は、まるで流星群でも見たかのように、瞳を輝かせている。
僕の目を綺麗だとか“かわいい”だとか言ったり。
コイツの感性はいつになっても分からない。
「ぼおりゅ…」
球体を確かめるように、晴香は顔を寄せる。小さい鼻がピクピクと動いた。
「このままじゃ汚い」
「きたない?」
「あぁ。臭くなったシャツと一緒だ」
「きたない!」
「…君も汚い」
「きぅっ!」
汚くなんかない!と、晴香が頬を膨らます。
晴香の頭には黒い埃の塊が、あちこちに付着している。
よく見ると白いシャツも薄汚れているようだった。
ああいう埃のお化けがいたな。
思いだしながら笑う八雲に、晴香は首を傾げる。
八雲は晴香を抱きかかえると立ち上がった。
鼻先にある、丸い耳の付いた頭に、鼻がむずむずとこそばゆい。
「少し早いが、風呂にしよう」
晴香の頭を洗いながら、八雲は覗き込む。
「ちゅきちゅきやきゅも、やきゅもきゅーん」
晴香の口ずさむ妙な歌は、今日のところは多目に見てやる。
「ぼおるちゅきちゅき、やきゅもきゅーん」
晴香の手元は泡で見えない。
ボールを洗う桶の中が、泡で溢れているからだ。
「僕が洗ってやっても良いぞ」
「めっ!はりゅの!」
「…別に取ろうとしているわけじゃない」
そもそも、押し入れに入っていたのだから、元々は僕のものである。
濡れ細った尾が揺れるのを見て、まあいいけど、とシャワーに手を伸ばした。
風呂上がり。
冷蔵庫から牛乳を取り出し部屋に戻ると、晴香がボールと向き合っていた。
まん丸の瞳に、青いボールが映る。
灰色に濁った球体を洗うとアラ不思議。
海のような深い色をしたボールが姿を現した。
まるでシンデレラだな。
と言おうとしたが“シンデレラ”を知らない晴香に言ったところで話がややこしくなるだけ。
ここは心の内で思っていよう。
晴香の小さな手を二つ使わなければ、持つことの出来ない青色のボール。
まるで水を掬っているようだ。
ボールも瞳もキラキラと輝いていた。
「冷たい牛乳で良いか?」
「きゅ!」
“牛乳”の言葉に反応した晴香が顔を上げる。
テーブルの前に胡座を掻くと、足の間に小さい体を納めてきた。
手には青色のボールを持って。
「なになに?」
「何がだ?」
牛乳を喉に通す。
風呂上がりの火照った体を、牛乳は内側から冷やしてくれた。
晴香の目線の先を追う。
そこには青色のボールがあった。
「さっき教えただろ。それはボールだ」
「んーん」
首を振った晴香は、ボールの表面を指さした。
八雲の位置からでは晴香が邪魔で見えない。
仕方がないので晴香からボールを貰った。
晴香が膝の上で体を反転させ、向かい合う形になる。
「………」
手にしたボールをくるくる回す。
汚れを見つけた八雲は手を止め、それをじっと見つめた。
それは汚れなんかじゃない。
「あっ」
そこには紫色に変色した字で“やくも”と文字が書かれていた。
僕の部屋にあったのに、これは僕の字ではない。
母さんの字、だ───
八雲の脳裏に、何気ない日常の風景が蘇る。
忘れていたはずなのに、一目見ただけで思い出した、母親の字。
「なになに?」
文字の読めない晴香は、気になって仕方がない様子。
「これは名前だ」
「なまえ?」
「そう、名前」
「なまえ…ちってる!はりゅは、はりゅか!やきゅは、やきゅ!」
「僕の名前は八雲だ」
「やきゅは、やきゅも!」
「“君”を忘れるな」
「やきゅもきゅん!」
言えた!と誇らしげに笑った。
「名前は呼ぶだけのものじゃない。こうやって、自分のものだと主張するときにも使う」
うんうんと頷いてはいるが、果たして理解しているのか。
「…つまり、持ち物には名前を書くんだ」
「もちもも…なまえ…」
不満けに晴香が口をへの字に歪める。
晴香は部屋の隅に積まれた文庫本を指さした。
「やきゅ、なまえないない」
「…大人はいいんだ」
このままでは埒があかない。
この話に終止符を打たねば、と八雲は晴香にボールを返した。
「このボールには、僕の名前が書いてあるんだ」
「やきゅの!」
パタパタと尻尾を振る。
しかし、すぐにしゅんと垂れてしまった。
「ぼおりゅ、やきゅの?」
「そうだ。僕のボールだった」
つまらなそうに晴香が口を突き出す。
どうやら、このボールが八雲の物であることが理解出来たよう。
青いボールにでかでかと書かれた文字を、指でなぞっていた。
「あいにく、今の僕にはボールで遊ぶ趣味はない」
筆入れから油性のマジックペンを取り出す。
晴香の手からボールを奪うと“やくも”と書かれた裏側に、ペンを滑らせた。
ペンに力が入る度に、きゅっきゅと音が鳴る。
「よし、書けた」
「なになに?」
体を半回転させた晴香が、ボールを覗く。
「“はるか”だ」
呼んだ?と見上げられる。
しかし、その目はすぐにボールへ向かった。
青いボールに、新たに書かれた三文字。
「!……!!」
「このボールは、君と僕のだ」
青いボールを貰ってとても嬉しい、晴香なのでした。
「みみぢゅ、みたい!」
「…君は、僕の字が下手だと言いたいのか?」
end.
晴香と青いボール。
やっぱり、犬と言えばボール!
いつから自分のものに名前を書かなくなるのだろう。
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この記事にコメントする
お久しぶりです
こんにちは。朝日さん。deliaです
時々覗いてはパチパチと拍手押してましたが、コメントは久しぶりになりました。いやぁ春は保護者も忙しく。息子もピカピカ一年生です
サイン会レポート、八晴新作、八雲9巻、沢山コメントしたいことあるけど、これだけは!はりゅかに釣られたからには!
はりゅか相変わらずかわいい
。言動逐一癒されるっ。犬とボール。永遠のテーマですね(何の?)!はいはいはい!片付けしてたらうっかり違うことしてたことありますっ。押し入れには罠が仕掛けてあります(仕掛けたのは過去の自分です。笑)
八雲のはりゅかへの優しさ上昇中~。はりゅかがいいツッコミしてますねえ。無邪気なほどえぐるもんさ…(-.-;)
自分漸く八雲8巻読みました!図書館で予約すること半年!やっと8巻ネタがわかる!
と思ったら世間は9巻なんですよねえ。ふふふふふふ
9巻も図書館で予約したら19人待ちでした(゜▽゜)
自分年内に読めるでしょうか…?(こうなれば意地で待ってるから!)
長くなりました。では
時々覗いてはパチパチと拍手押してましたが、コメントは久しぶりになりました。いやぁ春は保護者も忙しく。息子もピカピカ一年生です

サイン会レポート、八晴新作、八雲9巻、沢山コメントしたいことあるけど、これだけは!はりゅかに釣られたからには!

はりゅか相変わらずかわいい

八雲のはりゅかへの優しさ上昇中~。はりゅかがいいツッコミしてますねえ。無邪気なほどえぐるもんさ…(-.-;)
自分漸く八雲8巻読みました!図書館で予約すること半年!やっと8巻ネタがわかる!

9巻も図書館で予約したら19人待ちでした(゜▽゜)
自分年内に読めるでしょうか…?(こうなれば意地で待ってるから!)
長くなりました。では
