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八雲で八雲が魔法使い黒猫パロ。
半年も微妙なところで待たせてしまい…
申し訳ないです><
※9/10 再更新です!
八雲/魔法使いの黒猫八雲
半年も微妙なところで待たせてしまい…
申し訳ないです><
※9/10 再更新です!
八雲/魔法使いの黒猫八雲
初めはすぐに帰ってくると思った。
今までだって八雲が一人で外へ出かけたことは多々ある。
どんなに遅くなったって、夕飯の支度が終わる頃にはちゃんと帰ってきた。
だけど、今回は違う。
魔法使いである八雲がいなくなって一週間。
今日もまた、天気は雨だった。
ポツポツ雨が傘を叩く。
帰路についた晴香は溜め息を吐いた。
表情は暗く、伏せた視線は雨に濡れて濃くなった地面に落とされている。
一向に止む気配を見せない雨ほど、厄介なものはない。
洗濯物は干せないし、傘という荷物が増える。
しかし、晴香の溜め息の理由は別にあった。
「八雲君…」
無意識のうちに名前を呼んでしまう。
ここ一ヶ月の間に一番呼んだ名。
突然姿を消してしまった、居候の名…
八雲がいなくなってからの毎日、晴香は八雲を探し続けていた。
もしかしたら怪我が治り去ったのかもしれない。
無愛想な彼のことだから十分にあり得る。
そう何度も自分に言い聞かせたって、気付けば八雲の姿を探していた。
「八雲君」
黒猫を見かける度にその名を呼んだ。
「八雲君」
寝癖だらけの背中を見る度にその名を呼んだ。
その努力むなしく、面倒くさそうに「なんだ」と返してくれる声はない。
あのひと月がまるで夢だったよう。
もしかしたら長い長い夢を見ていたのかもしれない。
しかし有り余った猫缶の山が、八雲がいたことを教えてくれた。
空地の横を通りかかったとき、晴香は足を止めた。
なにやら騒がしい。
空地に目を向ける。
土管と放棄された粗大ゴミが無造作に詰まれた空地。
倒れた土管の周りにカラスが数羽群れている。
その様は、黒いビニール袋が木枯らしに揺れているよう。
バサバサと翼を羽ばたかせ、嗄れた声を上げている。
カラスなんて珍しいものではない。
立ち止まるまでもないはずなのに、足が動かなかった。
カラスをじっと見つめる。
不法投棄されたゴミでも漁っているのだろうか。
しかし、土管の中で動いた影にその考えは打ち消された。
暗闇に潜む“赤”を目にした途端。
晴香は駆けだしていた。
草は伸び放題になり、地が現れているところも雨でぬかるみ足元を掬われる。
何度も転びそうになりながら、カラスの群へと飛び込んだ。
「離れてよ…!」
畳んだ傘を振り回す。
確認するまでもない。土管の中には八雲がいた。
首に掛けた赤い石が何よりの証拠だ。
八雲は闇に身を隠すように、黒猫の姿でじっとうずくまっていた。
やっとのことでカラスを追い払う頃には、足元は泥だらけになっていた。
首に張り付いていた髪を払いもせず、土管に駆け寄る。
「八雲君!」
土管の中をのぞき込むと、黒と赤の瞳と目があった。
眩しそうに目を細め、重たそうな瞼をこじ開けている。
久しぶりに見たその姿は随分と情けないものになっていた。
脇に手を入れ抱き上げ、濡れてやせ細った身体を抱きあげる。
カラスにやられたのか体には生々しい傷が浮かぶ。
毛は抜け桃色の地肌はバックリと割れていた。
「帰ったら、また包帯巻いてあげるから」
そう言い、晴香は両腕で八雲を優しく包む。
抱きしめた身体は本当に痩せていた。
八雲は静かに目を閉じた。
家に連れ帰りシャワーを浴びせる。
ひと月前にも同じことをしたのにずいぶんと昔のことのように感じる。
しかしあのときとは違い、八雲はまったく暴れなかった。
衰弱しきった体を労るように、晴香はできるだけ優しく洗ってやった。
濡れた体をタオルで拭う間も八雲は大人しい。
衰弱しているというよりも、魂そのものが抜けてしまったようで。
「八雲君?」
心配になった晴香はその名を呼ぶ。
猫の姿をした八雲が返事をしてくれることなど無いが、気付けばその名を呼んでいた。
