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八雲できょうのはるか!
前々から書こう書こうと思っていたら、もうこんな時期に…
皆さん、地デジ化済んでますか?
八雲/きょうのはるか(31話)
前々から書こう書こうと思っていたら、もうこんな時期に…
皆さん、地デジ化済んでますか?
八雲/きょうのはるか(31話)
最後の一段を上がり終えた八雲は、手にした無機質な箱を下に置いた。
筋力のない両腕は、銅色に錆びた外廊下まで、あと数センチのところでそれを落とす。
中身は無事だろうかとも心配したが、機械だからといって丁寧に扱うという考えはなかった。
玉のように浮かぶ汗を一拭いし、ジーンズのポケットから取り出した鍵を鍵穴に差し込む。
「どんな反応を示すかな」
開ける寸前、扉の向こうで帰宅を待つ未確認生物の姿を想像して笑い、ドアノブを回した。
「やきゅもきゅん!」
玄関、コンクリの床に裸足で立った晴香は、これでもかと言うくらいに尾を振りながら迎えてくれた。
留守番中に泣くことは減ってきたが、大歓迎のお出迎えは無くなることはない。
「おきゃーり!」
「ただいま」
晴香が来るまでは一人暮らしの無言の帰宅だったため、言いにくかった“ただいま”も今は形付いてきた。
慣れとは恐ろしいもの。ちょっと前の自分がこの姿を見たら、信じがたい事実に困惑するだろう。
きゅっきゅっ鳴いたり、僕の名前を呼んだり。
足元に纏わりつく晴香を足先で構いながら、床に置きっ放しになっていた黒い箱を抱えた。
それが視界を邪魔し、足元にいる晴香が見えなくなる。
晴香はしばらく、しがみついたジーンズの匂いを堪能してから離れた。
「だっこ」
「………」
そんなの無理に決まっている。
腕が重さに耐えきれず小刻みに震えだす。
今すぐにでも腕に抱えた四角い電化製品を置きに行きたい。
だが、足には晴香が子犬のようにじゃれているため下手に動けない。
八雲が黙り込んでいるのを見て、晴香も異常に気付いたようで視界の範囲に移動してきた。
横目で確認すると、そこには言葉では表しにくい表情をした晴香がいた。
絶望したというには、対象を理解してはおらず。
悲しみにしては辛そうではない。
ポカーンという言葉だと、何かが足りない。
「きゅ……」
とにかく、見つめられているこっちが目を反らしたくなるような表情だった。
自分の居場所を奪われ、思考が付いていけなくなっているよう。
しょぼんと頭を垂らし、その年には似つかない哀愁漂う背中を見せ去ろうとしていた。
足先で脹ら脛を掻いてから、右足を差し出した。
「ほら」
「?」
「乗っていいぞ」
「!」
八雲は足に乗ることを許可した。
以前、歩いている途中にしがみつかれ転んだことがあった。
それ以来、歩きながらの足へのしがみつきは禁止としていた。
「きゅ!」
ぴょんこと右足に走る衝撃。
バランスを崩し左足が浮かび、慌てて踏ん張る。
右足の甲に座った晴香は、ビニールで出来たあのおもちゃのように、全身を使って右足にしがみついていた。
これの何が面白いのか。正直理解しがたいが、自分にも同じことをした記憶があり苦笑う。
「本当に何が面白かったんだろうな」
プロペラのごとく振られる尾を踏まないようにと気を付け、八雲は右に傾きながらも廊下を抜けた。
いつもは勉強道具やお菓子の空き箱といった小物が放置されているちゃぶ台。
だが今は、隅っこに追いやられ積み重なっている。
その隙間からくりっとした二つの瞳が、見慣れぬ箱を見つめていた。
「………」
恐がりはしないんだな。
ラジオや携帯電話の前科があったから、てっきりこれも恐がるのではないかと思って心配していた。
警戒はしているようだが、恐がることはない。
完全に安心したわけではないが、見守る必要はないと思い八雲は背を向け別の作業にかかる。
「やきゅー」
背中に衝撃。首に回される腕。
耳元ですーすーと呼吸をする音が聞こえる。
「…どうした」
「なぁに?」
長い袖に隠れた指先が、ちゃぶ台の上のそれを差す。
「あれはテレビだ」
そう。それはテレビだった。
