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八雲で晴八風味な八晴。

ハロウィンですね!
久しぶりの晴八(?)でございます。
晴八同志は果たしているのだろうか…

八雲/晴八風味な八晴

誰かの視線を感じる。

その視線に気が付いたのは、数十分前のこと。


映画研究同好会の部室には八雲しかおらず、扉だって窓だって閉まっている。
カーテンは開いていたが、こちらを覗くような物好きは生憎いない。

そう簡単に誰かに見られるようなことはないはず。


ただひとつの例外を除いてーーー






八雲は溜め息を吐くと読んでいた本を置いた。
視線は一心に文字を追いかけても、内容が頭に入ってこない。
これでは読むだけ時間の無駄である。


「………」


原因は解明している。



「えっと…トリックオアトリート!…よね」


ドアの向こうで待ち構える晴香だ。






薄いドアの一枚向こう。

ドアスコープと呼んでいる穴から、黒い何かが右往左往しているのが見える。
左目ではなく右目で見えることに安堵し、八雲は随分長い間放っている。

時々思い出したようにこちらを覗いては、慌てて姿を隠した。


バレバレだと言うのに…



…気付かない振りをしているのではない。

ただ、話し掛けるのが面倒なだけだ。



しかしそんな八雲にも我慢の限界が近付いていた。

じろじろ見られて心地のよい人間などいない。
いたとしても、僕にはじろじろ見られて喜ぶような趣味はない。


いい加減こちらから話しかけようか。

そう思い、話は冒頭に戻る。



読みかけの本に栞を挟むのを忘れた。
しまったなと再び視線を本に向けたとき。



「トリックオアトリート!!」


周囲の目も迷惑も考えず、晴香がドアを開けた。
元気な大声に、泥まみれな幼稚園児の姿を思い出す。


そんなことだろうと思った。

椅子に掛けていたモッズコートのポケットに手を伸ばそうとした八雲は、晴香の姿を見て目を丸くした。


「お菓子をくれなきゃ、イタズラ…する、ぞ!」


慣れない口調の台詞とポーズに、ほんの少し頬に紅が差す。

後から思えば、僅かながらに恥が残っていたのかもしれない。


晴香はオレンジと黒を基調にした、お世辞にも健全とは呼べない格好をしていた。
所謂、ハロウィンに街中でよく見る魔女の姿。
ディスカウントショップで売られているような、どこか怪しいデザイン。

全体的に丸みを帯びた格好ではあるが、だからこそきゅっと萎められた箇所に目がいく。

二の腕やら胸の下やら。
スカートから覗くかぼちゃパンツなんて、可愛らしいものではなかった。


「えっと…トリックオアトリ…」

君はバカか?ついに壊れたか。

待っていた言葉はいつになっても返ってくる気配を見せない。
ただただ無言で見つめられる。

「お菓子くれなきゃ…その、ね」

大胆に決めていたポーズも、花が萎んでいくように小さくなる。
最後にはスカートの裾をくいと下に引っ張っていた。
頭の上の大きな三角帽子が落ちそうだった。

「あの…お菓子を…」

大きく開いていた足も、高々と挙げられていた腕も。
いつの間にやら面接中の学生のように縮こまっていた。

「い、イタズラしちゃうよ?」

視線を合わせるように前屈みになる晴香の胸元を見て、八雲は我に帰る。

「八雲君?」

「……ほら」

コートのポケットから小さな包みを取りだし、晴香の方へ投げる。
普段はそんなことないのに、軌道を外れた数個が床に落ちた。

「わっ!」

右と左の手の間を、小包みが右へ行ったり左へ行ったり。
結局ほとんどを床に落としてしまい、晴香はしゃがんで拾い上げた。

「………」

黒いタイツが膝元だけ薄くなる。
大きく開いた胸元に、くっきりと溝が刻まれた。

「飴玉?」

包みを広げ、赤い飴玉を口の中に放り込む。

「お菓子は用意したんだ。妙なイタズラを仕掛けてドジを踏むなよ」

「べ、別に妙なイタズラは考えてないわよ」

飴玉を舌で転がしながら晴香は答える。
イチゴ味だろうか。とても甘い。

「…考えてはいたんだな」


その格好でなら、イタズラにも期待が出来そうだが…
と考えかけ、彼女の性格を思い出した。

期待はできない。むしろ期待しない方がいい。


「そんなに落ち込むようなイタズラじゃないよ」

そう言うと肩から掛けたカボチャ型のポシェットから、何やら取り出した。

「ジャジャーン!」

誇らしげに見せびらかしてきたものは、黒色の三角が二つついたカチューシャ…
つまりは俗に言う、猫耳だった。

「お菓子くれなきゃ、これ着けて奈緒ちゃんのとこ行こうと思ったんだけど…」

「ちょっと待て」

八雲は右手を突き出した。

「君はその格好で外を出歩くつもりか?」

「え…そうだけど…」


へんかな?

モデル気取りにその場でくるりと回る。
スカートがひらりと翻り、胸が揺れたようにも見えた。

黒いタイツとスカートの間、素肌が露になった部位に何故か鼓動が高まる。

「…でも、八雲君にお菓子もらえたし良いかな」

よいしょと晴香も席に着く。
近くに居られるとやはり胸元に目が行ってしまう。

これも男の悲しい性、か…
罪悪感が残っているだけまだ良しとしよう。

卓上の猫耳を無理矢理睨み、自然を装い目を逸らした。

「あ、こっちはチョコだ」

八雲の苦労など露知らず、晴香はのんきに小包を開いている。
香水でも付けているのか、お菓子とは違う甘い匂いが鼻腔を擽る。

身体中がむずむずとこそばゆい。

自分のことに精一杯だった八雲は、晴香が見つめていることに気が付かなかった。

だから頬にちゅっと何かが弾けたとき、八雲は柄にもなく飛び起きた。


「お菓子…くれたお礼」


頬を染めながらも晴香はほほ笑む。
どくどくと全身の血液が脈を打つ。

何か言おうと開けた口は、金魚のようにパクパクと開いたり閉じたりを繰り返していた。

「八雲君…」

そんな八雲の頭に晴香は猫耳を付けた。
寝癖だらけの黒い髪に、その耳は本物のように立っていた。

頬をつたって下りていく指を八雲は自らのそれで捕まえる。


「…トリックオア、トリート」

「私、今日は何も持ってないの」

「なら、イタズラしても良いか…?」






end.



ひさしぶりな晴八風味。
今まで恋愛と縁のなかった八雲には晴香ちゃんにリードしてもらっても良いと思うのです(`・ω・´)
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