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八雲で晴香が犬耳幼女なパロディ、きょうのはるか。

犬耳幼女パロとか…怪しい響き…
八雲と晴香と手作りおもちゃなお話です。

八雲/きょうのはるか

ノートの端。

邪魔にならないようにと遠慮がちに紙コップが置かれた。



極限、目を向けないようにするけれど、視界の隅の卓袱台の端。
小さい手と覗く瞳がちらちら横切った。

息を吐いて顔を上げる。
八雲は紙の上を走るペンを休ませた。

「!」

卓袱台越しに八雲を見ていた晴香は、慌てて身を低くして隠れる。
と言っても卓袱台の下に潜り込んだだけ。
ぴんと立った尾の先が猫じゃらしのようにゆらゆら揺れていた。

「………」

それから八雲は卓上を走る細い糸を目で追った。


スタート地点は晴香がいる辺り。

ゴールはノートの隅に置かれた紙コップ。


「いとでんわ!」


数十分前、楽しそうに紙コップに話しかける晴香の姿が脳裏に浮かんだ。






珍しく八雲は勉強に励んでいた。

真面目に講義は受けずとも試験には合格し単位は取れる。
だが今回はそれだけでは足らず、ノート提出をしなければならなかったのだ。

さすがの八雲もノートを写し取るには人並みの時間がかかる。

締め切りは明日。
こうして八雲はノートの書き写しに明け暮れていた。


そこで晴香の気を逸らそうと紙コップを使って糸電話を作ったのだが…
効果は裏面に出た模様。


そもそも一人で遊ばせるのに糸電話を作ったのが間違いだった。
数十分前の自分に呆れて溜め息が出る。

卓袱台の縁に手を乗せて、期待の眼差しでこちらを見上げてくる晴香。
仕方ないと再び息を吐き、八雲はペンを置いた。

「少しだけだからな」

「きゅっ!」

紙コップを手にした八雲を見て晴香は目を輝かせる。
急いで卓袱台の下に潜り込もうとする晴香を八雲は制した。

「そんなに近いとつまらなくないか?」

晴香は小さな両の手で紙コップを握りながらキョロキョロと部屋の中を見渡した。

襖で仕切られた台所へ行くかと思ったが、予想は外れて灯台もと暗し。
すぐ背後のベッドに登り薄くて固い布団の中に潜り込んだ。


まあ、卓袱台の下よりはマシか。


八雲は紙コップの中を覗きこみながら、声が聴こえてくるのを待った。
しかし待てども待てども声が届くことはない。

不思議に思い振り替えると、ベッドに寝転がった晴香が口の端と端とを結んで瞳を輝かせている。


使い方が分からないのか、それとも受け手になりたいのか。


八雲には分からない。
期待の眼差しを一心に向けられ、思わず目を逸らしたくなった。

「もしもし」

晴香に見えるように、紙コップに話しかける。
声はもちろん抑えて。

糸を伝って届いた声に晴香は口と目を同時に開いた。
糸電話を作りながら、晴香に使い方を説明したがやっと一致した様子。


八雲は紙コップを指差し、それから話しかけるようにとジェスチャーをする。
晴香は恐る恐る紙コップに話しかけた。

「もちもち」

「誰だ?」

返ってきた声に布団の中で尻尾が左右に揺れるのが分かった。

「はりゅは、はりゅか!」

元気いっぱいな声が紙コップからも、後ろからも返ってくる。
思わず紙コップから耳を離す。

「…自分のことを“はりゅ”と言うのやめた方が良いんじゃないか?」

「ぼきゅ」

「僕じゃなくて、わたし」

八雲を真似て、頭の上の耳に紙コップを当てていた晴香はうんうん頷く。

「はりゅは、やきゅが、ちゅき!」


何も分かっていない。

八雲は肩を落とす。
まあいいか、と諦めて紙コップに口を寄せる。

「次に好きなものはなんだ?」

「ぎうにう!」

百点満点の良い返事。
しかし相手に聴こえるほどの大声では糸電話の意味がない。


布団の山から伸びた糸。

一応は隠れているつもりらしいが、これでは作った身としては面白くない。


糸電話を手に立ち上がる。

晴香は布団シェルターの中から八雲を目で追った。

八雲は迷いなく台所に向かう。
襖を半分だけ閉めて板の間にしゃがみこんだ。

紙コップと紙コップを結ぶ糸がぴんと張った。

「もしもし」

「もちもち」

「…僕は八雲だ」

「ちってる!やきゅもきゅん!」


いまいち会話らしくならない。

ついでに言うとやっぱり大声は健在で、糸電話の意味がない。


「もきゅ」

「?」

紙コップを耳に当てると、ぷきゅぷきゅという鳴き声が微かな振動と共に伝わってきた。

晴香の笑い声は糸電話からしか聴こえない。
楽しそうな鳴き声だけが、糸電話に仕事を与えていた。

ううんと頭を捻りながら八雲は顎を撫でる。
しかし八雲が考える時間は無いにも等しかった。

「やきゅもきゅん?」

気付けば晴香はすぐそこにいた。
襖から顔を覗かせて、何をしているのと言わんばかり。

弛んだ糸が晴香の足元で遊んでいた。


染めた頬を震わせて、笑みを浮かべて。

正しい遊び方じゃないけれど、満足感に満ちているように見える。

「…楽しかったか?」

「うん!」

パタパタ尻尾を左右に揺れる。
膝の間に入り込み、荒い鼻息で何かを訴えてきた。

舌足らずな言葉たちで何を言っているか分からない。

糸電話を耳に当てたり口に当てたり。

その中でも大部分を占めていたのは「もちもち」だった。



「じゃあ、あとは一人で遊んでられるな?」

「きゅ!」

晴香の脇を抱き抱え居間に向かう。
卓袱台の前に腰を下ろした八雲は勉強を再開させた。

しばらく晴香は八雲の隣で勉強の進み具合を眺めていた。
紙の上を走るペンを目で追いかけたり、消しゴムを転がしたり。

ペンをつついて怒られてからは、大人しく糸電話で遊んでいた。

「きゅー…」

片方を口元に当てて、片方を耳に当てて。
ときどき両方を耳に当てたりもしていた。






それからどれ程の時間が経っただろう。

晴香の邪魔もなく集中して取り掛かっていたところで、シャープペンシルの芯が折れた。
合図のように集中力も弱まる。

ふと、晴香の気配がないことに気が付いた。
首を捻って部屋の中を見渡すも、晴香の姿はない。
放り出された青色のボールや糸電話が物寂しい。

「晴香」

名前を呼ぶ。どこからか「きゅ」とお返事。
声のした方に目を向ければ、風呂場から晴香が出てきた。
バスタオルを口にくわえ、一生懸命に運んでくる。

僕の前まで持ってくるとタオルを足元に落とし、パタパタ尻尾を振った。

「おふろ!はいろ!」

窓の外を見れば、とっくに太陽は沈んでいた。
そんなに時間が経過していたのか。

八雲は晴香の頭に手を置く。

「……仕方ないな」


勉強は一時中断だ。






邪魔されつつも晴香に構ってしまう、八雲なのでした。






end.



晴香に対してアマちゃんな八雲君。
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