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八雲できょうのわんこパロ!

犬の日のお話とポッキーのお話、どちらにしようかと迷いましたがはりゅかで。
本当の犬の日は今日じゃなかった気がしますが…

(※11/18 再アップ)

きょうのはるか

さっくさっく、さくさくさっく。


さくさく、さくさくさく。


さっくさくさく、もきゅ、さっくさっく。






小さな足音で刻まれるマーチ。



お尻から生えたけむくじゃらの尻尾は、リズムに合わせて上下に揺れる。


運動会の時、ずっとずっと先を歩いていた…彼らの名前はなんと言っただろう。

マーチングバンドの先頭で、立派に飾られたバトンを上下に振って。



止まれ、進め、止まれ、進め、止まれ。



決められた通りの命令を下して、兵はキビキビと従う。


あの時吹いたリコーダーの感触を思い出し、八雲は下唇を噛んだ。



その隣を一匹の兵隊は好き勝手に動く。


歩くためではなく、音を奏でるためだけに。

一匹の兵隊は前へ前へと進んでいった。






最近、めっきり寒くなってきた。

陽はあっという間に西の空へ向かい、吐く息は白い。
冬が近いなと独りごちる間もなく、落ち葉を踏みつける音に邪魔された。


いつも繋いだままの手は、今日は珍しくお休み。
というのも、晴香は一段低くなった排水溝を歩いている。

排水溝に落ち葉が溜まっているなんて…清掃管理の甘さに呆れる。
それにいつもは蓋がしてあるはず。
一体どこに行ってしまったのだろう。

「きゅきゅきゅ!」

…だが腕を大きく振るう晴香を見ていたら、考えるのが馬鹿らしくなった。


カレーの材料が入ったビニール袋を持ち直し、コートのポケットに手を突っ込む。
しかしそこにはくしゃくしゃに丸まったレシートの先客の姿。
それから入れた覚えのない飴玉が、すまなそうに隅に寄った。

「………」

飴玉なんて入れた覚えはない。
もちろん飴玉が勝手に入ってくることもない。

…つまりは、だ。


「いつの間に入れたんだ?」

「きゅ?」


足を止めて晴香は振り返る。
膝下まで赤やら茶の落ち葉に埋もれ、まるで地面から生えているみたいだった。

「なんでもない」


飴玉を放り込んだ口を引き締め進む。広がるイチゴ味。

それでもはぐれないようにと、視界にはいつも夕日に照らされる晴香の姿があった。


そして、晴香の行進が再び始まる。


イチニ、イチニと普段より大きな一歩。

ぶんぶんと前後に揺れる腕。


靴が落ち葉を踏みつける度に、さくっと子気味の良い音が鳴った。



さくさく、さくさく。


さっく、さくさく、さく、もきゅ。


さくさくさく、きゅふ、さっくさく。



それは縛られることはなく好きなように、自分が進みたいように奏でられたマーチだった。


意気揚々と一体彼女のどこにそんなにも誇れるところがあるのだろう。

晴香の後ろ姿を眺め、一人考えていると突然晴香の姿が消えた。
正確には曲がり角を塀伝いに曲がった。

「そっちじゃないぞ」

慌てて駆け出し、相変わらず溝を歩く晴香に声をかける。

「?」

頭にハテナを浮かべ、どうしたのと言わんばかり。

どうしたもこうしたもあるか。

「家はあっちだぞ」

家のある方、進むべき道を指差す。

手を繋いでなかったから間違えたのか?

