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八雲で八晴。
だんだんと寒くなってきましたねぇ!
そんな日のお話です。
八雲/八晴(恋人)
だんだんと寒くなってきましたねぇ!
そんな日のお話です。
八雲/八晴(恋人)
はあ、と吐いた息が白い。
もうそんな季節なのかと独りごちる晴香の足下に、枯れ葉が落ちる。
下ろし立てのショートブーツで踏むと、さくと小気味よい音をたてた。
「すっかり秋だね」
「暦の上では等の昔に秋は来ている」
「もう!そう言うことを言いたいんじゃなくて…へっくしゅん!」
前方を歩いていた八雲が、くしゃみを聞いて振り返った。
その身にはモッズコートを羽織り冬支度に備えていた。
呆れた眼差しで見下ろし溜め息を一つ。
「そんな薄着で出歩くからだ」
「仕方ないでしょ!まさか事件に巻き込まれるだなんて…」
「その事件も事故だったんだ。良かったじゃないか」
「う、ううん…?」
何かうまく丸め込まれてるような。
首を傾げる晴香は、へっくしょんとまたくしゃみをした。
ぶるり震えて手を擦り合わせる。
明日は一日衣替えだ。クローゼットの中から冬物を探りだすのだ。
両の手にはあ、と吐息を吹き掛けてみたが長くは持たなかった。
「寒い!」
肌を擦る北風に思わず手を引っ込める。
カチカチに冷えた指先を、カーディガンの袖の中で擦り合わせた。
厚手の手袋をしているような拳の感触に冬の訪れが近いことを悟る。
目の前を行く八雲のモッズコートが羨ましい。
左右の手は二つのポケットに納まり、出てくる気配を見せない。
袖の中で震える晴香とは大違いだ。
こうなったらフードのファーだけでも貸してもらえないだろうか。
恨めしそうな眼差しを背に浴びて、八雲はわざとらしい溜め息を吐いた。
足を止めて振り返る。
「ほら」
ゴツゴツした右手が差し出される。
思わず顔を上げる。
真正面から見た八雲の鼻先は赤くなっていた。
「このままだと君に身ぐるみ剥がされるような気がして」
「そんなことしないわよ!」
そーいうことをするのは八雲の方だ!
晴香は主張したかったが、公共の場ということもあり抑えた。
「………」
それではありがたく…
八雲の右手を取ろうとしたが、晴香の左手は空を切った。
「…いや、やっぱり左の方がいいな」
「?」
どうして、と言おうとした矢先。
白線の向こう側、右手側を車が走っていった。
意味を理解した晴香は頬を膨らます。
「子供扱いしないで!」
怒りを露にする晴香に比べ、八雲はどこ吹く風とおどけた表情。
それが火に油を注いだ。
「…もうっ!」
口で勝てないと知る晴香は、ふんとそっぽを向く。
頬が赤いのは怒りからか寒さからか。
八雲より先を歩こうと横を通り過ぎる。
寒さに感覚が鈍くなった手を取る誰か。
晴香はぐいと後ろに引っ張られた。
「あっ…」
目の先、鼻の先には八雲の顔。
黒と赤の瞳に至近距離で見つめられ息をのむ。
晴香の身体はメデューサに睨まれたように動かなくなった。
「君が心配なんだよ」
唇に触れた吐息がやけに熱く、身体中がとろけてしまいそう。
握られた右手から春が訪れてくるようだった。
八雲に見惚れ動けない晴香に、口の端をきゅっと吊り上げて笑う。
「手っ取り早く寒さを和らげる方法を教えてやろう」
顔のみならず身体まで寄せてくる。
腰に手を回し引き寄せられた。
「人肌、だ…」
唇にそれが触れるかどうか。
もどかしく曖昧なところで八雲の肩にストップの手が入った。
「それ以上やったら俺の仕事が増えることになる」
耳元で八雲の舌打ちが聞こえた。
腰に回された手は外されたが、繋がれた右手はそのまま。
「他のことに目を光らせた方が良いと思いますよ、後藤さん」
