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まずはじめに…前回のお話がアップ出来ていませんでしたorz
たいへん申しわけありません…
一つ前の記事に更新しましたので、そちらの方もよろしくお願いします。

さて、バレンタインデーでしたね!
今年の二人は初々しい二人のお話にしてみました。

八雲/八晴(恋人設定)

八雲は珍しく緊張していた。

とくとく速まる心臓を押さえることすら忘れ、携帯の画面を一心に見つめている

秒針が長針短針と重なり日付が変わる。


いつの間にか溜めていた息が「ふう」と抜けていった。


画面に表示されたのは2月14日───つまりはバレンタインデーだった。







晴香は布団の中で寝返りを打つ。

今日だけは早く寝ようと一週間前から決めていたのに、なかなか眠りにつけない。
原因は分かっているのだが、分かっているだけで解決は出来ない。

枕元の携帯に手を伸ばす。
画面を開くとすでに日付は14日を迎えていた。


聖バレンタインデー。


好きな男の人に、女の人からチョコレート…と、気持ちを贈る日。

「好きな、男の人…」

柔い布でそっと包むようにその名前を呼び、晴香は枕に顔を埋めた。






バレンタインデーになんて興味がなかった。


この赤い左目を持って生まれたからには、誰からも愛されることはないんだ。

母親に殺されかけてからと言うもの、縁の無い日だと遠ざけていた。
渡されることは多々あったが、受け取ることは一切ない。

ときどき受け取らなかったことに因縁付けられて、関係のない男子生徒たちに殴られることもあった。
あとから聞いた話によると、僕が断った女子があることないことそいつらに告げたらしい。


そんな過去があって、僕はバレンタインデーになんて興味がなかった。

いやむしろ大嫌いだった。



そんな長い間大嫌いだった行事が。


「き、今日はね部活で練習があったんだけど」


たった一人の例外によって。


「だから私ビックリしちゃって」



一瞬にして、こんなにも胸踊る日になろうとは。

誰が想像していただろうか。






晴香の話に耳を傾けながら、手元の本を静かに捲る。
紙いっぱいに埋め尽くされた言葉を黒と赤の瞳が上から下へなぞる。

「…八雲君、聞いてる?」

「見ての通り僕は読書中だ」

嘘。
目は活字を追いつつも、神経は耳に集中していてそれどころではない。
晴香が刻む言葉の一字一句を聞き逃さまいとしている。

「………」

いつもなら「ちゃんと聞いてよ」の一言くらいあっても良いのだが、待てども待てども返事がこない。
不審に思った八雲が顔を上げる。

「あっ」

目があった途端に視線を泳がせ、最後は俯いてしまった。
…今日はずっとこの調子だ。



原因は分かる。

今日がバレンタインデーだからだろう。
チョコレートを渡すタイミングを見計らっているに違いない。

「な、なんでもないよ」

彼女のことだ。そんなところだろう。

そうは思いつつも、不安が胸によぎる。


もしかしたらなんらかの影響でチョコレートを用意出来なかったのではないか?

作るのに失敗しただとか、バレンタインデーであることに今日気がついたとか。

トラブルメーカーの彼女のこと。
あり得ないとは言い切れない。

彼女らしいと言えば彼女らしいが…


八雲は肩を落とした。
一月前から心待ちにしていた分、そのことは八雲にとって残念で仕方がなかった。

「あの…」

晴香が顔を上げる。
てっきり無いものだと思い込んでいる八雲は、口を尖らせたまま晴香の方を見た。

晴香がまた視線を逸らしてしまったため、八雲の表情には気付かなかったようだが。

八雲は八雲で、どうして用意出来なかったのか。原因をいくつか探していた。

「これ…」


なので、包装された包みを見たとき。

八雲は思わず立ち上がってしまった。



「や、八雲君?」

「…なんでもない」

はっと立ち上がっていることに気付き、椅子に座る。
あくまで平静を装ったが、明らかにおかしい。

しかし晴香も緊張のピークに達していたため、気付くことはなかった。


八雲は泳ぐ視線を本の上に縛り付け、どこまでも平静を装い続ける。

「今日って何の日か知ってる?」

「煮干しの日だろ」

やっぱり興味ないのよね、と晴香は八雲の回答に苦笑した。

「バレンタインデー、だよ」

晴香の口から刻まれた言葉に、八雲の鼓動はまた速く打ち始めた。

「…そう言えばそうだったな」

「だから、これ…」

きれいに包装された包みが差し出される。
包みに視線を向け、晴香の顔を見た。


目が合うと、今度は逸らされることなかった。

困ったように笑みを浮かべていた。


「八雲君に、バレンタインデーの贈りもの」


晴香の顔と包みを何度か見返し、最後にもう一度晴香の顔を見る。

頬はキスしたあとのように紅潮している。
ぎゅっと噛んだ下唇はよく見ると小刻みに震えていた。

「や、八雲君にはいつもお世話になってるし…それに私にとっての…大切な人、だし…」

そんな姿を見ていたら、こちらまで顔が熱くなってきた。

こんなことに動揺するだなんて僕らしくない。

気付かれる前に受け取ってしまおう。

慌てふためく脳に命令され、この気分に浸っていたいと思う体を無理矢理に動かす。

「食べられるものなんだろうな?」

「味見はしたけど、八雲君の口に合うか…」

「………」

八雲は包みをじっと見つめる。
その行動に晴香がどれだけ胸を高鳴らせているとは知らず。

「じ、じゃあ私はこれで!」

ついに堪えきれなくなった晴香は、手早く帰りの支度をし「じゃ!」と言って出ていった。
引き留めようと伸ばした手が、儚くも垂れ下がる。

「…大切な人、か」

胸の辺りがこそばゆい。
しかしそれに不快感はなく、八雲は嬉しそうに歯を見せた。


「お礼言うの、忘れたな」


包みを守るピンクのリボンをしゅるりと解く。






たったったっと、冬空の下駆け足で自宅に向かう。
道行く人がなにごとかと振り返ったが、駆け足は一向に止まる気配を見せなかった。

「渡しちゃった、渡しちゃった」

マフラーに隠れた口が呪文のように何度も呟く。

そして包みを受け取ったときの八雲の顔を思い出し、晴香は走り出した。


燃えるように熱い体には、冷たい風が気持ちよかった。






end.



八雲は顔に出さないようにしていたようですが、晴香ちゃんには見抜かれていたようです。
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