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八雲で高校生パロディ、高校生日記。
夏と言えばコレです!!
八雲/高校生日記
夏と言えばコレです!!
八雲/高校生日記
七月下旬。
梅雨が明けた途端、それまでの灰色の曇り空は姿を消し、コバルトブルーの空が現れた。
真上から照りつける太陽は、祝福してより一層輝く。
ぎらぎら張り切る太陽が眩しくて、地面に目を落とすもコンクリートの熱気に堪えかねない。
あのうるさい太陽を隠してくれるやつはいないのか。
見上げた空には厚塗りされた油絵の具のような入道雲。
地平線から山のように盛り上がり、頂きを目指すが太陽には程遠い。
今にも倒れそうな雲を見上げ、八雲は額の汗を拭った。
この街にも、夏がやってきた。
「八雲君!」
後ろから八雲を呼ぶ声。
みんみんうるさい蝉に紛れていたが、鼓膜はちゃんと捉える。
しかし八雲は振り返りもせず歩き続けた。
頭の中は早く帰って扇風機の前を陣取ることでいっぱいいっぱい。
少女はセーラー服を風に揺らしながら走る。
今度は耳元で、大声で呼びかけた。
「八雲君っ!!」
「うるさい」
腕に絡みついてきた手を振り払い、追いかけてきた晴香を睨み付けた。
家であるお寺まで続く裏路地。
友達と一緒に帰宅していた晴香は、別れるとすぐに走り出し八雲に追いついた。
部活がない日はこうして八雲と帰ることが日課だった。
八雲は迷惑がり、回避しようと何度も帰宅路を変えたが晴香は必ず追いついた。
今日は終業式で学校は午前中で終わった。
そのため太陽は真上にいるし、晴香は部活がないのだ。
「ついてくるな」
「どうせ帰る場所は一緒なんだから良いじゃない」
「どうせ帰る場所が一緒なんだから意味がない」
居候であり、同居人である晴香は八雲にとって厄介者でしかない。
下手をすれば左目でしか見えない形のないものより厄介である。
…形があるから、厄介でもある。
「一緒に帰りたいんだから、いいじゃない」
「………」
胸元の赤いリボンが眩しい。
ああだから、ほら言わんこっちゃない。
あいつらはシャツの裾を掴んでくることも、頬を膨らますことも、上目遣いすることもないんだから。
ふっくら赤く染まった頬にどぎまぎしつつ、八雲は手を払う。
「僕は一人で帰りたいんだ」
気持ちとは反対方向に向かって一人歩き出す。
これで良いんだ、と自分に言い聞かせ後ろ髪引かれる思いを押し込めた。
「一人で帰るより、二人で帰った方が楽しいと思うけどなぁ」
けれども晴香は着いてくる。
磁石のS極とN極のように離れた距離を取り戻す。
「それにね!今日は八雲君に約束を守ってもらわなくちゃ!」
「約束?」
身に覚えのないことに八雲の眉間に皺が寄る。
速度が落ちたのを見逃さず、晴香はぐいと詰め寄った。
「一学期の成績評価よ!」
成績評価と言えば、通知表に記された五段階の評価だろう。
一つの教科に項目が幾つかあり、それらも含めて評価の総成績が決まる。
それを受け取った生徒の顔も、成績によって天国と地獄に分けられた。
高等学校の生徒として八雲ももらったが、顔色を変えるほど良くも悪くもなかった。
「八雲君より一つでも成績がよかったら、アイス奢ってくれるって言った!」
「誰が」
「八雲君が!」
発せられた大声に、八雲は再び耳を塞ぐ。
はて、そんな約束をしただろうか。
「…テスト勉強一緒にしたとき、約束したもん」
「あれは一緒にしたんじゃなくて、僕が教えてやったんだろう」
「細かいことは良いの!」
「はいはい」
お陰で思い出した。
確かにあのとき、僕は約束した。
簡単な問題で四苦八苦する晴香に対し、鼻で笑いながら了承した。
「…それで、あったのか?」
「え?」
「僕よりいい評価」
口の端をくいと上げる。
先ほど成績は良くも悪くもないと言ったが、それは僕の中での話。
つまり平均的と言うわけじゃない。
むしろクラスでも上から数えた方が良い方であろう。
晴香は自然と逃げる姿勢になる。
しかし今日の晴香は違った。
ぐっと地に着く足に力を入れ、自信に満ちた瞳でにらみを利かせる。
八雲は圧倒され引き下がりそうになるが、負けじと拳に力を入れた。
