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四ッ谷先輩で四真です。

久しぶりすぎる四真…!
まだ待っていて下さっている方はいるのだろうか…

大学生くらいのお話です。
真ちゃんは大学生です。先輩は真ちゃんちに住み着いているというかなんというか。

四ッ谷/四真(大学生)

中島真は、紙を埋め尽くす異国の文字と向き合っていた。

ううんと首を捻っては、ああそうかとペンを走らせる。


スラスラとはいかないが、レポートは順調に進んでいる。

この調子だと今日中には終わるかな。

そう思い、参考書に目を向けた。



「オイ」


ただ、この人が邪魔をしなければ…






「中島」

「………」

「中島ァ」

「………」

「無視すんなッ!」

ファッション誌が飛んでくる。
表紙の『春のスイーツ特集』の文字に惹かれて先月買ったものだ。

写真ばかりが貼られたページを一見し唾を飲み込み、真は参考書に無理矢理視線を戻す。


途端、背中に衝撃。
前のめりに倒れそうになるのをバレーで鍛えた身体で堪え、ペンを握る。

「な・か・し・むぁー」

にもかかわらず、背中に引っ付くそれはどんどん体重を掛けてくる。
初めは堪えることの出来ていた真も、成人男性一人の体重を支える力はない。
目の前のローテーブルに伏せてやっと、倒れることはなくなった。

やっと構ってもらえる。
背中の男がそう思ったかは知らないが、髪に顔を埋め犬のように擦り付いてきた。
中学のときに世話をしていたくまきちを思い出した。

「っ……!」

それでも真は顔を上げ、紙の上にペンを走らせた。
眉の間に寄った皺からは、意地すらも感じる。

人の悲鳴が大好物という変わった趣味の持ち主は、人間の心理に敏感らしいということを長年の付き合いで知った。


「なかしま…」

「……なんスか、先輩」

明らかに落ち込んだ声で呼ばれては、さすがの真も無視はできない。
ペンを止め、参考書からも目を離し真は後ろに首を捻った。

四方八方に伸び散らかした黒い塊が生き物のように動き、間からぎょろっとした白目がちの顔が現れた。
慣れない者ならば悲鳴を上げて逃げ出すであろう。

怖いものが嫌いな真も、これは怖いものリストの対象に入っていた。
だがこう何年と付き合っているうちに慣れてきて、今となっては息すらも止まらなくなった。
むしろ、可愛くさえも見えてくる。

「で、用はなんですか、先輩」

悲鳴を上げない真に四ッ谷はつまらなそうに口を突き出した。
そんなにも視線が向けられたのが嬉しいのか。
肩に埋めて隠したつもりであろう口角が、くいと上がった。

それを見て見下されたような気分になるのは何故だろう。

「早く言ってください。明日にはこれ提出しないといけないんスよ」

手元のレポート用紙を波立たせる。
今日中に終わるだろうと言ったが、まだあと3分の1も残っている。
時刻は日付が変わる頃。
徹夜で終わらせたとしても明日は講義中眠くなること間違いなし。

「あと10秒以内に言わなかったら明日は朝ご飯なしっスよ」

「じゃああんこ」

「へ?」

「あんこが食いたい」

「………」

なんだそれは。真は思ってもみなかった回答に唖然とした。
食べたいは食べたいでも、そこはカレーライスやラーメンとか、主食であろうに。
なのに背の後ろの四ッ谷先輩は、料理でもスイーツでもないあんこと言った。

「ホラホラ、俺のためにうまいあんこを作れ!」

後ろから両手で頬を挟むように叩かれる。
ここで「痛い」だの「やめて」だの反応しては四ッ谷の思うつぼ。
意地悪な彼のことだからいい気になって飲むおしるこを買ってこいと言いかねない。

真は四ッ谷の重さに堪え、冷静を装いながら立ち上がると台所に向かう。
ずるずると落ちていった四ッ谷は、フローリングの上に伸びていた。

冷蔵庫の中からお玉が刺さった銀色の鍋を両手で取り出す。
ローテーブルの上に置かれた勉強道具を足先で隅に寄せ、冷蔵庫で冷やされた鍋を真ん中にどんと置いた。

「?」

起きあがった四ッ谷は、興味深そうに鍋を覗き込むも、蓋が被せられていて敵わない。

「どーぞ、好きなだけ食べてください」

鍋と同じ色の蓋を開けると、そこには黒色がかる赤い海が広がっていた。
それは甘く、鼻の奥を優しくくすぐる小豆の匂い。

「先輩お望みのあんこです」


前にもあったのだ。
ある訳無いのにあんこが食いたいと言って、しぶしぶ飲むおしるこを買いに行かされたことが。
しかも四ッ谷付きで。
あのときは、こっちが本命だったのではないかと疑うほど無駄なものまでたくさん買わされた。

そんな過ちを二度と犯すものかと、真は前もってあんこを作って置いたのだった。


「………」

最初は目を見開き、驚きを隠せない表情をしていたが今はつまらなそうな顔。
真は、四ッ谷が買い物に付き添いたいがための“あんこ”なのだと確信した。

それに気付いた真は、眉を釣り上げ鍋を押し付けた。

「これでも飲んで大人しくしてて下さい!」

鍋を突き付けられた四ッ谷は、真の声に驚き思わず仰け反った。
ついでに鍋の重さに肩がどんと落ちた。

「まったく…」

ふてくされたように頬を膨らませながら、真は再びレポートと向き合う。
最初はブツブツと文句を口にしていた真も時間が経つにつれ口数が減り、四ッ谷が話しかける前の静かな姿に戻った。


「………」


四ッ谷はローテーブルの上に鍋を置き、お玉を手に小豆色の液体を一つかき混ぜた。

個体と液体の間であるそれは、どろりと粘っこくお玉の取っ手が通った道筋を描く。

そのまま、目の前に座る真に視線を向けた。
真のつり上がった猫目がちな瞳が珍しく細められている。

いつもは俺の言動に目を見開いたり瞑ったり、様々な反応を見せてくれる。
それを見ているだけで、俺は楽しかったし幸せでもあった。
けれどそれは俺に向けられているからであって、今はそうではない。
だから、一枚数十円の紙切れに向けられる彼女の視線が羨ましくもあって憎くもあった。

この気持ちを話したら、彼女は何に嫉妬してるんですかと笑うだろう。



ただ。


「まことちゃあん」


ただ俺は。


「気持ち悪い声出さないでください」



甘えたいだけだったんだ。




「あっますぎるだろコレ…」






end.



大学生真ちゃんと甘えたいがために構ってちゃんと化する四ッ谷先輩でした。
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