包帯を巻きながらも、何度も何度も呼び掛ける。
しばらくすると「んにゃ」とだけ短い返事を返してくれた。
晴香はほっと胸を撫で下ろす。
ただ返事を返してくれただけのことなのに、溜まった不安は安堵に変わっていった。
それと同時に全身の力が緩む。
途端にぽたりと小さな八雲の額に何かが落ちた。
何だろうかと覗き込むと、また一つ八雲の頭に滴が落ちてきた。
目を見開いた八雲が驚いたようにこちらを見上げる。
八雲の視線の先に何があるのかを理解し、晴香は自分が泣いていることに気が付いた。
気付いたらもう理性が利かない。
ぼろぼろ大粒の涙がこぼれ落ち、八雲に罵詈雑言を吐きつけた。
泣いているのか怒っているのか、自分でも訳が分からなくなってくる。
しかしどんな言葉を並べも、結局最後は「心配したんだから」に繋がる。
「バカ!八雲君のバカバカ!」
そのうち「馬鹿」としか言えなくなり、晴香は膝の上で手持ち無沙汰の拳を握った。
「ばかぁ…」
ボンと煙を撒きながら八雲は姿を変える。
人の姿になった八雲は、ぐいと力任せに晴香を抱き寄せた。
「…すまなかった」
久しぶりに聞いた八雲の第一声は謝罪だった。
「八雲君の、ばか…っ」
あぁ、八雲は帰ってきたんだ。
晴香は子供のようにただただ泣いた。
「落ち着いたか?」
八雲の拳が背中をさする。
傷だらけの腕で、動かすだけでも痛いはずなのに。
涙を拭いながらこくこく頷く晴香に、八雲は静かに息を吐いた。
「包帯、取れちゃったじゃない」
大泣きしてしまった晴香は気まずく、口から出てくるのはやっぱり文句。
どうして素直になれないんだろう。
言ってから後悔しても、訂正出来ない。
八雲は腕から垂れ下がる包帯を見てあぁと言った。
「この姿じゃないと君を抱きしめてやれないだろ?」
その言葉に晴香が赤面したのは言うまでもない。
「ば、ばか!」
顔を隠すように晴香は八雲の腕の中で俯いた。
ああ、なんてずるい人なんだ。
また俯いてしまった晴香の後頭部を、八雲は優しく撫でる。
もう少しだけ、もう少しだけこうしていたい。
晴香は八雲の胸板に額を押しつけた。
end.
帰ってきた八雲君。
今までだって八雲が一人で外へ出かけたことは多々ある。
どんなに遅くなったって、夕飯の支度が終わる頃にはちゃんと帰ってきた。
だけど、今回は違う。
魔法使いである八雲がいなくなって一週間。
今日もまた、天気は雨だった。
ポツポツ雨が傘を叩く。
帰路についた晴香は溜め息を吐いた。
表情は暗く、伏せた視線は雨に濡れて濃くなった地面に落とされている。
一向に止む気配を見せない雨ほど、厄介なものはない。
洗濯物は干せないし、傘という荷物が増える。
しかし、晴香の溜め息の理由は別にあった。
「八雲君…」
無意識のうちに名前を呼んでしまう。
ここ一ヶ月の間に一番呼んだ名。
突然姿を消してしまった、居候の名…
八雲がいなくなってからの毎日、晴香は八雲を探し続けていた。
もしかしたら怪我が治り去ったのかもしれない。
無愛想な彼のことだから十分にあり得る。
そう何度も自分に言い聞かせたって、気付けば八雲の姿を探していた。
「八雲君」
黒猫を見かける度にその名を呼んだ。
「八雲君」
寝癖だらけの背中を見る度にその名を呼んだ。
その努力むなしく、面倒くさそうに「なんだ」と返してくれる声はない。
あのひと月がまるで夢だったよう。
もしかしたら長い長い夢を見ていたのかもしれない。
しかし有り余った猫缶の山が、八雲がいたことを教えてくれた。
空地の横を通りかかったとき、晴香は足を止めた。
なにやら騒がしい。
空地に目を向ける。
土管と放棄された粗大ゴミが無造作に詰まれた空地。
倒れた土管の周りにカラスが数羽群れている。
その様は、黒いビニール袋が木枯らしに揺れているよう。
バサバサと翼を羽ばたかせ、嗄れた声を上げている。
カラスなんて珍しいものではない。
立ち止まるまでもないはずなのに、足が動かなかった。
カラスをじっと見つめる。
不法投棄されたゴミでも漁っているのだろうか。