「じゃん!」
晴香は通知表を八雲の目前に開いて見せた。
あまりの近さに焦点が合わず、払うように通知表を受け取る。
評価を記したマスには五段階の文字が縦に並ぶ。
そんなことがあるわけないと思いつつ、上から慎重に確認していく。
良くもなければ悪くもない。どちらかと言えば少し悪い。
絵に描いたような、平均的な評価。
ただしそこに一つだけ、頭を出す評価があった。
「音楽…4」
「八雲君、たしか音楽は3だったよね?」
勝ち誇った表情で背中に手を回した晴香は八雲を見上げた。
どうして知っている、と一瞬顔に出かけ慌てて引き戻す。
「一つ勝っただけじゃないか」
しかも5段階評価のうちの4と、一番良いわけでもない。
ただし———
「八雲君に勝ったのは事実よ」
「………」
確かに晴香の言う通りだった。
たった一つでも負けは負けで、約束したのも事実。
はぁ、とため息一つ。
晴香の瞳がきらり輝いた。
八雲は帰宅ルートを変更する。
目指すはお寺から近所のコンビニへ。
制服のポケットに無造作に入れた小銭を手探りで触る。
ひいふうみい数える中、邪魔をするように晴香がじゃれてくる。
「…なんだ」
「ソーダ味のがいいなぁ」
「是非ともそうしてくれ」
コンビニでソーダ味のアイスキャンディを買った二人は店先で包みを捨てた。
冷凍庫の中で一番安いものを晴香が選んだおかげで、八雲の手にもそれが握られている。
お金を払ったのは八雲であるが。
ありがとうございましたの言葉を背中に二人は改めてお寺に向かって歩き始めた。
ソーダ味のアイスは口に含む度にしゃりしゃり音を立て、口の中で溶けていく。
「こんな暑い日にはソーダ味のアイスに限るよね」
八雲は何も返さなかったが、胸中ではうんうん頷いていた。
夏空を何十倍にも薄めた水色のアイスに、八雲はかじりつく。
「よーし、冬も勝ったら肉まん奢ってね」
「次も勝てたらの話だがな」
「勝ってみせるもん!」
「ふっ…かかってこいよ」
二人がアイスをかじる音は蝉の声にかき消され、空まで届くことはなかった。
end.
ガリガリ君梨味を食べましたがおいしい!
けれどやっぱりソーダ味も捨てがたい。
梅雨が明けた途端、それまでの灰色の曇り空は姿を消し、コバルトブルーの空が現れた。
真上から照りつける太陽は、祝福してより一層輝く。
ぎらぎら張り切る太陽が眩しくて、地面に目を落とすもコンクリートの熱気に堪えかねない。
あのうるさい太陽を隠してくれるやつはいないのか。
見上げた空には厚塗りされた油絵の具のような入道雲。
地平線から山のように盛り上がり、頂きを目指すが太陽には程遠い。
今にも倒れそうな雲を見上げ、八雲は額の汗を拭った。
この街にも、夏がやってきた。
「八雲君!」
後ろから八雲を呼ぶ声。
みんみんうるさい蝉に紛れていたが、鼓膜はちゃんと捉える。
しかし八雲は振り返りもせず歩き続けた。
頭の中は早く帰って扇風機の前を陣取ることでいっぱいいっぱい。
少女はセーラー服を風に揺らしながら走る。
今度は耳元で、大声で呼びかけた。
「八雲君っ!!」
「うるさい」
腕に絡みついてきた手を振り払い、追いかけてきた晴香を睨み付けた。
家であるお寺まで続く裏路地。
友達と一緒に帰宅していた晴香は、別れるとすぐに走り出し八雲に追いついた。
部活がない日はこうして八雲と帰ることが日課だった。
八雲は迷惑がり、回避しようと何度も帰宅路を変えたが晴香は必ず追いついた。
今日は終業式で学校は午前中で終わった。
そのため太陽は真上にいるし、晴香は部活がないのだ。
「ついてくるな」
「どうせ帰る場所は一緒なんだから良いじゃない」
「どうせ帰る場所が一緒なんだから意味がない」
居候であり、同居人である晴香は八雲にとって厄介者でしかない。
下手をすれば左目でしか見えない形のないものより厄介である。
…形があるから、厄介でもある。
「一緒に帰りたいんだから、いいじゃない」
「………」
胸元の赤いリボンが眩しい。
ああだから、ほら言わんこっちゃない。
あいつらはシャツの裾を掴んでくることも、頬を膨らますことも、上目遣いすることもないんだから。
ふっくら赤く染まった頬にどぎまぎしつつ、八雲は手を払う。