地上デジタル放送になるまであと少し。
近所の誰かが買い換えたらしく、ゴミ捨て場に捨ててあったのを拾ってきた。
「てーびー?」
「テ、レ、ビ」
「てれび!」
正解、と頭を撫でてやると嬉しそうに上を向いた。
コードの作業に戻る八雲から飛び降り、晴香はテレビに近付く。
「てでび…」
「恐くないのか?」
「おんじ!」
「何が」
同じなんだ。
ふんふんと鼻息を荒くしながら、晴香は壁際を指差す。
示された方へと目を向けると、そこには晴香の寝床であるダンボールがあった。
寝床と言っても、ここのところあの中で寝ているのは見たことがない。
僕には理解出来ない宝物という名のガラクタやら、タオルの山やらポシェットやら。
物置に近いそれと、何が同じなのだろうか。
ヒントを貰おうとしたが、晴香もそれ以上の言葉が分からず、ただただ指を差していた。
だらしない袖を畳みながら、テレビとダンボールの共通点を考えているとあることに気付いた。
「箱、か…」
両者とも八面十二辺の箱型。
どうやらテレビは、晴香のテリトリーであり、お気に入りのダンボールと同じ物と見なされたようだった。
晴香にとってサイコロも、下手したらビルさえもダンボールとして頭の中で纏められてしまうのか。
「それはそれで面白い」
ポツリと呟いた八雲は、コンセントのプラグを差し込んだ。
「てれび!」
晴香とテレビの元に戻ると、そこには奇妙なものがあった。
テレビの上に掛けられたタオルたち。
「…君は何をしている」
「たおりゅ!」
「そうじゃない」
両手にタオルを、キラキラした瞳の晴香を抱き上げ膝の上に乗せた。
「…これは、こうやって使うものじゃないんだ」
テレビの上に積まれたタオルの山を、両手いっぱいに抱え晴香の上に乗せる。
タオルに埋まった晴香は、巣穴から顔を覗かせるネズミのように頭だけを出していた。
「これは……こうだ」
右端のボタンを押す。
プツンと言う音とともに、回線が繋がり真っ暗な画面が鮮明になっていく。
「きゅっ!?」
フラッシュに驚いた晴香は飛び跳ね、寝床であるダンボールに向かって駆け出した。
そして、転んだ。
テレビとはなんなのか、謎の解けない晴香なのでした。
end.
次回に続く…?
続くならば地デジ化前に上げねば!
筋力のない両腕は、銅色に錆びた外廊下まで、あと数センチのところでそれを落とす。
中身は無事だろうかとも心配したが、機械だからといって丁寧に扱うという考えはなかった。
玉のように浮かぶ汗を一拭いし、ジーンズのポケットから取り出した鍵を鍵穴に差し込む。
「どんな反応を示すかな」
開ける寸前、扉の向こうで帰宅を待つ未確認生物の姿を想像して笑い、ドアノブを回した。
「やきゅもきゅん!」
玄関、コンクリの床に裸足で立った晴香は、これでもかと言うくらいに尾を振りながら迎えてくれた。
留守番中に泣くことは減ってきたが、大歓迎のお出迎えは無くなることはない。
「おきゃーり!」
「ただいま」
晴香が来るまでは一人暮らしの無言の帰宅だったため、言いにくかった“ただいま”も今は形付いてきた。
慣れとは恐ろしいもの。ちょっと前の自分がこの姿を見たら、信じがたい事実に困惑するだろう。
きゅっきゅっ鳴いたり、僕の名前を呼んだり。
足元に纏わりつく晴香を足先で構いながら、床に置きっ放しになっていた黒い箱を抱えた。
それが視界を邪魔し、足元にいる晴香が見えなくなる。
晴香はしばらく、しがみついたジーンズの匂いを堪能してから離れた。
「だっこ」
「………」
そんなの無理に決まっている。
腕が重さに耐えきれず小刻みに震えだす。
今すぐにでも腕に抱えた四角い電化製品を置きに行きたい。
だが、足には晴香が子犬のようにじゃれているため下手に動けない。
八雲が黙り込んでいるのを見て、晴香も異常に気付いたようで視界の範囲に移動してきた。
横目で確認すると、そこには言葉では表しにくい表情をした晴香がいた。
絶望したというには、対象を理解してはおらず。
悲しみにしては辛そうではない。
ポカーンという言葉だと、何かが足りない。
「きゅ……」
とにかく、見つめられているこっちが目を反らしたくなるような表情だった。