「俺のモットーは小さな事件からコツコツと、だ」
無精髭を指で撫でた後藤は、冷めた目で二人を眺めた。
その後ろで石井がすまなそうに肩身を縮こませる。
「二人の世界に入りやがって…見せつけられる方の身にもなれってんだ」
なあ石井、と後藤は同意を求めたが石井は「あぁえぇっと」を繰り返すばかり。
「後藤さんが勝手に見ているんでしょう?」
「見られたくねぇんだったら、こんなとこでイチャつくな」
「誰かさんのせいで事件に巻き込まれてご無沙汰なんですよ」
「…勝手にしろ」
ああもう見てらんねぇ聞いてらんねぇ。
つい煙草を吸いたくなる。
もの足りなさそうな口元を慰めるように唇に歯を立てた。
「ところで」
顔をあげたが、どうやら晴香に話しかけたらしい。
そりゃそうだ。八雲が好き好んで話しかけるのは晴香しかいない。
「約束のアレ…忘れたとは言わせない」
「うぅっ…」
晴香の表情が一瞬曇る。
気のせいかと目を擦ったが、どこか浮かない顔で足下を見下ろしていた。
「解決したら“ご褒美”をくれる。そういう約束だろ」
二人の知らぬ間に、八雲と晴香の間で約束が交わされていたらしい。
道理で八雲が積極的に首を突っ込んできたわけだ。
成人した男がご褒美だなんて。
微笑ましいとにやける後藤の表情は、次の一言で凍り付いた。
「こんなとこじゃ…だめ、だよ…」
いつの間にやら火照った顔で、言いにくそうに小声で。
擽ったそうに身を捩らせながら晴香は言った。
「家に帰ってからじゃないと」
「待てない」
「でも…後藤さんたちもいるし…」
斜め後ろにいる石井の気配が消えた。きっと石化しているのだろう。
「それに八雲君なかなか満足してくれないし…」
「我慢する僕の身にもなれ」
「…やっぱり、恥ずかしいから…やっ」
「…約束は約束。嘘つきには、なりたくないだろう?」
八雲のその一言が決めてになったようだ。
身体の前で握り締められていた拳がゆっくり解かれる。
恐る恐る見上げる瞳には、普段なかなか見られない色気を感じた。
晴香の右手が八雲の頬を撫でる。
そのまま耳を包み、うねる黒髪の中に白く細い指が埋まっていった。
「八雲君…」
「…晴香」
「ちょっ、ちょっちょっ!ストップ!ストーップ!」
見ているこっちが恥ずかしなる。
なんとも甘ったるい雰囲気に、後藤は酔いかけた。
慌てて二人の間に押し入り、思い切り引き離す。主に八雲を 。
「何するんですか」
八雲は不満げに眉を寄せる。
確かに、これは邪魔だったろう。しかし止めないわけにはいかない。
「それはこっちの台詞だ!てめぇら何しようとしてる!?」
「ご褒美をもらおうとしているだけです」
「いや、だからな、その内容が…」
なかなか言葉にすることが出来ず言い淀んでいると、今まで黙っていた晴香が口を開いた。
「ほら、やっぱりこんな場所でするものじゃないよ。頭をなでなでするなんて」
「そう、頭をなでな…で?」
「えっ」と晴香を見る。すると晴香も「えっ」と首を傾げた。
「ご褒美って…もしかして」
「八雲君が満足するまで頭をなでなで、です」
くっと八雲が噴き出した。
肩が小刻みに揺れている。
騙された。
晴香はともかく八雲は最初から分かっていたに違いない。
分かっていて、中年をからかっていたのだ。
「くそっ…もう勝手にしろ」
仲睦まじく手を繋ぐ二人を追い越していく。
通り過ぎる際、晴香が照れ臭そうに笑ったのを見て、心が折れそうになった。
石井なんて燃え尽きてしまっている。
「おい!今日は飲んで帰るぞ!」
石井の肩に手を回し、名一杯首を締める。
こうなったらコイツらにはとことん付き合ってもらおう。
そう思った矢先。
「パス」
繋いだ手を見せつけるように持ち上げて、口の端をくいと上げた。
「家に帰ったら、もっとすごいご褒美が待ってるんで」
end.
