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八雲で八晴。

タイトルだとシリアス風味だけれど、中身はそんなことはありません。
八雲と晴香は相思相愛な関係も良いですが、こういう関係でも良いと思うのです!


八雲/八晴(友人設定)

もうそろそろ寝ようか。



携帯の画面に映し出された時計を見ながら、八雲は欠伸を噛み殺す。


時刻は二時過ぎ。

随分と長い間、読書に夢中になってしまった。


体全体が風邪をひいた時のように重く、火照っている。
結局出てきてしまった欠伸に瞳を潤わせ、部屋の電気を消しに立ち上がった。


明日の講義は何だったか。

寝袋に潜りながら考える。
しかし思い出そうにも頭が働かない。

まあいいや。
諦めた八雲が瞼を閉じようとしたそのとき。


「──っ!」


突如、部屋の中を黒電話の音が木霊した。


あんなにも重かったはずの瞼がぱっちりと開く。
思わず飛び起きた八雲は、黒電話の出どころを探し辺りを見渡した。

どうやら音は机の上から聞こえる。


もちろん黒電話など、この部屋にはない。

しかも、丑三つ近くに電話のベルが鳴り響く。

…不気味だ。


さすがの八雲も身構える。
ベルが途切れることはない。

このままでは埒があかない。

ゆっくりと息を吸い込んだ八雲は、机へと歩みを進める。

「………」

机の上では、携帯電話が眩い光を放って震えていた。

「なんだ、着信か」

驚いて損をした。

ほっと胸を撫で下ろし、携帯電話に手を伸ばす。

着信音を黒電話に設定した覚えなどない。

こんなイタズラをするのはアイツしかいない。
こんな真夜中に電話を掛けてくるのも、アイツしかいない。


「はい」

睡眠を邪魔されたこと。着信音を勝手に変えられたこと。…驚かされたこと。
全ての不満がぶつかり合い、声に現れる。

彼女の用件を聞き終わったら、文句を言ってやる。

不機嫌な声音に気付いたのか返事がない。
これでは会話すらできない。

「おい」

切断されたのか?
画面を確認するが、そこには通話中の文字。

スピーカーに耳を当てると、微かながら音がした。

「どうした?」

またイタズラかと思い、電源ボタンに指が伸びたが、漏れてきた「すん」という鼻息に止まる。
途端に心臓が掴まれたようにきゅっと縮まる。


「八雲君…」


僕の知り合いで、僕のことを“君”付けで呼び、真夜中に電話を掛けてくる女は晴香しかいない。

心臓が痛い。

肺に冷えた空気が充満しているようだった。


「何かあったのか?」

「私…私っ…」

電話の向こうで涙を流している姿が見える。
嗚咽混じりに話すため、言葉は聞き取れない。


しかし八雲は飛び出した。


「待ってろ。いま行く」


部屋から勢い良く、彼女の家へ向かって飛び出した。


真夜中の寒空の下。

半袖から覗く腕が、風を受ける顔面が、ツンと痛い。


しかし八雲は走り続けた。


晴香を慰めるために。

晴香を抱きしめるために。






晴香の家へ着いた八雲は唖然とした。
上昇するエレベーターの中、必死に考えた慰め方法十の言葉はあっという間に忘れてしまった。


「君は何を笑っている」


玄関扉の隙間から顔を覗かせた晴香は、泣いてなどいない。
こちらの訪問に心底驚いているよう。

そして、八雲の大きく上下する肩と蒸気した顔を見て気まずそうに笑うのだった。

「本当に来たんだ」

「呼んだのは君の方だろう」

「えっ!私、呼んでないよ?」

「………」


確かに、彼女は呼んでいなかった。
僕が勝手に来ただけだ。

彼女が、泣いていたから…


「八雲君?」


けれどそんなことを言えるほど、僕は素直な奴じゃない。

風に乱れた髪を掻き上げ、口を噤む。
タイミングよくくしゃみが出て、晴香もそれ以上追求することはなかった。

「とりあえず上がってく?」

「…邪魔する」


真夜中に女の家に上がると言うのは、良心が痛む。
その気がなくても、罪悪感に心がちくりと痛んだ。

水を一杯もらったら帰ろう。
自分自信に何度も言い聞かせ、八雲はカチコチになった体で廊下を進んだ。


「少し休んだら帰る」

水を一杯もらったら帰るんじゃないのか。
白い天使の姿をした自分が髪を引っ張る。

「じゃあ、何か羽織るもの貸してあげるね」

ちぇっ。黒い悪魔の姿をした自分が唇を突き出す。
天使と悪魔がじゃれ合う子犬のように喧嘩を始めた。


「それで、どうしたんだ?」

「えっ?」

台所で寝間着姿の晴香がホットココアを作っている。

「…泣いていただろう?」

「あぁ!アレね!」

「アレってな…」

眉を寄せる八雲の隣を晴香が通り過ぎる。
テレビの前から持ってきたのは、一枚のディスクだった。

「この映画、すごく感動するの!」

「は?」

「戦争で生き別れた男女がね、なんと五十年後に再会するんだけど男の人は病気で──」

「ちょっと待て」

八雲は思わず両手を突き出した。
晴香は「八雲君にも貸してあげようか?」とのんきなことを口にしている。

「つまり、君はその映画に感動して泣いて…真夜中にも関わらず寝ている僕に電話をかけてきたのか?」

「うん」

八雲は脱力した。
膝から崩れ落ちたついでに、晴香のベッドに倒れ込んだ。

「ちょっと…!」

さすがに異性が自分のベッドに横になるというのは、晴香も恥ずかしいらしい。
紅潮させた頬で、ベッドに駆け寄る。

「真夜中に電話をする。泣きながら呼ぶ。原因は映画。着信音は勝手に変える」

「着信音、気付いてくれたんだ」

「気付かないわけがないだろう」

「あれ、私のときだけ黒電話がなるようにしたんだよ」

「…ありがた迷惑だ」

ふんと鼻を鳴らす。くしゃみが出た。

「しかも風邪までひいた」

「風邪は…そんな格好で来た八雲君がいけないんじゃない」

「急いでたんだ」

「…急いで、来てくれたんだ」

しまった。
苦虫を噛んだことを隠すように、八雲は背を向ける。
晴香はふふっと笑みをこぼす。

「怒ってる?」

「別に」

「もう…どうしたら許してくれるのよ」

「だから、別に僕は怒っているわけじゃない」

「嘘。怒ってるでしょ」

「…もし僕が怒っていたら、どうするんだ」

「ごめん?」

「なぜ尋ねる」

「ゴメンナサイ」


わざとらしい片言。

反省していないのが伝わってくる。


しかし八雲はそれ以上追求しなかった。

晴香が笑顔でいたから。






「今晩はこのベッドを使わせてもらう」

「帰るんじゃなかったの!?」

「今回の件は、これでチャラだ」

「八雲君ってば、もー」



素顔を隠すように、八雲は枕に顔をうずめた。






end.



異性よりも、お友達の意識が強い。こんな八雲と晴香も良い。
男友達、女友達な八晴も良い。
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