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八雲で八晴!

七日も過ぎてしまいましたがお誕生日のお話です。
※8/20 アップ出来ていませんでした。再度アップします。ごめんなさいorz

八雲/八晴

「いってらっしゃい」


ちゅっと軽いキスと共にお仕事に出掛ける旦那様を見送り、晴香はベランダに飛び出した。

集合玄関から出ていくスーツ姿の背中を眺め、よしと意気込んだ。


「さぁて、がんばろう!」



カレンダーが指すのは8月3日。


今日は愛しの旦那様、八雲の誕生日———






午前中のうちにスポンジを焼いて、あとはクリームを塗るだけ。
合間に洗濯物を干したり、夕食の買い出しにも出かけた。

八雲の好きなものを作ってあげようとしたら、あっと言う間にカゴは一杯一杯になった。

「二人で食べきれるかな…」

ケーキの飾り付けをしながら晴香は一人ぼやく。
卓上の上には窮屈そうにお皿が並ぶ。
綺麗に磨かれた皿には八雲の好物が盛りつけられ、主役の帰りを今か今かと待っていた。

完成したケーキを冷蔵庫に入れたところで、玄関のチャイムが鳴った。

「は〜い」

八雲君かな?時計を見るが、八雲にしては少し早い。
早退して来たのだろうかと考えながら、晴香は玄関のドアを開けた。

「よお、晴香ちゃん」

「後藤さん!」

そこにいたのは熊のように大きな体の後藤であった。

どうして後藤さんがここに?

晴香が首を傾げると、後藤の陰から小さな女の子が顔を覗かせた。

『こんにちは。お姉ちゃん!』

「奈緒ちゃん!」

くりくりした目を細め、奈緒は笑った。
頭の中に少女の笑い声が響く。

「奈緒がどうしてもお祝いしたいっていた言うものだから…」

後藤の後ろに立っていた敦子が奈緒の頭に手を置いた。

『今日はお兄ちゃんの誕生日だよね!』

「よく覚えていたねぇ」

晴香も褒めるように奈緒の頭を撫でた。
兄とは違いまっすぐな髪。
しかし触り心地は、さすが兄妹と言いたくなるほど柔らかかった。

「それと、これ」

敦子は保冷バッグを渡す。
ファスナーを開けて覗いてみると、タッパーが積み重なっていた。

「若い子のお口に合うか分からないけれど」

「いえいえ!ありがとうございます!」

深々と頭を下げる。
あ、でも…とそろり顔を上げる。

「八雲君、まだ帰ってないんですよ」

「あいつも頑張るなぁ」

「後藤さんも八雲君を見習って、犯人逮捕に励んでください」

「…本当、八雲に似てきたな」

「そうですか?」

わざとらしく肩を竦めて、光栄ですと言わんばかりに笑みを浮かべた。

「もう少しで帰ってくると思うんで、中で待ってます?」

「いいのか?夫婦水入らずのとこ、邪魔しちまうんじゃ」

「八雲君も奈緒ちゃんに会いたいと思いますし、それに…」

晴香は三人を部屋の中に招き入れる。

「二人じゃこんなに食べられません」

テーブルの隅々まで並ぶご馳走を見せられ、後藤と敦子は苦笑いを浮かべた。






エレベーターから降りた八雲はすんと鼻を鳴らした。
マンションの外廊下まで漂う空腹を誘う匂い。
ふらふら導かれるように玄関まで行く。表札はやはり「斉藤」だった。


今日は八雲の誕生日。

一週間前から張り切る奥さんの姿を思い出しては笑みをこぼした。


「ただいま」

玄関に上がり靴を脱いでいると、リビングの方から晴香がやって来た。

「おかえりなさい!」

こうしてみると犬みたいだ。
八雲の傍まで駆け寄り、物欲しげに見上げてくる晴香の尻に尾が見えた。

鼻先をこちらに向けておねだりするように目を細める。
仕方ないなとため息を吐きつつも、内心では鼓動が高鳴る。
前髪を撫でつけ頬へ顎へ指を滑らせた。

「………」

あと少し…というところで、視線を感じて制止する。
晴香の後ろに目を向ければ、そこには何故か奈緒の姿があった。

「こら!邪魔しちゃだめよ」

ついでに、リビングから覗く後藤夫妻の姿もあった。

「何をしてるんですか…あなたたちは」

後に後藤は八雲から殺意を感じたのは中坊以来だと語った。

おかえりのキスが出来なかっただけではなく、寄りによってあの人たちに見られた。
罰が悪そうに髪を掻きながら八雲が部屋へ上がる。

せーの、のかけ声に耳元で破裂音が響いた。

「お誕生日おめでとう!!」

クラッカーから飛び出た紙テープを浴びながら、八雲は目を丸くした。


テーブルに並ぶ料理の数々。

鮮やかな色紙で飾り付けられた室内。

さぁさぁと被せられた三角帽子はさすがに恥ずかしかった。

「ほら、主役が座らないと始まらないわよ」

「…その前にスーツを着替えてきたいんですが」

「後にしろって!腹が減って仕方ねーんだ」

「そんな大きな腹なのに?」

『奈緒もおなかすいたよ?』

「………」

八雲はしぶしぶ腰を下ろす。
後藤一家に振り回される八雲に、晴香は苦笑を浮かべた。

「とりあえず乾杯だけでもやっちゃえば?」

「………」

「それじゃあ八雲の誕生日を祝ってぇ!」


乾杯────



壁に寄りかかりながら八雲はちびちびジュースを飲んだ。
奈緒のグラスに注がれているのと同じオレンジジュース。

先ほどからテーブルの周りでは酒飲みがどんちゃん騒ぎを起こしている。
奈緒は疲れてしまったのか八雲の膝を枕に眠りに付いている。

「まったく、誰が主役だ誰が…」

緩めたネクタイをさらに緩め、ワイシャツのボタンを外す。
細く開いた窓の隙間から、生ぬるい夜風が吹き込む。

奈緒の頭を撫でながら、ぼんやりその光景を眺めていた。

「疲れちゃった?」

顔を上げるとそこには晴香がいた。
酎ハイの入ったグラスを片手に隣に並ぶ。

「夜も遅い。もう寝る時間なんだろ」

「奈緒ちゃんじゃなくて、八雲君」

ああ確かに、さっきの効き方だと僕に訪ねていたな。

「少し」

疲れていないと言えば嘘になる。
誕生日だからと言って早退をするわけがない。今日も普通に働いてきた。
それに普段ならば床に付いても良い時間。
明日が土曜日なのが唯一の救いだ。

「先に寝てる?」

「平気だ」

どうせそろそろ帰るだろう。
奈緒の頭を撫でながら考えた。
なによりももう少し晴香と一緒にいたい。
八雲はぐらぐら襲ってくる目眩に堪え、力強く目を瞑った。

「あ…」

「どうした」

「んー…あー、えっと」

言いづらそうに酔いに赤らんだ頬を掻く。
しかし引かない八雲を見て、ええいと勢いを付けた。

定まらない視界に、ちゅっと乾いたリップ音。
あっという間に世界は鮮やかに彩られた。


「お誕生日、おめでとう…!」


ちょうどそのとき、遠くの方で二十四時を知らせるチャイムが鳴った。






「ヒューヒューお熱いねぇ!」

「み、見てたんですか後藤さん!?」

「そりゃあ…ねぇ?」

「若いって良いわねぇ」






end.



一時間ごとに刻を知らせる時計ってもうあまりないですかね…?

とにかくハッピーバースデー!八雲!
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