初期の頃から書きたかったご褒美話と、毎年恒例スノースマイルを合わせたお話でした。
もうそんな季節なのかと独りごちる晴香の足下に、枯れ葉が落ちる。
下ろし立てのショートブーツで踏むと、さくと小気味よい音をたてた。
「すっかり秋だね」
「暦の上では等の昔に秋は来ている」
「もう!そう言うことを言いたいんじゃなくて…へっくしゅん!」
前方を歩いていた八雲が、くしゃみを聞いて振り返った。
その身にはモッズコートを羽織り冬支度に備えていた。
呆れた眼差しで見下ろし溜め息を一つ。
「そんな薄着で出歩くからだ」
「仕方ないでしょ!まさか事件に巻き込まれるだなんて…」
「その事件も事故だったんだ。良かったじゃないか」
「う、ううん…?」
何かうまく丸め込まれてるような。
首を傾げる晴香は、へっくしょんとまたくしゃみをした。
ぶるり震えて手を擦り合わせる。
明日は一日衣替えだ。クローゼットの中から冬物を探りだすのだ。
両の手にはあ、と吐息を吹き掛けてみたが長くは持たなかった。
「寒い!」
肌を擦る北風に思わず手を引っ込める。
カチカチに冷えた指先を、カーディガンの袖の中で擦り合わせた。
厚手の手袋をしているような拳の感触に冬の訪れが近いことを悟る。
目の前を行く八雲のモッズコートが羨ましい。
左右の手は二つのポケットに納まり、出てくる気配を見せない。
袖の中で震える晴香とは大違いだ。
こうなったらフードのファーだけでも貸してもらえないだろうか。
恨めしそうな眼差しを背に浴びて、八雲はわざとらしい溜め息を吐いた。
足を止めて振り返る。
「ほら」
ゴツゴツした右手が差し出される。
思わず顔を上げる。
真正面から見た八雲の鼻先は赤くなっていた。
「このままだと君に身ぐるみ剥がされるような気がして」
「そんなことしないわよ!」
そーいうことをするのは八雲の方だ!
晴香は主張したかったが、公共の場ということもあり抑えた。
「………」
それではありがたく…
八雲の右手を取ろうとしたが、晴香の左手は空を切った。
「…いや、やっぱり左の方がいいな」
「?」
どうして、と言おうとした矢先。
白線の向こう側、右手側を車が走っていった。
意味を理解した晴香は頬を膨らます。
「子供扱いしないで!」
怒りを露にする晴香に比べ、八雲はどこ吹く風とおどけた表情。
それが火に油を注いだ。
「…もうっ!」
口で勝てないと知る晴香は、ふんとそっぽを向く。
頬が赤いのは怒りからか寒さからか。
八雲より先を歩こうと横を通り過ぎる。
寒さに感覚が鈍くなった手を取る誰か。
晴香はぐいと後ろに引っ張られた。
「あっ…」
目の先、鼻の先には八雲の顔。
黒と赤の瞳に至近距離で見つめられ息をのむ。
晴香の身体はメデューサに睨まれたように動かなくなった。
「君が心配なんだよ」
唇に触れた吐息がやけに熱く、身体中がとろけてしまいそう。
握られた右手から春が訪れてくるようだった。
八雲に見惚れ動けない晴香に、口の端をきゅっと吊り上げて笑う。
「手っ取り早く寒さを和らげる方法を教えてやろう」
顔のみならず身体まで寄せてくる。
腰に手を回し引き寄せられた。
「人肌、だ…」
唇にそれが触れるかどうか。
もどかしく曖昧なところで八雲の肩にストップの手が入った。
「それ以上やったら俺の仕事が増えることになる」
耳元で八雲の舌打ちが聞こえた。
腰に回された手は外されたが、繋がれた右手はそのまま。
「他のことに目を光らせた方が良いと思いますよ、後藤さん」
「俺のモットーは小さな事件からコツコツと、だ」
無精髭を指で撫でた後藤は、冷めた目で二人を眺めた。
その後ろで石井がすまなそうに肩身を縮こませる。
「二人の世界に入りやがって…見せつけられる方の身にもなれってんだ」