「僕は一人で帰りたいんだ」
気持ちとは反対方向に向かって一人歩き出す。
これで良いんだ、と自分に言い聞かせ後ろ髪引かれる思いを押し込めた。
「一人で帰るより、二人で帰った方が楽しいと思うけどなぁ」
けれども晴香は着いてくる。
磁石のS極とN極のように離れた距離を取り戻す。
「それにね!今日は八雲君に約束を守ってもらわなくちゃ!」
「約束?」
身に覚えのないことに八雲の眉間に皺が寄る。
速度が落ちたのを見逃さず、晴香はぐいと詰め寄った。
「一学期の成績評価よ!」
成績評価と言えば、通知表に記された五段階の評価だろう。
一つの教科に項目が幾つかあり、それらも含めて評価の総成績が決まる。
それを受け取った生徒の顔も、成績によって天国と地獄に分けられた。
高等学校の生徒として八雲ももらったが、顔色を変えるほど良くも悪くもなかった。
「八雲君より一つでも成績がよかったら、アイス奢ってくれるって言った!」
「誰が」
「八雲君が!」
発せられた大声に、八雲は再び耳を塞ぐ。
はて、そんな約束をしただろうか。
「…テスト勉強一緒にしたとき、約束したもん」
「あれは一緒にしたんじゃなくて、僕が教えてやったんだろう」
「細かいことは良いの!」
「はいはい」
お陰で思い出した。
確かにあのとき、僕は約束した。
簡単な問題で四苦八苦する晴香に対し、鼻で笑いながら了承した。
「…それで、あったのか?」
「え?」
「僕よりいい評価」
口の端をくいと上げる。
先ほど成績は良くも悪くもないと言ったが、それは僕の中での話。
つまり平均的と言うわけじゃない。
むしろクラスでも上から数えた方が良い方であろう。
晴香は自然と逃げる姿勢になる。
しかし今日の晴香は違った。
ぐっと地に着く足に力を入れ、自信に満ちた瞳でにらみを利かせる。
八雲は圧倒され引き下がりそうになるが、負けじと拳に力を入れた。
「じゃん!」
晴香は通知表を八雲の目前に開いて見せた。
あまりの近さに焦点が合わず、払うように通知表を受け取る。
評価を記したマスには五段階の文字が縦に並ぶ。
そんなことがあるわけないと思いつつ、上から慎重に確認していく。
良くもなければ悪くもない。どちらかと言えば少し悪い。
絵に描いたような、平均的な評価。
ただしそこに一つだけ、頭を出す評価があった。
「音楽…4」
「八雲君、たしか音楽は3だったよね?」
勝ち誇った表情で背中に手を回した晴香は八雲を見上げた。
どうして知っている、と一瞬顔に出かけ慌てて引き戻す。
「一つ勝っただけじゃないか」
しかも5段階評価のうちの4と、一番良いわけでもない。
ただし———
「八雲君に勝ったのは事実よ」
「………」
確かに晴香の言う通りだった。
たった一つでも負けは負けで、約束したのも事実。
はぁ、とため息一つ。
晴香の瞳がきらり輝いた。
八雲は帰宅ルートを変更する。
目指すはお寺から近所のコンビニへ。
制服のポケットに無造作に入れた小銭を手探りで触る。
ひいふうみい数える中、邪魔をするように晴香がじゃれてくる。
「…なんだ」
「ソーダ味のがいいなぁ」
「是非ともそうしてくれ」
コンビニでソーダ味のアイスキャンディを買った二人は店先で包みを捨てた。
冷凍庫の中で一番安いものを晴香が選んだおかげで、八雲の手にもそれが握られている。
お金を払ったのは八雲であるが。
ありがとうございましたの言葉を背中に二人は改めてお寺に向かって歩き始めた。
ソーダ味のアイスは口に含む度にしゃりしゃり音を立て、口の中で溶けていく。
「こんな暑い日にはソーダ味のアイスに限るよね」
八雲は何も返さなかったが、胸中ではうんうん頷いていた。
夏空を何十倍にも薄めた水色のアイスに、八雲はかじりつく。
「よーし、冬も勝ったら肉まん奢ってね」
「次も勝てたらの話だがな」
「勝ってみせるもん!」
「ふっ…かかってこいよ」
二人がアイスをかじる音は蝉の声にかき消され、空まで届くことはなかった。
end.
ガリガリ君梨味を食べましたがおいしい!
けれどやっぱりソーダ味も捨てがたい。
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