なのに晴香は首を傾げた。
まるで僕が間違ったことを言ってるかのように。


…もう何度も歩いている、スーパーからの帰り道だ。
間違えるはずはない。

間違えるわけがないと思っていても、つい横目で確認をしてしまう。

「やきゅもきゅん」

「なんだ」

晴香は足元を見つめている。
こういうときは、大抵何かを伝えたい時だ。
伝えたくても伝えたい言葉がわからないときだ。

八雲は晴香のもとまで行き、同じように晴香の足元を見つめた。

「僕には何も見えないが…」

右目でも、左目でも。

「きゅっきゅ!」

めげずに晴香は足元を指す。
それでも首を傾げる八雲に晴香は地団駄を踏んだ。

その度にカサカサと落ち葉が砕けた。

「落ち葉?」

「おちば!」


しかし落ち葉がどうしたと言うのだ。
落ち葉なら、いやと言うほど道の端に積もっている。
もちろん家に向かう道にも。

「おちば?おちば?」

これは落ち葉って言うの?
晴香は八雲のコートを引っ張る。

「落ち葉なら向こうにもあるだろ」

八雲は出来る限り目線を合わせるようにしゃがむ。
しばらく考えた晴香は、うんと大きく頷く。

「やきゅもきゅんおちば!」

「は?」

「やきゅおちば!」

「ちょっと待て」

随分一緒に暮らしてきて、晴香のことも分かってきたと思っていたが…
こればかりは分からない。

どうして落ち葉と僕の名前が一緒に上がるんだ。



「きれー、きゃーいー」


“きれいでかわいい”



「………」


そして、今まで歩いてきた溝を指差し地面を撫でるようにして腕を動かした。



“この道を、赤くてきれいでかわいい落ち葉の道を、歩いていきたい”


そういえば昔、白線から出ずに帰宅する、なんて遊びがあった。
横断歩道をぴょんぴょん飛んで、気分はまるで綱渡り。

コイツが誰と競っているのかは分からないが、言いたいことはわかった。


「…付き合ってやるか」


晴香の頭を一撫で。

八雲は晴香の遊びに付き合うことにした。







「きゅ…」

「………」

その遊びも長くは続かなかった。
数分と歩かない間に、溝には蓋が被せられ二度目の曲がり角でなくなってしまった。
地区が変わったのか、落ち葉もきれいさっぱり片付けられ、進むべき道が見つからない。

「…きゅ」

晴香はわずかに残った落ち葉の上で立ち止まっていた。
膝の高さまであったはずの落ち葉も、ここでは使い古したカーペットのように薄い。

「きゅ」

どうしよう、と言われたって困る。
晴香の眼差しから逃れるように、八雲は眉間を撫でた。

「そういえば…」

この近くに、大きな公園があったはず。

「晴香」

「きゅ?」

何故か額を撫でている晴香。
挙動にいちいち付き合っている暇はない。

「ぴょん」

「………」

間違えないでほしい。ぴょん、と言ったのは僕だ。
いろいろと誤解を生みそうだが、この馬鹿にはぴょんが一番伝わりやすいと思ったからで…

「?」

晴香は首を傾げていた。

「いいから、ぴょんと言うんだっ…!」

もうヤケクソだ。

「ぴょん?」


と、晴香が言った刹那。

晴香の脇を抱えて走り出した。



「!……!?」

僕だってそんな顔がしたい。
八雲は唇を噛み締めて、公園に向け一直線に走った。



公園に着いた八雲は落ち葉の上に晴香を降ろす。

ここに来るまでの間、様々な視線を投げ掛けられた。
ああいう眼差しには慣れているつもりだったが、苦笑いが含まれるだけでこうも違ってくるとは。

穴があったら入りたい。

久しぶりに走ったのと、精神的なダメージによりその場にしゃがんでしまう。

「やきゅ!」

晴香に呼び掛けられ顔をあげる。

「ありがと、お!」

「ありがとう…だ、う」

「うーっ!」

それから晴香はもきゅもきゅと笑った。






恥ずかしい思いはしたけれど、笑顔と「きれーときゃーいー」に免じて許してやろうと思った八雲君なのでした。






end.



晴香に毒されてきた八雲君。
今でも横断歩道の白線は白いとこだけで歩いてしまう…
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