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八雲で八晴。

はだワイ祭り三話目です。
ほのぼのしたのが書きたい!
とじったんばったんしたのですが、ぐだぐだしてしまいました。

八雲/八晴

「わっ!」


玄関のドアを開けた晴香は驚きの声を上げた。

思いもよらない訪問客に、心から驚いている。


それは訪問者の方も同じだったようで、晴香の驚愕とした表情に目を見開いていた。



白い肌。白いワイシャツ。それからジーンズ。

あとはトレードマークの寝癖だらけでもじゃもじゃな髪。


気のせいか、その髪は普段の二割り増しもじゃもじゃな気がした。



「八雲君っ!」






さすがと言うべきか。
先に平常心を取り戻したのは来訪者である八雲だった。

見開いていた目をすっと閉じ、少し下にある晴香の顔を睨む。
初夏の暑さに負けたのか、そのまた下にあるノースリーブから覗く素肌からは極限目を離す。

「何をそんなに驚くことがある」

「だ、だって八雲君が遊びに来るだなんて珍しくて…」

「誰も遊びに来たなんて言ってない」

「じゃあ、こんな時間に何をしに来たの?」

晴香は口を尖らせ、八雲を睨んだ。

時刻は夕暮れ時。
カラスはとっくに家に帰り、明日に備えて寝る支度をしている。

こんな時間に来るなんて、下心があるようにしか思えない。
自然と上目遣いになり、八雲は目を逸らす。

「単刀直入に言う」

「うん」

「シャワーを貸してほしい」

八雲の口から出てきた言葉に、晴香は耳を疑った。


あの八雲が、ものを貸してほしいと頼んできた。

しかもシャワーだ。


無意識に思考が桃色に染まる。

脳裏に浮かぶ、八雲の身体───


慌てて頭を振る。



「ここ数日、僕がいなかったのは知っているな?」

「うん」


二、三日前だっただろうか。
水曜日だったから三日前だ。

八雲の住処である映画研究同好会の部室から、八雲が消えた。
『心配するな』とメモだけを残して。
メールをしても返事はない。電話を掛けてもすぐに留守電。


それから晴香は毎日足を運んだが、八雲に出会えることはなかった。

だから晴香は信じるしかなかった。
信じて待つしかなかった。



「泊まり込みで捜査に付き合わされていたんだ」

「そう」


実は敦子に連絡を取っていて、なんとなくは予想していた。
けれどこうして本人の口から聞くのとでは、安心感が違う。
この三日間、肩にまとわりついていたものがすっと消えていく。

「忙しくて連絡が取れなかった。…すまない」

「次はちゃんと連絡してね?」

「あぁ」

「それで、どうしてシャワーを借りにきたの?」

晴香は訪ねる。

いつもならば学校のシャワー室を使っているのに。
誰かの家に借りにくるだなんて珍しい。

「学校のシャワー室が点検中で使えないんだ」

「それくらい──」


いつもだったら我慢するのに。


「言ったよな」

晴香の言葉を遮るように、八雲が言葉を被す。

「僕は泊まり込みで捜査に付き合わされていたんだ」

晴香は首を傾げる。

しかし徐々に理解していき、最後には青ざめた顔になっていた。


「ま、待って!まさか…」

「もう三日は風呂に入っていない」


声にならない悲鳴が上がる。
腕に浮かんだ鳥肌を抱きしめるように、晴香は自分自身を抱きしめた。

「信じられない!!」

「信じなくても良いからシャワーを貸してくれ」

そういうと八雲は頭を掻いた。
癖か、本当に痒いのか。晴香には知る術もない。

「わかった!わかったからそこで頭を掻かないで!」

両手で制し、八雲の腕を掴む。
そのまま廊下を進んで風呂場に押し込んだ。

ちょうど湯を沸かしていたところで、浴室は白い湯気で溢れる。

「湯船は体を洗ってから入ってよ!ごゆっくり!」

そう告げると、晴香は浴室を出て行った。
浴室に一人取り残された八雲は、頭を掻いた。

「服のままシャワーを浴びろと言うのか?」






浴室から水音が聞こえたのを確認し、晴香は脱衣所の戸を開けた。
恐る恐る覗いて、八雲がいないことを確認。
ほっと胸を撫で下ろし、床に散乱した衣服に手を伸ばした。

「三日もお風呂に入らないなんて信じられない」

そりゃ、事情があったかもしれない。
でも水道があれば、頭くらい洗えるだろうに。

「水道もないところに行ってたのかな」

考えても仕方がない。
八雲が事件について語ってくれることは、滅多にないのだ。

「…服、洗ってあげよっと」

極限下着に目を向けないように洗濯機に入れ、シャツに手を伸ばす。
どんなに白く見えるシャツでも、よく見れば襟刳りが汗で汚れていた。

八雲が、頑張っていた証。


「………」


ピンとワイシャツを引っ張る。
しばらくの間、晴香は手にしたそれを見つめていた。



いつも追いかけている白のシャツ。

大きな大きな背中。

だらしなく開いた袖口。


“そこ”にいないはずなのに、まるで“そこ” にいるよう。


気付いた時には、既にワイシャツに袖を通した後だった。



「はっ!」

なんてことをしているのだろう!

思わず両手で頬を覆う。
袖口から汗臭さにまみれて嗅ぎ馴れたあの匂い。

ほんのりと火照った顔は、風邪を引いたときの額のように熱かった。

「ばかばか!何してるの晴香!」

身を振るう。露わになった腕に触れるのは、着古された布地の感触。
熱くもなければ冷たくもない。
人肌のぬくもりに、思わずうっとりした。

「だめだめ!」

人様の服を着るだなんて、いけないこと。

分かっていてもなかなか脱げない。
つんと腕を張るも、少しずつ顔に近付いていってしまう。
そして、ついすんすんと匂いを嗅いでしまう。


たったの三日会っていなかっただけでも、十分に餓えていた。


「八雲君の匂い〜」


匂い、ぬくもり、白いワイシャツ。


足りなかったものが、少しずつ満たされていく感覚。

嫌じゃない。

むしろ嬉しい。


晴香の心の内を、安堵が広がっていった。



「よし!夕飯においしいものを作っててあげよう!」

がんばるぞー。晴香はそう言うと、脱衣場から出ていった。

「……行ったか」

脱衣場とドア一枚を挟んだ風呂場で、八雲は胸を撫で下ろした。
晴香は気付いていないようだが、ずっと前から聞き耳を立てていた。

そもそも異性の家でゆっくり風呂につかれるもんか。

溜め息を吐き脱衣場と隔てた戸を開ける。
さて着替えようかと服を探す。

しかし着替えなどどこにもなかった。


回る洗濯機。外から聞こえる鼻歌。


「一体、僕をどうしたいんだ…」



部屋に悲鳴が響きわたったのは、それからすぐのこと。






end.



ほのぼのなはだワイ。
ほのぼのしすぎてだらけてしまった…ぐぬぬ。
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