自分の居場所を奪われ、思考が付いていけなくなっているよう。
しょぼんと頭を垂らし、その年には似つかない哀愁漂う背中を見せ去ろうとしていた。
足先で脹ら脛を掻いてから、右足を差し出した。
「ほら」
「?」
「乗っていいぞ」
「!」
八雲は足に乗ることを許可した。
以前、歩いている途中にしがみつかれ転んだことがあった。
それ以来、歩きながらの足へのしがみつきは禁止としていた。
「きゅ!」
ぴょんこと右足に走る衝撃。
バランスを崩し左足が浮かび、慌てて踏ん張る。
右足の甲に座った晴香は、ビニールで出来たあのおもちゃのように、全身を使って右足にしがみついていた。
これの何が面白いのか。正直理解しがたいが、自分にも同じことをした記憶があり苦笑う。
「本当に何が面白かったんだろうな」
プロペラのごとく振られる尾を踏まないようにと気を付け、八雲は右に傾きながらも廊下を抜けた。
いつもは勉強道具やお菓子の空き箱といった小物が放置されているちゃぶ台。
だが今は、隅っこに追いやられ積み重なっている。
その隙間からくりっとした二つの瞳が、見慣れぬ箱を見つめていた。
「………」
恐がりはしないんだな。
ラジオや携帯電話の前科があったから、てっきりこれも恐がるのではないかと思って心配していた。
警戒はしているようだが、恐がることはない。
完全に安心したわけではないが、見守る必要はないと思い八雲は背を向け別の作業にかかる。
「やきゅー」
背中に衝撃。首に回される腕。
耳元ですーすーと呼吸をする音が聞こえる。
「…どうした」
「なぁに?」
長い袖に隠れた指先が、ちゃぶ台の上のそれを差す。
「あれはテレビだ」
そう。それはテレビだった。
地上デジタル放送になるまであと少し。
近所の誰かが買い換えたらしく、ゴミ捨て場に捨ててあったのを拾ってきた。
「てーびー?」
「テ、レ、ビ」
「てれび!」
正解、と頭を撫でてやると嬉しそうに上を向いた。
コードの作業に戻る八雲から飛び降り、晴香はテレビに近付く。
「てでび…」
「恐くないのか?」
「おんじ!」
「何が」
同じなんだ。
ふんふんと鼻息を荒くしながら、晴香は壁際を指差す。
示された方へと目を向けると、そこには晴香の寝床であるダンボールがあった。
寝床と言っても、ここのところあの中で寝ているのは見たことがない。
僕には理解出来ない宝物という名のガラクタやら、タオルの山やらポシェットやら。
物置に近いそれと、何が同じなのだろうか。
ヒントを貰おうとしたが、晴香もそれ以上の言葉が分からず、ただただ指を差していた。
だらしない袖を畳みながら、テレビとダンボールの共通点を考えているとあることに気付いた。
「箱、か…」
両者とも八面十二辺の箱型。
どうやらテレビは、晴香のテリトリーであり、お気に入りのダンボールと同じ物と見なされたようだった。
晴香にとってサイコロも、下手したらビルさえもダンボールとして頭の中で纏められてしまうのか。
「それはそれで面白い」
ポツリと呟いた八雲は、コンセントのプラグを差し込んだ。
「てれび!」
晴香とテレビの元に戻ると、そこには奇妙なものがあった。
テレビの上に掛けられたタオルたち。
「…君は何をしている」
「たおりゅ!」
「そうじゃない」
両手にタオルを、キラキラした瞳の晴香を抱き上げ膝の上に乗せた。
「…これは、こうやって使うものじゃないんだ」
テレビの上に積まれたタオルの山を、両手いっぱいに抱え晴香の上に乗せる。
タオルに埋まった晴香は、巣穴から顔を覗かせるネズミのように頭だけを出していた。
「これは……こうだ」
右端のボタンを押す。
プツンと言う音とともに、回線が繋がり真っ暗な画面が鮮明になっていく。
「きゅっ!?」
フラッシュに驚いた晴香は飛び跳ね、寝床であるダンボールに向かって駆け出した。
そして、転んだ。
テレビとはなんなのか、謎の解けない晴香なのでした。
end.
次回に続く…?
続くならば地デジ化前に上げねば!
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