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八雲で八晴、後藤さんちでわいわいがやがや。

クリスマスの日のお話です。
この時期になると近所のお寺にクリスマスツリーが飾られます。
それを見る度に、日本っていいなぁと思います。

八雲/八晴

玄関に現れた人物を見て、晴香は目を丸くした。


日も暮れた時刻。
訪問客の確認もせず、不用心に戸を開けたのが間違いだった。

後悔しても遅い。
既に男はたたきまで上がり、閉めようにも戸は男の背後。

外から吹き込む風に押されるように、晴香の身体は後ろへと下がっていった。


「あなたは…っ」


男の手が伸びてくる。


「お姉ちゃん…?」


身構える晴香の後ろから奈緒の声。
逃げて奈緒ちゃん、と小さな身体を守ろうとしたその時。


「お兄ちゃん!」


駆け出した奈緒が晴香の横を通りすぎていった。

「…奈緒には敵わないか」

「え…?」

聞き覚えのある声に恐る恐る振り返る。

声は白髭に覆われた口元から聞こえていた。



「やっぱり君は馬鹿だな」


そこには、サンタクロースの格好をした斉藤八雲が立っていた。






「がっはっは!」

大口を開けて笑う後藤に、晴香は頬を染めた。

「笑わないでくださいよ、もう…」

「すまんすまん。でもこっちにまで聞こえる声で『逃げて!奈緒ちゃん!』なんて」

「完全に不審者扱いね」

敦子は運んできたローストチキンを台の上に置くと、コタツに足を入れる。
瞳はローストチキンに釘付けのまま、奈緒は頭の中にだけ聞こえる声で話し出した。

「奈緒、びっくりしたよ」

「うぅ…ごめんね、奈緒ちゃん」

そして晴香は隣に座る男を盗み見た。





“クリスマスパーティーをしないか?”


八雲からそう誘われたのは、今学期最終日のこと。
後藤の家、つまりは今は亡き叔父の家でパーティーをするらしい。

宗教的に寺内でそんなことをしても良いのか。
家族水入らずのところ、邪魔じゃないのか。

晴香にはいくつかの不安要素があったが、ことごとく八雲に論破された。

日本ではクリスマスはイベント化しており、寺だからと言って深く気にすることもないらしい。
むしろ一心がいた頃は、近所の子供たちを集めてクリスマスパーティーをしていたそうだ。
いかにも一心らしい行動に、晴香は頬を緩めた。

家族水入らずのところ邪魔じゃないのかと言ったら、奈緒は僕の妹で君は僕の恋人だ、と返された。
納得したようなしていないような。
深く考えようとしたら頬が熱くなり、それ以上考えるのはやめにした。



そのようなことで、クリスマスである今日に至るわけだが…


「………」


玄関でのこともあり、晴香は落ち着かない。
落ち着かない理由はそれだけではないのだが…


隣に座る八雲の姿を横目で見渡す。


赤い上着とズボン、頭には同じ色をした三角帽子。裾や袖には白いモコモコが付いていた。
口許には八雲の顔には見慣れぬ、立派な白髭が生えている。
腰のベルトで引き締めてはいるが、その服は八雲の細身な体型を覆い隠していた。


それはまごうことなく、サンタクロースの格好である。



「僕の顔に何か付いているか?」

えぇそりゃもちろん立派な白髭が。
晴香は咄嗟に目を逸らした。

「奈緒」

八雲が奈緒を呼ぶ。
奈緒は瞳をローストチキンから八雲へと向けた。

「なぁに?」

「今年一年、いい子にしていたか?」

「………」

思い返しているのか、うぅんと唸る。

「あっ!」

さっと顔が青くなり、後藤の方を向く。
何か思い当たることがあるらしい。

「あれは俺が足を伸ばしてたのがいけなかったから、奈緒のせいじゃない」

「…じゃあ、いい子にしてた!…かな」

「いい子にしてなかったのか?」

わざとらしくオーバーアクションで驚く八雲。

「いい子にしてたっ!」

早く早くと奈緒が瞳を輝かせる。

気を使うことが多々ある奈緒が、年相応にわがままな面を見せた。
思わず微笑んでしまう。

きっと八雲も同じだろう。口許は白髭に隠されているが、目元はとても優しいものだった。

「じゃあそんないい子には、八雲サンタからプレゼントだ」

そう言うと白い布袋の中から、同じように口が絞られた袋を取り出した。
キラキラと鏡のように反射する袋を受け取った奈緒の表情は、それ以上のものだった。

「八雲サンタさん!ありがとうっ!!」

大切そうに袋を胸に抱えたまま、奈緒は八雲に飛び付く。
嬉しそうに目を細める八雲は声を出さずに笑っているようだった。

「本物なサンタは真夜中にやって来るからな」

そうだよな、と何故か晴香に確認。

「う、うん」

首を傾げながらも返事をする。
白髭に覆われた顔から真意は伺えない。

「だから今日はいい子に、早く寝ないと」

「うん!」

奈緒は大きく頷くと、八雲の腕の中で口を結ぶリボンを解いた。


袋の中から出てきたのは、白と桃色を基調にしたワンピース。
ナチュラルな風合だが、裾のフリルがお姉さんっぽい。
柔い生地で思わず触れたくなる。

普段、子供らしい服を着る奈緒にとっては感動すら覚えたらしい。


背伸びをしたいお年頃。


晴香にも身に覚えがあり、その嬉しさは十二分に分かった。
何度も身に宛がい、歯を見せて笑う。

「どうせならお着替えして、八雲サンタさんに見せてあげましょ?」

敦子はそう言うと奈緒の手を取り部屋を出ていった。
ビールでも開けようかね、と後藤も出て行く。
八雲の横を通り過ぎる際、何故かぽんと肩を叩いていった。

「最近、アルバイトしてたのって奈緒ちゃんのためだったんだね」

フライドポテトを頬張りながら晴香は言う。

「それだけじゃないが…な」

「ふーん…」

コタツの上に箸を置く。
床に手を付き、ねだるように八雲に顔を近付けた。
自分でもなんて恥ずかしい奴だと自覚していた。

「ねぇ、八雲サンタさん。私にはプレゼントはないの?」

「ない」

潔く即答され、肩を落とす。
プレゼントを期待していたわけではないが、一応は恋人同士なんだし、何かこう…
色気じみた言葉のひとつでも…

「さっき言っただろ」

「何をよ」

「本物のサンタは真夜中にやってくるんだ」

それがどうしたの、と晴香は膨れっ面で箸を手を伸ばす。
しかしいとも簡単にその手は八雲に取られてしまった。


「今夜は楽しみにしてろよ?」


頬に髭だらけの口許を押し付けられたのは、言うまでもない。






end.



たぶん、じゃんけんで負けて八雲がサンタ役になったに違いない。
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