なあ石井、と後藤は同意を求めたが石井は「あぁえぇっと」を繰り返すばかり。
「後藤さんが勝手に見ているんでしょう?」
「見られたくねぇんだったら、こんなとこでイチャつくな」
「誰かさんのせいで事件に巻き込まれてご無沙汰なんですよ」
「…勝手にしろ」
ああもう見てらんねぇ聞いてらんねぇ。
つい煙草を吸いたくなる。
もの足りなさそうな口元を慰めるように唇に歯を立てた。
「ところで」
顔をあげたが、どうやら晴香に話しかけたらしい。
そりゃそうだ。八雲が好き好んで話しかけるのは晴香しかいない。
「約束のアレ…忘れたとは言わせない」
「うぅっ…」
晴香の表情が一瞬曇る。
気のせいかと目を擦ったが、どこか浮かない顔で足下を見下ろしていた。
「解決したら“ご褒美”をくれる。そういう約束だろ」
二人の知らぬ間に、八雲と晴香の間で約束が交わされていたらしい。
道理で八雲が積極的に首を突っ込んできたわけだ。
成人した男がご褒美だなんて。
微笑ましいとにやける後藤の表情は、次の一言で凍り付いた。
「こんなとこじゃ…だめ、だよ…」
いつの間にやら火照った顔で、言いにくそうに小声で。
擽ったそうに身を捩らせながら晴香は言った。
「家に帰ってからじゃないと」
「待てない」
「でも…後藤さんたちもいるし…」
斜め後ろにいる石井の気配が消えた。きっと石化しているのだろう。
「それに八雲君なかなか満足してくれないし…」
「我慢する僕の身にもなれ」
「…やっぱり、恥ずかしいから…やっ」
「…約束は約束。嘘つきには、なりたくないだろう?」
八雲のその一言が決めてになったようだ。
身体の前で握り締められていた拳がゆっくり解かれる。
恐る恐る見上げる瞳には、普段なかなか見られない色気を感じた。
晴香の右手が八雲の頬を撫でる。
そのまま耳を包み、うねる黒髪の中に白く細い指が埋まっていった。
「八雲君…」
「…晴香」
「ちょっ、ちょっちょっ!ストップ!ストーップ!」
見ているこっちが恥ずかしなる。
なんとも甘ったるい雰囲気に、後藤は酔いかけた。
慌てて二人の間に押し入り、思い切り引き離す。主に八雲を 。
「何するんですか」
八雲は不満げに眉を寄せる。
確かに、これは邪魔だったろう。しかし止めないわけにはいかない。
「それはこっちの台詞だ!てめぇら何しようとしてる!?」
「ご褒美をもらおうとしているだけです」
「いや、だからな、その内容が…」
なかなか言葉にすることが出来ず言い淀んでいると、今まで黙っていた晴香が口を開いた。
「ほら、やっぱりこんな場所でするものじゃないよ。頭をなでなでするなんて」
「そう、頭をなでな…で?」
「えっ」と晴香を見る。すると晴香も「えっ」と首を傾げた。
「ご褒美って…もしかして」
「八雲君が満足するまで頭をなでなで、です」
くっと八雲が噴き出した。
肩が小刻みに揺れている。
騙された。
晴香はともかく八雲は最初から分かっていたに違いない。
分かっていて、中年をからかっていたのだ。
「くそっ…もう勝手にしろ」
仲睦まじく手を繋ぐ二人を追い越していく。
通り過ぎる際、晴香が照れ臭そうに笑ったのを見て、心が折れそうになった。
石井なんて燃え尽きてしまっている。
「おい!今日は飲んで帰るぞ!」
石井の肩に手を回し、名一杯首を締める。
こうなったらコイツらにはとことん付き合ってもらおう。
そう思った矢先。
「パス」
繋いだ手を見せつけるように持ち上げて、口の端をくいと上げた。
「家に帰ったら、もっとすごいご褒美が待ってるんで」
end.
初期の頃から書きたかったご褒美話と、毎年恒例スノースマイルを合わせたお話でした。
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