しかし、土管の中で動いた影にその考えは打ち消された。
暗闇に潜む“赤”を目にした途端。
晴香は駆けだしていた。
草は伸び放題になり、地が現れているところも雨でぬかるみ足元を掬われる。
何度も転びそうになりながら、カラスの群へと飛び込んだ。
「離れてよ…!」
畳んだ傘を振り回す。
確認するまでもない。土管の中には八雲がいた。
首に掛けた赤い石が何よりの証拠だ。
八雲は闇に身を隠すように、黒猫の姿でじっとうずくまっていた。
やっとのことでカラスを追い払う頃には、足元は泥だらけになっていた。
首に張り付いていた髪を払いもせず、土管に駆け寄る。
「八雲君!」
土管の中をのぞき込むと、黒と赤の瞳と目があった。
眩しそうに目を細め、重たそうな瞼をこじ開けている。
久しぶりに見たその姿は随分と情けないものになっていた。
脇に手を入れ抱き上げ、濡れてやせ細った身体を抱きあげる。
カラスにやられたのか体には生々しい傷が浮かぶ。
毛は抜け桃色の地肌はバックリと割れていた。
「帰ったら、また包帯巻いてあげるから」
そう言い、晴香は両腕で八雲を優しく包む。
抱きしめた身体は本当に痩せていた。
八雲は静かに目を閉じた。
家に連れ帰りシャワーを浴びせる。
ひと月前にも同じことをしたのにずいぶんと昔のことのように感じる。
しかしあのときとは違い、八雲はまったく暴れなかった。
衰弱しきった体を労るように、晴香はできるだけ優しく洗ってやった。
濡れた体をタオルで拭う間も八雲は大人しい。
衰弱しているというよりも、魂そのものが抜けてしまったようで。
「八雲君?」
心配になった晴香はその名を呼ぶ。
猫の姿をした八雲が返事をしてくれることなど無いが、気付けばその名を呼んでいた。
包帯を巻きながらも、何度も何度も呼び掛ける。
しばらくすると「んにゃ」とだけ短い返事を返してくれた。
晴香はほっと胸を撫で下ろす。
ただ返事を返してくれただけのことなのに、溜まった不安は安堵に変わっていった。
それと同時に全身の力が緩む。
途端にぽたりと小さな八雲の額に何かが落ちた。
何だろうかと覗き込むと、また一つ八雲の頭に滴が落ちてきた。
目を見開いた八雲が驚いたようにこちらを見上げる。
八雲の視線の先に何があるのかを理解し、晴香は自分が泣いていることに気が付いた。
気付いたらもう理性が利かない。
ぼろぼろ大粒の涙がこぼれ落ち、八雲に罵詈雑言を吐きつけた。
泣いているのか怒っているのか、自分でも訳が分からなくなってくる。
しかしどんな言葉を並べも、結局最後は「心配したんだから」に繋がる。
「バカ!八雲君のバカバカ!」
そのうち「馬鹿」としか言えなくなり、晴香は膝の上で手持ち無沙汰の拳を握った。
「ばかぁ…」
ボンと煙を撒きながら八雲は姿を変える。
人の姿になった八雲は、ぐいと力任せに晴香を抱き寄せた。
「…すまなかった」
久しぶりに聞いた八雲の第一声は謝罪だった。
「八雲君の、ばか…っ」
あぁ、八雲は帰ってきたんだ。
晴香は子供のようにただただ泣いた。
「落ち着いたか?」
八雲の拳が背中をさする。
傷だらけの腕で、動かすだけでも痛いはずなのに。
涙を拭いながらこくこく頷く晴香に、八雲は静かに息を吐いた。
「包帯、取れちゃったじゃない」
大泣きしてしまった晴香は気まずく、口から出てくるのはやっぱり文句。
どうして素直になれないんだろう。
言ってから後悔しても、訂正出来ない。
八雲は腕から垂れ下がる包帯を見てあぁと言った。
「この姿じゃないと君を抱きしめてやれないだろ?」
その言葉に晴香が赤面したのは言うまでもない。
「ば、ばか!」
顔を隠すように晴香は八雲の腕の中で俯いた。
ああ、なんてずるい人なんだ。
また俯いてしまった晴香の後頭部を、八雲は優しく撫でる。
もう少しだけ、もう少しだけこうしていたい。
晴香は八雲の胸板に額を押しつけた。
end.
帰ってきた八雲君。
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